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第1話 出る杭は打たれる。


 それは中学卒業も間近の頃。


『絵馬高校に受かった! 多謝!』


 そんなラインを、私は受け取った。


 これでもそれなりに勉強は出来る。


 私自身は、市立で一番偏差値の高い高校に、推薦入試で合格を貰っていた。


 なので受験勉強と縁が無く、ラインの主に勉強も教えていた。


 彼は、名を碓氷神威うすいかむいと発する。


 中学では、ちょっとした有名人だ。


 何せイケメン。


 黒髪黒眼で、健康的な肌。


 特殊な何かを持っていないのに、


「ザ・大和男児」


 を乙女系にしたような外見で、爽やかなメンズさん。


「受験勉強が遅々として進まない」


 と、泣きつかれ、しかたなく受験勉強の面倒を見た関係だ。


 クラスも一緒であるし、


「まぁその程度なら」


 的な感覚で教えていた。


 努力の甲斐あって、受験は無事に終わったようだ。


 当人は、今日は学校に来ないだろう。


 高校まで、合格発表を見に行っていたのだ。


 そのまま帰宅と思われる。


 だいたい受験が終われば、勉強からも解放される。


 私も肩の荷が下りた気分。


 トイレを済ませて、鏡を見る。


「…………」


 少し沈鬱な気分になってしまった。


 私の顔が、鏡に映っていた。


 別に嫌いじゃない。


 不細工でもないつもりだ。


 ただし髪は茶色。


 地毛だ。


 キメキメの化粧をして、睫毛も盛っている。


 制服も着崩して、スカートも短く。


 いわゆるギャルと呼ばれる人種だ。


 学友と交流している内に、自然と覚えた処世術。


 お洒落して、校則違反して、ドラマ見て、ファッション雑誌読んで、誰がイケてるのどうのこうの。


 そんなことについて行っている内に、こんな自分が出来上がってしまった。


 親の愛が通じたのか。


 あるいは努力の結果か。


 たまに知らない男子からラインが来て、告白されたりもする。


「ま、いっか」


 ネガティブに捉えて解決する問題なら、既に対処案件だ。


「碓氷くんは今日は休みと」


 もうすぐお別れになる三年の教室に戻ろうとして、


「有栖川マジありえんし」


 ――ピタリと止まった。


 どうやら、教室で女子グループが話しているらしい。


 しかも友人の声だ。


「わかるー」


「やりすぎよね」


 これは別の友人の声。


 ちなみに、


『有り得ない有栖川』


 は私だ。


 有栖川ありすがわ陽子ようこ


 どこか偉そうな苗字は、多分、当校で私だけ。


「この間さ。男子がラインしてきて? こっちに脈在り? って思ったら有栖川のこと聞いてきたの。あり得なくない?」


「だしょー」


「超だよね」


 これは陰口と呼ばれるアレか?


「茶髪で地毛とかマジだし。黒に染め直せっての。調子乗っちゃってさぁ」


「目障りよね~」


「陰キャやってろ的な?」


「ビッチだったり?」


「色目は使ってる。絶対」


「パパ活に精出してんじゃない?」


 散々な言われようだ。


 いつもニコニコしていながら、私をそんな風に思っていたのか。


「あとアレ。一番ヤバたんなのが碓氷くん」


「あー、親密よね」


「受験勉強教えてるだけっしょ?」


「狙ってたりして」


「困る~」


「碓氷くんに性病移ったらどうすんだっつーの」


「ウケる~」


「ウケないウケない。マジ危機ピンチ。ビッチの餌食になったら可哀想」


「っていうかさ」


 っていうかさ?


「碓氷くんにとっても迷惑って気付いてないのかね?」


「気付いてないっしょ~。空気読めてないもん」


 迷惑。


 空気読めてない。


 そう………………なのか………………。


「実は迷惑だった」


「受験勉強だけの関係」


「碓氷くんにとり、私とは可哀想」


 クラスメイトの陰口に、私は打ちのめされた。


 たしかに私は調子に乗っていたかもしれない。


 そのせいで女子にも、碓氷くんにも、迷惑を……。


 重力に魂を引かれる気分だった。


 そして今日が、私の中学最後の登校日となった。


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