錬金術の都
観光が多い章です。
私の奇跡のスープを。今日のメニューは白身魚フライとキノコのスープだ。しっかり出汁を取ったベースになるコンソメに炒めた野菜とキノコをたっぷり入れたスープに、フライパンで揚げ焼いた白身魚を添える。
油と水が綺麗に混ざり合う状態をエマルションって言うけど、沸騰させながらかき混ぜてその状態を作る事で油臭さの無い美味しいスープが出来上がる。
最後に魔力を加えながら混ぜ、奇跡のスープが奇跡たる所以のポーションを加えて更に混ぜる。いつもの蛍大発生。うーん、やはりこれですなぁ。ガキ共も大はしゃぎだ。食えばまた、欠損も病も全て癒えていく。ガキ共が泣き始めるけど、嬉しい時は笑うもんだ。さあ、私の焼いたクッキーもくれてやるから、元気になれ!
元気になったガキ共と地域の住民たち。やっぱり良いな。私の力が役に立ってるこの感じ。
不公平な部分も有るんだろうな。診察は出来ないし、回れない町は有るんだから。でも私は身一つなんだ。全ての人は救えない。全ての人を救うアイテムって多分作れない。それは全ての人を殺すアイテムも作れるって事と同じだからな。
悩んでも無駄だ。救える人だけ精一杯救う。そもそも宇宙の果てまで救うなんて不可能だ。そしてそれは個人のする事じゃない。それがたとえ神様でも。
今はここのガキ共に癒されよう。私の今はここにある。
私の顔を覗き込んでくるアンセルとルート、モト君。心配かけてすまんな。私がガキ共の笑顔を見て不幸そうな顔をしてたらそれは不安にもなるだろう。私はこれが一番好きなんだから。
私の不満なんてただの妄想だ。みんな感謝してくれてるし文句も言われてないんだから。
「シェル。元気を出してください。貴女が私たちのお母さんですから」
「有り難うイル。ちょっと嫌な想像しちゃった。もう大丈夫」
可愛い娘にまで心配されたし、元気を出して行きますか! 内心を隠すから辛くなるんだし素直に心に従おう。困ってるガキ共を救えるだけ救う!
炊き出しが終ったその日は湖の見える城の上階で宿泊する。癒されていくなあ。不満も全部吐き出して美しい景色の中でゆったりとする。ストレスはこうして晴らすもんだな。
今回の旅は本当に癒しの旅になる。そんな予感がするな。まあ糞帝国のちょっかいは一回は有りそうだけど、前世でも類を見ない攻撃手段が有るんだ。粉砕して見せる。
あー、夕焼けが綺麗。湖がそれを反射して。息を飲む景色って有るもんだな…………。遠くの山まで同じ色に輝いてる。
一般的に地平線は四、五キロと言われてるけどそれは人間の目線の話なんだよな。例えば宇宙から見れば地平線は地球の周の半分の距離まで見える訳で、高いところに行くほど地平線は遠くまで見通せるようになるんだ。
この高い場所から外を見渡せるような建物の作りは正解だよな。
ゆったりとした時間に癒されて、次はリナトの王都に向かう。流石にそこは貴族の巣窟だろうな。
リナトではモト君はまずはと、錬金術研究所へと案内してくれる。モト君は明るく話すものだからこっちも元気になるな。
「聖女様、我が国は錬金術に重きを置いています。聖女様のポーション作りの腕前はSランクでも上位と、いや、トップと考えても差し支えない。この国でもその教えを受けたいのです」
「いやあ、私の力なんて詐欺みたいなもんだよ。植物の魔物たちのお陰だからさ」
「でも聖女様は独力で奇跡のスープのレシピに辿り着かれたのでは?」
「それもクシワクって婆様に料理本みたいな錬金術レシピを見せてもらってたから閃いたんだ。あと、出来たら聖女様はやめて名前で呼んでくれないかな」
「そそそそ、そんな、おそれ多い」
「おそれ多く無いから。ほら、シェル、な、友達なんだから良いんだよ、って、こっちこそ王子様におそれ多いか」
「ととととと、友達いっ!? ほほほほほ、本当に良いのですか?」
「モト王子様かモト君どっちが良い?」
「あ、断然モト君が良いです! 分かりました、シェルさん、ここまで譲歩します!」
「あはは、そんなかしこまらなくって良いってー!」
モト君は良いな。変に緊張しなくて良い。王族なのに。まあルートもSランク冒険者で王弟なのに気さくで笑い上戸で可愛いけど。
ルートはニコニコしてるな。アンセルはなんか困り顔してる。
ルートも私の事好きかと思ってたけど勘違いかな…………。うーん、やっぱりルートルートが気になるね。アンセルルートも前よりは……ってなんで乙女ゲー視点になってるんだ私は。
しかしリナト王都は凄いな。前世の日本より賑やかかもしれない。人口ではやはり負けてるんだけど、錬金術で作ったと思しき看板とかイルミネーションの類いが有る。ここの夜景凄そう。
看板だと猫かカンガルーか分からない生き物がボクシングみたいに殴りあってたり、それが立体映像で流れてる。
お酒が樽から滝のように落ちてくる物も有れば、髭親父が満足そうにビールを煽るような物もある。この世界のビールはけっこう出来が良いんだよな。冷蔵庫や保存、輸送の概念が既にあるから、ぶっちゃけ食材の使い方や美味しさが広まれば海の幸で大儲けもワンチャン有る。
ここだと湖の幸が広がってるっぽいけど。湖の街が近いもんな。
そんな錬金術で賑やかなリナト王都を歩き、楽しみながら私たちはやっと錬金術研究所に辿り着いた。
綺麗な景色を見たいですね。




