初めての魔法
祝、初魔法!!
2人が新しい世界に転生して暮らすようになってから6年の時がたった。
5歳の時から少しずつ勉強を初め、体力面では毎日張り切ってトレーニングに励んでいた。
そして6歳になってから数日…今日は待ちに待った魔法の訓練の日。
朝食を素早く済ませ、2人して早足で訓練場に向かっていた。
「ああああやっと!やっと魔法が学べる!!」
「あぁ、ようやくだな。6年も待ったんだ…これから色んな魔法を覚えていきたい」
そして着いて早々、やっほーい!と全身で喜びを表現しながらルインははしゃぎ回る。
2人はノイシュがくるのを、特にルインはまだかなまだかなと言いながら待っていた。
そんなルインを眺めていたグレンはこちらに向かってくる足音に気がつき振り向いた。
「グレン様ルイン様お待たせしました。今日から魔法の訓練ですね、お2人に教える事が出来て大変嬉しく思います」
「よろしく……いや、よろしくお願いします」
「待ってましたぁっっ!!!……あ、やべ…えーっと…お待ちしておりました?よろしくお願いしますっ!!」
ノイシュの顔が一瞬怖い顔になったのを見逃さなかった。
咄嗟に敬語を使う。すぐ近くの木の裏からは一瞬熊の形をした何かが唸ったような気がした……そう、何かが、だ。
「では、早速魔法の練習をしましょうか。まず、お2人は6歳になられたばかりですから、学園で習うような魔法は教えられません。ですのでこの1年間は魔力操作を重点的に、そして初歩的な生活魔法を覚えていただきます」
「あれだろ!生活魔法は暮らしていく中でちょっと不便な事を補助する魔法って!」
「お前…、なんだそのちょっと不便な事をって」
「ほほっ、言い方はあれですが間違ってはいないですね。
生活魔法の初歩は水を出す、火を出すが一般的です。
どちらも規模は小さいですがちょっとした時に使えるので便利です」
ほらみろと、ルインはグレンの肩を指でつつく。
イラっとしたグレンはルインの額にデコピンをぶちかます。
「痛ええええー!何すんだよグレンーー!!!」
「イラっとした」
額を抑えながら「心が狭いーー!」と叫んでいるルインをグレンは無視してノイシュに続きをと催促する。
「ほほほ、相変わらず仲がよろしい事で。ーーそうですね、覚えていただくのは主にこの水と火の生活魔法を。
水の初めはコップ一杯、そこからバケツ一杯、さらに大きめの樽一杯まで水が出せるように。
火の初めは指先に少し灯せるように、そこから拳くらいの大きさを1つ手のひらに、さらに拳2つ分の大きさを出せるようになれば完璧です。
まぁ自身が持っていない属性は魔法が出ない事もあるので大変ですね。
その点、お2人はどちらも全属性お待ちですから問題ありません。羨ましい限りです」
「全属性持ちは珍しいと聞きました。ノイシュは俺達以外に持ってる人は知らないですか?」
「確かに持っている人は少ないですね。私の周りでしたら友人が1人持っています。後は…現国王様が全属性持っていますよ」
…少なくはあるが全くいないというわけではなさそうだ。
王様が持っていたのは少し驚いたが…まぁ王族だし、属性を多く持つ人も多いんだろうな。
「ですが、全属性持っていたとしても、魔法が出るかは別です」
「どうしてだ?さっきは問題ないと言っていたが」
「グレン様……まぁ良いです、魔力属性は魔力適正とも言い、適正があるだけで自身が持つ魔力量は大小様々です。魔法は初級魔法から中級、上級…さらに上もとランクがあり、そして各属性によって難易度も違うので適正があっても魔力が少ない人は魔法が出ない事もあります」
「なるほどー!じゃあおれ達はその魔力量を増やす事を専念した方がいいって事か!」
「うわっ!いきなり後ろから話をするな、びっくりしただろ!ってか聞いてたんだな…」
「あったり前だろ魔法の事だし!知識はあるに越したことはないからな!」
グレンの後ろからルインがひょこっと顔を出す。
「知識があるのは良い事です。自身の引き出しが多くなりますからね。
ーー話を戻しますと、魔力量を伸ばすのは良い事です。
魔力が少ない人は高いランク、難易度の高い属性の魔法はまず発動しません。
持っていない属性は魔法を出すにも通常の倍以上の魔力を使うためさらに厳しい。人によってはコップ一杯の水を出すのが難しい人もおります」
なんとも厳しい世の中だ……魔力が低い者達は生き辛い世界だなと思う。
確かにこの世界は魔力で成り立っているから仕方がないと言えばそれっきり。
俺達は元々魔法なんて空想の中でしか存在しなかったし、魔力とかあるわけなかったから、今どれくらいの魔力が自分の中にあるのか不安だ。
「じゃぁ今日はその魔力量を上げる練習をするのか?」
「いえ、魔力量を上げるのは原則として7歳になってからです。まずは自身の中にある魔力を制御出来る様にするため、魔力操作の練習をしていきます」
そう言いながらノイシュは2人の手を取り向かい合うように立つ。
「魔力操作の基本はまず、自分の魔力を把握する事から始め、自身の中にある魔力庫に意識を向けます。魔力庫の位置は何処にあるかわかりますね?」
「わかる!胸の真ん中、心臓のちょっとずれた位置にある!」
「正解です、では早速やってみましょうか。暖かいものが集まっているのが魔力庫です。それがわかったらそこから全身に流れるようなイメージをしましょう、私が手助けします」
2人は目を閉じ自身の魔力庫に意識を向け、すぐに胸のあたりに暖かいものが溜まっているのがわかる。
そして全身に魔力を流すイメージをしていく。
「おや、私が補助する必要はないみたいですね。お2人共良い感覚をお持ちだ」
「へへーっ、すごいだろ」
「普通にわかる…多少勉強もしたし」
産まれてすぐに魔力を感じ取ったり、魔力操作の仕方は前世で色々な小説を見ているなんて言えないので適当に誤魔化す。
「でしたら、魔力の流れを全身に流すのではなく、手や足先に集めるようにしてみましょう。まずはゆっくりと、慣れてきたら素早く溜められるようにしていきます。今日はその繰り返しをしましょか」
ノイシュはそう言って手を離す。
近くに置いてあった椅子に座り、時折双子達に目を向けながら何もない空間からひょいっと手帳を出して何かを書き始めた。
2人はそれぞれ目を閉じて、魔力操作を始める。
全身に流すだけなら簡単だったが、一箇所に溜めるというのは結構難しくそれぞれ、うぐぐーっと唸りながら練習をしていくのだった。
………
……
…
魔法の練習を始めてから数日。今日も2人はノイシュと訓練場にいた。
「思ったより魔力操作って難しいな、集めても集めても溜める事が出来ない」
「うーん、おれも同じー。なんかコツとかないのかなー」
「ほほっ、そろそろ助けが必要ですかな?
お2人は魔力を溜める事が出来ないとおっしゃっていましたね。それは集めた後に留まらせる事をしていないのです。魔力は常に微弱ながら全身を巡り循環しています。その際、集めた魔力の底が開いていたら段々と流れて出て、元の巡りに戻ってしまうのです」
「じゃあ俺達はずっと集めるだけ集め、開きっぱなしになっているのに気がつかないで、魔力を垂れ流し続けていたって事か」
「なんだよー、じゃあ最初っからそう教えてくれればよかったのにーー!」
「ほほっ、魔法とはイメージが大事ですからね。最初から教えていると凝り固まってしまう、柔軟な発想が大事なのですよ」
ずっと魔力を集めたらその場所に溜まる物だと思っていた。ある意味前世の記憶が邪魔をし、魔力の溜め方はこうであると決めつけてしまっていた。
2人はちょっぴり反省をし、今度は底が開いてないイメージも加えて魔力を集める練習を再開した。
そうして2人はコツを掴んだのか、魔力を手や足に集め溜められるようになった。
「さて、そろそろ良いでしょう。さっそくその魔力を魔法として発動させてみましょうか」
「!!!いいのか!やった!!」
「本当か!水か?火か?どっちだ?やり方は!?」
バッと音が鳴りそうな勢いでノイシュに振り向き、どうやんの、どうやるんだと前のめりになって聞いてくる。
「ほほほっ、そう焦らずに…今日は水の魔法から始めましょう」
ノイシュは2人に小さめのコップを手渡した。
「まず手のひらに魔力を集めます。そしてコップの底から水が湧き出るようなイメージをしましょう。
それからコップに向かって魔力を流し、"ウォーター"と唱えてください。初級魔法ですし、名称だけで済みます」
双子はお互いの顔を一度見て頷き、言葉を発した。
「「"ウォーター"!!」」
ぐぐぐっと自分達の手の平から魔力が流れ、コップに伝うのがわかった。その瞬間……
ゴプッブクブクブクッ………ザバーーーーーッッ!!!!
不穏な音が鳴り、2人のコップから間欠泉のように水が吹き出す。
高々と打ち上がった水は降り注ぐ雨ように3人を濡らし、訓練場内も一面水浸しになった。
「「「…………………」」」
ポタ、ポタッと髪や服から垂れた水が足元に落ちる。
ピシピシッと持っていたコップは全体にヒビが入り、その瞬間粉々に砕け散った。
降り注いだ雨……水に濡れた3人は能面のような顔で、砕け散ったコップの残骸をただ見つめていた。
取り扱いにはご注意を。




