Sランクアイテムなんて簡単なはずがない
翌日からは錬金術にチャレンジだ。炊き出しも昼のみ。なんか冒険者たちが積極的にやってくれてるのでほぼ私は必要ない。ガキ共の仕事は考えた結果、紙を作らせることにした。ラウネーズの弟妹たちが持ってきた植物をガキ共が叩いて煮詰めて水に晒してすいて、と、やっている。
紙の作り方は錬金術の初歩らしく、錬金術師養成学校の生徒たちには良い小遣い稼ぎになるんだそうだ。紙は需要が高いので参入してもそうそう値崩れもしない。ガキ共には良い稼ぎだ。
私も初歩から学びたいもんだな~。学校行けないかな。その前に家に有る本は全部読まないとな。Sランクアイテムも詳細なレシピが無い物や調整に失敗したら大事故が起こるようなのが多くて怖くて手が出せないんだよな。
魔石から魔力を吸収するアイテムなんてのも有るけど制御をミスったら無尽蔵に周辺魔力を体に送り込まれて膨らんだ体がやがて、……パンッ。怖い。破裂死は嫌だぞ。
とりま、術式保存ボードは欲し過ぎるので作るけど、材料となる霊木の板を手に入れる為にラウネーズやプラムに植物用ポーションを要求されてまずはそこからなんだよな。
炊き出しする暇が取れなくて寂しい。ガキ共はうちに良く遊びに来るけど実験の邪魔はしちゃダメだと分かってるらしくて獣人娘たちやラウネーズと遊んでいる。子供の笑い声聞くと寂しさが増すわ……。
さて、そう言う経緯があって今作ってるのは植物回復ポーション、地質改善ポーション、植物栄養ポーション、植物用成長促進剤、植物用老化回復薬、とかとか、まあ大量の植物用ポーションだ。
地属性の薬草やリゲイ草など、毎日大量に薬草が持ち寄られている。プラムによれば森の古木たちを籠絡するための賄賂らしい。私が行けば話は聞いてくれるはずだが、まず今のダンジョン化した森に私が入るのは許してもらえない。誰もが止める。そんなヤバいなら私も入りたくないわ。
んで、ポーションが出来ていざ、となると今度はプラムが交渉の為にポーション持って出掛けたのでポーションストックも作れない。自分だけでポーションを作ってみるが品質は普通よりはマシだが、とてもプラムと一緒に作った物には及ばない。
それ以外は本を読み炊き出しに出る毎日だ。なので……。
「はあーい、今宵も儚く美しい、貴女の心に、ヤーカミです!」
「帰れ」
「良いんですかい? 頼まれていたブツを持ってきたんですが?」
「ヤーカミ、お主も悪よのう」
今回も晩酌のネタをヤーカミに頼んでる。酒はいつもの火酒炭酸割りだが、フルーツの種類をリンゴとか桃とか増やしてみた。果汁は置いとくとすぐ濁るから新鮮なうちに飲まないとな!
肴は目刺しだ。わざわざ注文してイワシを干してもらった。煮干しも頼んである。煮干しは高いけどそのまんまおつまみで行ける。目刺しは炙ると苦味は有るけど旨味と香りが高くて酸味の有る酒に合うんだ。
他にもベーコン、生ハム、レタスなどなど。この辺りはツマミを作りながら飲むか。
果汁と火酒を混ぜる時は果汁は少な目が美味い。多いと甘くなったり味が濁るから香りだけ足すつもりで入れる。まあこの辺りは趣味の話なので好きにすると良い。砂糖を入れたって良いしな。ライムは割と甘味が有るし飲みやすい。
スルメももらった。今日はヤーカミとアンセルを道連れにして飲むぞ。アンセルはにやけてる。強いのか?
しばらくベーコンを厚切りにして焼いたものやチーズをカットしただけの物なんかの簡単なツマミを積む。やっぱり気分良く飲んでる時に席を離れるのは辛いからな。
ヤーカミがいくらか簡単なおつまみを持ってきてくれたのでそれも買い取る。なんか豆を固めたようなのやジャーキーっぽいのがたくさん。各種の魔物ジャーキーらしい。楽しみだ。おすすめはレッサードラゴンジャーキーらしく。
ドラゴンとかいつか倒せるかなぁ?
アンセルは濃い目のが好きみたいで、でも炭酸で割る飲み方を気に入ったようだ。炭酸水は錬金術アイテムなので一本銀貨六枚とか高級だが、今の私の懐にダメージにはならない。やっぱりお代官様だな。お主も悪よのう。
ヤーカミも若いが割と酒に強いようだ。ただ商売の癖なのか良く喋るヤーカミが、飲むとより良く喋る。話は面白いのでもっぱら私とアンセルが聞き役だ。
おつまみの調理が面倒になったのでレタスをちぎって生ハムをちぎってリンゴ酢とオリーブオイル、レモン汁、塩胡椒で作った簡単なドレッシングをかける。水飴とか有れば更に料理の幅が広がるんだが。
だんだん私も酔ってきたし、ヤーカミも口数が減ってきた。アンセルは酒がよほど気に入ったらしく、果実の種類を変えてやってみている。悪酔いするぞ。
実験で火酒をポーション割にして魔力を混ぜて氷も私が作って入れてみた。これが好評で酔いも少し落ち着いてしまったのでまたヤーカミは喋りだし、アンセルもそれにネタを追加してくる。騎士の間でどの魔物が美味いかで議論した話になったところで私も興味が出てきて頭の中で考えたメニューを披露してみる。いつか食べたいですねー、とかヤーカミが言うと狩ってこようかとアンセル。お前は王国騎士の仕事はどうするの! まあ今の主任務は私の保護らしいが。
盛り上がって来たところでプラムが帰ってきて妾にも酒をー! とか言うので混ぜてやる。そう言えばこいつも共食いじゃねえの果実とか、と思ったが普通に栄養にするらしい。そりゃそうだ。森の木が周りに落ちる果実は選べないもんな。
ヤーカミとプラムはなんか意気投合してこの大陸のどの国で何が名産で、そんな話をヤーカミが自慢すればプラムが更にあれは食ったの食わないのネタを突っ込み、実に楽しくなって来たので私もネタで料理を作ったりして、更に夜が更けて、気がついたら朝になってて、私たちは獣人娘たちやラウネーズにこってり絞られてヤーカミは更にそのまま出勤して両親に大目玉を食らったらしい。
すまん、ヤーカミ。骨はプラムに拾わせるわ。森の栄養になれ。次はカナイも誘おう。
ヤーカミはヒーローではないです。……ないよね?




