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第8話 決意

 屋敷から出て俺の家に行くことが決定したのはいい。

 これからこの門を開け、やく三十分の道のりを警戒しながら進むのはいい。

 しかし、これはどうしようか。


 門を出たところに赤いのが、赤いゾンビっぽい奴が一匹。

 ドブに落ちて、上半身だけコンクリートの上に投げ出している。


「なんだあれ、間抜けすぎないか」


「目が見えてないんかなー?」


「死んでるんでしょうか」


 俺たちが外へ出るにあたって、周囲の安全確認をした。

 屋敷の中からタンスを持ってきて塀の向こう側を覗いたのだ。

 そしたら目の前にそんな元気のないゾンビが。いや一回死んでるんだろうけど。

 今までで一番距離が近い。


「ちょっと観察してかない?」


 アカリが恐ろしいことを言い出した。

 先生はあのゾンビの充血したような色が苦手なのか嫌そうな顔をしている。


「観察してる間にゾンビに囲まれてたら嫌だろ」


「今さらじゃないの? もうここまで来てるってことなんだし」


「それはそうだけど……」


 先生が超絶拒否反応を起こしている。

 まだ壁一枚挟んで向こう側にいるのに、目をつぶって門にイヤイヤと両手を突き出している。


「先生だって具合悪そうだし、さっさと家に行こうぜ」


「お願い! どのくらいで死ぬのかだけでいいから!」


「時間はとれないぞ」


「一発! 一発で終わるから!」


 手を合わせて懇願してくるアカリ。

 その手の中からは俺が渡した工具の大部分がはみ出ている。

 電気工事で使うウォーターポンププライヤー、持ち手の部分がゴムだから強く握っても痛くないし、柄が長く、握ったときに力が入りやすい形をしているので持ちやすい。

 一番小柄なアカリでも、そのナットをガッチリと加え込む金属部で頭を強打すれば、人なら一発で殺せるだろう。

 頭が陥没してしまうと思う。

 それでも。


「あのゾンビが這い出てこない確証はないだろ。俺たちに気づいた途端、活発になって襲ってくるかもしれないんだぞ」


「それなら別に一発殴れるからいいんだけど」


「危険な状況で殴るか安全な状態で殴るかってことか」


 どっちにしろここで一体、もしくは一人、潰す、殺す。

 アカリが。こんな華奢な女の子が。

 それがこれからの為、経験として身に覚えさせる為、生き残る為には必要なのかもしれない。

 俺たちは、こうなった奴らが人を食うのを見た。

 次は自分かもしれない。

 そう考えたら対処法を知りたくもなるだろう。

 食われた人はその場でもう死んだはず。

 これは人殺しじゃない。

 もう戻らない。

 人じゃない。

 でもきっと、いつか、後悔する時がくるだろう。


「俺がやろう」


 自然と口に出た。


「これからあんなのを相手にしていかなきゃいけなくなるんだろ? だったら俺がやる。俺の仕事だ」


 今まではどこか浮かれていた。

 現実を受け入れよう。

 これはいつもしてるような妄想なんかじゃない。


「俺がる」

ウォーターポンププライヤー

・授業や講習ではペンチがあれば済む事が多いのでほとんど使わず、工具セットの中で一番大きいのに一番存在感がないらしい。

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