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第89話 妬みと嫉み


「ちょっといい?」


 ホームルームも終わって、今日は帰ろうというとき。


 私は女子に呼び止められた。


 ――何か?


「話があるの」


「じゃあ筆談でお願い。メモに書いておいて。気が向いたら読んであげる。多分、気は向かないだろうけど」


「舐めてんね」


「厚顔じゃないとやってられないんで」


 実際、今までがそうだった。陰口を言われて、叩きのめされ、悪意が怖いのは今に始まった事でもない。


「で、何でしょう?」


 場所移って。


 体育館の端の端。


「あなたにとって金子くんは何?」


「仲の良いお友達」


 即答。


「――っ」


 何故意外そうな顔をするの?


「付き合ってないの?」


「今はね」


 今後は知らん。別段、五十鈴を嫌いなわけじゃ無いけど、「好きか?」と問われて「はいそうです」には至らない。


「陰キャが金子くんの隣にいて分不相応と思わない?」


「凄く思う」


 本音だ。


 嫌味の一欠片もない。


「で、気に入られてるの?」


「趣味悪いんでしょ」


 あながち人には言えずとも。


「まじ有り得ないんだけど」


「で、結論を急ぐよ」


 さっぱり聞く。


「どうしろと?」


「辞退なさい」


「無理」


「それこそ何故?」


「金子さんの気力削ぎたくないし」


「――――」


 答えも返せないようだ。


「本気で言ってる?」


「妬み嫉みで、虐めるなら、どうぞご自由に」


 今更だ。


 論じるべき事でもない。


「ソレは無理」


 実際に、凜ちゃんが背景に居るしね。


 そこまではバレてないけど。


 先刻の件もある。


 私を虐めて停学になった生徒たち。


 在る意味で、「アンタッチャブル」が私の看板。


「有栖川さん。あなた何者?」


「平々凡々な陰キャです」


「本当に?」


「……………………」


 ……そゆことにしといてください。


 そりゃ華やかにも相成れるけど。


 ――そんなことに意味は無い。


 それは散々思い知った。


 目立てば目立つほど、周りの反感を買う。それは認識して、だから今の私は伊達眼鏡同盟……春人と同一の存在だ。


「覚悟相応なら虐めても構いませんよ?」


「出来ると思う?」


 その人次第で。


「けど敵が増えるよ?」


「そ」


 一文字で完結。


 別に憂慮する事態ではない。


 春人。


 五十鈴。


 ついでに凜ちゃん。


 これくらい居れば、問題は無い。


 キュキュッと音がする。


 バッシュが床を擦る音だ。


 バスケの練習が行なわれていた。


 生憎と私は運動音痴だけども。


「本当に何とも思わないのね」


「それなりに揉まれてきましたから」


 肩をすくめる。


「金子くんと……付き合っていないのよね?」


「だね」


 それは確か。


 別に不名誉でも無いけども。


「ぶっちゃけ何? あの距離感」


「さぁて?」


 伊達眼鏡をかけたイモを美少女と見抜く。


 その点で言えば、卓越した観察眼なのだろう。


 自分で美少女と定義するのは、心苦しいけども……客観的な実績が付随すれば自分で自分に嘘を吐くのも難しい。


「なにか思うところでも? 直せと仰るなら出来うる限りの遠慮はしますけど?」


「ふぅん?」


 女子は納得と不納得を織り交ぜた。


 視線は、何かを見透かすような。


 けれど心までは虹彩に映らない。


「まだ不満が?」


「いっぱいあるけど」


「文化祭が終わった後で、聞きますよ」


「そうね」


 此処では、はなはだ非建設的。


 それはわかっておられる様子。


 それにしても五十鈴の威力の大きさよ。それだけで過半数の女子を敵に回す。


「南無三……」


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