狭い世界
決着ッッ!!
結局狭い世界でもがいてるだけなのに、自分は広い知識を持ってるなんて、人は考え勝ちだ。頭がいい馬鹿なんて言葉もある。ネリなんかいい見本だろう。
実は知らず知らずのうちに、人は自分の殻や世界を作ってしまう。その中の正義だけで生きてしまう。だから人付き合いは嫌でもしなきゃならないんだよね。自分を修正してくれる人は、苦痛でも必要だ。
みんなと一緒にいるのは大好きだけど。大切な人たち。私がバカやったら叱ってくれる優しい人たちだ。
誰も味方を持たず、研究室だけが世界で。ネリの性格はそうやって形成されて行ったのだろう。一人で考えて、何も受け入れる事が出来なくなったんだろう。スライム以外に誰も味方を作れなかったのは彼女の敗因だ。
私は生憎、敵を慮ってその悲しい悲しい歴史のお話を聞いて同情して手心を加えてやるタイプの人間じゃない。聖女である前にクズ人間だしね。でも、戦争じゃこのクズの考え方の方が正しかったりする。
相手に同情して、油断して、負けました。……そして被害を被るのは味方だ。ネリに負けたらサンテドールのみんなは、マヤやウトリやリナトのみんなは実験動物だろう。身内さえ実験動物扱いしてた奴だ。そんな奴に負けてたまるか。
なので完全に油断しきっているネリに、私は奇襲で奥の手を撃ち込む。
私の結界で包み込んであげる。
例の四魔石を連結した最強の結界をネリとスライムの肌に密着するように発生させる。結界の中は魔法で調整しない限り熱も酸素も通さないので蒸し焼き窒息状態だ。スライムも苦しんでるが、当然これで奥の手な訳がない。この上に、仕上げがある。
アタノールシューター、チャージ開始。
狭い世界で生きてきた奴を狭い世界に閉じ込め、魔法素粒子の炎で焼き上げる。地獄の一撃をその狭い世界で永劫に食らい続けるといい!
ネリが初めて焦った顔を見せる。チャージに数分かかるんだよ。その間怯えて待つといい。残念ながらこの結界は音を通さないから言い訳も泣き言も聞いてやれないよ。光も遮断しようとすればできる。泣いても無駄だ。全て、ここで終わらせる。
ドラゴンたちも何とかしようとするが隙を見せてルートたちに強烈な攻撃を食らっている。ここで戦争を終わらせる。
私が裁く。聖女だから? 違う。私がクズだからだ。勝てる時に勝つ。ネリを殺しても心は痛むだろうけれど、残念ながら私はクズ人間だ。身内を守れるなら、それでいい。
アタノールシューター、フルチャージ。これで終わりだ。
ネリは結界の中に更に結界を張った。スライムが全力でネリを守っているようだ。スライムにだけは好かれてるみたいだな。確かにそのスライムの力は驚異だった。
だが、これは結界でも防げるような代物じゃない。そのための四魔石連結結界だ。
食らえッ! 狭い世界の開闢!
『貴女も中二病治ってないじゃないの』
やかましい。神託それでいいの? ねぇそれでいいの?
いや、誰にも伝えたくないけどね。治ってませんよ。聖女でも不治の病だね。女神様の力でも聖女の薬でもマヤの湯でも、中二の病は治りません! 突然割り込んで来やがって。全く、締まらないな。ははっ!
ガツンガツンと結界と結界の間でアタノールシューターフルチャージのエネルギーが弾けている。まあ四魔石連結の結界を破りかねないエネルギーだけれど、ネリのスライムの結界はどの程度強いだろうか?
追加でアルケミガンも撃ち込んでやる。結界の限界までエネルギーを撃ち込んで圧力を高めていく。鬼畜な攻撃だと我ながら思うけど、勝つために用意してきたんだからね。結界魔石には魔王から勇者二人に三獣人たち、リカちゃん、私、この場にいるみんなで力を注ぐ。
オーブンで肉にじっくり長時間火を入れるように、私たちは全ての結果を見守っている。
目の前にいた生きてる人間を殺すのはやっぱり堪える。これが平気になったら人間終わりだし、自分が人間である証明なのかも知れないけど、こんなことで証明できても嬉しいはずもない。
どうしてネリは幸福に生きるチャンスを棒に振ったんだろう。ひょっとしたら私と研究者として腕を競っていたかも知れないのに。……今更か。
私は、悪党の言い分をゆっくり聞くほど出来た人間じゃない。テロリストの言い分を聞く主義は前々世から持ち合わせちゃいない。
一旦武力を手にしたら、そこに対話は無いんだ。だから、終わらせてやる。
やがて狭い世界に放り込まれたアタノールシューターの光は収まり、そこには、灰すら残っていなかった。ただ、高熱の岩石の蒸気が未だに光を洩らしている。
「終わったのかな、女神様」
つい聞いてしまったけれど、教えてはくれないよね。
生憎と地下に逃げるとかはできない。地下も結界が届く。なので今、綺麗な丸い球形のクレーターができてる。全部、溶けて、消えた。
結界を解除すると岩石蒸気が爆発するので一旦氷結指輪で熱量を下げないと駄目だった。ヤバすぎるよね、この技は。
私の最後の一撃で、ネリは完全にそのスライムと共に、蒸発した。皇帝とドラゴンもルートたちと魔王たちが倒してくれた。
後に残っていたのは、私の少しの寂しさと、みんなの勝利の雄叫びだけだった。
後二話で終わりです。おまけも二話有ります。




