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第9話 朱色

 こいつらの体は赤い。


 初めて至近距離で見たけれど、遠くから見たときと同じ感想を抱いた。

 付け加えるとするならば、その赤さは出血しているわけでも、皮膚が剥がれているわけでもなかった。

 ただ全身の血管が拡張しているような、そんな様子。

 ここまで赤いのは見たことがないけれど、一気に日焼けしたり、お風呂でのぼせたりするときに似ている。

 目も充血し、焦点はどこにも合っていないようだ。

 これが人だった時は下半身を食われたのだろうか、首元には噛まれた傷跡が無かった。


 噛まれてからどのくらい時間が経てばこうなるのかはわからない。

 俺が見たのは、こんな赤いゾンビが人に噛み付き、絶命させ、血を全身から霧のように噴き出して倒れるところまでだ。

 そのあとにまた起き上がって、噛まれた奴も同じように赤くなり、歩きだすのだろうか。


 どうして人を襲うのかもわからない。

 生きる為のなのか、殺すためなのか、仲間を増やすためなのか。

 俺が知る由もない。


 知る意味もない?


「音に反応してるわけでもなさそうだしー、目は見えてなさそうだけど……うわっと、またか」


「たまに反応するのはなんなんでしょうね? 嗅覚とか?」


「検証しようがないねー。案外、見えて聴こえてるけど、疲れてて無視してるだけだったりして」


 アカリたちはドブに落ちて動けなくなっている目の前のゾンビに、少しだけ実験をしていた。

 門を開けたらすぐに頭をかち割ろうとしたけれど、道幅五メートルもない道路の向こう側にいるのに、ゾンビはこっちを振り向こうともしなかったのだ。

 こんな近くで門を開く音を立てたらゾンビものの映画ならその場でジタバタしててもおかしくないと思って臨んだので拍子抜けだった。


「痛覚とかはあるのかなー?」


「やめろよ……いきなり喚き散らして他のが集まってくるようなトラップじみた性質があるかもしれないぞ」


「道徳的にやめてほしいんじゃないんですね」


「めぐり先生、それは言っちゃダメじゃない? 先輩がゾンビ倒すの躊躇したらどうするのさ。先生も死んじゃうよ?」


 アカリが俺を庇うようなこと言うなんて思わなかった。

 同時に、躊躇したら他人が死ぬぞと脅されたようだ。

 そんなことしなくてもやってやるよ

 先生は申し訳なさそうに謝ってくれた。


「そうだよね。守藤くんは私たちを守ろうとしてくれてるんだよね、罪悪感から」


「私は自分でできるもんねー」


「……それじゃあ、そろそろ」


 反応の薄いゾンビへゆっくりと、手が届かない距離感を保つように心掛けながら近付く。

 俺は屋敷の玄関に置いてあった片手で持てるサイズのくわを握る。

 新しいものなので展示用ではなく庭の手入れなどで使っていたのだろう。

 鍬の金属部は小さいスコップのような形。

 先が微妙に尖がっているので刺さり易いと思う。頭蓋骨に。


「やっぱり頭を割って脳を破壊する感じ?」


「もしくは首チョンパじゃない?」


「うへぇ……そんなことできるの……?」


 思いっきり振ればできる……と思う。


「一気にいくぞ、二人とも離れて」


「返り血で感染とかやめてよね」


「ああ……」


 そういえばそうだった。

 この赤いのが全部血だとしたら、結構な勢いで飛び散りそうだ。


「やめておきますか?」


「ど、どうしよっかアカリ」


「先輩がやるって言ったんでしょ」


 自分のおもちゃを没収されて拗ねてる子どもみたいだ。見た目は子どもっぽいけどさ。


「さ、さっきこの鍬があった物置にゴム手袋ありませんでしたっけ?」


「そうだ、それだ。手袋装着して真横から一撃入れます」


「早くしてねー」


 全力ダッシュでゴム手袋を取ってきた。

 アカリはもう飽きてきているのか、ゾンビに興味を失ったみたいに道路の端で座っている。

 先生は目が泳いで、ゾンビを見ては逸らすを繰り返していた。

 嫌なら見なければいいのに。

 まあ、現実から目を背け続けるより妥当なのか。


「それじゃあ改めまして」


「横から手前に捻るようにすればそんなに血は飛んでこないんじゃない?」


「が、頑張ってね」


 アカリに言われた通り、頭の横奥に狙いを定めてみる。

 できるだけ顔に返り血がかからないよう、左腕で覆う。


「いきます」



 結果、ゾンビは頭に詰まったものを飛び散らせ、体から力が抜け動かなくなった。

 血は結構な量が飛び散り、右半身にベットリとした感触を、制服越しでも感じることができるくらい貰った。

 鍬は持ち手の木がポックリ逝ってしまったので持ってきていない。


「先輩……もうちょっと穏便に済ませられる方法探そうね」


「今後の課題だな……」


「音、骨の、あぁぅうっぷ……」


「なんでリピートしちゃうんですか。切り替えてください先生」


「ごめんなさい、先生も頑張るから。でもあなたたちは切り替えが早すぎると思うのだけど」


「アカリは狩りとか大丈夫だから」


「なんつう女子高生だ」


「先輩も平気そうで安心したよー」


「まあな……」


 自分でもビックリするほど、意外とすぐに立ち直れたな。

 血はすでに乾いてきている。

 ゾンビを初討伐し、すぐに移動を初めてもう十分くらい。

 まだ遠くのほうでけたたましいサイレンの音が聞こえてくる。

 人はまだ見当たらない。

 ゾンビも同様だ。

 このまま周囲の警戒を続けながら、俺の家へ向かう。


「血、乾くの早いね」

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