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夕日に照らされ燈色に染まる空。
レンガ造りの建物が数多く並ぶ大きな街。
その中で一際目を引くのは町を見下ろすかのようにそびえ立つ時計塔。
その頂上、立入禁止の人気が無い場所から少女は俯瞰する。
忙しそうに足早に過ぎ去っていく者、微笑みながら子供を見守りその手を引く者、客に笑顔を向けて商売に励む者、様々な人の姿が見受けられる。
それらは一見穏やかな顔をしているが心の内はどうだろうか。
やり場のない怒りや悲しみを心に隠しているのかもしれない。
少女は思った。
自分はこの中のどれだけの人間に憎まれているのだろうと。
柔らかな風が少女の背中の辺りまで伸びた金色の髪をなびかせる。
目を覆うように伸びた髪が揺れて奥から双眸が垣間見える。
宝石のように美しく、見るものの目を奪うような緋色の目。
そしてまだ幼さが残るその顔に表情は無かった。
これから死ぬことになんの感情も抱いていなかった。
傍に置いてあったナイフに手を伸ばして手首に当てる。
そこから涙が落ちるように一筋の血液が流れ落ちた。
それを見てふと手を止めて思う。自分はいつから涙を流さなくなったんだろう?
気付けばもう長い間泣いてない。いつのまにか涙が出るほどに感情が揺さぶられる事が無くなっていた。
心を支配していたのは怒りだけだった。
もしかしたらこれが自分なりの涙の流し方なのかもしれない。
涙の原料は血液だという。
ならばこの傷から流れる血も涙のようなものだ。
そう考えるとつまり自分は死ぬ直前に血を流していることになる。
それはなんだかとても人間らしい。
なんて事を一瞬考えたがすぐに馬鹿らしいと否定した。
今まで人を殺すためだけに生きてきて多くの命を奪った自分は人の枠から大きく外れている、人から恐れられるだけの化け物の類だ。
普通の人間にはもう戻れない。
化け物は存在するだけで恐怖される、死んで初めて喜ばれる。
だから自分もそうしなければならない、間違いだらけの人生の中でこれが唯一正しく、自分に出来る贖罪だろうと再びナイフを持つ手に力を加え搔き切る。
はずだった。
しかしまたしてもその手は止まった。
またふと思いごとをしたわけでは無い、当然怖くなったわけじゃ無い。
声が聞こえた。