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バカみたいでしょ?

作者: 結城あかつき

 信じていたなんて嘘ばっかり。

 いつだって、アイツのことなんて信じてなかった。知っていて、見ないふりして、騙される振りして、勝手に傷付いて―――。

 それでいいなんて強がっていた。

 泣いてなんかやりたくなかった。

 最初から勝手に踊らされていただけなんだから。

 だけど、どこかでバカみたいに望んでいた。いつかきっと私を見てくれるって。

 他の誰でもない――私だけを見てくれるって。

 あぁ―――本当にバカみたいだ。

 望みなんて、希望なんて、全部捨てきってしまえばよかったのに。

 身の程知らず………。



「美帆、どうしたの?ボーっとして」

「え?……ごめん、ちょっと昔のこと思い出してた」

「こんな時にしっかりしてよ。今日はあんたの結婚式なのに」

「………そうだね、ごめん」

「たっく。――本当に、これでよかったの?」

「なにが?」

「あんた、彼にだいぶ酷くされてたでしょ?」

 びっくりした。気づいていたんだ。

「一時は本当に荒れまくってたし、止めてたタバコも吸いだすし…心配したんだよ」

「ごめん」

「それが急に落ち着いたと思ったら“妊娠した”だもん。しかもひとりで育てるとか言うし。どれだけ気が気じゃなかったか」

 うん。わかってる。あの時、本気で私の心配をしてくれたのは千夏だけだった。

 周りには白い目向けられるし、親には泣いて怒られるし、女の子たちには蔑まれたっけ。

「…それが今度は急に結婚だもん」

 うん。自分でも、とことんバカだって思ってる。

 あの後、すぐにアイツに妊娠のことがバレた。きっと、取り巻きか、浮気相手の子から聞いたんだと思う。血相変えたアイツがマンションに飛び込んで来た時は私の方が驚いた。両手じゃ抱えきれない薔薇の花束抱えて。一瞬、何処のホストだ!!って思った。

しかも、飛び込んできて一言目が『別れないからな!!』とか、意味不明過ぎた。とっくに別れているつもりだったし。

 その後はあの俺様が泣きながら土下座して来るし、お腹の子の父親になりたいとか意味わかんないこと言いだすし、カオスだった。

「本当に、あんな奴でよかったの?」

「………バカみたいでしょう?あんな奴じゃなきゃダメだったの。―――浮気はするし、俺様だし、我が儘だし、自己中だし、私のこと家政婦ぐらいにしか思ってなかったクズなのに何故か………アイツじゃないとダメだって思っちゃたんだ」

 本当に、馬鹿だと思う。

 あれだけ好きになったことを後悔したのに、結局、嫌いになれなかった。憎み切れなかった。

―――トントン

「はーい。どうぞ」

「「ママ―」」

「将斗、優斗。ばっちり決まってるね~。かっこいいよ~」

 足元に駆けよって来た可愛い私の息子たち。

「ママきれー」

「ママかわいいー」

「ありがとう、ふたりとも。2人できたの?」

「「ううん。おじちゃんが連れて来てくれたー」」

「おじちゃんじゃなくて、パパだろ!!」

 少し空いた扉の方から声が聞こえる。だけど、姿は見えない。

「何やってるの?来ればいいのに」

「ダメだ!結婚前の花嫁を見たら離婚するって言うじゃないか。俺がここまで来るのにどれだけかかったと思ってる。もう待てないからな!」

「おじちゃんカッコ悪―」

「おじちゃんのへたれー」

「だからおじちゃんじゃない!」

「いいからおいでよ。そんなの迷信じゃん」

 少しして隙間から入って来たのは白いタキシードを着こなしたアイツ。背が高いからなのか良く似合っている。

「…………何か感想はないの?」

 ずっと黙ったままとか花嫁に失礼じゃない?

「…すごく、綺麗だ」

「ありがとう。淳も良く似合ってるよ」

 本当、ここまで来るのにすごく時間がかかった。

 最初、私は淳を突き放した。せめて認知だけでもって食い下がって来た淳に根負けして認知だけはしてもらったけど、結局籍は入れず、優斗と将斗はひとりで育ててきた。

 その間も、暇さえあれば淳は我が家にやってきた。2人には父親だとは教えなかった。だけど、小さいながらにわかっていたんだと思う。父の日には、ふたりが私に内緒で淳に似顔絵を渡していたのには気づいていた。それを淳が大切にしていたのも。だって、淳の待ち受けが未だにその絵なのだ。気づかない方が難しい。

 2人を産んで5年。再び、決心するのに時間がかかり過ぎてしまった。

 足元にしがみつく2人に視線を合わせる。

「2人とも、パパにも言うことがあるんじゃないかな?」

 初めて、ふたりに対して淳を“パパ”だと呼ぶ。

 2人は急にもじもじしだした。あぁ、可愛いな~私の息子たち。

「「………ママのこと幸せにしないとパパでも許さないから!!」」

「将斗…優斗……今、パパって!!」

 嬉しそうに淳が2人を抱き上げる。ギュッと淳に抱きつく2人は照れているようだ。そうだね、いままで甘えさせてあげられなかったからなあ…。

「――美帆」

「うん」

「今、幸せ?」

「うん。とっても、幸せだよ」

 可愛い息子たちと旦那様。確かに、辛い時もあったけど、後悔だって沢山したけど、この気持ちに嘘はない。



END


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