ステータス
〈洗礼の儀〉を終えたグレン達は自宅に帰ってから、昼食はいらないと言って自室に籠もっていた。
ステータスが観れるようになり、今はお互いにステータスを見せ合いながら自身の能力がどの様な物か調べている。
「基本、魔力属性の数値はどれも洗礼後時点でC−かC、それに比べて俺達は希少属性を除けばオールB以上か」
「神様が言ってた補正のおかげ?」
「あー、そう言えばそんな事言ってたな」
「表記上、初級はC、中級がB、上級でA。段階は、−がlv1、素がlv2、+がlv3。Bだから中級のlv2までの魔法は使えるって事かー」
「ルインはAもあるから上級も使える」
「それを言うならグレンも無属性A+じゃん」
「あぁ、これは俺も嬉しいよ。無属性は身体強化の魔法が使えるからA+なら俺にとっては最高だな」
ステータスを軽く見て、そしてずっと気になっていた[オリジナルスキル]について調べ始める。
「この〈共有〉ってスキル、お互いにあるけど何だろ?」
「そもそも[オリジナルスキル]ってのは何だ?」
「うーん?ちょっと…使ってみる?」
そう言ってルインは「共有」とスキル名を唱えた。
すると目の前にステータスを見てる時と似た様な画面が表示される。
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〈共有lv1〉
固定対象/グレン・ローゼ・ウィズグラント
思考C/ON or OFF
視覚C−/ON or OFF
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「うわっ!なにこれ…」
突然現れた画面にルインは驚き、人差し指でちょんちょんと叩いてみる。
指が思考の表記に触れ、OFFだったのがONに変わった。
すると体からピシッと電気が走る感覚が起こる。何度か起きた現象について考えていると………
(『共有…俺も使ってみるか。……お?頭の中で画面が…、対象…ルイン?思考C?……あ、ONになってる』)
何故だか、ルインの頭の中でグレンの声が聞こえた。
グレンの方を見てみると口は動いておらず、自分と会話をしていると言うわけでも無い。
(念話…してるわけじゃ無いのにどうして)
ルインはポツリと心の中で思った事を呟いた。
するとグレンがバッと勢い良くルインに振り返り、目を見開いている。
「今、お前の声が変な感じに頭に響いたんだが…念話?して来たか?」
「えっ?…実はおれもさっきグレンの声が頭に響いて」
「は?俺お前に念話で話しかけてなんか無いぞ?」
「おれもグレンに念話で話しかけてないけど?」
((どうなってるんだ?))
今度はお互いの声が頭に響き、2人して目を見開き硬直する。
「これって…もしかしてスキルのせい?」
「俺もさっき〈共有〉を使ってみたら頭の中に画面が出て来て…思考がONになってて、ルインの声が聞こえた」
「おれは目の前に…もしかしておれも頭の中で画面が見える?」
「それと対象ってのがルインになってた」
「おれはグレンになってる」
何となく予想がついて来た2人は、〈共有〉のもう一つのスキル、視覚をONにする。
すると視界の左上に、テレビ通話をする時の様な小さな画面が現れ、お互い自分の顔が映った。
「共有ってそーゆー事…」
「対象…つまりおれ達の事を言葉通り"共有"する…」
「思考は考えている事を。視覚はお互いが見えているモノを…か」
「すごいなー、コレ!レベルもあるし、魔力属性みたいにこの先伸びるって事だ!」
「……じゃあ〈共有〉がわかった所で、次は〈創造魔法〉だな」
「なぁ……今更なんだけどさ」
「…どうした?」
「グレン、オリジナルじゃないスキルに〈鑑定〉あるよな」
「…………………………あぁ」
「………それってゲームで言う所の、物を調べたり出来るやつだよな?スキルもそれで調べたり出来たんじゃ…?」
「………はは」
「まだ傷は浅いっ!」
「煩い…………はぁ…〈鑑定〉使うか」
今までの苦労は何だったのか、お互いに苦笑いをしてグレンはステータスを〈鑑定〉していく。
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[スキル]
魔力属性で使える魔法とは異なり、個別の名にある魔法が使える。スキルと自身の持つ魔力属性が同じ系統であれば性能が向上する。
[鑑定]
見る事で、その詳細などがわかる。
レベルによって内容、効果、範囲、精度が変化する。
[感知・遮断・隠蔽]
感知/効果範囲内の気配を探し、状況を察知する。
遮断/情報を断つ。
隠蔽/惑わし、隠す。
レベルによって内容、効果、範囲、精度が変化する。
[オリジナルスキル]
魔力属性、スキルとは別の、ごく稀に現れる希少スキル。
1代限りの独自スキル。
[共有]
自身と対象者の能力を共有する。
レベルによって内容、効果、範囲、精度が変化する。
[創造魔法]
自身の考える、新しいスキルを作る事ができる。
レベルによって精度が変化する。
《魔力量が不足しているため、現在使用不可》
[称号]
ステータスや自身の潜在能力に補正がかかる。
称号によってスキルが会得しやすくなる。
例)称号〈火の力〉/火属性の魔法が少し強化される。
例)称号〈目利き〉/鑑定系スキルが会得しやすくなる。
[統べる者]
あらゆる武器、道具が無条件で全て使える。
上達速度上昇。
[精霊の導き]
属性問わず、精霊から無条件に魔力を受け取れる。
上限魔力値/3000
[転生者]
ステータスやスキルの性能が向上する。
[加護]
創造神の名に連なる属性の魔力消費が軽減される。
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一通り見終わり、グレンは口頭でルインに内容を伝えいった。
「まぁこんな所か。称号とかもお互い結構いいもんだし、レベルが上がればもっと詳しくわかる様になるとは思うが」
「十分!」
「つーか、全部鑑定する必要あったか?使い方?とか多少自分でもわかるだろ」
「確かにわかる事はわかるんだけど、細かな事は教えてくれないみたい…。おれの方で見ると、称号〈精霊の導き〉は上限値とか書かれてないんだよなー」
「なるほど。鑑定するしないの差か…」
「いいなぁ。鑑定スキル、おれもほしかった」
「明らかにチートなスキル持ってるんだから自分で作れ」
「魔力量足りないって言ってたじゃん、どのぐらい足りてないのかすらわからないし」
「……とりあえず俺がいるから問題ないだろ」
「まぁなー…ってかどうする?父様達にそっくりそのままステータス教えるのまずくね?〈転生者〉とか書かれてるし」
「それは俺のスキル使えば問題ないだろ」
「あぁ!そっか、隠蔽スキル!…あれ?おれにも使えるの?」
「別に自分だけとか書かれてるわけじゃないし。適当に平均っぽくすればいけるだろ」
それから2人でステータスをどう隠すか話し合い、丁度決まった頃にメイド長のカルメが部屋にやってきた。
「グレン様、ルイン様。旦那様がお帰りになりました、夕食前に今日の事を聞きたいと。皆も集まっています、どうぞ食堂の方へ」
2人は頷き、食堂へと向かった。
中へ入ると既に家族は椅子に座っており、父様の後ろにはノイシュといつの間にか移動していたカルメが控えている。
皆早く今日の話を聞きたいのか、そわそわしている。
「「父様お帰りなさい」」
「えっ、あぁ…ただいま。お前達も今日はお疲れ様、改めておめでとう」
「「ありがとうございます」」
「それで…だな。早速ステータスを教えてくれるかい?」
「勿論です、これが俺のステータスです」
「おれはこれだよ」
グレン達はステータスチップを取り出して、「ステータスオープン」と言って見れるようにする。
アルバート達はどれどれ…と映し出されたステータス画面を覗いた。
すると皆目を見開き、リラとメイラは手で口を隠す。
ルトアとアルバートは、「これは…」と呟いた。
後ろに控えていたノイシュは持っていたトレーを落とし、カルメはノイシュの腕を掴み口をパクパクと開く。
「グワングワン」と落ちたトレーが床で踊った。
画面を見つめて何も言わない家族に、もしかして隠蔽出来てない?!と若干の焦りを覚える。
どう誤魔化す?!と念話で話をしていたら、落ち着いたのかアルバートが声を出す。
「私の息子達は……————か…」
「「……え?」」
ボソリと発せられた言葉は2人には聞き取れない。
何でもない、と言いながらアルバートは再びステータス画面を見つめる。
「あの…父様。俺達どこか変でしょうか?」
「変ではない…………がな」
「「……?」」
「まず、魔力属性は、お前達の目を見てわかる通り全属性。これは珍しいがいない訳ではない。属性数値は高くてC+。魔力量も2000。同じ歳の子と比べると高いが、今までの訓練を思えばおかしくはない。そしてグレンの持つスキル〈鑑定〉は探せばそこそこいる」
「では皆、何でそんなに驚いているのですか?」
「お前達は自分の持つ称号がどの程度の物か分かっているか?」
グレン達はお互いに顔を見合わせ、首を傾げる。
「称号は人生を大きく左右させる。内容次第では王に、勇者にだってなれるモノだ。お前達の称号はそれに近い」
王や勇者に専用の称号があるのは勉強で知っている。
だが、それに近いとは何だろうと今一つ思い浮かばない。
「グレンの称号は武器、道具を全て使える…が、ではどの程度だと思う?」
「えーと…凄く重い剣を持った時に重さが軽減されるとか、素人でも使い方がわかるとか?」
「それもあるが、この全てとは言葉通り何でも使える。それは血で契約した個人の物、呪われた物、そして王や勇者にしか使えないと言われる物までもだ」
グレンは鑑定で見た"無条件"と言う内容を思い出す。
「そして、ルインの持つ称号は魔法を主に使う人にとって喉から手が出そうな程欲しい称号だ。自身の使える魔力は限られている。そして減った魔力を補うのはポーションを飲むか、精霊達から借りるしかない。だが精霊達が絶対に魔力を譲ってくれるとは言えない…寧ろ少ないだろう。でもその称号を持った者には確実に譲ってくれる。精霊…そして、聖獣も」
アルバートの説明に、ステータス自体は問題無さそうだと安堵した。そして2人は改めて、自分の持つ称号は凄いものなんだと実感する。
だが次の言葉で2人はギョッと目を見開いた。
「この称号を持った者は過去に1人ずついる。だが称号の名前と、今話した以外に記録として残る詳細な内容は無い。だからこれが全てでは無い。そしてこの称号を持った者が現れた場合、王族として迎え入れられる」
「「………は?」」
「お前達は王族になりたいか?」
「………因みに断った場合は?」
「何かある訳では無い。強制でもない…が、勧誘が凄いだろう。この国も他の国からも。伝説の武器を扱え、神の使いとされる聖獣を従える称号。それがお前達の称号だ」
「「……………」」
アルバートは「突然なのはわかっている」と真剣な面持ちでグレン達を見つめる。
2人はお互い一度目を合わせ、すぐ…
「「なりません」」
さも当然のように答えた。
「……理由を聞いても?」
「面倒」、「おれ、冒険者になりたいから」
あまりの即答にアルバートは真剣な表情が崩れ、間の抜けた顔になった。
「断ったらいけないのかと思いましたが、そうで無いなら王族になる気はないです。そして俺も冒険者になりたい。正直な所、俺は貴族としての在り方は向いていないと思っています。ですから俺は王族にも向いていないし、なりたく無いです」
「おれも殆どグレンと同じです、おれは色んな所へ行きたい。王族になったらそれは出来ない。なので嫌です」
2人の考えを聞いたアルバートは、一度深く息を吐き、徐にグレン達の頭を撫で回した。
「…何となく、そう言うと思っていたよ」
「「父様…」」
「まぁ…冒険者になりたいというのは初めて知ったがな。将来は騎士などになると思っていたが……冒険者か」
そうか、そうかと自分の顎を撫でながら目を細め微笑む。
「ダメでしょうか?」
「…ん?いや、問題ないよ。貴族で家督を継げない者達の中には冒険者になる人もいる」
ウィズグランド家は上位貴族なので正直な所、冒険者になるのはダメと言われると思っていたのでグレン達は少しホッとする。
「ただし、称号が周りに知られるのは今のお前達には危険だ。なので言いふらしてはいけないよ。そして冒険者になりたいならこれからもっと努力しなさい」
冒険者は魔物と戦ったりする職業故に、危険が常に隣り合わせだ。アルバートはそれを理解していて、それでもグレン達に冒険者になってもいいと言ってくれた。
「「はい!父様っ!」」
そんな父親の思いを受け止めて、しっかりと返事をする。
すると、緊張が解けたのか2人のお腹から「クゥ〜」と小さな音が鳴った。
グレンは顔を赤くし、ルインは「そういえばお昼食べてないじゃん!」と笑う。
そんな双子を見て、成り行きを見守っていたリラ達も笑顔になる。
すぐにメイド達によって食事が運ばれ、皆で夕食を楽しむのだった。
色々と考えていたら、いつの間にかこんなに日が経っていたなんて。