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とぶたまご



「キュー!」

「んあ?」


べしべしと頭が叩かれる衝撃で目を覚ました。爪が刺さってちょっと痛いが、威力は押さえぎみだったので目覚まし代わりにはちょうど良いかも。


「キュ~」


なんだなんだと見てみると、この子が叩いているのは残りの缶詰め。きっと開け方が分からなかったんだろう。


「お腹すいたのか?」

「キュ。」


昨日1缶丸々食ったのにこの食い意地の張りよう。


「ちっちゃくてもグリフォンなんだねぇ…」

「?」


ま、俺も昨日食べ忘れてお腹空いてるし食べますか。



―――一時間後。



「ふう。物足りないけど後1缶しかないしな」


食べ終わってから最後の一つを手で転がす。

俺とこの子で1缶ずつだが、当然量が足りない。物凄い食べたそうにこちらを見ているが、これは緊急用の一個と決めているので渡せない。


「…………」ウルウル


だ、駄目ったら駄目だから……


「そ、そうだ。狩りに行くか!」

「キュ?」


このままでは食べさせてしまいそうになる。その前に外に出て気を逸らそう。

この子を抱えて洞窟から歩き出すと――外は昨日と変わりなく青空が広がっていた。





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「ふん!」


洞窟から少し離れた場所に草地がある。そこでパンッっと両手を勢いよく叩くと、バサバサッとバッタが跳ね上がり、姿を見せる。


昔子供だった頃によく近所の草地で似たような事をやっていたのを真似してみたが、こちらでもバッタの習性は変わらないみたいだ。


中には勢い良く飛び出して滑空するバッタもいるのだが、そこを――


「アレだ!」

「キューーーーーーーイ!」


この子(グリフォン)が獲る。

最初は飛び方から教えないといけないと思ったが――外に出たら勝手に飛べるようになった。

少しフラフラとして危なっかしいし、少し飛んだら限界で後は滑空になるのだがそれはこれから練習すればもっと上手くなっていくはず。


「キュー!」


とうとう自力で狩り出した、やべぇよこの子。


(何も教えなくても勝手に飛べる上にちょっと教えたら獲物も狩れるって……)


ファンタジー生物だとしても冗談にならないくらい強い。虫の動きも少し教えたら追えるようになっているし知能もかなり高い。


どんな鳥だって巣立ち後にも練習をしてようやく飛べるようになるのだが、この子は俺が何も教えてないのに僅か数十分で飛んで、獲物も獲れる。


「卵があそこに放置されていたのも関係あるのかな?」


この世界では親が卵を放置するタイプもいて、本能で最初から最低限の事はできるようになっているのかもしれない。

どちらにせよこれは嬉しい誤算だ、最初は今日一日は練習にほぼ費やすとばかり思っていたが、これでこの子の腹ごしらえはできるだろう。


俺?俺も今日は虫だよこんちきしょう。

この子は旨そうに食べていたが、俺もこの子みたいに雑食だったら良かったよ。



「これで小動物も狩れたならなぁ。まあ流石にむ…り…?」

「キュ?」


小動物相手なら俺の無駄知識が炸裂するだろう。

――そう思っていた俺の前に戻ってきたこの子がくわえているのは、大きめのネズミだった。


「…………………………」

「キュ、キュイ?」


【悲報】俺氏、完全に役立たずと化す。


「―――俺、故郷に帰ったら猟覚えるんだ。鹿食べよう」

「キュ、キュウ」


悔しくなんかない。悔しくないもん。



………体育座りでしばらく落ち込んでいたが、いつまでもうじうじしている訳にもいかない。

とにかく洞窟に戻ることにした。


「キュ!キュ!」


ネズミをくわえたままでこちらを見つめるこの子(グリフォン)、よっぽど誇らしいんだろうけど顔に近づけてくるのはやめてほしい。


「痛っ」


そんなことを考えながら歩いていると、足にピリッと痛みが走る。

足を見ると、くるぶしの辺りに細い傷が入っていた、多分植物で切ったんだろう……それと同時に非常に重大なことも思い出す。


――靴履いてなかった。


(いやいやいやいや!なんで気がつかなかったんだ俺!?)


アホってレベルじゃない。むしろ今までなんで足に傷がなかったのかが知りたい。

靴どうしよう。一応あることにはあるんだけども。


「アレをやるしかないか」

「?」





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「この辺かな……うっ」


そんな訳でもう一度やって参りましたこの場所に。

相も変わらず死体が散乱してるが、異臭が半端じゃない。

腕に抱えていたこの子が物凄く嫌がるほどで、先程地面に下ろしてきた。


なんでこんなに臭いのかと思えば、原因は動物が死肉を荒らしていたかららしい。近づくとおびただしい数の鳥が一斉に飛び立つ……その下にはもはや原型すら止めていない肉の塊が。


「うぇえええ」


この周辺にはしばらく近寄らないようにしよう。


「えーとこの辺に……あった。ここだ」


木の近くに埋めたのですぐに場所は分かった。

ここは俺が服を頂戴した子を埋めた場所。正直に言えば掘り返したら呪われそうで怖い。


(南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏)


本来は意味も使い方も違うらしい言葉を心の中でひたすら唱えながら掘り返す。

掘り返すのも園芸用のスコップなので多少手間取ったが、10分もすれば足の一部が見えてきた。掘る場所を下にずらして更に15分ほど続け、ようやく靴が見える。


「お許しください」


片手を顔の前で合わせながらゆっくりと取っていく。

地面に埋めていたからか死体はまだ綺麗で、靴からも特に変な臭いはしない。


埋め直すのも丁寧に。そ~っとやる。

雑にやってゾンビにでもなられたら洒落にならない。

本当に怨まないでくれよ。


靴の土を落とす、子供用の白いスニーカーみたいだ。

走っているときに付着したのか赤い部分がかなりあるが、既にこちらは乾いていて落とせないので、諦めてそのまま履いておくしかないな。


「うん。足がちょっと重いけどなんとかなるかな」


裸足なので違和感はあるが、少しサイズが大きいお陰で通気性はある。これでようやく普通の格好に近くなったと言えるだろう。


「あとは…っと」





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「やっと帰ってきた」

「キュー」


今日はもっと早く戻ってくるはずだったが、寄り道をしまくったせいでもう既に夕方だ。

まだ日が落ちるのに時間があるので、先にやる事をやっておく。


「本当にこれで火が起こせるのかなぁ」


俺が今持っているのは靴紐……の束。

――数時間かけて靴紐をこんなに大量に集めた理由。それは火起こしをするためだ。

記憶にうっすら残っていたのだが、昔家族と見たTVで靴紐を使って火起こしをする人がいたのを覚えている。


大抵の人が真っ先に思い浮かべる火起こしと言えば、『きりもみ式』と呼ばれる方法だ。

実際にキットも売っているし、一般人でも準備さえしっかりすればやれるが、今の俺は子供。筋力を要求されるきりもみ式はお世辞にもできるとは思えない。


……いつかライターのオイルが尽きる。

そしてその時までに火起こしを出来るようにならなきゃいけない。

夕方になるまでひたすら材料を集めていたが、無駄知識があって助かる。材料集めの手際は自分でもびっくりするくらい良かった。

覚えてはいないが、前世ではアウトドアを趣味にでもしていたのかも。


「さーて、やってみますか」


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