たべるたまご
現在は夕方。相も変わらず太陽は綺麗に輝いていた。
下に見える森も今だけは夕暮れに照らされて、とても美しい。
「えーっと……こうかな?」
うろ覚えの知識を思い出しながらやっていく。
確かTVでは弓なりになっている木の枝に靴紐を結びつけて、そこに削って鋭利に尖らせた木の棒を巻き付けていたはずだ。
そしてこれが一番大変。枯れている木の棒を削り、数センチの木の板を作る。
――ショリショリと木を削る音が洞窟内に響く。木を削り終わったときには、既に夕日が落ちかけていた。
材料は乾いて枯れている木の枝を選ぶのだが、今回は簡単に入手できた。ドラゴンの炎で周辺に燃え尽きた木がいくらでもあるのですぐに材料が揃えられる。
とはいえあの辺りはこれから更に腐臭が激しくなってくるだろう。
持ってこれるだけ持ってきたのでしばらくは大丈夫だが、それまでに臭いがおさまってくれるかね。
「キュ~」
「ああ、ごめん。すぐ作るからね」
この子が狩ったネズミは一部が食べられちゃってたが、残りは食べないで待ってくれていた。本当にいい子だ...
木の板の棒を置く部分を少し切って隙間を作る。
ここが重要で、ここから棒と板の摩擦で着火材になるおがくずが出るらしい。
きりもみ式でもこれが無いとなかなか火が付かないと記憶の知り合いか誰かが言っていた。
二人揃ってお腹を空かせているので下に適当な葉っぱを敷いて、急いで火起こしをしようとするのだが。
「あっ」
棒を弓で引いていくと、ブチッ。と音を立てて靴紐がちぎれる。
――その後も何回かやってもすぐに引きちぎれてしまい、4回目でようやく切れない靴紐が見つかった。
「ぬぅおおおおおお!」
全力で弓を左右に引く。腕が痛いが今はとにかく我慢。
大人だったらもう少し簡単にできるのだろうが、今は子供なので全力でやらないと無理だと思う。
「あああああ!」
(はよ煙出ろやあああああああああああ!!)
10分近くやっても一向に火が付かない、すごいイライラする。
熟練の人はすぐに付けられるらしいがどんな力してるんだか。
「つ、疲れた………お?」
更に1分を費やすと、僅かに煙が出てきた。
「よっしゃあ!」
この期を逃す手はない!
そう信じて無我夢中で弓を引く。
…そこから数十秒ほどやると、煙が更に増える。
これでようやく着火したのだ。
手で軽く扇ぎながら板を避けてみると、葉っぱの上にあるおがくずから煙が出ている。
少しだけ手の勢いを強くする。一部から僅かに赤い部分が出てきた。
その火種を大量の死体のポケットから持ってきたゴミで包む。
ゴミと言ってもふわふわしているほこりをできるだけ選んでおいた、流石にこれなら問題ないはず。
この子も興味津々な様子で、隣に来ていた。危ないのであんまり近づいてほしくないんだけどな~。
しかしそんなことを言っている暇がないので、ほこりを手に持って、ふーふーと息をかける。
すると煙が更に大きくなり…
「あっつ!」
「キュ!」
いきなりボオッと燃え上がり、火が付いた。
一瞬で出てきた火が熱かったので思わず葉っぱの上に落としてしまったが、葉っぱにも燃え移っていたので結果オーライ?
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
俺は木の棒を適当に投げ入れながら考えていた。
――家族ってなんだろ。
「キュッ!キュッ!」
隣では、この子がガツガツと先ほど焼いたネズミを食べている。
少しだけ俺も食べたが、焼けば意外といけるもんなんだな。虫に関してはまぁ…うん。
記憶では、家族とテレビを見ていた。そう言ったが、実際には本当に家族かは分からなかったりする。
まず顔が分からない。しかも服装も曖昧で、こんな感じだったかな?と記憶で補強している感じだったりする。
ネットで調べた事や、どうでも良いことは覚えている癖に肝心な記憶を何も覚えていないのは自分ながらどうかと思う。
せめて友人の顔くらい分かれば良いのに、数少ない知り合いらしき奴の顔も分からないし。
学生生活の記憶もほぼ無いからあんまり言いたくないが、前世はニートだったりでもしたのだろうか。それはそれでなんか嫌だな。
知識が中途半端なのもなぁ。
覚えているのは精々ネットでも調べられる事ばかりだし、どうせなら植物の見分け方とか動物の血抜きとかも覚えてれば良いのに。
「あんまり考えないでおこう…こんくらいでいいかな」
今日の主食は、串代わりの軽く削った木の枝に刺した頭を潰したバッタ、30匹は獲って貰ったので数は十分にある。
昆虫は甲殻類に近いらしいが、味は微妙としか思えない。焼き方が悪いのか。
「いや、やっぱまじぃわ」
「キュイ?」
………変な味だ。
この子はこれも笑顔で食べるのが羨ましい、俺にもその味覚を分けてくれよ。
「あー、もう日が落ちてきたな」
暗くなってきた周囲にハッと気づいて太陽を見ると、既に日が落ちかけていた。
「そろそろ撤収しないとヤバいか」
夜の森には何がいるか分からない、集団ならともかく一人と一匹だし。他の人間に気がつかれても嫌なので出来るだけ明かりが目立つ夜までには小部屋に戻っておきたい。
俺が上から見ていた時には森の明かりが沢山見えたが、逆を言えばここで明かりがあればそれだけの人間の目に入るのだから当然目立つに決まってる。
サバイバル物では水で揉めるのが鉄板だし、今はできるだけ一人でいたいな。
「ほら行くよ。あつっ!」
「キュ~」
消えかけていた火を足で踏み潰して消す。
思ったより熱かった、次からは前もって石でも用意しておこう。
「色々とありがとう」
「?」
――もしこの子がいなければ、俺は大分荒れた性格になっていたのではないだろうか。
まだ会って2日だが、誰かが一緒にいてくれるのは心強いんだな。
ここは本来は暗いが、ランタンライトのお陰でそれなりに明るい。予備の電池があれば良かったのだが、どこを探しても見つからなかったので節約しないと。
「電気消すぞー」
「キュイ!」
食べ終わったのを見計らってランタンのスイッチを切る。
即座に真っ暗になるが隣にこの子がいるので怖くない……安心できるように密着しながら、ゆっくりと眠りについた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「えー……」
どうも皆さん。私は絶賛サバイバル中の名前不詳の元男です。
今日も元気に食料を採ろうと思っていたのですが。
ザアアアアアアーーーーという音と共に、森に降り注ぐ水の塊。
そうです。今この森には――雨が降っています。
出る気も失せるこの大雨、獲物なんかは皆どこかに隠れているだろうし、虫も当然出てくる気配なんかないわけで。
「食料どうしよう」
「キュイ」
雨は更に勢いを増し、もはや豪雨に近くなってきた、こりゃ外に出た瞬間にずぶ濡れになって本末転倒だな。
雨は体温を奪うと聞くし、今下手に濡れて病気にでもなったら洒落にならない。
「今日は一缶で飢えをしのぐぞ~」
小部屋に戻ろうと入り口から踵を返した瞬間、外から何かが倒れた音がした。
「なにが…あっ!?」
慌てて入り口に戻って外を覗くと……人が一人。すぐそこに倒れていた。
――これが、この世界での最初の出会い。