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クズ人間の俺が聖女と呼ばれている  作者: いかや☆きいろ
一章 クズ人間は聖女と呼ばれる
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大切な人(イル視点)

 今日も三話更新します。

 私はイル、犬獣人。犬とは違う。

 仲間のレコ、猫獣人。どこからどう見てもただの猫。

 もう一人、ユサ。兎獣人……のはず。肉食系。兎ではない何か。


 私たちの暮らす獣人の村はいくさに巻き込まれた。何処かの領地の兵隊に捕らえられ、私たちは奴隷として隣国へ売られる事になった。

 私たち獣人は頭が弱い訳ではない。この世界で奴隷が既に禁止されている事は知っている。しかし、闇取引は有るようだ。


 私は三人のリーダーとして、レコとユサを励ました。レコは反応が鈍く、ユサは不気味に笑っていた。怖い。ユサは多分「肉」しか考えてない。そんなユサでも現実は覆せない……。


 私たちは奴隷として売られるのだが、取引したい商人も貴族も少ない。当たり前だ。この星では奴隷を扱うな、と女神様が宣言されている。

 つまりそれを破ると宇宙の何億の星でも滅ぼせる神様を敵にまわすことになるのだ。まともな人間ならやるはずがない。


 だが私たちは奴隷として売られる。これは異常ではあるが、実際には幾らか奴隷は成立してしまってる。何故なら神様は世界に干渉する事を非常に嫌っているからだ。考えてみれば分かる。そもそもがこれは人間の犯罪で、それはすなわち犯罪を無くせない人間の責任なのだ。


 神様が干渉した世界はつまり、神様が思うさま描ける世界。それは不遇をかこつ人間なら楽しいが、神様なら楽しくはならない。何故なら、神様が絶対だからだ。そこには多くの人の意志が有るのに、神様が手を加えれば全ては平坦になってしまう。意思の存在意義は消え去り、神様の存在意義も無くなってしまうのだ。だから女神様たちは人の運命は人の物と昔の聖女様におっしゃられたのだ。


 神様は不幸だ。何一つ自分の思い通りにならない世界がない。それは世界がないのと同じ事。だから神様は地上に出来る限りは手出しをしない事を自ら誓約としているのだろう。


 だから私は不幸を受け入れる。神様にとって、何もない世界ではなく明らかに形の有る世界になっている、それは断言できるから。それに不幸があるのだから、何処かに幸せも有るはずだ。


 そんな風に悟ったように考えていた私は、ある日衝撃を受ける事になる。私を買い取った奴隷商が山賊に襲われたのだ。

 山賊たちは数が少なく奴隷商が持っていた私たちを縛る鍵を追いかけて全員が離れていく。


 そこに現れたのがシェルだ。私たちの大切な人、シェル。私が待っていた幸福だ。


 獣人には本来敬称を付ける風習がない。何故なら獣人は上下関係を常に鋭く意識して確認しているからだ。上下の差は本能で分かる。敬称を付けなくても敬う相手を間違えない。自分が下であることを決めたら揺るぎない。

 盲目的では有るが獣人はそう言う種族なのだ。上は上、下は下。本能の中でそこだけは私たちはほとんど逆らうことをしない。それが有意義と感じているからだ。


 彼は私たちを助けてくれた。奴隷から助けてくれた。まごうことなき、大切な人。

 レコにとっては暖かい寝床をくれる大切な人。ユサにとっては美味い餌を作ってくれる大切な人。私にとっては、居場所をくれる大切な人なのだ。


 そんな大切な人であるシェルは酷く自虐的だ。私たちに仕事を投げることを申し訳なく思っているらしい。丸投げはジャスティスとか言って誤魔化してはいるが。大切な人に尽くすのは私たちには喜びなのに。


 だけど彼はそんな私たちを対等に扱ってくれた。私たちの家族になってくれた。料理を作ってくれた。ただ肉を焼いただけのはずが、凄く美味しかった。私も犬獣人なので肉は好きなのだが、彼の作るそれは規格外だったと言って良い。


 まず、肉は食べやすいサイズに切り、串を刺した。火は弱くなるまで待っていた。場合によっては火に箸を差し込み火を弱らせた。

 彼は最後まで味付けをしなかった。味付けすると旨味はそれに引きずられて落ちるらしい。

 彼は最後に調味した。それは単純な塩と胡椒に過ぎなかったが、凄まじく味と香りを引き立てた。

 ただの兎肉が、確かに料理になっていたのだ!


 彼がある日、私たちが彼に救われた道の騒音を気にして、この私たちの棲家を抜けて確認をしてくると、行こうとした。

 その時私は、いや、私たち三人は電撃が走るように、彼が帰って来なくなる、そんな感覚を抱いた。

 必死に止めたが、それこそ今まで寝るしか能の無かったレコや肉しか興味のないユサさえ泣きわめいて止めたが、彼は私たちの危険を感じていたんだろう。それでも一人向かって行ったのだった。


 そして、帰って来なかった。


 彼の後に来たのは異常なまでに美しい男だった。ただそれだけ。

 あなたは大切な人と異常なまでに美しいだけの男とどちらが上だと思うだろう? 男だと言われたら間違いなく私は拒絶する。

 犬猫でも相手を選ぶ。ましてや私たちは獣人だ。何よりも大切な人が一番に決まっているのだ。


 だがそれを失った私たちには他にすがるものが無かった。その男に身繕いされ、だが生きる手段を提示されたので三人すぐにその道、冒険者へと進んだ。


 冒険者になったとは言っても私たちのやることは余り変わらなかった。魔物を捕まえて、焼いて、シェルのやり方で調理して、食う。美味い。もっと獲る。食う。……食い過ぎた。いつの間にか体も大きくなり、痩せていた頃の面影が無くなった。

 半年ほどで一つの森からほとんどのオークやオーガなどの魔物を駆逐していた。やり過ぎて変に目立ってしまう。


 魔物が体内に持つ魔石は冒険者ギルドに売っていたが、何度か試験を受けるように言われた。試験は魔物を狩ることだったのでいつもと変わらなかった。一年後にはBランクと呼ばれていた。大きな街で英雄と呼ばれる存在らしい。あんまり興味は無かった。


 血にまみれ肉を食らう私たちを嫌う人は多かった。シェルの「身嗜みには気を付けろ」と言う拘りの意味が分かった。少しは身綺麗にする。評価は僅かに変わった。人に声をかけられる事も多くなった。


 シェルの言う事はやはり大切だ。しかし、私たちは基本生きるのに必要なこと以外割とどうでもよく。三人でぶてっく? で、店員さんとあーでもないこーでもないとやる日々が続いた。シェルの意見が聞きたい。


 ある日、良く当たる占い師と言う人の存在を知り、私たちはいつの間にか貯まったお金を持って向かう。金貨にして八百枚だ。大金らしい。余り使わないのでどんどん貯まる。


 その占い師はオッドアイだった。獣人にとってのオッドアイは神に愛され遣わされた者であり、短命だ。神様が寂しがりすぐにその元に呼ばれるらしい。

 その女占い師が特別なのは直ぐに分かったが、言ってる事がどうにも受け入れがたかった。


 シェルは女として生まれ変わり、キンノと言う村で炊き出しをしている。


 そんな事を言われても流石に信じられなかったが、手掛かりもやることも特に無かったので私たちはキンノ村を探し、そしてあっさり辿り着いた。割と大きな伯爵領の隅っこの村だった。ちなみに占い師は金を受け取らず煙のように消えた。怖い。


 キンノの村では良い冒険者が集まっていた。村人も良い人ばかりだ。炊き出し会場は直ぐに見つかった。その料理はこの世界で味わった中でももっとも美味しい料理。そう、正にシェルの料理だった。

 何度か通った私たちを見つけて、いきなり名前を呼んできた女エルフはどこからどう見てもシェルではなかったが、本能で叫んでいた。


 シェル。私たちの大切な人を、私たち獣人が間違うはずが無かった。






 犬が人間だったらこんな感じかな、と書いたらちょっと怖い感じに。

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