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【四日目 ~七月二五日~】

【四日目 ~七月二五日~】



「それでは、法組ほっそ市の事件は七月二十一日ではないのですね?」

 愛知県法組市で起こった事件の現場に向かうパトカーの中で、様助さますけ警部は、法組市警の米増よねます警部に尋ねた。

「ええ、虎児文武とらじふみたけが殺害されたのは、二十一日の一週間前の十四日です。死体が発見されたのは、二日後の十六日。十五日にアルバイトの建築現場に姿を現さなかった虎児文武が音信不通ということで、十六日にアルバイト先の会社の社員が、虎児のアパートを訪ねて死体が発見されたようです。

 本当にお恥ずかしい話、うちの所轄はあまり事件を重要視しなかった結果、一昨日初めて六倉町に連絡をして、昨日、警部と直接お会いするという次第になったのです」

「昨日の六倉の署長の話はなかなか強烈でしたね。しかし、お忙しいのに申し訳ない。法組の事件現場も拝見したいなどと無理をいいまして……」

「いえいえ、こちらとしては様助警部に捜査していただけるのは嬉しい限りです。正直、うちは全く事件の真相が分かりません。七年前に亡くなった少女の指紋が被害者の首にあるなどという途方もない話。正直、こちらから警部に依頼したいと思ったぐらいですので……」

「まあ捜査権限はありませんので、捜査はできませんが、現場を見て何か気づいたことをお話しするぐらいの協力はさせていただきます。……だよね、室西むろにし君」

「ですよね。だいたい警部ぐらいですよ! 六倉への突然の出張に引き続き、愛知への連続出張。朝、総務に電話した時に、担当のユミちゃんから十五分ぐらい小言と嫌味を言われましたよ。……なんか、旅費の計算諸々が面倒くさいとかなんとかかんとか……」

 パトカーの助手席に座っている室西警部補が後ろをふり向いて苦笑いした。


 それから五分後、虎児文武の亡くなった現場に到着した。

 むろんその現場には、死体はおろか、証拠品の類は既に何も残っていなかった。

「しかし、首に巻きついていた着物の切れ端は、合致しませんでしたね!」

 米増警部が現場に着くや、そう様助警部に話しかけた。

「柄は全く一緒だったので、同じところから切れたのかと思いましたが、どちらも片側はほつれていますが、もう片側はほつれていない。つまり、わざと別々のところから裂いたのでしょう……」

「偶然ではなく、意図的ということですか? 警部」

 様助の回答に室西が尋ねた。

「そうですね。指紋がはっきり残っているところから、着物の切れ端も、犯人が何かを我々に伝えようとしているのだと私は考えています。しかし、現場は四畳半のワンルームですか。調度品の数からいっても、細々とした暮らしぶりの感じですね」

「それが何か気になられますか?」

 米増警部の質問に、

「鮫島もそうでしたが、六倉町を離れたとはいえ、それぞれが名士の家の子供たちです。それが、揃いもそろってホームレス一歩手前のような生活をしています。もちろん、それは昨日の柳井元やないもと署長のお話と合致しますが……。

 六倉事件の容疑者だった三人、――鮫島敏夫さめじまとしお、虎児文武、鬼居塚吉郎おにいづかきちろうの三家は、全て没落して、彼らから連なる三親等までの家族は全て亡くなったという。それも六倉の亜麻里美紗子殺害から三年以内に……、財産を全て失った状態で。鮫島、虎児、鬼居塚の三家は壊滅したという表現が適当といった、署長の言葉は強烈でしたね」

「はい、亜麻里美紗子あまりみさこの呪いとして六倉町の町民が震えあがる一方で、少しは溜飲も下がったという複雑な感情を町民のみんなが一様に抱いていたという部分が、自分には署長の言葉で一番印象に残りました。しかし警部は何が引っかかるのですか?」

 室西が様助に尋ねた。

「それほどの呪いに対して、六倉事件の当事者の三人が生き残っている点です。まあ一つだけ仮説はあるのですが、仮説としては最悪なのですが……。

 それはそれとして一つ違和感がありまして……、その違和感は鮫島が殺害された現場で最初に感じたものだったのですが、それと同じものをこの現場でも感じて、さっきから気になっていましたが、今、ようやく分かりました」

「「何でしょう!」」

 室西、米増が同時に発した。

「この部屋、暗くありません?」

「確かに! ……しかしこのような古びたところは、皆こんな感じではありませんか?」

「室西君! イメージ的にはそうなのですが、……いやだからこそ、鮫島の現場で感じたこの同じ違和感に結局、二十二日には気付かなかったのですが……、よく考えたらおかしく思いません? 部屋に窓があって、それも東向きでカーテンがない窓で、今は朝方で今日は快晴。先ほどこの部屋に入る前に、夏の強い日差しを背中に感じましたよね」

「確かに、しかし、警部それはどういうことでしょうか?」

 今度は米増警部の言葉。しかし、その言葉は少し強ばって聞こえた。

「陽射しが部屋に入ってきていないということになります!」

「警部。さすがにそれは考えすぎです。この窓、黒ずんでいるではないですか。これ遮光用の窓ですよ。多分……」

「室西君! こんな安アパートで高価な遮光用ですか? 本当にそう思っています? 室西君は黒ずんでいると、この窓を表現しましたが、あの黒ずみは遮光用の窓の色ですか?

 遮光用の窓はもっと統一的な薄がかった色と私は認識していますが、あの窓、見れば見るほど複雑な文様に見えてきます。文様だけでなく、色合いも黒ずんでいるといいましたが、ある部分では赤黒かったり、またある部分では群青色に見えたり、それでいて凝視すればするほど、細部がぼやけて見える、これは私だけの目の錯覚ですか?」

 様助にここまで指摘されるまでもなく、既に他の二人も黒ずんでいる窓ガラスに目が釘付けになっていた。

「グッ!」

 大柄な室西が口の奥で一言吠えながら、窓にずかずかと近づき、窓ガラスを乱暴に開けた。

 その窓は鍵がかかっていなかったのか、室西の必要以上のパワーに高速で開いた窓は、大きな音をたてて窓枠にぶつかり、その反動で四分の一ほど戻ってきた。

 窓から朝日がはっきり見えるのに、陽射しは部屋に全く入ってこないのであった。

 呆然と立ちすくむ室西の横に、様助が近寄り、窓から右手を伸ばした。窓の枠から外側に伸ばした様助のその手に、朝日の強い陽射しが容赦なく浴びせられた。

「室西君! 六倉に戻りましょう! 話を聞かなければいけません!!」

「しかし六倉の署長からは十分話は聞いたのでは……」

「柳井元署長からではありません! 被害者、亜麻里美紗子の親族からです。亜麻里家の女当主、亜麻里ふゆ刀自とじの元を訪れましょう!」

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