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クズ人間の俺が聖女と呼ばれている  作者: いかや☆きいろ
二章 聖女は奇跡を起こす
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俺の聖女様は(アンセル視点)

 今日は閑話二話更新します。

 父から呼び出され、最近何かと騒がしいナコイ男爵領に向かう事になった。ナコイ領キンノ村西の森だったか、最近ダンジョン化したとの噂がある。ダンジョン化した地域では魔物が無尽蔵に湧き出し、溢れるのだ。


 父の呼び出しもそれに関してだろうと思っていたが、実際はもっと違う方向で大変な事態だった。聖女様が現れたと言うのだ。

 はっきり心臓が震えたが呑気と言われる俺の性格は表にそれを出すことはない。ただ、少し変になりそうだった。


 俺は騎士物語に憧れている。聖女様を守り、最後に結ばれる典型的なお話だ。俺は兄に憧れて王国騎士になったし、確かに王国が一番大切、だった(・・・)

 だが、それはあの日に砕け散った。つもりだったのだが。


 錬金術師である彼女の情報を集める為に錬金術師ギルドへ向かう。上位錬金術師の情報は概ね秘匿されるので手掛かりを掴む程度の気持ちで向かったのだが、そこに彼女はいた。

 彼女に絡む下級貴族を蹴り飛ばしたのだが、何故か彼女は非常に、俺に怯えていた。

 失礼な事だが、その怯える珍しい赤い髪、赤い目のエルフの彼女を可愛いと思ってしまった。報告に有った聖女様に違いない。

 しかし、どうも徹底的に嫌われたらしい。こちらは一目惚れと言って良いくらい心臓が踊っていて、ほとんど頭が回っていない。辛うじて座り込む彼女を俺が保護したイル、レコ、ユサに助けさせる。報告通り彼女に付き従っているらしい。


 俺にはそんなになついてくれなかったのにな。羨ましい。

 彼女はとても素直にお礼を言ってくれたし本当に可愛らしかったが、どうもそう言われるのに慣れていなかったようだ。

 俺は建前である聖女保護の名目で彼女についていく事にした。……だが、彼女は先々で規格外の事態を巻き起こした。極めつけは奇跡のスープだろう。

 鍋に一杯のスープ、それを飲んだ人々が古傷を全て回復させ、そればかりか老化で腰が曲がった老人まで真っ直ぐに立ち上がり歴戦の戦士のように動けるようになったのだ。

 ハッキリ言って、俺は聖女をなめていたらしい。彼女は確かに聖女としか呼べない存在だった。

 ガキが喜ぶ顔が好きなんだ、とか言って炊き出しを毎日のようにする彼女。その一杯がどれ程の価値があるのかも理解していない。だが、それを言うのは無粋かも知れないので俺は口に出さなかった。恐らく彼女のスープ、奇跡のスープなら金貨三千枚ほどの価値があるはずだ。歴戦の強者が立ち上がるのだ。それでも安いかも知れない。今この国が戦争になったら百%負けないだろう。

 だが、それを言うのは許されない。彼女は道具では無いのだから。

 だが、俺が彼女を国のために保護していたいと思っていたのも紛れもない事実。それを彼女に指摘されて気付いてしまう。

 それでも思いを伝えたい。その気持ちが弾けて、思わず唇を奪おうとするも、またもやそれは彼女に止められた。

 ちょっと悔しいが、しかし確かに初心うぶな彼女から無理矢理唇を奪うのは良くないだろう。


 何故かどんどん不信感を持たれてしまう。それでも俺の思いは募っていく。

 彼女を逃がしたくない。彼女が必要だ。彼女が欲しい。

 だけど俺は不器用なようだ。どうしたら思いを伝えられるのか、わからない。

 ずっと彼女の側に居れば伝わるだろうか?


 何度も炊き出しに付き合ったり、一緒に酒を飲んだりしていくうちに、最初のように怖がられることは少しずつ少なくなっていった。

 いつかは振り向いてくれるのだろうか?


 国を捨てても彼女と共に居られるなら、残念ながらそれはどうしても受け入れられない。

 俺にはこの優しい国も大切なのだ。彼女と同じくらい。

 いつかは彼女がこの国を心から愛せて、もう国を捨てろなんて言わなくなるかも知れないけれど、実際は彼女もそこに拘ってる訳では無さそうだ。

 俺が信用できない、そう彼女は言った。


 どうしたら彼女は俺の事を信用してくれるだろう。彼女を殺すような事になったらそれこそ自分の信念でも覆せそうな気がする。

 彼女の側に居たい。ずっと。


 やがて最初の目的通り彼女を王都に連れていく事になったのだが、そこから彼女は更に進化していく。

 三人の獣人娘や俺、エルフの魔術師を特別な加護を加えた指輪で強化し、アイテムを幾らでも保存できる伝説の術式保存ボードを作り、テレポーターを作り。

 彼女の軍隊と言える俺たちは既に一国でも相手出来そうなレベルになっている。だが、彼女自身の強化は今一つなのか、それでも彼女は不安そうだ。

 獣人娘たちもカナイも、そして俺も、既に命を賭しても彼女を守るつもりだし、実際俺たちが協力すればほとんどの最悪の事態すら覆せるだろう。


 それは王城へのドラゴン襲撃と言う形で現実になった。

 無防備な貴族や女王陛下を、俺たちは彼女に与えられた力で守り抜き、傷を負った者たちも全て救った。


 シェルは、名実ともにこの国の聖女となった。


 凄い事なのだが、益々俺から遠ざかる彼女に、不安を感じないと言えば嘘になるだろう。


 彼女は伝説の聖女になる。その時彼女にとっての最愛の騎士が、物語のように彼女を迎えに行く。

 それが俺であれば、そう、俺には祈る事しか出来ないのだろうか?


 シェルはこれからも奇跡を積み上げていく。……だが、いつか、追い付いてやる。

 俺の理屈で凝り固まった頭も、溶かすような情熱を、いつかは、示したい。






 アンセルも不器用ですね。イケメンでも恋愛は初心者です。

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