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第12話 初めの夜

 リビングの時計が六時半を示している。

 スマホでインターネットサーフィンをしているうちに太陽は完全に沈んだ。

 昼間はコンビニで買えるだけの非常食を買って歩いた。

 店は平常運転だったし、ゾンビを見かけることも無いお買い物。

 問題といえば店内に工具を装備したまま入ったことで店員をビックリさせてしまったことぐらいだ。


「どこもこの町のニュースを取り上げませんね」


 テレビの前で動かない先生から落胆したような声が聞こえてくる。

 先生には、トイレでいなかった時間なにがあったのか話したのだけれども、アカリのトンデモ妄想のことも話したせいで自分の目で確認したくなったのかな。


「少々お待ちくださいから何時間待たせるの!」


 アカリは親と連絡がつかなくてずっとソファでスマホと睨めっこ。

 回線が混んでるらしい。

 俺も親に一応連絡を入れようとしたが、結果は同じだった。

 アカリのと違ってうちの加入している電話会社は他が混雑している状況でも普通に繋がった実績を持つのにだ。

 被害はこの町だけの筈なのに……。


『この街ニュース! の時間ですよー!』


 先生がテレビのチャンネルを変えたのか、聞きなれたフレーズが部屋に響いた。

 ローカルニュース番組だ。

 これなら今の宏前市の状況がわかるかもしれない。

 見たことがない女の人がアナウンサーをやっている。


『今日は宏前市民の皆さんに重要なお知らせでーす!』


 ほらきた!

 このコーナーは県内の市町村を順番に特集していくから二日連続は何か特別なことがあるからだ!


「へ? なんで勝手に番組が変わったの?」


 ん? 何を言って……。


『宏前市は今現在、完全にー……包囲されていまっす!』


「「「はい!?」」」


『大勢の暴徒による被害が報告されているので屋外にいる市民は速やかに最寄りの避難所に……』


「先輩! 空に同じ映像が!」


 おいおい、これは一体どういうことだ。

 やっと公式の情報が聞けると思ったら包囲、物騒な物言いだな。


『次の放送は三十分後に行います。それまでに避難を完了させてくださいねー!』


 放送が終了してしまった。

 テレビの画面には信号が受信できませんと出ている。


「な、なんだったんでしょう今の」


 俺にもよくわからない。

 この町が包囲されてることと、暴徒が危険だから避難しろってことしか結局はわからなかった。


「なんでもっと教えてくれないんだ? 三十分も待たせる必要があるのか?」


「そうですよね。まだ被害に遭ってない人にはドッキリにしか思えないと思います」


 ドッキリかどうかはともかく、確かに俺だったらあんな放送で避難を優先することはないかもしれない。


「せ、政府の陰謀だー!!」


「出たなメルヘン」


「ちっがーう! だってだって、これはきっと、口減らしだよ! この事件の当事者をできるだけ減らしたいんだよ! 言うこと聞けないやつはゾンビの餌になってなおかつ生き残った人には注意喚起をしたっていう事実をインパクトで覚えさせておけば後から責任追及されてもちゃんとやったとか言い切れる巧妙な作戦だよ!」


 途中から速すぎて聞き取れなかった。


「アカリちゃん落ち着いて」


「そうだ、陰謀だ。よしよし」


「先輩投げやり」


 なんだこいつ、優しくしてほしいのか。

 自分は俺に結構ハードな陰口してたくせに。


「とにかく、次の放送まで待ちましょう」


「ですね」


「あれ? スマホの電波圏外になってる」


 まじか、俺のスマホもだ。


「守藤くん、テレビ壊れちゃった」


「え? ああ、それはアンテナに雪積もったりすると……あれ?」


 先生はテレビのチャンネルをポチポチと変えていく。

 それでも、どこの放送局も電波が受信できない。


「おいアカリ、外は大雨だったりするか?」


「いんやー。曇ってるけど降ってない」


 テレビもスマホもだめか……。


「先輩ラジオは?」


 手元にあったラジオの電源を入れてダイヤルを回す。


「ダメみたいだ」


「陰謀だー!」


 電波を妨害してるのか? 政府が?

 まさかな。

 思っているよりゾンビ化の進行が早くて電波塔がなんらかの二次被害に遭ってるのかもしれない。


「守藤くんなにか聞こえない?」


「アカリも聞こえる」


 なにかってなんだ。


「ほら! 車のエンジンかな?」


「低い音!」


 耳を澄ますと確かに低い音が聞こえてきた。

 でもこれがエンジン音なら、途切れ過ぎだと思う。


「そんなに近くないな。二階の窓から様子を見よう」


「電気はつけないでね」


 リビングの電気を消して、スマホの懐中電灯機能を使う。まだこういう使い道があるな。

 三人で階段を上る。

 途中でUターンをするような造りになっているので足元に気を付けさせた。

 二階には階段を上ってすぐ右に物干しスペースがある。

 ここの大きな窓から家の目の前の道路が見渡せるのだ。


「音はバイパス道路の方からすんね」


「さすがにここからじゃ見えないぞ」


 家はバイパスに合流できるまっすぐな道路の交差点の角にあるから、家から出れば音の正体が通り過ぎる一瞬だけ見ることができるだろうな。


「窓ちょっと開けてもいい?」


「どうぞ」


 アカリが窓を開けると外の音がより鮮明になる。


「サイレンはもう聞こえないのね」


「撤退したんじゃないですか」


「シッ! こっちにくる!」


 さっきより鮮明に聞こえるその音は、昔映画で聞いたライオンの雄たけびを思い出させた。

 生物の力を感じたのだ。


「やっぱり車の音ですね」


 先生が言った通り、車の音も聞こえてくる。

 車の音、も……。


「そろそろ通るよ」


 バイパスから走ってきた車はちょうど俺たちの目の前の交差点をウィンカーも出さずに左折していった。

 家からどんどん離れていく。


「次のがくる」


 これで終わりではない。

 アカリも聞き分けていたようだ。


「ガャヴヴヴヴヴヴヴ」


 三人の、いや三体の化け物がLEDの外灯に照らされた。

 目が赤く光り、信じられない速さで走っている。

 さっきの車を追って、迷うことなく交差点を左折していく。


「あれ、なん、ゾンビ?」


 先生が呆けた顔をして、化け物たちを見送っている。


「昼間見たゾンビ……なのかな」


「スゴイもの見たね」


 窓を開けた時に聞いた音でもしかしたらと思っていたけど、まさかあんな、オリンピック選手もビックリな速度で走るとは思わなかった。

 フォームは出鱈目だったけどさ。


「夜になるとああなるんかなー……。あはは」


「あんなのにアカリたちはちょっかい出してたのか」


 昼間は愚鈍なゾンビで本っ当によかった。


 のか?

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