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或る世界の勇者と魔王  作者: 古鷹かなりあ
第二章:新入生対抗トーナメント篇
40/70

第二十話「そして、運命の歯車は廻る」



 054



 奏はゆっくりと、目を開ける。

 そこは真っ白としている天井。見たことはない、綺麗でまるで生きている心地がしない。

 ここは天国か、はたまた棺桶の中か、シミ一つ付いていない天井は今の奏の気持ちを代弁しているように清々しく清らかな純白だった。

 彼はゆっくりと口を開ける。大丈夫、まだ感覚は残っていた。


「…………ああ」


 耳も正常に稼働している。

 次に起き上がろうと両手両足の感覚を研ぎ澄まして、力を入れるが自分の思ったようには動かなかった。致し方なく、元の場所に手足を戻すと、今度は自分の開いている瞳に黒色の影が入り込んできた。

 そして、その影は身動きの取れない奏に向かってヘッドダイビングをしてきた。


「いっ、た――――――!!」


 すすり泣くその影が奏の身体に触れた途端、まるで切断されたような痛みが身体を走る。驚いて思わず、奏は叫ばずにはいられなかった。

 その声を皮切りに奏の視界は白黒の世界から、鮮やかな色が灯す。そして、自分の身体の上にいる彼女の名前を小さな声で呟いた。


「……響」

「お゛、お゛、にいじゃん!!」


 響の鼻水をシーツにふき取る音と、奏の名前を呼ぶ酷い声が交互に聞こえるとこの部屋の中に居た人が意識を取り戻した奏に気付いて、近づいてくる。

 一方、激痛の走る奏は身動きの取れない両手両足を行使して何とか響をベッドから叩き落とそうとした。だが、シーツを掴んで離さない響に呆れる様子で奏はそれを止めた。

 そして、開口一番に奏の病室にいた有希が安否の声を掛けた。


「大丈夫か、一条奏!」


 ベッドの上が縋りよって、泣いている響の頭を優しく撫でると横に駆け寄ってくる有希の声に答える。そして、奏の顔色と大丈夫、という声から一安心したのか有希は崩れるようにベッドに手を付いて地面に膝を付いた。


「大丈夫です。ご心配をかけました」

「よ、良かった」


 綻んだ有希の表情を見て、自分がどれだけ他人を心配させたのかということが痛いほど奏に伝わった。そして、奏は一通り部屋を見渡すと自分がベッドの上で、そして病室にいることに気が付く。

 それと同時に何故、自分がベッドに長い間、寝ていた理由をフラッシュバックのような映像で思い返す。苛立ちがこみ上げてきて、行き先のない感情は思わず怒りをベッドに隣接している壁を殴りつけた。


「お、お兄ちゃん?」


 壁が少しへこむほどの威力で壁を殴った音に泣き叫んでいた響も我を取り戻して兄の様子が違うことに気が付いて、おそるおそる声を掛けていた。

 有希も、思わずその行動に驚いて口を開いている。


「俺は……、あいつを護ってあげることが出来なかった」


 歯痒い結果に悔しそうな表情で俯き、次の言葉を呑みこんだ。

 兄の容態が安泰したことを再度、知ることが出来た響は急いでベッドから離れると有希に何か言われて病室から外へと出て行った。

 悔しそうにしている奏を見下ろしながら、有希は険しい表情で口を開いた。


「すまなかった、一条奏。私は真桜を助けることが出来なかった……」


 しばしの無言。

 奏は頭を下げたまま、口を開いた。


「先輩は何も悪くないです。力のない俺が悪いんです……」

「そうじゃない。あれを事前に防げなかった、私にも非があると言うことだ!」

「なら、教えてください。あいつらのこと、伊御のこと、そして七色家のことを」


 決心をした様子で有希の顔を見上げる奏。それに一触即発された有希は彼のピリピリとした揺るぎない思いを肌で、目付きで感じ取ってしまった。


「一条奏。後悔するなよ?」

「大丈夫です。元より、考えていたことですから」


 七色家を知るということは日本の裏を知るということ。

 すなわち、それは今後、どのような状況に陥っても一切、責任が取れないことになる。

 闇を知る者は、闇を知る者に消されることだって無くは無い。むしろ、多い方だ。

 それをわかった上での回答。――――有希は奏の真桜に対する想いに強く惹かれる。


「有希、そう簡単に七色家以外の部外者に語っていい話じゃない」


 そう言って奏の病室に入って来たのは黄瀬暁だった。前回、見た時よりも少しやつれている姿があって右腕は包帯で、ぐるぐる巻きになっていた。


「ど、どうしたんですか。黄瀬さん!?」

「あの黒髪の野郎と戦った時、折られたんだよ」


 そう言って暁は少し痛みに耐えながらそれでも元気そうにギプスをはめている右腕を上下に揺らした。しかし、すぐに激痛で蹲る。

 暁と黒髪の青年――黒崎龍一が対峙した際に彼の異形な掌に阻まれて攻撃が遮られたときに尋常なほどの握力に彼の右腕は砕けるように骨折したらしい。

 それでも何ら変わりなく暁は二人の前に姿を現した。


「どういう意味だ、暁。一条奏に七色家のことを口外するなとは」

「その通りの意味だよ。俺や有希なら、七色家の関係者ってことで殺されずに済んだんだ。一条と内田は日向と鳶姫の同情によって殺されずに済んだ。――――意味はわかるよな?」

「……俺と瑠璃はころされていたかもしれないってことですか?」

「そういうことだ。裏側を知った者は闇に葬られる、これは自然の摂理だよ」


 的確な回答を暁らしくない様子で淡々と述べる。

 その場にいた奏と瑠璃は両者の対戦相手によって同情されたに過ぎず、仮に別の人と戦っていたら既にこの世にはいないかもしれない。


 それだけ、七色家。という日本の裏は知るべきではないことなのだ。

 しかし、そんな暁の正論な回答に有希はどうしても納得することが出来なかった。


「私だって、それは重々承知だ。だが、今回は真桜が、真桜が連れ去られたんだぞ?」

「それでもだよ。いずれ、あいつらと同じ組織(ヽヽヽヽ)に入る可能性のある有希なら分かるだろ?」


 黄瀬暁の意味深な言葉を聞いて、奏は有希の顔を見上げた。目が合うと彼女はすぐに視線を逸らして、淋しそうな表情を浮かべながら、静かに俯いた。

 今の蒼咲有希に「完全無敵」と謳われた生徒会長の眼光は見られない。

 それだけ、今回の件がショックだったのだろう。


 その後、会話は止まってしまい、二人は無言で佇むばかりだった。

 三分ほど経過すると病室の扉が三度ノックされて二人の知り合いが隙間から顔を覗かせる。


「きょ、京子ちゃん!? 本当にここが一条くんの病室なのかな」

「渚。ここにプレートがあるじゃねぇか。ほら、ここが一条の奴の病室だよ」


 そう言って半ば強引に閉まりかけていた扉を問答無用で開けた京子はズカズカと病室の中に入って来た。そして、入り口の近くにいた暁と思わず目が合って立ち止まる。

 少し遅れて渚が眼鏡の位置を直しながら、扉を閉め入って来た。そして、立ち止まる。


「誰だ、てめぇは?」

「相変わらず、度胸はあるようだな。長門京子」

「きょ、京子ちゃん! こ、この人は三年生の先輩だよ!?」

「ふん」


 暁を知らない京子は興味無さそうに奏の元へと歩み寄って行き、近くの椅子へと座る。

 遠くでしか見たことのない七色家、そして六聖王の二人が自分の目の前にいる様子に感銘を受けながら、動揺しっぱなしの渚は、しばらくその場をウロウロと彷徨っていた。


「よお、一条。随分、コテンパンにされたらしいじゃねぇか」

「ああ、負けたよ。完全に俺の力不足だったな……」

「まさかよ、鳶姫の野郎が裏切るなんて、あたしも想像付かなかったぜ?」

「……そうだな」


ずばずば、と他の人が言えないようなことを口にする京子の発言を受けて奏は俯きだした。

 ようやく奏の様子を窺えた渚は一安心するように、その場で腰が抜ける。有希は離れた所でこれから先どうするか、ということを暁と共に話を企てていた。

 京子は浮かない顔をしている奏を見て、呆れるように苦笑する。


「お前、今、情けない顔しているな?」

「きょ、京子ちゃん!?」


 お見舞いの立場であるにも関わらず、平然と言ってはいけないことを口にする京子の言動を止めようと掌で彼女の口を覆った。

 もごもご、と声を発する京子だったが彼女の言う通り、奏は現在、情けない顔をしていた。

 京子は京子なりに奏を励まそうとしているのが何となく伝わってくる。

 本人には全くそんな気はないのだが。


「お前はさ、あたしみたいに馬鹿じゃない。ただ単に正面しか見ることのできない人間とは違って正面、背後。なんなら左右だって見ることが出来るほど頭の回転が速い奴だ。なら、あたしの言っていることがわかるだろ? こんな所で止まっていたら何にも始まらないぞ」


 京子の言葉を聞いて、奏は徐に顔を上げた。彼女と目が合うと恥ずかしそうに笑いながら、照れている。後ろにいる渚も首を頷きながら納得している。

 そして、奏は再び頭を巡らせて考える。


「先輩達。もう一度、言います! 俺に、俺達に全てを教えてください」


 有希と暁は奏の方に振り返ると険しい表情をしたまま、一つ問いかける。


「全てを知って後悔するなよ?」

「はい。覚悟は出来ています」


 奏達の真剣な表情を見て、決心がついた有希は七式家の全てをここで説明した。



 055



 ピピピピッ。


「あ、一条くん。携帯、鳴っていますよ」

「え? あ、ほんとだ」


 奏はテーブルの上にあった携帯を手に取ってメールを開いた。

 有希の話を聞いて、一時間が経過した。全てを知った奏達はこれで逃げられることは絶対に出来ない。全貌をしれば、闇に触れるということ、闇に触れれば、死ぬ可能性が今までより何十倍に高まって来る。

 それでも、奏は護りたい人がいた。


「誰からだったんですか?」

「いや、中学の頃の友達だよ。――――いや、正しくは悪友かな」

「悪友……ですか? それは何とも一条くんには合わない表現ですね」

「まあ、何となく関わっていた奴だからな。その時折、状況によって敵にもなったし」


 今回の事件(こと)のことをメールにして返信すると奏はテーブルへと携帯を置く。

 そして、現在、ジュースを買いに行った有希と暁を待っていた。


「それにしても、あたし達がこれを知っても良かったのか?」

「俺はどんな手段を使っても真桜を助けに行く。例え、一人でも助けに行く」

「危ないですよ、一人だなんて。それに私も知ってしまったんです。佐藤さんを助けたい。だから、一条くんは一人じゃありません!!」

「そうだ。これを聞いたからには、あたしだって協力する」

「ああ、ありがとう。二人共」


 そんな、決心をした三人の元へ二人の来客者がやって来る。

 前置きもなく、前フリもなく、至って普通に平常に彼はその会話に入って来た。


「たった三人で何が出来るんだ?」


 その声に気付いた三人はすぐに部屋の入り口に目を向けた。

 そこに立っていたのは白髪の青年――無道。奏達からしてみれば、何者かわからない存在。そんな彼は自分の身体を支えるようにして杖を突いていた。

 赤く鋭い目を光らせて、意味深な口振りをさせる。


「誰だ、てめぇは?」


 先ほどと同様にまるで不良のような威圧感を醸し出しながら、京子は立ち上がって入り口で佇んでいる青年を睨み付けながら、近づいて行った。

 奏は素早く渚に指示をして、京子と止めるように仕向ける。


「まあ、まあ、京子ちゃん。落ち着いて」

「何も知らねぇ奴に知っているような口振りをされるのが、あたしは一番嫌なんだよ」


 グルルルルル、と威嚇している京子を押さえながら、渚はため息をついた。そして、京子を無視すると青年は奏の寝ているベッドに近づいて行くと京子の座っていた椅子を蹴り飛ばして奏の胸ぐらを掴む。


「てめぇは何を護りたい」

「は?」

「力が欲しいって言ってたよな? なら、てめぇは力を手に入れて何を護りたい?」


 いくら、怪我をして身体が上手く動かせない奏だからと言ってm杖を突いている細々とした青年に負けるほど謙虚ではない。

 胸ぐらを掴まれたまま、奏はいつしか見せた鋭く睨み付けるような眼光で彼を視た。


「俺は全てを護るために力を手に入れたい。だから、俺は力を手に入れる」

「ふん」


 納得したのか、白髪の青年は奏から手を離して杖を突いた。椅子を引っ張って来ると堂々と座り込んだ。そこで急いだ様子の声色で、扉越しから声が聞こえてくる。


「ま、待ってよ。あっくん、速いってば!」

「あっくん?」

「遅いぞ、瑠璃」

「私が売店でお菓子買ってる隙に行っちゃう、あっくんが悪いんでしょうが」


 プンスカと怒った様子で今度は病室の中に瑠璃が入ってくる。既にわけの分からない状況に陥っている京子と渚は顔を見合わせて首を傾げていた。

 一方、瑠璃はピースサインをしながら、奏の元に近づいてくる。


「お前も大丈夫なのか? 瑠璃」

「私は全然、大丈夫だったよ。二日で完治したから、だいじょーぶ!」

「それは良かった。……それと、この白髪は一体、誰なんだ? もしかしてお前と同じ」

「ピンポーン正解。……って言いたい所なんだけど違うんだなー。あっくんは元S組所属で今はE組に、在籍中の半ば不登校の生徒なんだよねー」

『E、E組!?』


 奏を含めたE組の三人が思わず、その事実に驚きを隠せなかった。確かにE組には幾つかの空白ま席があったけれど、対して気にもしなかった。

 驚く三人を余所に白髪の青年は頭を掻きながら、赤色の瞳で瑠璃を見上げる。


「瑠璃、勝手なこと言ってんじゃねぇよ」

「ごめーんねっ」


 謝る気のない瑠璃を見て若干イラッとした白髪の青年は奏の寝ているベッドを足蹴にすると舌打ちをしながら、杖を壁に立てかける。

 そして、腕を組みながら奏の方を見た。


「朗報だ、瑠璃。どうやら、こいつはやる気だけはあるらしいぞ?」

「でしょ? だから、言ったじゃん。かなぴょんなら、絶対にやるって」

「一体、何の話をしてるんだ?」

「まあ、一つ君に問いたいことがあるんだ」


 まったく理解が出来ない奏は首を傾げて、白髪の青年と瑠璃を交互に見上げる。

 わからない奏に懇切丁寧に白髪の青年と瑠璃は答えてくれた。


「一条奏は本当に佐藤真桜を助ける覚悟はある? なにを失っても構わないっていう覚悟が」


 真剣な様子で問いかける瑠璃の言葉を聞いて奏は思わず、苦笑をする。それを見た瑠璃は間違ったことを言ったと思って少し慌てるが、そんな反応を余所に奏はその質問に対して答えを即答する。


「ある。俺は真桜を本気で救い出したい」


 その言葉を聞いて瑠璃の足取りはピタッと止まった。同様に奏の言葉に賛同するよう、京子と渚は首を縦に頷くと白髪の青年が頃合いを見計らって口を開いた。


「だってさ」

「なら、話は早い」


 そう言って白髪の青年は杖を握り、立ち上がる。

 徐に部屋の入り口まで歩いて行くと薄くなっている入り口のガラスに移った人影を見ると呆れた表情を浮かべながら、勢いよく扉を開いた。

 すると崩れ込むように人が次々と奏の病室に入り込んでくきた。


「いったたた……」

「いたいな。あと、重いから早く退いてくれないかな? 小町」

「女の子に重いなんて、めぐる失礼」

「だって事実だし」

「……痴話喧嘩はいいから、お二人さん。さっさと、僕の上から退いてくれないか」

『あ、ごめん』


 奏は久し振りに見たメンツに思わず、声を上げた。


「斑目、伊波、真由。そして、宮村さん」

「おっす。意識が戻ったって聞いたから、駆けつけて来たぜ。奏」

「大丈夫かい、一条くん。もう、動いても平気なのかい」

「ああ、大丈夫だ。心配かけたな」

「だ、本当に大丈夫ですの? 奏様! お、お怪我の具合は」

「心配しなくても、大丈夫だから」

「一条さん、初めまして。宮村小町です。めぐるとは幼馴染みをしています」

「……ご丁寧に自己紹介どうも」


 実は会ったことがあるのに自己紹介を小町から受けた奏は若干、頬を引く吊りながら四人を部屋に入室させた理由を近くで壁に寄りかかっている白髪の青年に問いただした。


「言ってるだろ? 佐藤真桜を助ける気があるのかって」

「それとこいつらを部屋の中に入れる理由がわからないんだけど……」

「簡単な話だ。聞き耳立てる奴らには同じように計画に参加して貰おうって魂胆さ」

「計画?」

「ああ。……っと、そう言えば、まだオレの名前を教えてなかったな」


 唐突に嬉しそうな表情をしながら、白髪の青年は杖を突いて奏のベッドの真正面に立った。そして、彼を取り囲むように京子、渚、瑠璃、真由、飛鳥、めぐる、小町がベッドの周りに集まっていた。

 そして、白髪の青年は杖を地面に突けると改めて名前を自分の口から紹介する。



「オレは無道木通。失われた七色家の最後の後継者して秘密組織「イージス」の一員だ」



 その瞬間、病室内にいた全員に戦慄が轟くように響き渡った。

 ただの自己紹介なはずなのに、重要すぎる語群(ワード)が多すぎて聞き間違いかと思うくらい全員がその場から動こうとしなかった。

 ただ一人、全ての事情を知っている瑠璃は除いて。

 唖然とする七名は思わず、その場で息を呑みこんだ。


 ――――失われた七色家? 最後の生き残り? それに「イージス」の一員って一体。


 そんな、誰しもが声を出せない状況の中、何事もなかったように白髪の青年――無道木通は口を開いて説明を始める。


「オレのことは詮索しない方が良い。色々と面倒なことになる。その方がお前達のためだ」

「じゃ、じゃあ、何で俺達にそんな重要なことを教えたんだよ?」

「理由は簡単だ。オレがイージスとして七色家を裏側から潰しに行く。お前達は佐藤真桜を助けに行く。互いに目的は一緒なんだ。ある程度、説明しておかないと複雑になるだろ」

「そうだけど……」


 唐突な急展開振りに奏達はついて行くことが出来ず、唯一、木通を知っていた瑠璃ですら、呆れた表情をしながら、両手を挙げて首を振った。


「ちょ、ちょっと待ってくださいですわ!」


 あっけらかんとする状況の中、真由が思わず奏と木通の会話に口をはさんだ。

 この中では恐らく一番の常識人である彼女が、満を持して木通に向かって物申す。


「イージス、というのは警察とは別に作られている超能力対策組織のことですわよね?」

「まあ、七割くらいそんなもんだ」

「七割? あとの三割はなんなんだよ」

「一つ言いたいのはオレ達の組織は表立っていない。偶にTVや新聞で取り上げられるのは、あくまでも公式に認められている能力対策組織に限っているんだ」

「つまり、お前の組織は公式には認められてないってことなのか?」

「秘密組織っていうのは認められたら、その時点で秘密じゃないだろ?」


 彼の言葉に全員が納得をした。

 しかし、それにしても風貌は高校生。実年齢も奏達と同級生にも関わらず、秘密組織という悪を罰する組織に入っているというのは意外だ。だが、雰囲気から違うのは分かる。


「佐藤真桜が連れ去られたのが事実ならば、あいつらは確実に何かをする気でいるはずだ。事実、調査をしてみたが佐藤真桜の過去は詳細に記載されていなかった。だから、彼女にも謎が隠されているわけだ」

「つまり、良い実験台ってことか」

「平たく言えばそうなる。佐藤真桜の能力も稀少な部類に入るからな」


 奏は怒りのあまり、無意識で能力を発動させていた。遠く動くはずのないテーブル、椅子が彼の引力によって微力ならが、カタカタと音を立てて揺れている。


「だから、オレを含むイージスの人間はある決断を決行することにした。佐藤真桜の奪還と同時に進行をして真の目的でイージスによる七色家の解体を行うつもりだ」


 恐らく、木通が最初に言っていたことは全てここに繋がっている。奏達は納得をした様子で頷いたが、正直な所で言えば木通のことをまだ信用しきってはいない。

 悪い空気になる。しばらく沈黙が続いていた病室に渚が緊張しながら、声を上げた。


「あの、それで作戦っていうのは七色家の人間――つまり、生徒会長、副会長、赤城さんも参加できると考えていいんですか?」

「ああ、それはだな――――」


 木通が渚の質問に答えようとするとそれを遮るように奏の病室の扉が開いた。

 そして、ただでさえ人の多い病室に二人、有希と暁が買ってきたジュースを適当に全員分、配り歩く。


「それは無理な話だな、間宮渚」

「え、それって……。というより、私の名前し、知っているんですか!?」

「生徒の名前を覚えるのは生徒会長の義務だ。当然のこと」


 生徒会長、蒼咲有希を尊敬している渚からすれば、名前を知って貰えるだけでも嬉しいのに正面で名前を呼ばれたことで更に興奮する。



「お前が今から全面戦争を仕掛けようとしているのは何処だ。七色家の裏側と言われている場所だろ? そこには七色家の人間が必ず関わっている所だ。そんな所に七色家である私達が佐藤真桜を助けに行ったとなれば、どうなると思う。全てが終わった後に確実に消される。――――そこにいる無道と同じように」



 伊御を含む多くの七色家関係者が佐藤真桜を連れ去った組織内にいる。たとえ、いなくてもスポンサーとして裏側についていることは間違いない。

 多くの資金提供をしていることもあって、七色家はこれを外部に教えることは無い。また、この秘密を秘密として隠すために毎年、多くの財政を使って六校の超能力専門学園(ヽヽヽヽヽヽ)から選抜された高能力者をボディーガードとして雇っている。

 七色家の子は無条件で計画に協力していることも多々ある。

 つまり何が言いたいのかというと、


「つまり、有希が言いたいのは関係者じゃ、口だしは出来ないってことだ」


 関係者故に、関係者だからこそ、秘密を口外することは出来ても木通の計画している作戦には参加することが出来ない。――いや、厳密に言えば計画に参加したくても出来ないと言った方が正しい。

 口籠る有希が俯きながら、椅子に腰を下ろした。彼女から受け取ったジュースを飲み干すと木通が最後の忠告と、前フリをしながら警告をしてきた。



「お前達に裏の日本を牛耳る巨大組織と真正面から戦う勇気はあるか?」



 木通の言うことは全員が重々承知のことだった。

 行おうとしていることは日本の裏で指揮をする最高統率者の組織を襲撃すると言うこと。

 たった数人の高校生だけで日本を傾かせる革命を起こす。と言っているようなものだ。

 全員が一斉に口籠り、黙り始めた。


「今なら、まだ間に合う。ここで聞いたことを一生涯、口にしないと誓ってくれるなら、オレは計画から降りてもいいとさえ思っている」

「本当にいいの、あっくん?」

「ああ。秘密を抱えながら生きるのは過酷だがこの計画で死ぬかもしれないんだ。ここで死にたくない奴にはここで降りて貰った方が足手まといにならずに済む」


 木通の突き刺さる一言が全員の思いに若干の揺らぎを生じさせる。

 いくら、自分自身の能力に自信があって負けることなんてないと、思っても敵対する相手は日本屈指の高能力者を勢揃いさせた言わば、最強の能力者集団である。負ける可能性は勝つ可能性よりも確実に高い。


 奏は有希から受け取った「コラコーラ」を見下ろして、しばらく考えた。


「…………俺は」


 今までの真桜との思い出が頭の中に流れ込むように記憶の中から蘇ってくる。

 そして、思い出すのは奏が「勇者」で真桜が「魔王」と告白した時の記憶。――――全てはその時から始まったんだと瞳を閉じて、瞼裏に映像が見える。

 ゆっくりと、思い出のコラコーラを飲み干して奏は静かに目を開いた。


「大事な物を奪われて「はいそうですか」って、見過ごせるわけないだろ。絶対に真桜を連れ戻す。それに伊御から、一発喰らったお返しもしてやらないといけないからな」


 奏の意気込みを聞き、木通は静かに笑った。

 そして、それに続くように仲間達が決意表明のような言葉を揃えて告げていく。

 友達を連れ去られて地上最強組織だからって諦める奴はここにはいない。ここにいるのは、どんな強敵にでも立ち向かっていく志高き九人の能力者(ゆうしゃ)だった。


「いいだろう、お前らの熱意は伝わった」


 木通はそう告げる。

 そして、続けて概要を説明し始める。


「佐藤真桜奪還。及び七色家の裏側を解体する日時は一週間後の六月十一日とする。各自、有意義な時を過ごすと良い。もしかしたら、もう戻って来られないかもしれないからな」


 高笑いをしながら、木通は杖を突いて病室から退室していった。瑠璃が彼について行くと、扉の前で急に立ち止まった木通と接触し、鼻を赤くしながら泣き叫ぶ。


「あっくん!」

「それと一条。明日、ここに迎えに来る。お前にはオレ直々に特訓を施してやる」


 病人の奏に対して、スパルタな言葉を残して木通と瑠璃は病室から去って行った。まるで、風邪の如くあっという間に消えて行った二人だった。

 しばらくすると部屋の隅で暁と共に呆けていた有希がベッドの横に立ち、口を開く。


「一条奏。佐藤真桜のことよろしく頼む。このことは他言無用にするし、出来る限り協力もするつもりだ。私は何もできない。無論、赤城千歳も暁も」


 それは「蒼咲家、蒼咲有希」としてではなく「神代学園生徒会長、蒼咲有希」として発言をしてくれた。どれだけ彼女が自分の学園の生徒を愛しているのか、今の発言で分かる。

 悔しそうにする有希を前に、奏はすぐに手を差し伸ばした。



「大丈夫です。必ず、絶対に真桜を連れてもう一度、この街に戻ってきますから」



 これは神代学園の問題でもあり、

 七色家の存亡でもあり、

 佐藤真桜の友人としてでもあり、

 一条奏、という前世から因縁のある彼女の大切な人が護り通す出来事である。


 何も語らなくても、ここにいる全員が何を言いたいのかが分かるような気がしてきた。皆の意思疎通が明確となっていった。――――全員、真桜を救いたい。と、願う。

 そして、木通と瑠璃と皮切りに京子、渚、飛鳥、真由、めぐる、小町、そして、有希と暁が奏の病室を退出していった。


 次に会うのは恐らく一週間後。――――革命。そして、決戦の日である。


 六月十一日。

 これは恐らく日本の歴史上、七色家を語る上では隠しきれない大事件の日になるだろう。


 奏は誰もいなくなった病室で静かに鳴るバイブレーションに気付いて携帯に手を伸ばした。



 ――――そして、一週間後。運命の十八時間が動き出す。




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