クズ人間、また死ぬ
そんな感じで暮らしていたのだが、数ヵ月も経つ頃にはなんか三人にすっかりなつかれてしまっていた。
イルは犬の習性なのか常に俺に付いてくるし、レコは猫の習性なのか寝ていると上に乗ってくる。重い。ユサは相変わらず狩人だ。獲物を調理してやると美味そうに貪る。兎ってなんだっけ……。兎獣人が獰猛な肉食獣なのは間違いないな。ユサだけかも知れないが。
調味料は塩と胡椒が有るが、いずれ無くなるだろう。三人も増えたし、すぐに無くなりそうだな。何とか金を稼いで買いにいかないと。
奴隷は確か表だって取引するのは違法のはずだ。貴族でも拘留されたりするのだから平民だと死刑も有るな。だからこいつらを町にやるには見た目を綺麗にして、奴隷に見えないようにしないと駄目だろう。ちなみにチェーンは何とか山刀で破壊したが、首輪や足輪は残っている。流石にそこに刃を立てるのは怖すぎる。
なのでどうしても見た目は奴隷だ。一応浄化魔法はかけてやっているのだが。ちなみにこの手の生活魔法以外に俺に魔法は使えない。チートなんて無かったんや。言葉も生まれ変わりだから一から自分で覚えたし。
ちなみに今世の親は早くに病死した。浄化魔法有っても浄化できない病気がいくつか有るらしい。ガンなんかは無理だし、そう言う病を治すには高い薬が必要になる。
いずれ作れたら良いんだがな。相当な金になるはずだし。だが俺に薬草の知識など無い。この世界の薬草って料理に使うハーブもだが、青色だったり黄色だったりするんだよな。天然の青いバラとか有るし。前世の品種改良に努力した人たちもあれを見たら泣くか怒り出したかも知れないな。
「そろそろ新しいトイレ掘るか」
「手伝う」
イルは犬だから穴掘りが好きなんだろうか? とりあえずやらせてみたらすぐに身長ほども穴を掘ってしまう。どうやら簡単な土魔法が使えるようだ。便利な奴。丸投げだ、丸投げ。丸投げはジャスティ~っス! 叫んだら山びこが返ってきた。
レコは相変わらず寝てるだけだ。ジャスティスなのか? 猫はジャスティスなのか?
そんなレコを撫でているとユサがまた獣を狩ってきた。頼むから野菜を刈ってきて。血塗れの大きなネズミを持ってにたりと笑う兎獣人。怖い。
簡単に解体してしまった。イルに穴を掘らせてそこに要らない部分を埋めておく。腐ると臭いがキツいし衛生的にも良くないもんな。
確かハイエナやハゲ鷹みたいなスカベンジャーって呼ばれる屍肉を食べる生き物たちは腐肉の毒に対応する進化をしているから大丈夫だが、人間が食うと死んでしまうんだよな。ボツリヌス菌とかだっけ?
獣人はどうなんだろう? 試す気は無い。こいつらは可愛いからな。
しっかり水魔法で洗浄し、ネズミ肉を焼いてやる。火は焚き火だが燃え盛っているところでは焼かず、炭になってから焼く。本当は炭や七輪を用意したいのだが俺にはそんな知識は無い。いや、炭の作り方は動画で見たことが有るが。粘土で囲って火をつけてある程度燃えたら完全に蓋をして酸素が入らないようにして不完全燃焼させるんだったか。そのうちやってみよう、そう思っていたのだが……。
何やらまた道の方が騒がしい。また山賊が出たのかも知れない。山刀を持って麓に降りていく事にする。三人には留守番をさせ、もし俺が帰ってこなければ町に帰るように言い付けた。三人ともしばらく俺にしがみついて離してくれなかった。恐らく動物の勘が働いたのだろう。耳や尻尾以外は普通の人間の見た目の三人を、しばらく宥める。
ようやく落ち着いたようで、離してくれた。絶対に着いてこないように言い付けてから山を降りた。
もう少し考えて、せめて山刀を持って行かなければ良かったんだろうか。悔やんでも遅いのだが。
激しい鉄の打ち合わさる音が響いている。今度は冒険者付きの商人でも襲っているんだろうか? 覗いてみると、どうやらそう言う訳では無いらしい。一方の鎧やら兜がゴージャス過ぎる。完璧に国の騎士だろう。まさか山賊も国の騎士は襲わないだろうから擬態して、騎士たちは馬車の中にでも隠れていたんだろうな。
どうやら山賊が騎士に狩られている場所に出てしまったようだ。……今の俺の見た目は誰がどう見ても奴等のお仲間である。ヤバい。
慌てて逃げたのも失敗だった。盛大に足音を立ててしまう。当然騎士に見つかった。「アンセル、追え!」と言う騎士の声と共に一人の騎士が追いかけてくる。彼がアンセル君のようだ。
焦ったのは間違いないが冷静になってみると阿呆である。見つかる前に静かに離れれば良かったし、さっさと山刀を捨ててしまえば良かった。
俺を追ってきたアンセル君はどうやら十代半ばくらいの若い騎士のようだった。兜を投げ捨てて追いかけてくる。怖い。イケメンが鬼の形相で追いかけてくる。男に飢えた女でも逃げるだろう。
「ま、待て、俺は山賊じゃ……おわっ!」
説得しようとして振り返った時に山刀を向けてしまったのが運の尽きだ。斬り掛かってきたのを慌てて避けて、山刀を横に投げ捨てる。しかし、騎士は止まらなかった。山賊はその場で斬られるのがセオリーだからな。降参しても無駄だ。
銀の髪に青い目の、男でも見惚れるような若い騎士に、俺は袈裟斬りで斬り捨てられた。
逆袈裟ってどの方向から斬ることなのかな、とかどうでも良いことを考えつつ、俺の意識はそこで途絶えた。
イル、レコ、ユサ、三人が無事なら良いのだが……。残った力で俺は自分達の拠点の方向を指していた。イケメン騎士のアンセル君に伝わっていれば良いのだが。
ぶっちゃけこのまま山賊スローライフも面白そうですよね。いつか書いてみたいです。