魔王とお伽話
魔王に転生とか、
魔王の正義と言ったテンプレに逆らう魔王が書いてみたかった。
魔王は本来こういう在り方でいいと思っております。
お伽話の元となった魔王が現れたのは今より400年以上も遡る。
王国に出現した魔王は無差別に町や村を襲い、討伐しようとした国軍を壊滅状態にさせた。
当時、最前線に出ていた第1王子は瀕死になりながらも魔王に問いつめた。
『何故、このような悪逆非道を犯すのか!?』
と。
その第1王子の問いに魔王は首を傾げたという。
『悪逆非道? なんだ、それは?
我のしているのはただの最強の証明だ。
誰よりも強くなりたい。
それは生物ならば誰もがもつ感情だろう?
では、どうすれば最強になれる?
1番強いと称される者を倒せば最強か?
いや、そんなわけはない。
現に、我が戦った中では森の奥深くに誰にも知られず眠っていた古龍が1番強かった。
では、どうすればいい?
簡単だ。
ひとしく、皆殺しにすればいい。
強き、隠れている者をあぶり出せばいい。
そうして、数多くの屍の上に残っていた者こそが最強だ』
魔王の言葉に第1王子は呆然とした。
『……馬鹿げている』
『馬鹿げている、か?
最強を目指さない、この考えを理解できないから、貴様らは弱いのだ』
話は終わりだと魔王が最大級の魔法を発動させようとし、
『ま、待て!』
と、第1王子は叫んだ。
『命乞いは見苦しいぞ?』
『違う!
いや、違わないが!
まだ訊きたい事がある!』
『何だ?』
『貴様は最強を証明したい!
故に、皆殺しにする!
そう言いたいのだろう!』
『要約すればそうだ』
『なるほど!
だが、その考えは臆病者の考え方だ!』
『なんだと?』
魔王はそこで初めて怒気を見せた。
その怒気に充てられた生き残った国軍の兵士は皆気絶していったが、第1王子は止まらない。
『だって、そうだろう!
我々、人間は進化する生き物だ!
昔よりも今、今より未来を強く生きようとしてきた生き物だ!
そう、我々の武器は無限の可能性だ!
魔王、貴様はその無限の可能性を摘み取ろうとしている!
つまりは、今後現れるだろう貴様より強い者が怖いからこそ、本能で皆殺しにしたいだけだ!』
『違う!』
『違わない!』
『ならば、貴様はどうやって我に最強を証明させてくれるか答えよ!』
『……では、こうしよう。
我はこの後、この国に住む全ての者が貴様に挑むような物語りを作ろう。
それこそ、子供の頃から英雄に憧れるようなお伽話をだ』
『ほう』
『これで、力ある者は隠れはしない。
力ある者こそ貴様の理論なら舞台に現れるからだ』
『なるほど、それだけか?』
『では、期限を設けよう。
世代交代が起きる10年をサイクルとし、魔王に挑む勇気がありその時代で最強とされる者達を4人選ぼう。
人数は多すぎては可能性を摘み取るだけだし、これ以上は選任出来ない』
『ふむ、面白い』
『ならば、ここは一旦矛を引け、魔王。
そして、お前に土地をくれてやる。
お前が滅ぼしたこの国の最北端の辺境の領土だ。
どうせお前の強力な魔力に充てられ汚染された、今後人の住めない土地だ。
そこに城でも何でも築き、最強の名を証明し続けてくれる勇者を待て』
『了解した。
だが、分かってるな?
その盟約に背いた時は貴様の言は偽りとなり、いつでも我は貴様らを皆殺しにして最強を証明するぞ』
『無論だ。
我が王族の«ライヒ»の名にかけて誓おう』
これが歴史の1ページ。
当時の5,000万人もの国民を救った第1王子の苦渋の決断。
その後、10年毎に4人の生贄を捧げ続ける事になった魔王討伐制度の起源であった。
……全く、やってられっか。