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盾士と巫女

 お待たせしました。

 ヒロイン登場回で、

 ここからが本編です。

 



 どうしてこうなった?


 今、俺がいるのはこの街で1番酒が美味しいと評判の居酒屋だった。

 そして、テーブルの上には最後の晩餐には丁度いい旨そうな料理と酒が並んでいる。


 ここまではいい。


 だが、何故、そのテーブルの向こう。

 俺の正面の席に一人の女性が座っているのか。

 歳は俺と同じ位か、若干下。

 整った顔立ちに黒髪をロングで流した少女は、街を歩けば10人中8人の男が振り返るであろう美少女。

 だが、彼女の最大の特徴はその衣服だ。

 白色の絹の衣に赤色の袴は巫女の伝統的な装いである。

 時代遅れとされた巫女が何故目の前にいて、俺を睨んでいるのか。


「ねぇ、私の言葉、ちゃんと聞いていますか?」


 苛立ちを隠そうともしないキツメの口調だが、聞いていて飽きさせないその声。


「ああ、ちゃんと聞いてるよ」


 俺はどこか気まずく、視線を少女から外そうとするが、興味本位でこちらに注目している客の顔が目に入り、俺は彼女へと視線を戻す。


「なら、さっきの質問に答えて。

 私を魔王討伐に加えてくれるかどうか」


 本当なんでこうなったんだろう?


 ※


 時は1時間程遡る。


 俺は街で用事を済ませていた。

 用事と言ってもそんな時間がかかるものではなかった。

 なんせ家族への文と、村に帰った時に頑として受け取ってくれなかった俺が稼いだ金を送るだけなのだからだ。

 愛情を一杯注いでくれた。

 なのに、俺はその親より先に死ぬかもしれないのだ。

 こんな親不幸な俺の最後の意地だったとも言える。

 郵送局にちょっと多めのチップと、恥ずかしながらも『絶対防御』の二つ名まで出した。

 これで確実に俺の家族の元へ届けてくれるだろう。

 心残りが1つ減った俺は郵送局から出て、


 そして、いきなり後ろから肩を掴まれたのだ。


 驚き振り返ると、そこには巫女装束の彼女がいた。


『ねぇ、貴方。『絶対防御』のシルト=デアで間違いないの?』


『あ、あぁ』


『今回の魔王討伐を命じられた?』


『そうだが、それがどうした?』


 俺は彼女の質問をしどろもどろに答えつつ、現状を急いで確認する。

 目の前には巫女装束の少女の姿。

 そして、そんな俺達を立ち止まり注目していた街通りを行きかう人々と郵送局にいた人々。

 そこで、俺は先ほど『絶対防御』の二つ名を人前で出した事が原因だと気づいた。

 彼女が俺が『絶対防御』のシルト=デアと気づいたのも、元から人々がこちらを注目していたのもそのせい。

 現状を認識し、若干平常心を取り戻すと、彼女はその口元をわずかに綻ばせていた。


『そう。

 貴方達の事をずっと待ってた』

 

『待ってた?』


『ええ、私を巫女の枠として、貴方達の魔王討伐に加えて欲しい』


『ちょっ、おい!』


 彼女の爆弾発言に取り戻しかけていた平常心が綺麗さっぱり吹き飛んだ。

 注目されている中でのこの発言はどう転ぼうが騒ぎになる。

 普段、口酸っぱくヘルトに『目立つな。自分の立場を考えろ。迷惑をかけるな』と言っていた俺が騒ぎを起こすのはあり得ない。

 俺はとっさに肩を掴んでいた彼女の手を引き、その場を後にした。

 その後は、用事を済ませる前に目をつけていた居酒屋に入り、『酒が出て来るまで待て』『料理が出て来るまで落ち着いてまてないのか?』とノラリクラリ後回しにし続け、そして、冒頭に戻る。


 ……現実逃避なんて、してないぞ?


 ※


「ふぅ」


 俺は酒を一杯引っ掛け、ため息をつく。

 彼女はと言うと、そんな俺から視線を動かさず先ほどの答えを待っている。

 真摯な問いには真摯に答えないとな。

 いい加減、俺は彼女に向き合う覚悟を決めた。


「なあ、討伐に加える云々の前に色々訊いておきたい」


「どうぞ」


 やっと話が進むと思った彼女は苛立ちを若干潜めて、俺の問いを返す。


「では、訊こう。

 なんで魔王討伐に加わりたいんだ?」


「魔王をこの手で殺すため」


「魔王を殺すため……か。

 それがどんな無謀な事かわかってるのか?

 この400年、魔王を殺す所か生きて帰ってきた者すらいないんだぞ?」


「そんな事は身をもって知ってる」


「身をもって知ってる?

 なら、なんでそんなただの生贄に自ら進んで行くんだ?」


「それはさっきの答えと同じ。

 魔王をこの手で殺すため。

 魔王を殺せるなら、復讐を達成出来るならば、この命と刺し違えてもいい」


「復讐……だと?」


「ええ、復讐。

 母は魔王に殺された。

 私がしたいのはその復讐で、それが私の存在意義」


 彼女の答えに俺は詰まった。

 魔王が魔王討伐以外で人を殺したのは400年も前の盟約が出来る前。

 10年サイクルで魔王討伐隊を組まれる限り、例外はなく、盟約は守られていた。

 という事は、つまり……


「失礼。

 君の名前と母親の名前は何ていう?」


「……そう言えば、まだ名乗ってなかった」


 魔王討伐に加われるなら、魔王を殺せるならそれ以外はどうでもよかったのか、彼女はコテンと首を傾げた。


「私の名前はカグラ シズク。

 母の名前はカグラ イサよ」


「っ!」


 彼女の言葉に今日1番の衝撃を受けた。

 カグラの性、名前が後に来る名乗り方は彼女が代々魔王討伐の巫女の枠を輩出してきた巫女の総本家であることの証だ。


「数々の無礼な発言、失礼致しました。

 巫女だということは拝謁して気付いておりましたが、まさかカグラ家の方だとは露にも存じませんでした。

 どうか、ご無礼を許して頂きたく申し上げます」


 巫女の総本家ともなれば、その地位はちょっとした貴族を超越する。

 巫女の根幹が揺らぎ、巫女になろうとする者が激減しようがカグラ家の今までの功績がなくなるわけではない。

 それに冠婚葬祭といった神事の際には、今なお巫女が活躍しているのも現実だ。 

 口調を改め謝罪すると、彼女は首を小さく横に振った。


「いい、気にしてない」


「ですが、」


「それと、口調をさっきのに戻して。

 取り繕ってる感じが気持ち悪い」


 彼女の歯に衣着せぬ物言いに俺は呆気に取られ、次いで何だかおかしくなってきた。


「ああ、わかったよ」


「うん、それがいい。

 貴方の本心が出てるようで心地良い」


「心地良いって、おい」


「? なにか可笑しな事言った?」


「いや、もうどうでもいいや」


「そう。

 なら、最初の質問。

 私を魔王討伐に加えてくれる?」


「いや、まだ訊いておきたい事がある」


「何?」


「『詠唱魔法は時代遅れ。実践では何ら役に立たない』

 この今の常識をどう思う?」


 もし彼女が魔王討伐に加わったとして、真っ先にヘルトと衝突する部分だ。

  

「別に」


「別にって……」


「他人の評価とか常識とか気にしてない。

 そんなのに目くじらを立てる程でもない。

 ただ、それでも私が詠唱魔法を使うのは、私が巫女であり、それが1番魔王を殺せる可能性が高いから」


「1番魔王を殺せる可能性が高い?」


「ええ。

 だって、今の魔法のスタイルには致命的な欠陥があるもの」


「欠陥だと?」


「うん」


 彼女の迷いのない肯定に俺は訝しむ。

 今までヘルトから教わった方法に特に問題はなかったのは体感している。

 欠陥など感じた事はなかった。


「それはーー」


 一体何だ? と深く訊こうとした時、


 キュゥウーーー


 と、可愛い音が聞こえた。

 ポカンとして彼女を見ると、あまり感情を表に出さない彼女の顔がみるみる朱に染まっていく。


「失礼だが、お腹空いてるのか?」


「女性にそんな事聞くなんて本当に失礼。

 ……そう言えば、ここ1週間近くろくにご飯を食べてなかった」


「1週間も?」


「ええ。

 貴方達がこの街を訪れるのは魔王討伐のお触れの時から分かっていた。

 だから、貴方達が来る頃を見計らって探知魔法を発動し続けてたから、ご飯まで気が回らなかった

 失敗した」


 困った時の彼女の癖なのか、また彼女は首をコテンと傾げた。


「食べていいんだぞ?」


「貴方の答えを聞くまで食べられない」


 そう彼女は主張するが、彼女の視線は目の前の料理と俺を行ったりきたりしている。

 どうやら集中が一旦途切れてしまい、気になって仕方ないらしい。


「わかったよ。

 明日、朝集合したときに俺からヘルトとセリーナ王女殿下に紹介して、推薦しよう。

 魔王討伐に加われるかは2人の意向を聞いてからだ。

 それでいいか?」


「うん、十分」


「よし、ならさっさ「いただきます」と食え……って、早いな、おい」


 よほど我慢出来なくなっていたのか、彼女は俺の言葉の途中でいただきますをし、黙々と食べ始めた。

 まるで小動物のような食べっぷりを片目に、俺も食事に手を付け酒を煽った。



 いつもより酒が進んだのは、きっとこの店の酒が評判通りに美味しかったからだろう。

 

 本日の更新はここまでになります。

 続きは明日投稿予定です。

 完結したら、細かい所を加筆修正するかもしれませんが、ご了承お願いします。

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