夕暮れ時と、蝉の声
夕暮れ時。地面に伸びる影がふたつ。
夏も終わりに近付き、蝉も最後の役目とばかりに盛大に鳴く。
辺りに人気は無く、その道を歩いているのは二人だけだった。
そのすぐ側を、涼しい風が通りすぎる。その風が少女の長く伸びた髪を揺らしていく。
「ねぇ」
先に声を発したのは、少女であった。
けれど少女は少年の方には顔を向けず、ずっとうつむいたままだ。
「引っ越しちゃってもさ、たまには遊びに来てよ」
「うん」
蝉の声がうるさい為、少女は少しだけ大きな声で話す。
「引っ越してもさ、永遠に会えないわけじゃないよね」
「うん」
「ねぇ、会いに来てくれるよね? 会いに来てよ」
少しの間が空いた後、少年は答えた。
「うん」
蝉の声が辺りに響く。
よりいっそう、大きく。
儚い命の限り、鳴く。
夕焼けが照らす道を、二人は並んで歩いていた。
その後ろで蝉の啼き声だけが、いつまでもその場に取り残されていた。
夕暮れ時。地面に伸びる影は、まだふたつ。
三人称で書く小説は、初めて書きました。
切ない感じを出すように心がけたのですが、いかがだったでしょうか。
私的には、最後の一文がお気に入りだったりします。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。