ウトリ王都
炊き出し旅、中盤です。
炊き出しのメニューは結局のところ、冷製パスタにする事にした。食べなれた物が食べやすいのは事実だけど、珍しい物だって良いよね。
ぶっちゃけるとトマトスープが余ってるので何かに使いたかったのだけど。悪くなる事は無いんだけどね。
なのでトマトスープに海鮮をぶちこんでパスタの具にする。にんにくと一味も入れてる。今日は麺の日だ。
ラクサさんに連れられてウトリ王都へテレポートする。王族専用テレポーターなんだよな、これ。一般市民に使用権は無い。つか込められる魔力量が多いのが霊木の特徴なんだけど、それでも限界が有るのだ。大量輸送には使えない。まあ術式保存ボードが使えるので私は大量輸送出来るけどな。しないけど。お金要らないし他の人の商売の邪魔になる。
お金はまた薬草でも売れば手に入るからな。ラウネーズ任せになっちゃうけど。ちなみに奇跡のスープの炊き出しをしてるから欠損回復ポーションは売ってない。
そもそも売れない物を希少だからと買取りさせるのも悪いしね。詐欺師だから良いって? いや、ガチで身内に詐欺を働くのはもう人間のクズ以下でしょ。王都もギルドも身内だよ。敵に回したら私の炊き出しを失ってしまう。
ウトリ王都もなんか派手な城が有るけど、何て言うのかな…………白亜の城に黒い瓦が乗ってる感じで、やっぱり凄いアンバランスだ。ここまで珍妙に混ぜ合わさってると逆に感心するよね。綺麗は綺麗だし。良く浄化されてるんだろうな。
そしてその城下町は賑やかだ。和服の人々が歩いてる、けど、やはり色合いが地味めだな。時代劇みたいにカラフルでは無い。染料は有るはずなんだけど、多分これが流行りなんだろう。
子供たちも月代を剃ってたりはしない。それで金髪だからもう映画村かって雰囲気だ。まあ可愛いけど。
ちなみにルートは茶髪で金色の目だ。時々赤みがかって見えるけど、お姉さんが両方赤だからな。なので配色は王子様っぽくはない。ルートも可愛いけどね。成人男性に可愛いは失礼だけど。
「この前リナトで人種鑑定受けたんだ。七十五パーセントの血がハーフリングの先祖返りって言われた」
「ああ、それを調べてたんだ……つかまた心読んだね?」
「最近はシェル、無防備なんだよ」
そうかも知れないな。詐欺師スキル使いたくないから素直に生きてるし。前の人生から性格が弛んでいった気がするわ。
ルートはハーフリング七十五パーセントなのかぁ。一緒に長く生きてくれるかな? 焦らなくても大丈夫だよね。時は長いんだから。
つかルートに心読まれてもあんまり不快になったこと無いや。ルートはいつも優しいもんな。
炊き出しを始めよう。今日はウトリのトマヤ王様も来てる。日本刀差してるけど使えるんだろうか?
「何か斬るものは有りますかな?」
「じゃあこのジャガイモとか」
「承知」
うおっ、ジャガイモの皮がいきなり落ちた! 何が起こったのかぜんぜん分からない。アンセルさえポカーンとなってるぞ! スキルなのか?
「次にござる」
「あ、はい」
トマヤ王様のお陰で野菜の包丁を入れるのが楽だった。ちょうど良いので魚も捌いてもらう。
凄いな、どうやったら日本刀でこんなに綺麗に捌けるんだ? 魚は綺麗に三枚におろされた。
「ひょっとしてお刺身もいけますか!」
「もちろん」
綺麗な鯛の活け作りが出来た。ポーション入り醤油でワサビがないので代わりに辛子ももらって食べてみる。……甘い! トマヤ王様もにいっと微笑まれた。シブメンよのう。
ちなみに刺身は私とリナトの人しか手をつけなかった。リカちゃんだけは食べてくれたけど。格好良いよね!
なんか配下の人が集まってござを敷いて酒盛りを始めた。良いね良いね、花見みたい。夏だけど。夜なので少し涼しくなってるし海の潮も薫るし、良い感じだ。今宵は日本酒をいただこうかな!
んで、器用に箸を使って奇跡のパスタを食べる人々。お侍さんたちは刀傷や指の欠損等が多く、男泣きを始める人多数。来てよかったな、ウトリ。
欠損の回復したお侍さんたちが食材を切ってくれると言うので頼んでみた。ガキ共に任せられない魚とかを切ってもらおう。焼き肉用の肉も切ってくれたのでここで焼肉をする事にしよう。
焼肉のタレは実は甘味が強い。日本ではコーラを入れたりする。コーラは無いのでリンゴだ。醤油、胡麻油、胡麻、一味、にんにく、味噌も少し入れてみりん、料理酒、砂糖で甘味を調整する。これに肉を浸ける。元のレシピだと味噌の代わりに豆板醤が入ってる。
前にジャムベースの肉のソース作った事有るけど、ジャムに肉ってだけで嫌そうな顔をする人もいるよな。実はフレンチの肉のソースはジャムベースのが多いんだが。ラズベリーもブルーベリーも使える。酸味が強かったらお酢も変わらないよな。
甘いジャムベースでも塩を十分入れてるとソースとしてかなり美味い物になるんだけどな。食品の糖度って無視できないんだよ。お総菜の材料欄読んでみたら分かるけど、水飴とか砂糖が大抵入ってる。
なので、この焼肉のタレも甘味より塩味の方が主張してくる。甘味は立派な肉の引き立て役になってるぞ。
焼いてその場で食うスタイルはこの国にも有るようだが、私の作ったタレは無かったみたいだな。まあ焼肉のタレに甘い物が入ってるのを転生者さんが知らなかった可能性は有る。
だって勝手に肉や魚を持ち出して塩焼きにしてる人いるから、塩焼き肉は伝わってるんだ。
そもそも、もし江戸時代の人だったならそんなに積極的に肉は食べないもんな。猪とか熊とか鹿とか雉とか、日本でも食べられる肉はたくさん有ったんだけど。鴨も食べてたし、実は江戸時代の日本ならフレンチのレシピ再現余裕かもな。
ああ、信長の~なんてのも有ったっけ。むしろ鎖国してない時代の方が再現は簡単か。
この国も鎖国してないからいろんな料理が再現できそう。この国はやはり日本のように食の大国になるんだろうか?
シェルの気持ちがかなり傾いて来ました。
日本刀って調理には向かなそうですよね。
ウトリ編はここで終了です。この章はまだ続きますけど。




