やらない悪よりやる善だ
三話更新一話目です。
炊き出し炊き出し、楽しい炊き出し!
の、前に金策だ。錬金術師ギルドに行くぞ。
俺は五人の俺のパーティー? イルレコユサ、カナイアンセルを引き連れて錬金術師ギルドへ向かう。金策のためにこの街に来たのに何やってんだろうな。まあ炊き出しはキンノ村のガキ共との約束でも有るからな。
錬金術師ギルドから十分な金を巻き上げる。出来なかったら暴れるぞ。私以外が。
錬金術師ギルドに入るのだが、何故かギルド前に二人のおっさんが立ちはだかった。
「お前らか、貴族に逆らった無礼者共が」
アンセルが溜め息吐いたのがわかった。何か可愛い。……何か俺の感覚が変だよな。
男でも男の仕草を可愛いと思うことは有るけどだいたい「乙女かっ!」とか言って弄るネタだよな。今は女だから弄ると変な誤解が生まれそうだ。男と女の感覚って思ってた以上に違うな。感覚と言うか立場が違うんだな。
立ちはだかったのはノルワ男爵の五男と、多分その兄。……何しに来たんだこいつら。は、ひょっとしたら伯爵三男のアンセルは意外と偉くないのかも!
よし、こいつだけ連行してくれ!
「我はノルワ男爵家四男、セマカ! 平民は退くがいい!」
「うわあ、なんと言うカマセ犬」
思わず言っちゃったよ。こいつらどこまでアンセルを引き立てたいんだろ? アンセルに買われて……るわけないな。こいつはそんな知恵があっても面倒だから使わない男だ。俺の人を見るスキルは間違いない。
人を見る秘訣は外見を見るのも一つだが、精神性を見るのは大事だ。そいつが何を大事と思ってるかは考えないと駄目な要素だな。
あと、そいつが好きな、欲求の傾向。これは魚釣りの餌を選ぶのと同じだ。そいつが求める物を食らわせる。なら、求める物は把握しなければならない。
セマカ、こいつは明らかに情報収集を失敗している。多分五男のパッタシが泣き言を言ったが相手の正体を聞いてないパターンだな。
兄弟愛は素晴らしいんだがなぁ。求めるものが平民、仮定、俺の、服従だが、既にそれが無理な要素が揃ってしまってると言うか……。いや、魔王級とか伯爵とか、最悪女神が味方なんだけど、こいつら何がやりたいの?
やべえ、だんだんこいつらが心配になってきた。
「えーと、カマセ君? この国で女神ってどんな位置付け?」
「セマカだっ! 女神は三千億の世界を統べる存在だ。人など、我らの価値感に換算すればミジンコにも及ばぬ」
「意外と賢い!」
この世界の人の価値基準の根底に有る女神信仰を引き合いに出したのだが、ちゃんと自分を見れている感じだよな。
なんかこのセマカ君に愛着沸いて来たわ。兄弟愛で動いてるしちゃんと女神信仰だし。女神があれでなければ完璧。『うるさいクズ人間』
なんか女神の突っ込み入った。
「んーと、俺は聖女とか言われてるんだけど割とそれって平民と変わらなくて貴族なら蹂躙できたりするのかな?」
当たり前だがそんなのは嫌だ。だがこの世界での俺の価値っていまいち掴めてないんだよな。元が斬り捨てられても文句も言えない山賊モドキの平民だし、……平民でも紛らわしかったら斬られても文句言えないんだよな、この社会。
だがセマカ君は俺のセリフに青ざめた。
「え、せ、聖女様?」
「いや、聖女ではない」
実際聖女ではないんだがここで言ったら不味かったか?
「彼女は辺境の村で毎日のように炊き出しを行い、欠損を負った者を無償で回復したが誇らず、それほどの能力と精神性を持っているのだが、それは聖女ではないと言うのかな、セマカ氏」
うわおっ! なんかアンセルが凍え付くような殺気を放ってる!? なんで?!
「ふうっ……。いえ。そのような方がおわすならば間違いなく聖女です」
セマカ君に聖女認定された。ん? これ俺が既にチェックメイト? や、やめろ、
俺は聖女じゃねえっ!
セマカさんはなんか激怒してパッタシの頭を何度も叩きながら帰っていった。パッタシはクズだったがセマカさんは割としっかりした人だった。名前で人は判断できないもんだな。
だが俺は……。
「アンセル……断じて言うが俺は聖女ではない」
「いや、あなたを聖女だと思う人をないがしろにしたいならその訴えを受け付けよう」
……このイケメンがっ!! 逃げ道の塞ぎ方上手すぎるだろ!!
確かにな、確かに助かったと言う人々の気持ちを受け入れないのはただの偏執だ。実際助けてるんだから。
だが、それを受け入れたからと言って俺は救済の奴隷にはなりたくない。誰か助けたんだから俺も助けろって言われたくない。助けるのは当たり前じゃない。俺が救われない。
逆に言えば恩人を奴隷にするのが社会のルールかよ?
確かに、俺が一番嫌いな言葉は「やらない善よりやる偽善」だ。やるんなら善だ。やらないなら悪だよ! やれないのは仕方ない。困ってる奴をできる範囲で助けるのは俺がやりたいからだし代わりになにか寄越せとかは言わない。仕事はしてもらうが対価は払うしな。俺ができる範囲の援助だからその外で助けてもらえなかったとか文句言われても知らん。最初から自己責任だしな。自分は自分で助けろって話だろ?
その上で助けられる範囲にいないのにわざわざ首を突っ込んだりしない。俺の近くにいない人の救済なんて、それは別の人間がやるべきだ。一人に何もかも背負わすのは違う。完全に間違ってる。それこそが悪だろ。
そう思ってるから、だからやったんだ。
……馬鹿なんじゃねえの?
アンセル、お前は……。
「自分が言ってる事が残酷だとは思わないのかよ……」
「君が自分を聖女と認めるなら、俺はその苦痛の全てを代わって受け入れる」
このイケメン野郎。お前ごときで責任が負えるのかよ。つかお前が抱える理由がねえわ。
もういいもういい考えても分からん。俺は俺のやりたいこと、好きなことをする。
錬金術師ギルドで素材と欠損回復薬の換金を済ませて俺は炊き出しに向かう。
理屈じゃねえ。俺がやりたい事をする。俺みたいなクズを聖女と呼んで後悔しないと良いな? まあわざと貶めたりはしない。そんな事はやりたくないからな。
錬金術師ギルドに入るといきなりギルマス、イサクが待ってた。
早速俺は持ってきた薬草と欠損回復薬幾つかを金貨千枚で売り付ける。慈悲は無い。
そう思ったのだが逆に安すぎるとごねられた。価値が分からん。
結局増やされ一万枚近くなった。金は当たり前だが大部分ギルドに預けた。アンセルは良いと言ったがもらった金は全部返した。預けた金は保証人が錬金術師ギルドなのでとりあえず安心。
……でもなんか今後を想定したら泣きそうだ。俺は自由にガキ共を救いたい。それだけなんだ。なのに、許されないのだろうか? 大金持ってるなら、間違いなくそれで命を狙われてしまうし、身柄を拘束して国から身代金も有り得る。……でも。
覚悟を決める。俺は聖女だ。
スラムにて、炊き出しを始める。最初の予定通り、俺の最強のメニュー鮭のシチューだ。ブロッコリーもジャガイモも美味い。きっちり煮込むにはしっかり強火で煮込む事と火を消して余熱を加えつつ味を染み込ませるのが大事。この段階でできたー? と聞いてくるガキ共は可愛いが、赤子が泣いても蓋は取らないぞ。熱を下げるとその過程で味が染み込むんだよな。
野菜の中に味が染み込む理由は色々考えられているみたいだけど、単純に時間を置くから染み込むとも言われてる、が、まあ冷まして置いとくと燃料代かからないからその分はお得だ。料理は愛情だが基本は科学なんだよな。
美味しいものを作れる理屈は必ずあるんだよ。これも知識チートになるのか?
でもこの世界魔力が美味しさに繋がったりするからよく分からん事がある。想定より美味くなったりする。俺の魔力も入ってるのかも知れない。ポーション作る時みたいに混ぜながら魔力が吸われてる事があるし。
俺は美味いもんを子供たちに食わせる。……それが幸せ、俺の幸せだからだ。偽善? 自分以外の誰かも幸せになることを偽善とは言わん。偽善ってのは前々世の俺みたいな詐欺師の称号だ。




