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クズ人間の俺が聖女と呼ばれている  作者: いかや☆きいろ
二章 聖女は奇跡を起こす
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聖夜

 クシワクとダツヤナの二人に金貨四十五枚ずつ預けて村長の家を出る。色々言ってきたけどそのうちギルド支部が出来たらそっちに預けると言ったら落ち着いたようだ。


 皮肉な話だけどダンジョンが出来ると村は活気付く。有る意味自然の摂理なのかも知れないけど。スタンピードもそうそうは起こらないようだし、警戒するのはまだ早いようだ。


 村長たちには怪我を負ってリタイアした冒険者を集めてもらう。婆様には炊き出しの協力者や年寄を集めてもらう。ポーションの補充も出来る限りしておかないと駄目だが、まずはシーナさんたちと合流だ。

 アンセルを引っ張り回して村を駆ける。まあ、騎士様には余裕だよな。身体強化強めにしてもニコニコしてついてくる。私は犬の散歩してる女子スポーツ選手かな?


 ずいぶん久しぶりな気がするヤーカミ食料品店に辿り着いた。相変わらずぼろっちいな。食料品の品揃えは良いんだけど。野菜も肉も溢れてる。この店を切り盛りしてるのはヤーカミの両親とアルバイト的な立場の店員数人、ヤシメ=ヤーカミ本人だ。

 田舎にしては大きい店だよな。雑貨店もだし、クシワクの店だって田舎のそれとは言えない。なんか理由があるのかも分からないけど、ここに女神様が私を遣わせた意味は有るんだろうな。


 そういや旅でだいぶん服も草臥れたから幾つか買い足したいな。この村で過ごすようになってから何枚か服は買ったけど、パリッとした感じになかなかならないんだよな。

 外見を整えるのは私の性癖みたいなもんだ。だらだらした中身だが外面だけは良くしたい。営業で身に付いた感覚なんだろうな。私としては面倒なんだが、習性はなかなか変わらないもんだ。


 この女の外見だと可愛いふんわりした感じも似合うし、スラッとしたビジネスウーマン風も似合う。パンツルックよりは元気なミニスカートがいい。最初がワンピースだったからかスカートに抵抗は無いな。寒かったらアンスコでも毛糸パンツでも履けば良いし。なんつーか、キャラクターメイキングしてる感じ? それが強い。なので容姿を誉められても「だよね」くらいしか感じない。でも拘る。変な感覚だな。


 ヤーカミの店の前ではシーナさんたちとカナイが待っててくれた。遅れた事を謝りつつ、シーナさんに約束の金貨を払い経費を聞く。もちろん経費は私持ちのつもりだったのだが金貨一枚で十分私たちも儲かると言って受け取ってくれなかった。彼女らも男爵令嬢だったりして責任が有る部分も感じているのだろう。そこは好意を受け取る事にした。


 今晩の話をして、一度仕事をしてもらった事である程度彼女らに信用も出来たので欠損回復スープの話をしておく。みんな驚いてた。信じてない雰囲気の子もいたが嘘を吐く理由がない。そのシーナさんの言葉に納得したようだ。

 まあ、実際あのスープは奇跡の産物だからな。私にも原理が分からないし。

 食材を変えたら効果がどうなるか分からないが、将来の事も考えて試してみる事になった。


 昼飯はヤーカミのところの白パンだけかじって、広場で炊き出しの準備を始める。なんか村人やアンセル、冒険者たちが集まってキャンプファイヤーの準備を始めた。お祭りにするつもりらしい。聖女様の帰還祭りだそうだ。毎年やろうと言っていたが毎年は参加出来そうに無いぞ。まあこの村から出るつもりはあんまり無いけど、各地で炊き出しするとは誓ってしまったからな。……全国ならまだ行けるが大陸全土となると厳しいかもな。


 さて、夜のメニューだが相変わらず海産物が無く魚もないヤーカミだ。醤油とかも探してもらってるけど家族経営の店舗だから人手は割けないだろう。むしろ冒険者に依頼するべきか?

 醤油を発見したら最初の人に金二十枚! んん、人が集まりそうだ。ただ魔物討伐とかの方が優先だけど。


 それでメニューだが、やはり煮物系が分けやすいんだよな。カレーは香辛料足りんし……案外手が少ないな。いや、焼き物や炒め物も大量に作りやすいし良いか……。なんちゃって青椒肉絲作ろうかな? 本格的な調理は夜になってからだから試しに作って材料を切っておこう。衛生管理用に氷を作ってなんちゃって冷蔵庫も用意だ。


 あ、もちろん欠損回復スープの準備もしておく。これはジャガイモを主体にしてトロッとしたスープを……ジャガイモシチュー? そんな感じで良いかな? ヤーカミに食材を依頼する。


 シーナさんたちになんちゃって青椒肉絲を披露した。

 牛肉を細切りにしてピーマンと一緒に油で炒め、白ワインを少し入れてアルコールを飛ばしたら塩胡椒で味付け。オールスパイスも使いたいがピメントはまだ見付けてない。婆様には頼んでる。代用品にクローブで臭みを取る。


 さて、これを青椒肉絲と呼んで良いものか。そもそも青椒肉絲って豚肉なんだよな、本場では。

 だが、味は美味い。うん、私は良い奥さんになれそうだな。相手いないけど。何故かシーナさんがアンセルに食わせてる。やめろ、そいつは違うから。別にツンデレとかではない。


 私が人嫌いになった理由の一つで人物の望むところを読み取ってしまうんだが、アンセルの目的が分かってしまうから白けるんだよな。


 アンセルは王国騎士の自分が大好きなんだ。王国騎士として伯爵の指示を受け、王国のメリットである私に付き従ってるだけ。もし私が王国の不利益になるならその場で斬られるだろう。

 そんな危ないのと居たくない。女神様が変な事を言ったから気にしてしまってるのは事実だが、このままこいつといると多分また人嫌いを拗らせる。


 なんちゃって青椒肉絲は美味かった。冒険者たちもピーマン嫌いとは言わなかったし、これは一品に加えておこう。


 ジャガイモシチューも具に鶏肉とニンジンを入れて出汁も入れ、玉ねぎと白ワインで甘味を加えていつもの黒胡椒とクローブでまとめた。コンソメとかも作らないとなあ。でも和風出汁の方が簡単に手早く作れるし……。煮込まなくて良いからな。むしろ煮込んだら味が磯臭くなり鰹節の香りが飛ぶ。香りって揮発成分だから鼻に届くんだよな。臭みを飛ばす以外で沸騰は禁物だ。香辛料や胡椒を私が最後に使うのはこの為だな。下味としてつけると香りは残ったりするんだけど。

 試行錯誤が必要だよな~、料理は。レシピ見て作れた美味かった、ってのも主婦なら良いんだろうが、私はそんな料理はつまらん。昔から教科書通りとか大嫌いだ。


 夜になって子供たちが集まり始めた。爺さん婆さんを連れて村人たちも集まる。シンのとこの婆さんも来てるな。よし。


 一通り炒め物や焼き物を振る舞いつつ鍋をどんどん増やして、切っておいた具材を炒めて出汁やホワイトソースを足していく。魔力をいつもより込めて混ぜ合わせる。そして最後に欠損回復ポーションを……その瞬間に異変が起こる。

 ポーションを注いだ鍋が発光し、蛍のような光がブワッと立ち上った。……また奇跡を起こしてしまったよ……。どうやら魔力を込めすぎると発光して効果が上がるようだ。

 会場は物凄く盛り上がり、更にそのポーションシチューの味と、効果でも盛り上がった。効果はやはりしっかりと出たらしい。


 爺さんや婆さんはどうやらこの国の戦時中に生きていたらしく、全員、シンの家の婆さん、更にはクシワクの婆様までも拳を振るって乱取り稽古を始めてしまった。明日動けなくなるぞ。

 しかし数十年間戦争をしていないとは聞いたが、その戦争時代は修羅の国だったんだな、ここ。


 多くの人に感謝される。そしてまたウルルがいらんことを言った。


「聖女様の奇跡の夜。正しく聖夜ですわ……」


 この祭りの名前が、聖夜祭になった瞬間である。マジやめろ。






 私が使える香辛料はだいたいスーパーに有りますので、使ってみても良いと思いますよ。クローブとオールスパイスは良いですね。

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