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第6話 館星

たちあかり、十五歳、好きな人はあなたです。よろしくお願いします」


「よろし……はい?」


 木登りをしてまで侵入してきたこの少女は、うちの学校の一つ後輩らしい。

 制服のネクタイに付いている科章を見る限り情報科の生徒だ。

 短髪で活発な少女、という印象。

 うちの学校にも可愛い女子っていたんだな。あ、これは反感を買う。違うんですよクラスに男子しかいないからそう思っただけですええ。


「いきなり現れたかと思えば、なんてことを言い出すんだ」


「うっわ、なんでタニタがいんの……」


「聞こえてるぞ、誰だそれ。俺は守藤だ谷田さんではない。君には初めて会った筈だ」


「先輩の別称です」


 アカリは俺と話している間、佐々岡先生の手を握ったまま離さない。

 突然他校の女子生徒に告られた先生は、あわあわと口を震わせ、顔を赤くしている。

 そう、決して俺が告られたわけではない。


「俺って、顔も知らない後輩にあだ名つけられるくらい有名なの?」


「いつも実習棟に行くとき、一人でニタニタしてて気持ち悪いですからね。別称タニタです」


「蔑称じゃねーか」


 いつもって、お前ら入学して一か月も経ってねえだろ。

 情報科と実習棟は同じだけどさ。

 陰口を面と向かって言われるとは思わなかった。


「そんなことより」


 アカリが先生の方へ向き直る。

 顔は緩んで、俺に見せた素っ気ない顔とは別人になっていた。


「あなたの名前は? 工業の生徒じゃないですね。アカリはみんなの顔と名前把握してますから」


「中央高校の、佐々岡めぐり……私は先生ですよ!?」


「めぐり先生かー、禁断の恋になっちゃうなー」


 先生の周りをテクテク歩き出したかと思えば、手はしっかりと腰回りを捕らえている。

 まるで新人にセクハラする上司のおっさんみたいだ。

 おいそこ、ポニーテールをクンカクンカするな。

 先生はまんざらでもなさそう。

 生徒にあだ名で呼ばれてるみたいだし、子どもが好きなのかもしれない。先生より小さいし姉妹の感覚なんだろうか。

 アカリはそれ以上の関係を望んでるっぽい。

 俺、百合属性はないんだけど……。


「そんなことより」


 止めなきゃいつまでも続けてそうだ。

 現状を思い出せ。


「アカリはどうしてここに侵入したんだ? しかもあんな危ない方法で」


 塀は二メートル近くある。それより高い位置から飛び降りたのだ。

 こんな町の状況で、逃げてきたにしても、そんな危ない事をしてまで、ここに入る必要性なんて感じない。

 隠れるなら隣の屋敷でいいのだ。


「なんで名前で呼ぶんですか先輩だからって調子に乗らないでください。そんなの、女の子の声が聞こえたからに決まってるでしょ」


 何言ってんのこいつ、みたいな顔をされた。

 たぶん俺も同じ顔をしてると思う。

 おかしい、こんなやつに気持ち悪いとか言われる筋合いなかったんじゃないか?

 気持ち悪かったのは認めるけど。


「学校からの帰り道に、なんか気持ち悪いのがいたの。え? 先輩のことじゃないです。まず学校終わってー、九時の電車で帰れると思ってー、走って駅に行ったんだけど、なんと電車が運行停止になってたの」


 駅までは問題なく行けたのか。

 それじゃあゾンビの発生は南東、鍛冶町なのかな? それよりも遠くだと移動時間的に考えて昨日の夜から騒ぎになっていてもおかしくない。まあ、方角は合ってると思う。

 原因は見当もつかない。

 ウイルスだったらどうして、ただの飲み屋からゾンビが生まれるなんて雑な脚本だ。

 潜伏期間のあるウイルスなら一概には言えないけど、他の地域でも同じようなことが起きているようなニュースは、今のところ見受けられない。


「それで駅員さんが災害訓練なんたらってみんなに説明しだしてメンドイから抜けてきた」


「訓練? てっきり避難誘導かと」


「お客さんがパニックに陥らないようにするためでしょうか」


「なるほど。でもそんなことしたらこいつみたいに言うこと聞かないやつもいるんじゃ」


「守藤くんは知ってても言うこと聞かなかったでしょ?」


 それはそうだけど……。


「え……! タニタ、なにめぐり先生に迷惑かけてんのさ」


「俺は守藤だって言ってんだろ。あと本人を目の前にして蔑称使うなよ、傷つくだろ」


「もう慣れで、つい言っちゃうんだもん」


 くっそ、だったら俺も心の中で上司のおっさんって呼んでやる。長い、慣れそうにない。

 略してじょおさん。嬢さんみたいだ却下。


「んでんで、商店街に行ったの、暇つぶしで。そしたら人が倒れてたの、いっぱい。さっきまで普通の景色だったのに、戻ったら血塗れだったの」


「ふええ、あんなのがいっぱい……」


 先生がブルブルっと体を震わせた。

 さっき見た動画を思い出してしまったのだろう。


「そしたら声が聞こえたの。助けてくれって。声のする方に行ってみたんだけど……」


 たくさんの血塗れの死体を見たあとによく行こうと思ったな。


「女の人が男の人を襲ってたの。チャンスと思って動画撮ったんだけど……あ、女の人が服脱がないかなーって」


 やっぱりこいつおかしい……ん?


「でもその女の人が気持ち悪い人だったの。全身赤くて、そう、全身の皮が剥がれたみたいな。それで、男の人に噛み付いて殺しちゃったから、ヤバいと思って、ああ、商店街で倒れてた人が何人か起き上がって気持ち悪い人と同じ感じになったからね、こっちに逃げてきたの。屋敷は無人で鍵かかってないやと思って。動画はネットに投稿したから見たかったら自分で探してね」


「お前が勇者か……」


「恐ろしい子……」


 さっき先生と見た動画、その撮影者のちっこい姿をもう一度見て、二人で絶句した。

館星

・タグの「女の子hshs」の正体もこいつらしい

・飲食店でおしぼりが出されるとまず顔を拭くらしい


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