邪骸王女
最終章、始まります。
グロテスクな表現がありますのでご注意下さい。
空から丸太、いや、豚、いやいや、樽が降ってきた。ワイン蔵に有りそうな樽だ、と思ったら人? 人ではないが何か知性のある存在らしいのが降ってきた。親方、空からおんなの……ワイン樽がーっ!
樽の隣には薄い顔をした細身の化け物がいる。両方とも全身を赤黒い疣に覆われていて気持ちが悪い。昔やってたゲームの魔物を思い出す姿だ。
樽は試合場の結界に当たって鼻血を撒き散らしながら墜落した。バカなの?
「お、おのれ、聖女の策略か……」
「おお、大丈夫かいルミラソ!」
いや、薄々分かっていたけどやっぱりクオトの王族の方々でしたか。どうしてホムンクルス化してるのかは知らないけど……ハイエナの巣に飛び込んだチワワか、はたまたライオンか。実はハイエナってライオンを追い散らしたりするけどね。
「聖女様はどちらにーっ! 私共は聖女様をお迎えに上がりましたー!」
「ほーっほっほっほっ! 聖女様がキルレオンに嫁がれたら私が聖女をしてあげますわっ! 安心して嫁いでくださいましっ! ブヒヒッ!」
バカなの? いや、バカだった。クオトの民が心配になってきたよ。二人のあとにぼとぼとと邪骸騎士らしき物が落ちてきた。鬱陶しいなあ。さっさと蹴散らして良いかな? 誰か動こうよ。
まああまりに現実感無いけどね。さっさと倒しちゃうか。ユサアルケミガンを乱射。あれ? 耐えた? かなり硬くなってるみたいだな。
出力あげますねー。さすがに砕けたか。
私もルートみたいに少し奥の手を隠すようになってしまった。弱いのに良くないよね。ルートは力を抑えないと町を破壊しかねないから仕方ないけど、私はね。私も町は破壊しかねないか。
「うわー、私の力が通じないわー」
超棒読みになっちゃったよ。早く出てこないかな、次の相手。とりあえず雑魚は狩っておこう。
何をしてるかって? 釣りですよ。大きな獲物を待ってます。出てこないならクオトの皆さん狩っちゃうだけです。いい加減私たちだってこのホムンクルスがどう言った存在かは分かっています。スライム体に魔力をドラゴン並みに持たせて身体強化したものを外から融合させ馴染ませた物だと。
異様に早いスピードで兵を増やせるのを不思議に思った人もいるはずだ。何千何万と言った人間をどうやってホムンクルスにしているのか。その種がスライム体による外部からの侵食。そのスライム体の品種改良の果てに邪骸兵の保有魔力を上げていってる。
魔物は魔力を高めることで進化するからあとは簡単だ。魔力の強い個体を食わせれば良い。例えばドラゴンを。
そしてスライムだからこそ融合できるし、その結果力を、魔力を単純に増してパワーアップする。そしてそんな存在だから特殊なスキルも持ちづらく、また私のアルケミガンを防ぐことも出来ない。結界でも張れるならまだもつと思うけどね。そもそもこのアルケミガンは魔力転換効率を重視した設計なので私の魔力なら休みなく一時間は撃てる。明らかに過剰な戦力だ。会場側にも結界を張って一部は守られている。守られていないところには鬼がいる。この国は修羅の国だからね。敵が来るのを分かってて対策してないはずがない。
そもそも誘い込んだのだ。帝国に喧嘩を売るために。
演技が棒になってしまうとは役者として不甲斐ないです。役者じゃないか。演劇会で主役しただけだしね。
でもほんと、早く出てこないとうっかりクオトの皆さん全滅させそうなんだよー。
「きいーっ! こちらも攻撃ですわーっ!」
おっと、魔法撃ってきた。光属性の攻撃みたいですね。結界に弾かれました。
「きゃー。結界が壊れちゃうー」
「シェル、あまりに棒読み過ぎますわ……」
「あう、リカちゃんに呆れられた~」
辛いので真面目にやろうかな。しかしどうしても茶番になっちゃうよね。
まあリカちゃんにかっこいいとこ見せようかな!
「立ち去るなら追いはしない。このままここで朽ちたければそうしろ!」
「急にキリッとしましたわね」
真面目にやったのにリカちゃんに笑われたよ。モテるのは難しいな。女の子何人か鼻血を出したり倒れたりしたけど。
「ぐぬぬぬぬっ、お父様、力が足りないわっ!」
「あ、ああ、そうみたいだねルミラソ」
「こうなったらパワーアップですわっ!」
「え、何を? ルミラソ……ぎゃああああああっぶひゃっ!?」
え、何が……。目の前で起こったことが信じられずその場にいた全員が固まった。自分の父親をルミラソは頭からかじった。……ホラーかよっ!
「他の騎士たちもいらっしゃーい! 私の力になるのよっ!」
「ぎゃああああああっ!」
「ぶげえええっ!」
「い、嫌だ、嫌だーっ!」
次々に邪骸騎士を襲って食らうルミラソに会場はドン引きだ。まあ避難誘導は済んで戦えない人は外に出たけど。ちなみに女王陛下はここにいます。この国の女王なので彼女も強いんだろうな。だってルートのお姉さんだし。魔力も私並みに持ってますよ。まあ彼女が戦うようでは戦争も負けなので戦わせませんけどね。
みんながルミラソの行動に泡を食っていると、やがて会場から邪骸騎士は一人も居なくなった。逃げたのもきっちりカナイやアンセルたち騎士団が駆逐したよ。
「ふううっ、我こそは真のホムンクルスの王女、邪骸王女ルミラソッ! 聖女シェル、さっさと敗北を認めなさあいッ! 私こそが聖女に相応しいのよっ!」
さすがに魔物は聖女になれないと思う。進化したルミラソは、えーと、磯のフジツボだらけの岩肌みたいな肌になった。ブクブクと太りすぎて手足が豚の脚のようになり、大きな腹は服を破り地を擦っている。女の子なのに全裸で恥ずかしくないのかなあ?
その姿は王女と言うより、やはり樽だろう。錬金術と言えば樽だよね。
シェル「親方、空から豚が!」
ヨドミちゃん「飛べる豚はただの豚じゃありませんわね」




