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ケモノ達の憂鬱

作者: ばらっど

 カー、と甲高い声が、木々の合間に響き渡った。

 その集いは、鶴の一声ならぬ、まさに鴉の一声で始まった。


 宅地造成の波から、自然に優しい都市開発とやらの影響で取り残された、頂を臨むにも大した苦労の要らない山。その中腹に、一つの切り株を中央に置いて、妙に開けた場所があった。

 その切り株を円卓のように見立てて、彼らは輪になって集まって居た。

 それぞれの視線は、株の円卓の真ん中に立つ、ひとつの黒い影に注がれていた。



「では、第三十一回、深空町動物サミットの開催を、此処に宣言します」



 やけに仰々しい口調で、一匹のカラスがそう言った。

 黒い羽を大げさに広げて、自慢の喉で号令をかける。そうすると、周囲からは口々に、様々な鳴き声が響き渡った。それは統制の取れて居ないブラスバンドのようでもあった。実際、彼らに大した纏まりは無い。

 カラスを見つめる視線は色取り取りで、それは狐であったり、飼い猫であったり、蛇であったりもすれば、熊であったりもした。


 おおよそ共存という言葉とは程遠い連中ながら、この集まりの間だけは、不可侵であるという暗黙の了解が在った。なにせ、食物連鎖の話を此処にまで持ち込んだら、話し合いなど始まらない。

 そもそも、この会議が始まったのは、動物たちがいかにして、人間の支配する世界で生き抜くか、を考えるためだ。

 だから、人間以外の動物たちが争っては話にならない。

 とりあえずそんな前提を置いて、動物サミットは成り立っていた。


 とはいえ、現在の動物サミットは、動物たちがただダベるだけの、女子会と大差ない物になっている。


「ゼータくん、今日の議題なんだっけ」

「また忘れたのか、鳥頭」


 ゼータと呼ばれたのは、オスの三毛猫だった。

 オスの三毛は非常に珍しい。ゼータはそれを知っているので、自分が三毛猫である事を誇りに思っていた。


 それだけに、彼が飼い主に「ゼータガ●ダム」という名前を付けられたのは信じがたい不幸だった。

 今では飼い主すらゼータと呼んでいるが、もし間違って彼をフルネームで呼んでしまったら、ゼータは死ぬ覚悟で喉笛を食らいに来るだろう。


 一方、鳥頭呼ばわりされたカラスはシュヴァルツという名前を持っている。人間に付けられた訳ではない。なにせ、シュヴァルツは多くのカラスと同様に野良であるから、辞書で適当に調べて黒っぽい名前を付けたにすぎない。それが野良であるメリットかもしれない。

 何にせよ、ゼータはやたら格好良い名前が着いているシュヴァルツの事を妬んでいた。

 シュヴァルツはと言うと、能天気な性格なので、ゼータから向けられる敵意などどこ吹く風であった。


「もうさ、そもそも今日の議題はゼータくんが主役なんだからさ、ゼータくんが話してよ」

「はあ? おま、何のための議長なんだよ……良いよ、解った。話すよ」


 ゼータはシュヴァルツに代わり、切り株に立った。注目の最中に立つことに、少なからず緊張を覚えたが、動物共通の言語であるテレパスを介せば、少しは話しやすかった。



「まあ、その、なんだ。ちょっと、恋愛相談ってやつなんだけどにゃ」

「キャーッ!! 恋バナ!? ゼータくん春!? 春なのね!?」


 ハイテンションに反応したのは、キツネの銀子だ。彼女はこの手の話題に敏感だった。河川敷に捨てられているレディコミを拾ってきては、独自の恋愛哲学を作り、実践した。その効果たるや、夫の金次郎に逃げられる程のものだ。


「ははあ、三毛猫の坊っちゃんもやっと色気づいたか。色男の癖に、とんと女の影はなかったからな」


 モグラの雄輔が、ヒゲをひくひくと揺らしながら顔を出した。しかし眩しいので、すぐに地中へ引っ込んでいく。

 そんな調子で、やいのやいのと囃子立てる声が続く。当然というか、こういう話題が好きな銀子が率先して続きを促した。人間の世界でも動物の世界でも、乗って来るのは女子である。


「で、相手は誰? 誰なの!?」

「……あー」


 ゼータは少しだけ躊躇した。

 相手が誰であるか、と言う事が、この議題の核心であると感じさせる間だった。


「加藤さんちの……ジョディちゃん、なんだけどよ」

「へえ、ジョディちゃんってーと……」


 モグラの雄輔は、出たり引っ込んだりを繰り返しながら思案する。

 しかし彼よりも早く、ハトのサトシが記憶を引っ張り出した。


「……ジョディちゃんつったら、あの行儀良いゴールデンレトリバーだろ。よく二丁目の公園でフリスビーしてる……」

「えっ、じゃあ何? お前の好きな奴って、犬!?」

「あ、ああそうだよ、悪いかよ」


 ゼータが認めると、会議の場はにわかにざわめき立った。

 興奮気味にまくしたてる雄輔を、シュヴァルツが相手して居る。

 

「いや、悪いかってお前……そりゃ悪いだろ。それじゃあ獣姦じゃねえか!」

「いや雄輔くん、それは何か違う気もするけど」

「じゃあ何か、ケモナーって奴か!」

「いやだからね、僕らみんな獣ですからね」


 シュヴァルツは伸ばした羽を、器用に人差し指でも立てるような形にした。

 流石にそう言われては、雄輔もぐうの音もでない様子だが、問題はそこでは無い。しかし、ゼータは混乱し始めたその場の雰囲気に対し、むしろ強情に見えるほど強気だった。


「べ、別に相手が犬だって良いじゃねえか。何が問題なんだよ」

「いや、割と深刻な問題だと思うよ?」


 そうしてゼータを突っ込むのは、大抵シュヴァルツの役目だ。


「愛が有れば歳の差なんて関係ねーんだよ!」

「歳って言うか、種族からして違うわけで」

「猫と犬の何が違うって言うんだ!!」

「染色体の数じゃないかなあ?」

「良いじゃない! 私、そういうまっすぐな恋愛って好きよ!」


 狐の銀子が混ざってきて、話はいよいよ面倒になりそうな様相を見せる。

 こういう場合、銀子のアドバイスが殆ど役に立たない事を、シュヴァルツ含めた大半の動物たちは知っている。しかし、ゼータは恋のせいか、興奮のせいか、はたまた少ない肯定意見のためか、あまり冷静にはなれていないようだった。


「染色体の数が何よ! 子を成せないからって恋愛を諦める事なんかないわ!」

「おお、やっぱり銀子姉さんは解ってるぜ! そうだよ、種族の差なんか大した問題じゃねーんだ。問題は、もっと大きな事なんだよ」

「種族の差よりも大きな事だったら諦めたほうが良いんじゃないかな」

「建設的な意見を出せないカラスは黙ってろ!」


 コン、にゃー、カー、にゃーと鳴き声が響く。

 大概の動物たちはドライなようだが、とにかくゼータと銀子だけは乗り気なようなので、他に議題も無いのだから、とりあえず話だけは進めていくことにした。


「で、大きな問題ってのはなんなんだい、ゼータくん」

「いやあ、それがな……そのジョディちゃんが今度、お見合いさせられるらしいんだよ」

「あー、飼い犬はあるらしいねえ、お見合い」

「人間どもと来たら、血統って奴を妙に重視しやがるからな。ジョディちゃんは雄のゴールデンレトリバーと結婚するのが当然だと思ってやがる。でもよ、犬種の血を濃くするために同じ犬種同士でだけお見合いさせるなんてよ、自然の理に反しているとは思わねーか?」

「猫と犬の組み合わせよりは自然じゃないかと……」

「それ以上くだらねー一般論を振りかざすんだったらひっかくぞ、クソカラス」


 シュヴァルツとゼータがギスギスしているのは、何も名前の事だけではない。このように、単純に馬が合わないのだ。


「でもあれだよねえ。確かに飼い犬のお見合いって、あんまりロマンチックな物ではないよねえ。ゼータくんが止めたくなるのも解る気がするよ」

「なんだ、随分と知ったふうな口聞くじゃないかカラスの癖に」

「んー、人間のお見合いと、犬のお見合いって中身が微妙に違うんだよね。むしろ人間の言葉なら、もっとふさわしい言葉があるよ」

「たとえば、どんな?」

「まあ、そのー…………ヤりコン?」

「お前ぶっ殺すぞ!!」

「いや事実ですし。あいつら結局種付けさせたいだけだから、出会って良い感じになったら即交尾に発展させようとするよ」

「なぁにそれ、野蛮ねぇー。現代人のモラルの低下をひしひしと感じるわぁー」


 銀子はノって来る癖に、物言いが妙に他人事然としている。

 要は彼女は賑やかしというか、基本的には話を聞くだけが好きなのである。建設的意見を期待してはならない。

 その代わり、意外な事に、熊の田吾作が妙に感銘を受けたようで、話に入ってきた。


「おう、良いじゃねえかシュー坊」

「シュヴァルツです。どうしたの田吾作さん」

「いやあ、俺は正直、ゼータの真っ直ぐな熱意に打たれたぜ。感動した。そこまではっきりと種族の差なんて関係ねーって言えるんならよ。俺としちゃあ、力になってやりたいところだぜ」

「マジかよ田吾作さん! 田吾作さんが力になってくれるなら、俺としちゃ百人力だぜ! どうだよカラス野郎、田吾作さんが認めてくれるんならお前も文句ねーだろ」

「えー、まあ良いけどねー。たださあ、田吾作さんは人里に下りたら猟友会出動しちゃうから、あんま直接的な協力は出来ないんじゃないの?」

「んなっ! 馬っ鹿お前、田吾作さんに猟友会の話はタブーだっつってんだろうが!! ……ってああっ! 田吾作さんが夏なのに冬眠に入ろうとしてる!」


 田吾作は眉間に割と目立つ傷を負っており、それが何らかのトラウマであるらしい。いつからか、彼は猟友会の話を聞くと、季節を問わず冬眠を始めてしまうようになった。


「すまねえな、ゼータ……今回はおじさん、力に成れないみてえだわ……」

「弱気になんなよ田吾作さん! あんたの心が折れてどうすんだよ!」

「額の傷が疼くたびよ……呼ぶんだよ、ベトナム戦争の亡霊がよ……」

「アンタその傷どこで負ったんだよ! ベトナムにツキノワグマは居ねえだろうが!!」

「悪い、雄輔。ちょっち穴貸してくれや」

「ちょ、無理無理無理無理! 田吾作さん、モグラサイズの穴に熊は無理ぃいいいいいっ!!」


 雄輔のモグラサイズ巣穴がもりもり破壊されるのを尻目に、シュヴァルツは強引に話題の主導権を握るべく、黒い翼を一杯に広げた。


「えー、まあそう言う事で、ゼータくんの赤裸々一直線な恋愛エピソードが語られとるわけですけどもね。実は僕、この話題一か月くらい前から押さえておいたんだよね」

「はぁ!? ちょ、お前に話したの一週間前だぞ!?」

「カラスのネットワークなめんなっつー話ね。伊達に電線渡り歩いてる訳じゃないから。野良動物の中じゃ情報伝達能力トップクラスだからね。ツイッターで餌場情報の交換とかもやってるし」

「なんで!?」

「そこでですね、今日はスペシャルゲストにお出で頂いております」


 シュヴァルツはとことこと歩いて、近くの木の洞に首を突っ込むと、当然のようにアイフォンを取り出した。


「なあカラス。いつも思うんだけど、お前月イチくらいでケータイ変えるよな? どこで調達してどこで契約してんだよ」

「1か月程度しか使えないんだよ。調達先が駅前のフリマ街だからね」

「フリーマーケットでケータイ売ってんの?」

「路地裏の方に外国人のお兄さんたちが居て、そこで契約期間の残った――」

「あ、もう良い。解った。あんま聴いちゃいけない類の話だって事は解った」

「ケータイって人間の発明の中じゃ最高のもんだと思うよ、僕は。ちょっと電波強すぎてリョコウバトの連中が方向音痴になったりするけどさ、go●gleマップ使わせたらむしろ迷わなくなったからね」

「そうにゃんだ、すごい」


 シュヴァルツは羽で器用にタッチパネルを操作すると、どこかへ電話をかけ始めた。

 なお、シュヴァルツは通話にskypeを使うので、通話料がかかる事は無いのだと言う。そうなると相手もskypeケータイを持っている話になるわけだが。


「あ、うん。そうそう、そろそろ出てきてどうぞ」


 シュヴァルツの合図に合わせて、獣道の向こうから、カサカサと物音が聞こえた。

 全員の視線が一斉に注がれる。それは人間よりも遥かに敏感に、来訪者の気配を察知して居た。



 やがて、茂みの向こうから、金色の毛並みを揺らしながら、彼女は現れた。



「じょ、じょ……ジョディちゃん!?」



 ゼータはひっくり返りそうになった。

 何せ、恋焦がれているジョディ(ゴールデンレトリバー4歳)がまさに目の前に現れたのだ。今回の議題の張本人が出揃ってしまった形になる。



「ど、どういう事だカラス野郎! なぜジョディちゃんが此処に居る!」

「怒らないデ、ゼータちゃん。私ガ、シュヴァルツちゃんに頼んだノヨ」


 ジョディはフロリダ訛りだった。

 ハリウッド女優を彷彿とさせる、自慢のブロンドをさらりと靡かせると、周囲の動物たちにむかって一通り会釈する。その仕草に、狐の銀子は微妙に面白く無さそうな顔をした。

 やがて、ジョディはつらつらと話を始めた。


「ゼータちゃん。貴方の好意には、最初から気付いていたのヨ」

「なっ……!? そ、そんな馬鹿にゃ!?」

「解るわヨ。猫のサカりは遠目に見ても丸解りヨ」


 その一言で、ゼータは自分の首輪(ノミ取り剤つき)を後ろに引っ張って首を釣ろうとしたが、シュヴァルツに止められた。


「お見合いハ取りやめになったワ」

「へ?」

「ご主人さまがネ、言ってくれたのヨ。やっぱり、血統のためだけに見ず知らずの犬とつがいになるなんて、間違ってるッテ。私は私の思う通りの相手と一緒になるべきだっテ、そう言ってくれたワ」

「おお!? なんだよ、飼い主の奴、なかなかイケメンな台詞吐くじゃねえか!」


 モグラの雄輔が一言喋るためにちょっと出て引っ込んだ。


「嬉しかったワ……私も、本当は強引なお見合いなんてしたくなかったノ。レトリバーだからって、犬だからって、同じ種族の相手と一緒になるなんて古い考えダワ……」

「えっ……ジョディちゃん、それじゃあ……」

「そうヨ、ゼータちゃん。私もまた、種族違いの恋にトリップした一人のFunky girlだったと言う事よ」


 なぜ英語なんだろう、と田吾作は蜂蜜を舐めながら思った。

 一方、ゼータは感動に打ち震えて居た。ジョディもまた、種族を越えた恋愛の肯定者だったのだ。自分の想いは、決して特異なものなんかじゃない。それを知った時、ゼータの三日月のような瞳から涙がこぼれ落ちそうな気がした。


「じょ、ジョディちゃん……! 俺、オレ……ずっと、ジョディちゃんと一緒に成りたくて……!」

「だから、私も自分の恋に素直になる事にしたノ」

「えっ?」

「その結果……昨日、ようやく愛しいDarlingと身体を重ねる事が出来たワ」

「えっ」


 会議の場が、冬でも無いのに凍りついたようだった。

 シュヴァルツ以外の全員の視線が、申し訳なさそうに、ゼータに注がれた。


「え、じゃあジョディちゃん、他に好きな人が……」

「御免なさい。昨日、私は彼のWifeになったワ」

「……え、ちょ、誰? 誰だよ! ジョディちゃんにそんな相手が居るなんて、俺、知らな……」

「ゼータくん、思い出してみなよ」


 シュヴァルツが妙にドヤ顔で口を挟んだ。


「居たじゃないか。ジョディちゃんには、ずっと傍で一番、彼女の事を考え続けてくれた人が」

「………………」

「考え続けてくれた、人が」


「………………………………――――――えっ」



「「「えええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」」」



 その時は、ゼータだけではなく、シュヴァルツ以外の全員が絶叫した。

 その様々な鳴き声が交錯する様子は、さながらブレーメンの音楽隊のようにも見えただろう。



「え、じゃあ何? ジョディちゃんの好きな人って……」

「ご主人さまヨ」

「飼い主の加藤文雄さんッ!?」


 モグラの雄輔が、またもそもそと土から出て来た。


「それじゃあ獣姦じゃあねえか!?」

「そうですね」


 シュヴァルツが冷めた態度で肯定した。


「なんだそれは……たまげたなあ……」

「そういう事だから、ゼータくん。貴方の気持ちに応える事はできないワ」

「…………」


 ゼータはもう真っ白になっていた。

 三毛猫ではなく、立派な白猫としてもやっていけそうだ。


「ハバナイスデイ」


 ジョディは尻尾を揺らしながら、元来た道を再び去って行く。

 

 動物たちは各々、凄まじい物を見てしまったショックから耐えきれず、なにやら気まずい雰囲気で、ぱらぱらと適当にその場をお開きにした。

 近くの杉の木に首輪を引っかけて首をつろうとするゼータを、銀子が必死に止めて居た。




          ◆



「でも、酷い事するなぁお前も……もっとオブラートに包んで伝えてやりゃあ良かったじゃねえか」


 帰り道、田吾作とシュヴァルツは適当に喋くりながら歩いていた。

 田吾作も流石に、今回のシュヴァルツの容赦の無さには、口をとがらせている様子だ。

 しかしシュヴァルツは批判の言などどこ吹く風で、しれっとした態度でひらひらと羽ばたいていた。


「だってゼータくん、あのレトリバーの何処が良いとか何処がセクシーだとか、べらべら惚気て来るから腹立つんですもん。人の気も知らないで」

「……よう考えれば、お前もゼータやジョディと同じ目線の動物だよな」

「種族なんか関係ない、とか言うくせにあの態度ですもん。やんなっちゃうよ、ほんと。田吾作さんだって、なんかゼータの応援するとか言い出すし」

「あー、あれはその場の勢いでさ……まあ、その、なんだ」


 田吾作はぽりぽりと鼻を掻きながら、遠慮がちに言う。


「シュー坊」

「シュヴァルツです」

「お前、もうちょっと女らしくしねーと、気付かれないんと違うか」

「こういうキャラなの、ほっといて」


 シュヴァルツはカー、とひと声泣くと、夕焼けの沈む空に飛び立っていく。

 黒い羽が抜けて、ひらりと舞い落ちる。鳴き声は、遠くを旅するリョコウバトの元まで届きそうだ。

 その高い声は、何処か、八つ当たりの叫び声にも似た響きをしていた。

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