ギルドと契約を
三話更新、三話目です。
テンプレ様にビクビクしながらカナイの案内で冒険者ギルドに向かう。やる事は薬草の販売と魔物退治の依頼だ。この時の為にラウネーズに出してもらった薬草をバッグに詰めてある。これ取られたらヤバいよな。大事に抱えて更にビクビクしながら歩く。イルレコユサが周りを守ってくれてるけど、怖いもんは怖い。なんか俺、臆病さも増してるな。ユサは誰でも怖い。
道端で不良にナンパされるテンプレ様はカナイがあっさり撃退した。「鏡見ろ」ってバッサリ。あんまりバッサリだったから不良もそれ以上は絡んで来なかった。哀れみ。つか俺もあれだけバッサリ言われたら沈むわ。
イルレコユサが蹴ってるし。止めがユサの「お前も肉料理にしてやろうか!」だ。何処の悪魔閣下やねん。ユサ以外がみんな震え上がるわ。
そんな感じでギルドに着いた。ギルドは貴族のお屋敷みたいな白い彫刻のされた壁、大きな銀製の唐草模様の扉だ。案外貴族のお屋敷を改良した物かも知れない。重い扉を押し開けて入る。
デカい山賊風なオヤジがやって来た。またテンプレ様か、容赦ねえな、とか一瞬思った。
「お嬢さん、ご依頼ですか? 案内致しましょう」
山賊風なのに対応は執事だった。ヤシワコさんと言うらしい。名前が可愛い山賊風の執事対応のおっさんと覚えておこう。
ヤシワコに依頼用のカウンターに案内された。最後まで丁寧にお辞儀して去っていった。いや、見とれてる場合じゃないや。
受付のお姉さんが眼鏡を持ち上げつつ俺の事をじろじろ見る。そして一言。
「もしや聖女シェル様では?」
「聖女ではないですがシェルです」
聖女って広めた冒険者氷漬けにしてやる。
依頼カウンターに来たもののまずは買い取りからお願いしないとな。どうやら小さい物ならここで買い取ってもらえるらしい。
「じゃあこれを」
「……聖女様」
「聖女ではない」
「流石は森の聖女様ですね」
「なんかランクアップしたっ?!」
どうやらここでもボーン草とかのAランク薬草は貴重らしい。錬金術師ギルドに直接持って行くように言われた。
じゃあここは依頼を出しておくか。キンノ村周辺の魔物を討伐。残金の金貨二十枚払ってやれるだけやってもらう事にした。薬草を売ればまた金が入るからってクシワク婆様に持たされたんだよな。婆様だって村の守りは気になるか。
眼鏡の受付のお姉さん、ロミ=アマザさんは丁寧に応対してくれて、錬金術師ギルドの場所を教えてくれた上に紹介状までくれた。なんか勝手にギルド長の印鑑を使ってるけど良いのか?
あとは出来ればギルド支所を作って欲しいとお願いしたら喜んで! と即答された。だから良いのか? ひょっとしてギルド長? 違うらしい。
やる事もだいたい終わったかな? 帰ろうとすると山賊執事ヤシワコが駆けてきてエスコートしてくれた。流行るのか? 山賊執事流行るのか?
次は錬金術師ギルドだな。またカナイに案内してもらう。この街はカナイの拠点らしい。出身はもっと田舎らしいが。
錬金術師ギルドに着くまでにもう一度悪魔兎の名前が広まりそうなイベントが有った。絡んできた男の……玉砕した。うん、そんな日本語の使い方はないが意味が伝わったな。そのうち兎獣人魔物認定されるぞ。
錬金術師ギルドも綺麗な白い建物だ。彫刻も綺麗だな。こっちの方が洗練されてる感じはする。やっぱりインテリの棲家なのかね? 俺はインテリからはもっとも遠い存在だが。ほっとけ。
とりあえず中に入ると今度は貴族風の男が歩いてきた。
「なんだぁ、小娘。錬金術師ギルドに何の用だ」
貴族風山賊だ。お前ヤシワコさんと中身入れ替わってねえか?
貴族風山賊はいきなり俺の腕を掴んできた。……イルレコユサとカナイの殺気がヤバい。
「なかなか美人じゃねえか……俺の女にしてやるぜ?」
「ほんとに中身山賊だ!」
「誰が山賊だよ! 俺はノルワ男爵家の五男パッタシ様だぞ!」
「自慢するほどの貴族かよ男爵の五男とか!」
あ、いかん、勢いで要らん事言った。下の下でも仮にも貴族だからな。腕を掴む力が強くなってきた。イテテ……。
って、イルレコユサ、ステイ。ステイだ。貴族に手を出しちゃあかん。コイツらヤクザだからな。って、いきなり山賊貴族は吹き飛んだ。そこに現れたのは銀髪碧眼の、輝くようなイケメン。
って、あれ、これ、ひええ……。貴族を吹き飛ばしたのは俺を斬り捨てたあのイケメンだった。
……腰が抜けた。
「き、貴様……俺は貴族だぞ! 男爵の五男だぞ!」
「そうか、俺は伯爵の三男で末っ子だ。ついでに王国騎士なんかもやってるな」
そう言えばこいつ王国騎士だった。王国騎士ってそのまま騎士爵もらえるんだよな。一代貴族って奴だ。爵位無しの貴族子女とは桁が違う。斬り捨ても有り得るぞ。怖い、怖いい……。
「ま、まさか、呑気な疾風アンセル……」
「おや、流石に知っていたか。じゃあここで死ぬか? あ、ギルド職員さんに床を汚す許可をもらってからだな。何かシートを敷いてからの方が良いかな?」
あ、ほんとに呑気だ。俺を殺しに来た時は鬼だったのに、中身はこんなのだったのか。……つか顔を見てると震えが止まらない。
「た、助けてえぇ……」
男爵五男は下っぱっぽく逃げ出した。つ、次は俺の番だ……腰が抜けて立てん……。
アンセル君と再会です。




