第十二話「一条奏Ⅰ」
018
目を覚ますと、一面が白色の世界だった。
奏が目を開けると辺りをぐるっ、と見渡しても自分以外、誰もいない。一面、白の世界だ。ぼーっ、としているせいか一向に動く気配のない奏は呆然と立ち尽くしている。
何故か、一条奏はこの場所が何処なのか、分かっていた。
しばらくして思考が目の前の映像を理解し始めた頃、奏は咄嗟に我に返ると今までのことを思い出した。そして、徐々に顔が青ざめていく。
膝を曲げて、ゆっくりと地面に膝をついた。
「……そうだ、渚が死んで、俺は」
思い出すたびに、胸が苦しくなって来る。心臓のあたりをきゅっ、と押さえつけると脈拍が高鳴るのが手に取るようにわかった。
次に奏の思考を張り巡らしたのは一つの後悔であった。
本当なら、こんな所で死ぬことのない一人のクラスメイトを自分の勝手な考えに巻き込んで殺した、と頭を抱えて、ただ只管に後悔の渦が自分の頭の中を駆け巡った。
「うぁぁぁぁぁ!! ……俺は、俺はどうすればいいんだ」
自分の不甲斐なさに後悔しか浮かばない奏は頭を抱えて、地面に叩きつけると大声を上げて実力の無さを嘆き、苦しみ、泣く。
「俺が弱いせいで渚は死んだ。俺が油断していたせいで渚は死んだ…………」
床を何度もたたく。自分の手から血が出ようと関係なしに硬い床を幾度となく叩き続けた。
そして、どれくらい嘆いただろうか。
奏の心情がボロボロになるまで砕け散って、戦うことも止めてしまった。そんな彼の視界の端に突如、大きな王座の椅子に腰かけ、頬杖を突きながら、こちらを見下ろしている一人の青年がいることに気付く。
「退屈だ」
王座に座り、暇を持て余していそうな青年は欠伸交じりに独り言を呟いた。
奏はこの王座に座っている青年のことを良く知っていた。――――いや、正しく言えば彼はもう一人の一条奏、と言っても過言ではないほど切っても切ることが出来ない唯一無二の存在だったからだ。
欠伸を終えた青年は頬杖を突いていた手とは反対の手を伸ばして、指で鼻を擦る。
その青年は現代のファッションセンスでは考えられない格好を催している。
薄く、しかし頑丈性に富んだ鎧。足元はこれまた高価そうなブーツを履いていて、魔法陣のような記述が施されていた。動くたびに、がちゃがちゃ、と音を鳴らす籠手。そして、王座の左脇に立てかけてある長細い剣は異国の言葉で「Excalibur/Night」と書かれていた。
王座に座って呑気な様子で奏を見下ろしているこの青年の雰囲気は異質だった。
そして、奏はゆっくりと口を開くと久方ぶりに彼と会話をする。――しかし、奏は小さく首を傾げると「?」を付けながら言葉を述べた。
「誰だ、お前は」
あたかも、まるで知らない間柄のように喋りかけた。
青年は笑みを漏らしながら、頬杖をする手首を入れ替えて、重苦しそうな靴を上げると足を組み替えた。
奏が覚えていない素振りを見せるのも頷ける。
何故なら、奏は青年の記憶を所有していたとしても、逢うのは初見だと思っているからだ。
そんな事情を全て知っている青年は、久し振りの会話に笑みを零しつつも、断言する。
「僕は君だよ、一条奏」
――「いや、それは知っている」と続けざまに奏は即答した。
すると青年は驚いた表情を浮かべながら、再び頬杖をする手首を入れ替えた。
「改めて自己紹介するよ、僕は千条。……まあ、ミリオンとでも呼んでくれ。そっちの方が長らくの間、呼ばれていたから返答しやすいだろう」
「……ん? 千条の千ならば、ミリオンじゃなくて、サウザントじゃないのか」
頭の良い奏はすぐさま、ミリオンと名乗る青年の間違いを指摘するがミリオンは目を閉じて奏の発言を無視する。しばらく、沈黙が続いたのちにミリオンは何事も無かったかのような口振りをしながら、奏に対して話を切り出してくる。
「薄々、というか完全に分かっているとは思うけど今、君がいるこの場所は君の心の中だ」
「……心の中に俺の意識があるってことは、俺の身体はどうなってるんだ?」
「随分と気が早いね。僕はそうやって簡潔に結論に導く人は嫌いだよ。全ての物事には必ず過程があってこその物事だ。それを順々に追っていくから、物事って言うのは楽しいし、面白みがあるんだよ」
「は、はあ……」
何故か、自分そっくりの容姿の人間に怒られる羽目になった奏はミリオンの見下ろした態度に少しだけ怒りを覚えつつ、拳を握って苛立ちを押さえつけた。
数々の経験を熟してきたミリオンだから言える、大人よりも大人の口振りで話は続く。
「まず初めに、この心の中について懇切丁寧に説明してあげよう」
再び足を組み替えたミリオンは、呆れ顔でジト目の奏に対しても何ら変わることなく自分のペースから外れることない毅然とした態度で話を続ける。
そして、頬杖をついていない方の腕を上げていくと親指、人差し指、中指を突き立てて三本の指を用い、奏に懇切丁寧な解説をし始めた。
「まず、ここは奏の心の中。ここでは感情だったり、心情、心のことだったら全てのことを包み隠さずに聞ける場所でもある」
「まあ、聞けるって言っても心の中だから、俺くらいしかいないだろうけどな」
そして、ミリオンは丁寧に指を一本曲げた。
「けれど、現在。奏の身体――いや、心の中には三つの人格が巣を作り、宿っている」
「人格……? 俺は三重人格ってことなのか?」
ミリオンは小さく横に首を振った。
そして、飽きれたように両手を挙げてため息を付いてきた。
その様子に再びイラッ、と来た奏は拳を握りしめると如何にか苛立ちを押さえる。ミリオンは話を再開させると「いいか」と一旦、区切りを付けてきた。
「確かに奏の中には三つの人格が宿っている。無論、君を含めて三つだ」
「俺の他に二人。……ミリオンと、あとは」
「あと一人。――いや、あれは人間として認識をしても良いのかすらも危うい種類なんだが、悠長なことを言っている余裕もないし、人間として換算しよう」
ブツブツと何か考えを纏め終わったミリオンは奏に説明を再開した。
「三つの人格がどういった奴なのか、説明する前に君の身体的な解説をしておきたい」
「身体的……? 風邪なら、あまり引いたことないけど」
「そういう身体的じゃない。そうだな、例えるならば、運動神経はある奏だが戦闘で必要とされる感覚、反射神経、そういった類の技術が他者と比べて途轍もなく劣化している。――――そうだよね?」
「……あ、ああ。そうだけど」
改めて自分の欠点をしてきされると、どうしようもない欠点だと思い知ってしまった。
しかし、ミリオンは嘲笑うように失笑をすると機嫌を損ねている奏に対して、成長する糧となるはずのとある朗報を口ずさんだ。
「別に君自身の技術面での総合値は決して低くはないんだ」
落ち込んで、しょぼくれていた奏の顔が床からミリオンの方へと上がって行く。
それを見てミリオンは指を鳴らした。
「ここでまた例えをしよう。通常の人間の総合値が100だとしよう。すると、今まで経験をした積み重ねが糧となり、のちに自身の力となる。勉強をすれば頭が良くなるし、運動をすれば体力が上がったりする。値が100なら、それを上手に使うのが人間っていうものだ。ただし、」
ミリオンはここで困り果てた表情を浮かべ、飽きれるように再び両手を挙げた。
「君には先ほども言った通り、三つの人格が宿っている。即ち、これは三人分の強さを兼ね備えていると言う解釈をして貰っても構わない」
「……つまり、どういうことだ?」
奏から質問を受け、嬉しそうに綻んだミリオンは上機嫌に足を組み替えした。
「つまり、簡単な話だよ。君は他者と比べて劣化しているのではなく、300の総合値を持っているが故に自分自身の力量が量れていない、ということなのさ」
つまり、ミリオンはこう言った。
奏が技術面の強さに劣化を感じているのは己の強さを知らなさすぎたために謝った力を習得していたが故に弱さを手に入れてしまった。――ということらしい。
原因が解明されて、少しほっとしている奏を尻目に「まあ、他にも色々と原因はあるけど」と言葉を、少しだけ濁したミリオンは再び話を元の所へと戻した。
「ここで先ほど説明した三つの人格について説明をしておくよ」
そう告げたミリオンは器用に指を鳴らす。すると彼の背後には三枚のボードのような絵画が浮遊する。よくよく目を凝らした奏はその内の一枚に自分の顔写真があることに気付いた。
「まず一つ目の人格。これはいう間でもない主人格の「一条奏」だ」
そして、二枚目の絵画がめくれる。
そこには勇者の恰好をして剣を豪快に振り降ろしているミリオンの姿だった。
「二つ目の人格。これは前世の記憶と魂を受け継いだ「僕」の人格」
そして、三名目の絵画がめくれる。
そこで奏は思わず、唾を飲みこみ、愕然とその絵を見つめていた。
彼の瞳に映っている絵には人間は映っていなかったからだ。少しして、ミリオンは歯切れが悪そうな顔を浮かべながら、前説を加えた。
「これは君も、そして僕もよく知っている化け物なんだよね」
「……化け物」
「ああ、もしかしたら君よりも僕の方がこいつのこと詳しいかも知れない」
その絵画に映されていたのは全身黒色を催した人物ではない骨格と外見。背中からは大きな翼が生え、口元はまるで溶岩をかみ砕いたかのような歪な形状をしていた。
頭の先からは二本の角が生えていて、奏の人格とは思えないほど似ても似つかない。
ミリオンは驚きのあまり、言葉を失っている奏に対してこの化け物の説明を施した。
「残念だけど、これが君の三つ目の人格である「終焉」だ」
「……しゅ、終焉?」
「うん、そうだ」
この黒き怪物は終焉という名らしい。奏はこの時、初めて自分の中に潜み、蠢く化け物を見てしまった。けれど、不思議と恐怖はない。
何故だろうか、と問い詰めても答えは一向に出て来る気はしなかった。
「それじゃあ、君が三重人格かって言う話をしようか」
そう告げたミリオンは指を一本、曲げた。
「単刀直入に言えば、君は三重人格ではない」
「……そ、そうか」
「でも勘違いしないで欲しい。僕と終焉はいつも、君の心の中に存在していることを」
「あ、ああ。わかった」
ニコリ、と微笑んだミリオンは嬉しそうに足を組み替えした。
「それじゃあ、全ての前説が終わった所で本題に入ろうか」
「本題?」
「君がどうして、ここに来たのか。そして、君が何故、これほどまでに弱くて、自分の力を使い熟すことが出来ないのか」
「ミリオン、お前には分かるのか?」
「ん? わかるよ、ていうか君が能力を全力で使えないのはある意味、僕らのせいだし」
「……ん? …………んんん?」
首を傾げすぎて、頭を床にぶつけた奏は痛さのあまり頭を激しく押さえつける。たんこぶの出来た頭を押さえながら、それを見て腹を抱えていたミリオンに話を続けるよう促した。
「今までの話を聞いて、まだわからなかったか?」
「……わからん、というか、あまりにも非科学過ぎて半信半疑だ」
「まあ、奏の居る世界は科学主流の世界だから信じることも出来ないだろう。でも、世の中には科学では証明できないことだってあることを忘れるなよ? それを含めて、少しだけ考える時間を上げよう」
再び格好よく指を鳴らすと、ミリオンの頭上に大きな丸時計が現れた。チクタク、と静かに音を鳴らしながら、奏は今までのことを含めて数々の憶測を推測、予想する。
そして、考え抜いた末にある一つの結論に行きついた。
閃いた表情が、ミリオンの顔と共鳴するように静かに笑みを浮かべ始める。
「その様子だと分かったみたいだね」
「ああ、八割程度かな」
「それじゃあ、一条奏の推測。聞かせて貰うとするよ」
さながら、王様の如く。
凛、としているミリオンの雰囲気が瞬時に切り替わった。能天気そうな口振りからは考えも付かない、真剣な目付きに変わっていた。
「俺の中にいる。つまり、ミリオンと終焉が逆に俺の力を狭める足枷になっているんだろ」
「せいかい」
短く告げた。
「さっきも言ったけど君は、どの誰よりも才能を秘めている。僕という前世の経験も含めて終焉といった化け物を飼っているということもあるけど」
「ああ」
「しかし、それが逆に君への束縛となっているんだよ」
「……どういうことだ」
「簡単さ。君は僕と終焉という足枷を常に付けている、だから君がどれだけ必死になっても死にもの狂いで頑張っても、通信空手を始めても、周囲の人に怪しまれながらジョギングをしても、成長は一切しない」
「…………」
しかしながら、影で行っている努力を他の人から言われると恥ずかしく思う。自分が行っていることが急に恥ずかしくなってしまう。
これは一人部屋でシャドーボクシングをしていた所を母親に見られた時と同じ感覚だ。
思わず、目を合わせることが出来なくなってしまう。
「君も知っての通り、僕はこの世界ではない別の世界で英雄となっている。だから、相当の力もあれば、戦闘経験も持っているし、君が少しだけ芽生えて感じて来ていた「超直感」という鋭い感覚センスだって長きに渡る旅のお蔭で会得している」
「だから、どういうことだ?」
「簡単な話だよ。何故、僕らが三つの人格に別れているのか明白な答えだよ」
白を切るように嘲笑うミリオン。そんな態度に三度目の苛立ちを覚えた奏であるが、確かに前世の記憶からミリオンの戦闘能力の高さは窺えていた。
「一条奏には「勉学」と言う気質があって、僕には「戦闘」という知識を持っているんだ。そして、終焉には「能力」という覚醒が備わっている。僕らは三人格で一つ、全てを認め合うことで初めて本当の強さ、本当の覚醒を得られるってことだと僕は思っているんだ」
今の奏には理解しがたいものかもしれない。
前世の英雄と、謎の化け物が今も自分の中に住みついている。
「……そうか、そういうことだったのか」
あの時に起こした事件は奏が起こしたことではないとここで初めて知る。嬉しい気持ち反面と残り二つの人格と、どう向き合っていこうか迷う。
きっとここが本当の意味で「覚醒」をする場所なのだろうと、ミリオンはつくづく思った。
「僕らは足枷じゃない。そう思ってくれさえすれば、きっと君は今よりも強くなれる」
自分の中に住む他者を認め、己の力にする。
きっと、奏がここに呼ばれたのはそう言った話し合いを設けるためだったのだろう。
「そう言えば、一つ聞いても良いか?」
「はい、どうぞ」
「その終焉って言う怪物は今どこに……?」
「……あ、そう。君は知らないんだね」
「知らない?」
豪快に指を鳴らす。すると、奏とミリオンの真横には大型のプロジェクターのようなもので奏の視界に見えている物が映像として映し出されていた。
そして、ただただ唖然する。
「君の精神は間宮渚が殺されたことで不安定の域を超えた。だから、今、君の身体は終焉によって一時的に乗っ取られている状態になっている」
「終焉に……」
「けど、安心して欲しい。僕の力で少し押さえているから、君の身体が完全に乗っ取られる心配はないし、間宮渚を殺した赤城涯と言う男を標的として終焉は殺そうと喰いかかっている」
――「今の僕の力では終焉の六割ほどの力を押さえるので低一杯だよ」と、半笑いで映像を見ているミリオン。あれで四割の力なのか、と唖然しながら食い入るように食い入っている奏はただ悔しかった。
「だから、お前の右手に透明な枷が掛かっているのか」
「ん? あ、気づいた。これは僕と終焉を繋ぐ枷だ。ちなみに君と僕を繋ぐ枷は、ここ」
王座の背後には黒々とした引き千切れ無さそうなくらいに大きい鎖がミリオンの背中に刺さっていた。ちなみに痛みは無いそうだ。
「ああ、あと最初の質問の答え」
そして、思い出したように一本の指を伸ばすと再びそれを曲げた。
「君がどうして、この漫画やアニメで主人公が己と向き合う所みたいな場所にいるのかっていうとだね、それは終焉が表に出ていることで君の精神は裏へと引っ張られたわけだよ。だから、僕と君は出逢うことないはずなのにこうして喋ることが出来ているってことだ」
そして、全てを説明し終えたミリオンは、しんみりとため息を漏らす。
「最後に一つだけ、これは英雄ミリオンとしてではなく、君の精神の中にいる人格者として話をしようと思っているんだけど良いかい?」
奏は何も言わず、ただ首を縦に振り降ろした。
するとミリオンは、ほっとした様子で一度、咳払いをすると真剣に自分の旨を明かした。
「僕は君だ。だから、君が頼むのならば協力をする。君と僕が手を組めば、しばらくの間は終焉の暴走を封じ込めることもできるし、目覚めた君は僕の戦闘知識を得ることが出来るから、前よりも数倍、数十倍の力を開放させることが出来るんだ。――――だから、僕が最後に言いたいこと、わかるよね?」
しっとりとした空気でミリオンは告げた。
王座に座って居ながら、足を組んでいるのに傲慢とした態度が鼻に付いていたはずなのにも関わらず、何処か寂しげな表情が奏の心を締め付けた。
彼も――ミリオンもまた、生まれ変わった魔王を救いたいと心より願っているからだ。
だから、奏はその問いに対して応えを述べた。
「ああ、頼む。俺は真桜を助け出したい。そのためにはミリオン、お前の力が必要だ」
だから、奏は懇切丁寧な要請願いの言葉と共に深々と頭を下げ、最敬礼をした。
何かを護るためには何かの犠牲がつきものだとよく言う。――それが自分のプライドならば捨ててまで救いたい人がいるから、奏は自分自身に対してケジメを付けた。
それを察し、ミリオンは最敬礼をしている奏の頭にゆっくりと手を置いた。
次の瞬間、正常に身体を保っていた奏の姿が虚ろになっていく。
「……ど、どういうことだ?」
「どうやら、時間みたいだ。終焉は役目を終えて、君と入れ替わることを決めたらしい」
奏の身体が徐々に消えかけていく。
しばらくして、奏は入谷幸平の件で京子に聞いた謎をミリオンに問いかけてみた。
「一ついいか?」
「何でも聞いて、君は僕なんだから」
「入谷幸平の時、どうして終焉じゃなくてミリオンが表に現れたんだ?」
「ああ、あれね」
ミリオンは笑顔を絶やさずに、足を組み替えると腕を組んで白々しい素振りを見せた。
四度目の怒りで拳を握った奏を見て、慌てて弁解をするとミリオンは返答を加える。
「少し逢いたかった人の匂いがしたんだ。異世界に転生する前の話だから、微かな記憶しかないんだけど覚えているのは赤色の髪と僕と同じ苗字。でも、どうやら気のせいみたいだ」
「……そう、なのか」
「ああ。だから、ついでに入谷幸平って奴を殺してあげただけさ」
「俺の顔と声で、そんなえげつないことをさらっと言うな」
「まあ、いいじゃないの。僕は君、君は僕なんだから、さ」
「答えの解決に全くなってないんですけど!」
最後はグダグダになってしまったが、どうにか和解することの出来た奏とミリオンは改めて自分自身の覚悟を再確認できるいい機会となった。
そして、奏は儚くも消滅していく。
「ふぅ、いったか」
ミリオンは奏の去った精神世界で小さく呟くと重々しく腰を上げて王座から立ち上がった。大きく背を伸ばすと軽く体操をしながら、何処が空かもわからないこの世界の上を見上げる。
「気を付けた方がいいよ。君の抱えている終焉は黒瀧家が禁術として隠してきたものだ」
何処までも強く、何処までも勇ましい、英雄ミリオンは王座へと座り直す。
そして、気たるべき日に備えて今日も瞳を閉じる。
運命のその時まで――――――。




