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第7話 提案

 アカリの話しによると、駅はもう使えないらしい。

 もう市外に逃げることはできないと考えたほうがいいのか?


「アカリ、今日は帰れないのかな? お母さんにメールしなきゃ」


「先生が車で送ってあげますよ?」


「ゾンビの発生源にわざわざ近付くようなものですけどね」


「そうだよ、めぐり先生が危ない目に遭うくらいなら野宿するよ」


 野宿も危ないんだが。

 そうだな、やっぱり……。


「今分かる情報は大体集めたと思うので、一つ提案があります」


 イエスウィーキャンと言いたくなるぐらい人差し指を立てる。

 二人の視線が集まった。


「なんですか」


「どうしたの?」



「俺ん家に行きましょう」


 アカリの不機嫌そうだった顔がさらに不機嫌になり、先生はまたなにか勘違いをしているのか顔が真っ赤だ。

 まさに、外にいるゾンビみたいに。


「なんでタニ……守藤先輩の家に行かなきゃいけないんですか」


 アカリは俺と同じ避難先を考えるくらいだから、すぐに賛成してくれると思ったんだが……。


「お前は本当に野宿するつもりなのか? 食べるものも飲むものもないってのに」


「それはまだ感染範囲に入ってないコンビニで買って、もしくは拝借しておこうと」


 感染範囲ときたか。

 こいつ、脳内マッピングをすでに済ませている。

 拝借とかサラッと万引き宣言してんじゃねーよ。

 そこまで考える余裕があって、なんでそんな見通しが甘いんだ。


「コンビニなら俺の家の近くにもあるし、その感染範囲とやらからも離れていると思うぞ。たぶん水道と電気はどっかでラインが壊されない限りは、当分止まることはないし。そういう施設は町の中心から離れて建っているからな」


「うう……。」


 そんなに俺の家に上がるのが嫌なの?

 普段妄想してるときからニヤつかないように心掛けるべきだった。


「テレビも、電池使うラジオもある。なにしろ壁があるから大声さえ出さなければさっきのお前みたいなのに気づかれることもないし」


「ちょっと、どういうことさ」


「はわっ、てててことはアカリちゃんが来なかったら二人きりのつもりだったの……」


 先生が後ろを向いて丸まっているので、なにか言ってるが聞き取れない。

 まあ、きっとどうでもいいことだろう。


「それに、お前が自分の家に帰れないからここに来たなら、俺の家に帰れるんだ。もう用はないだろ?」


「わかりましたわかりました。めぐり先生が行くなら守藤先輩の魔の手から守る為、アカリも行きましょう。先輩の家に」


「どっちかというとお前が魔物だけどな」


 俺にとっても先生にとっても。


「めぐり先生……めーぐりせんせー。めーぐりちゃーん」


 どこの三世だよ。万引きする怪盗とか……。

 アカリが先生の肩を揺する。

 先生は耳を塞いで何かに悶えていた。


「は、はい? なんでしょう」


「先生は先輩の家に行くのは賛成なんですか?」


「うーん、そうだ。守藤くんのお家の人は? 先生たちが行くと迷惑でしょう」


 ああそっか、話してなかったな。


「うちは両親ともに市外で働いてるので、アカリと同じように帰って来れないと思います」


「車で通ってないの?」


 田舎でバスも電車も本数が少ないから、ほとんどの人が車出勤だ。

 俺の両親も例外ではない。


「車ですけど。いつも帰ってくるのが遅いんです。朝の時点で電車が止められたし、夜にもなると車も規制されて入れなくなってるんじゃないですか? 知りませんけど」


「まだそこまで被害がでてないみたいだけど、そんなに対応が早いものなの?」


 そこまでの被害って、すでに大量殺人ですよ先生。

 立ち上がってくるらしいけどさ。

 対応、それを言ったら駅を止めたのも早い、早すぎるとは思う。


「それを知る為、家に帰るんじゃないですか。情報収集第二弾ですよ」


「そうですね……行きましょう。不純異性交遊は先生が許しません」


 誰としろってんだ。


「それじゃあ早速準備だな。決まったなら早い方がいい」


「そうですね、ところで先輩の家ってどこですか?」


「ああすまん、家は……」


 俺の家はここから北東に位置する住宅街の真ん中だ。

 ゾンビたちが発生したのが今日の朝、南東の鍛冶町だとしたら。

 学校の帰り道に遭遇したやつらは西に向かって歩いて来たことになる。

 北に向かったゾンビがいない、もしくは少ないことを祈るばかりだ。


「住宅街ってゾンビいっぱい居そうな響きですよね」


「そうか?」


 アカリのプロファイリングだろうか。


「いえ、人が多いところにゾンビありみたいな」


「平日の真昼間に住宅街が人でいっぱいなわけないだろ」


「そうでしたね」


 いつもこのくらい素直なら可愛げがあるのになぁ。


「こらこら、世の中には夜に働いてる方々もいるんですよ?」


 武器を探した時に見つけたのか、先生が草履をどこからか持ってきていた。

 アカリはニヤニヤして説教中の先生を眺めている。

 おい誰がタニタだ。お前はヤニヤじゃないか。


「怒ってるめぐちゃんも可愛いなぁ」


「はいはい、説教なんて向いてませんよー。あ、守藤くん。これ預かってたバック」


「ああどうも」


 おんぶした時に預けたバックを返してもらう。


 ん?


「アカリ襲来の時、こっから工具取り出せばすぐ武器になったじゃん」


「工具なんて入ってたの? すぐ返せばよかったね、ごめんなさい」


 俺が抜けてただけだった。

 ダメだなやっぱり、結構テンパってるぞ。


「俺が忘れてただけですよ。それじゃあ工具も一応装備して、いざ俺の家へ」

アカリ襲来

・宏前工業高校の全女子生徒は彼女の訪れをそう呼ぶらしい

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