3人の旅路
人物紹介
シルト=デア:主人公、盾士、二つ名は『絶対防御』←恥ずかしいから止めろ
ヘルト=アマデウス:幼馴染み、異世界転生テンプレ勇者、二つ名は『無双剣士』←ドヤァ
セリーナ=ライヒ=アーデルハイト:第3王女、賢者、二つ名は『天真魔姫』←ヘルト様さえいれば何でもいいです
はあ、鬱だ。
何で、こうなってしまったのか。
「おい、辛気臭い顔してんじゃねえよ、シル。
俺の伝説がまた1つ増える事になるこの旅に不満でもあんのかよ?」
不満ありまくりだよ、むしろ、不満しかねぇよ馬鹿。
「そうですよ、シルト君。あんなに故郷の方も泣いて喜んでくれてたじゃないですか。
もっと、胸を張って意気揚々と行きましょうよ」
あんたのその目は節穴で、どんだけ脳内お花畑なんだよ?
あれのどこに喜びの要素があったんだよ?
死にに行く息子を号泣して悲しんでいた俺の家族の姿に。
あっ、ヤバい。
思い返せば、また泣きたくなってきた。
俺は、グッと涙を堪え2人に返す言葉を考える。
「ヘルト、まず言っておくが、この400年間誰も成し遂げれなかった魔王討伐だ。
自信満々なのは悪くはないが、もう少し警戒してくれ。
それと、セリーナ王女殿下もお言葉ですが、もう少し気を引き締めて頂きたい。
本日、お寄りする街が魔王領地に入る前の最後の街です。
これを過ぎれば、魔物次第ですが、約1ヶ月で魔王城にて魔王と戦う事になるんですよ?」
「あぁ、はいはい。わかった、わかった」
「全く、シルト君は心配症なんですね」
俺の忠言を軽く聞き流す2人に俺はまた頭が痛くなる。
大体何で、3人しかいないんだよ。
普通はこれに巫女が加わり4人だろうが。
心の中で不満を垂れるが、頭では分かっていた。
ヘルトとセリーナ王女殿下、この2人のせいだ。
まずは、ヘルト。
これはヘルトの詠唱魔法は古いという考えが広まってしまったせいだ。
魔法を発動させる上で、詠唱は必要ではない。
こうなってしまってからというものの巫女になろうとするものが激減した。
というのも、そもそも巫女は神に仕える者であり、巫女の詠唱は神への祝詞。
祝詞を捧げる事によって神の力=魔法を発動するのが肝だったからだ。
詠唱である祝詞が必要ないというのは巫女という制度の根幹を揺るがす事に他ならなかった。
そして、セリーナ王女殿下。
これは単純に嫉妬である。
『天真魔姫』セリーナ=ライヒ=アーデルハイト。
通り名を聞けば、王族のみに許されるライヒの名前と二つ名持ちに目が行くだろう。
だが、学院時代を過ごした者にとってはそこは重要ではない。
なんせ、このセリーナ王女殿下こそが第三王女手篭め事件の張本人だからだ。
当時、被害者であったはずのセリーナ王女は事件後、あり得ない事に加害者であるヘルトにべた惚れしたのだ。
どれだけべた惚れしたかというと、当時の婚約者である国内で最も有力であった公爵家の子息との婚約を破棄し、勝手にヘルトと婚約を結び直した程だ。
余談だが、男の矜恃、王女がなんらかの魔法をかけられているのではないかと疑った公爵家跡取りがヘルトに決闘を申し込んだ結果が、公爵家跡取りボコボコ全治3ヶ月事件の顛末である。
話がそれた。
まあ、それだけヘルトにべた惚れしたセリーナ王女が、巫女であろうが他の女性を旅に同行させることを認めるはずもなく。
国王である父親にゴリ押しした結果が今回の異例の3人による討伐隊となった。
どうせなら俺も外して欲しかったが、結果的にそうならなかったので、世の中はままならないものである。
閑話休題。
特に問題なく歩き続け、街に着いたのは空が茜色に染まり始めた夕方の事だった。
街に着いた俺達は宿と翌日の出発時間だけ決めて、すぐさま別行動をすることにした。
これからは1ヶ月以上の長丁場となり、その間の物資の補給をしたいと俺が言ったからだ。
幸い、国宝級であるアイテムボックスを賜っていたから、持ち運びには不自由はしない。
そして、そのアイテムボックスには十分過ぎる程の援助物資が入っていた。
俺が別行動を言い出したのは、単に一人の時間を過ごしたかったからだ。
この気持ち、分かってくれる人は分かってくれると思う。
それに、今頃あの2人は宿でニャンニャンしている頃だろう。
そんな宿に俺は戻るつもりもなく、用事を済ましたら適当な酒場で朝まで一人で酒盛りをやり過ごすつもりだった。
そう、そのつもりだったのだ。