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クズ人間の俺が聖女と呼ばれている  作者: いかや☆きいろ
八章 決戦の炊き出し
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彩り(ルート視点)

 二話更新の二話目。ここで一旦完結します。

 人生は退屈だ。

 何かを成し遂げようとしても僕の場合周りが解決してくれる。

 何かを学んでも歯応えは無いし、何かを食べてもいつも変わらないもの。遊び相手も居ないし、なのに行動には常に制限を掛けられてしまう。


 僕は王子らしい。この国ではもっとも偉い貴族の一人なんだって。


 じゃあ何で僕はこんなに退屈なの? 何かを得ようとしても手応えは無く、得たものも価値があるように思えない。そもそも王族が何かを手に入れるのは常に容易なので、……価値と言うものが分からない。

 砂漠で水を得ることは価値がある。それは理屈として分かるが、そもそも僕が砂漠に迷い込むことがない。湖の真ん中で溺れてるのに水を差し出されている気分。


 周りは強い人ばかりな上に僕自身無敵と言っても過言ではないスキルをもらってる。どうやらチートと言うものらしいけど、最初から持ってるとチート(ズルい)と言われても、知ったことかと思ってしまう。僕が選んだんじゃない。欲しければくれてやる。


 僕は多分すねていたんだと思う。冒険者のお話が楽しそうだからお母様と姉さんの許可を得て冒険者をやってみた。

 結果は、王子という柵から目立てもしない、ダンジョンを攻略しても歯応えがなく。

 ダンジョン最下層のボスにスキルを展開して体当たりしたら一撃で蒸発した。


 僕が特別なのは分かったけどさ、これなんか面白いの? 称賛? 得られなかったことがないけど? 権威? 王族に権威がないの? お金? 既に国家予算数年分有るけど?


 そもそも何をやっても出来てしまう。知らない国に行こうとすると一日どころか一時間掛からず世界の裏側に行ける。敵はほぼ一撃。

 僕は何を楽しんだら良いの? 何が楽しめるんだろう? 何が楽しいの?


 色々煮詰まってしまったんだと思う。姉さんが女王になったと聞いても、ふーん、で終わった。なんか貴族の中には僕を王位にとか馬鹿なこと言う人もいるらしいけど、姉さんの顔を見てると良いことでは無さそうだね。奴隷と王様の違いを僕は抜き出せない。いや、飢えないとか病にかかっても治せるとかは分かるよ? でも自由なの? それ。

 要するに飢えることは許されず、死ぬことは許されない。仕事は奴隷以上だよ。眠れないし、休めない。

 そもそもこの国は奴隷制禁止だしね。王族以上の奴隷なんかこの国には居ない。


 せめてままならない命を育むことに挑戦してみた。

 薬草は思うままには、けして育ってくれない。

 これだ、そう思ったんだ。権威を笠に着てもお金を費やしても僕の才能でも無敵スキルでもそうそう思うままになりはしない、命。


 学園の薬草ハウスに僕が籠りきりになったのは、もはや運命だった。

 運命は人のものと女神様の言葉が残されているけど、僕の運命を探し続けた結果が、ここなんだと思った。


 そして運命の扉を、僕は自力で開いたんだと感じた。

 ついに権威でも、お金でも、与えられたスキルでもないもので、僕は大切なものを得る機会を得たのだ。


 薬草ハウスでいつものように一人でお茶を飲んでいた。いつもうるさい幼馴染みのジルアことありすちゃんも居ないし、のびのびしていたんだ。


 その瞬間、僕の薬草たちが僕以外の人に一斉に惹かれたのが分かった。僕の丹精を込めて育てた薬草たちは一瞬で僕ではない人に注目していたんだ。

 今にして思えば、薬草たちは分かっていたんだろうね、僕がその人に救われることを。


 その瞬間の気持ちを、君は分かるかい?

 苛つき? 怒り? 嫉妬? そうじゃない。全く違う。そこに有ったのは、言葉にもならないくらいの羨望。

 僕に成せないことを成せる人がいるんだよ!

 今までのつまんない人生は、一瞬で払拭されていた。灰色の人生を覆す鮮やかな赤、彩りが。


 彼女が、シェルが現れた。僕の人生の全てを覆す存在が、現れたんだ!


 退屈極まりなかったはずの人生を、彼女は嘲笑うように覆していく。

 薬草たちと話し、薬草の最善の効能の出し方を容易に見つけ出し、誰よりも美味しいご飯を作り僕の、王族の味覚を震わせたり、奇跡のスープで人々を救うその姿は王より称賛に値する。


 僕の全ての価値をあっさり否定していく、凄い人は、見た目も凄く美しいエルフなのに全く妥協せず自分を磨きあげ、その上に王族を鼻で笑うほどの仕事をこなしていく。


 僕が彼女に恋をしないなんて無理だよ。もうあっと言う間に恋をしたね。ジルアには笑われたけど、奴もシェルは認めていたようだ。僕の恋を応援すると言ってくれた。


 聖女様か。僕も一応は勇者と呼ばれているし、伝記や絵本でも勇者と聖女の恋物語は多い。

 ははっ、そんな絵空事、僕は全く興味なかったのに。


 彼女と出会ってからはやたらとそう言うお話が気になってしまった。僕は一度読んだ本は確実に記憶できるから大量に、誰にも知られぬうちにそう言った本を読み漁った。

 そのどの物語も、僕とシェルの物語には敵わない。そう思うと初めて、自分が神話の登場人物のように思えた。自分を好きになれた。初めて、僕は退屈にさよなら出来たんだよ。


 僕にとっては君の過去や弱さなんかぜんぜん気にならないよ。僕に出来ないことをやってのけ、なのに素直な微笑みでいつも僕を頼ってくれる。そしてどんな困難な仕事でもこなしていく。僕のために力を尽くしてくれさえする。シェル。

 鮮やかな彩り。


 僕は君のために生きたいんだ。






 終わってみたら色々荒いのとか分かりますね。でも気楽に書けました。


 またおまけの話を書くかも知れませんが一旦はここで完結します。


 最後までお付き合いくださった皆様、本当に有り難う御座いました。また自作をお楽しみに!




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