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クズ人間の俺が聖女と呼ばれている  作者: いかや☆きいろ
六章 生と死の炊き出し
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花火シューター

 花火回です。夏休み最後の辺りの涼しい夜ってなんかしんみりしますよね。

 さて、夜になったので私は浴衣に着替えた。浴衣の着付けは流石に知らなかったがラクサさんにこの間のマヤにて教わった。可愛い柄の浴衣で、ルエモお母様たちも着たがったのでサイズが合うか分からないが出してあげた。一応こういった事態も予想してラクサさんにお願いしてサイズを取り揃えてある。みんな可愛く浴衣姿になった。さあ、花火を始めよう!


 手に持つタイプの花火も何種類か火薬を配合したが、最初は威力調整が難しく手の中で爆発して欠損回復薬のお世話になる羽目に陥った。何度か手痛い、文字通り手痛い失敗を繰り返しているとプラムにため息を吐かれて、調整を半ば任せてようやく完成した代物だ。火薬の量が多かったんだね、単純に。色は金属粉を、マグネシウムらしき物質なんかを、何種類か試してみた。化学は得意分野だし。この世界の化学反応は魔法が混ざるけどね。なので出来上がった花火は……。


「火の精霊が楽しげに踊ってるね……」

「凄いわねシェルちゃん!」


 私は茫然となるがルエモお母様がはしゃいで可愛い。彼女は人妻です。小学校低学年にしか見えないけど。


「シェル~! こっちにもちょうだい!」

「はーい!」


 火の精霊を落ち着かせるための水入りバケツを持って駆けながらロコちゃんたちにも花火を渡す。

 この精霊式の花火だと火の精霊が守ってくれるので火傷もまずしない。

 最初から火の精霊が使えてたら良かったんだけどどうも私の魔力が火と親和性が高すぎて、主に燃料的な、食料的な意味だけど、暴走させてたみたいだ。元素的な小さい精霊には善悪が無いから欲求に従順になるんだね。

 高位精霊だと知性が有るからそうでも無いんだけど。プラムとかと同じレベルの火の精霊とか契約できたら色々出来そうだけど、森の聖女と火の精霊が相性良いと思えないし、焼き殺されそう。下位の知性の少ない精霊ならコントロール出来るんだけどね。むしろ好かれる感じだ。やっぱり燃料と言うか食事扱いされてる気がするけど。私の魔力が植物属性なのは間違いないね。森の聖女様ですしね。


 ルートの雷は私の木と相性良いんだろうか? 雷は良く木に落ちるけど。私にルートは一直線に落ちちゃったのかな? きゃーっ、きゃー!

 ……それなら嬉しいよね。

 良く分からない。私とルートは相性抜群なんだよね!

 ……うん、きっとそうなんだ。


「綺麗だね」

「うん、火はやっぱり見とれちゃうね」


 うん? これ私、低位の火の精霊にも負けたりするの? いやいや、確かに小さな火も大火事の元だけど!

 怖いな火の精霊、炎系の人には近付かないようにしよう。


 みんなにかき氷とか焼きそばとかイカ焼きを出してあげて食べながら花火大会を続ける。楽しいー!


「シェルー! こっちに花火追加して!」

「はーい、ロコちゃん!」


 じんわり花火を見詰める時間。炊き出しの蛍擬きもだけどゆったりと光を見詰めるのは本当に良いよね。人間も少し走光性が有るのかな? 虫はよってくるけど、カブトムシとかクワガタとか集めるのには便利だったよね。田舎限定だけど。


 ん、なんかレコとアンセルがいい感じになってる。レコが線香花火を焚いて、アンセルがそれに話しかけて。

 割とアンセルの方がオセオセに感じるな。……多分友達感覚なんだろうけど。


 やっぱり私はアンセルを疎外し続け過ぎたのかな。でももしアンセルが他の恋に目を向けられてるならそれで良かったのかも。自分の態度はクズだと思うけど、でも本当に気持ちが無いならきっちり振るのが当然なんだろうか?


 分からない。自分を守るためには人を傷付けることも正しいと日本の法律でもある。正当防衛だ。

 でも私の行為は正当防衛に当たるんだろうか。私は彼に殺された痛みと恐怖で彼を徹底的に拒絶したけれど、彼は山賊俺と聖女私が同一人物だとはっきりとは知らなかった。それは本当に正当防衛だったのだろうか?


 分からない。


 そもそもむさい山賊だった私が体とか外面を整えた、性別を変えただけで聖女と呼ばれている。それは本当に正しいことだったんだろうか。私の魂にはそんな資格有るんだろうか?


 クズ人間の俺が聖女と呼ばれている。


 本当にこれは、許される事だったのかな?

 …………今さら、なんだろうね。私が、この道を選んだんだから。女神様にも選ばれたんだから。


「シェル」

「あ、ルート……」

「なんか悩んでるけどさ、僕は君が好きだよ。それは答えにならない?」


 えと、どう言うことだろう。ルートたまに唐突に心を読んでくるから……。多分彼は私の悩みを的確には言い当てられない。それは当たり前のことだけど、でも。

 なんでだろ。彼の答えが正解な気がする。

 私の様々な罪は、彼が赦し、私の様々な傷は、彼が癒してくれる。好きだから。お互いがお互いを愛しているから。


 そっか。結局私は怖かっただけだ。斬り殺されたトラウマでアンセルを拒絶し、ルートに守られることを選んだ。弱い弱いクズ人間らしい選択だね…………。

 私は認知されたかったんだ、誰かに、私は正しいと。……クズ人間のくせに。


 苦しかったんだ。クズ人間の自分が。クズ人間だからこそ、違うと言って欲しかった。それは正にクズ人間の言い分だけどね。でも。

 だから。


 私は空に向け、スタンピードで使えなかった、私の無敵を証明するために使う予定だった新兵器を放つ。多連発式ユサ爆裂矢発射装置。前々世のマシンガンのような形と仕様の兵器、名付けてユサアルケミガン!

 この世界の魔法素粒子が産み出す虹色に輝く光が、空を、埋め尽くす! ドンドンと音を立てて光がまるで打ち上げ花火のように広がっていく!


 振り返って、私は告げる。


「ルート。…………愛してる」


 ここに集まったみんながユサアルケミガンの虹色の花火に表情を輝かせて注目する。ルートも少しして、愛してると言ってくれて…………。


 次の瞬間、みんながいるのに、ルートは、私にキスをしてくれた。






 最終回じゃないぞよ。

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