第四話「新入生代表」
「ご紹介を受けました。新入生代表の佐藤真桜です」
冷静な口振りと淡々と物事を喋る口調の真桜は紙に書いている内容を喋っていく。
「――――この学校は主に六のクラスに分かれていますが私は分け隔てなく、どのクラスの人とも仲良くしたいと思っているのでぜひ気軽に声を掛けてください」
真桜は胸元についている五部咲きのエンブレムを触りながらそう告げた。
この学生には入学と同時にクラス発表とエンブレムを手渡される。花弁が六つに分けられた綺麗な桜のマーク。この学校の校章としても有名であり、玄関前の桜はかなり有名だった。
E組が一部咲きの桜の花びらが付いている。クラスが一つ上がっていくごとに花びらは増えていきA組は五部咲きとなる。
丁寧な新入生代表、だがそれはあくまで教員達から見ての感想であった。
この学校は言わば競争社会。上にいる人は下の者を蹴飛ばして、さらに上に上がる。下にいる者は上にいる者をなぎ倒して上に上がっていく。よってこの学校で「仲良く」というワードは「挑戦を受ける」と解釈して貰っても構わないくらいの言葉であった。
佐藤真桜は新入生に対して宣戦布告を送ったという解釈である。
「……流石、新入生代表。頭がぶっとんでるな」
隣で眠っている伊御を無視して奏は静かに笑う。「最強のA組」その中での「最強」が自分を蹴落とせと格下に宣戦布告を送っているようにこの場にいる全員は考えた。
対抗心を燃やしている者、諦めの早い者。
多種多様にいる中で奏は壇上を降りる真桜を見て静かに眉をひそめた。
「……あいつ、どこかで見たことあるんだよな」
昔の記憶を引っ張り上げるが奏は思い出せないため、諦める。
新入生代表、佐藤真桜が壇上を完全に降りて赤髪の少女の隣の席に腰を下ろすと教員の一人がマイク元に立って進行を再開した。
次に言い渡された言葉はこの場にいる全員が身を震わせながら待ち望む待望の人物だった。現在の学園の中で最も権力の高い、そして、最強と謳われた麗しき端麗な美女。
現在、百四十戦全勝の歴代最強の生徒会長の登壇である。
「続いて生徒会長から新入生への言葉を拝聴させて頂きます」
真桜に負けず劣らず甲高い声を上げた生徒会長は壇上を昇っていく。奏は生徒会長を見た途端に彼女が普通の人間ではないと瞬時に判断出来た。
群を抜いて力のレベルが違う雰囲気。
一瞬でも目が合えば殺されるのではないかと思う程の殺伐とした空気が全身の毛を立たせる。
「おほん」と咳き付いた生徒会長は紙を広げてマイクに口元を近づける。
「生徒会長の――――」
生徒会長が喋り出した途端、ハウリングが起きてスピーカーからは『キーン』と耳障りの音が体育館に響き渡る。
思わず全員が耳を塞いで、ざわざわとし始めるがマイクを直した生徒会長は改めて咳き付くと小さな声で自己紹介するとハウリングが起こらず一安心して声のボリュームを上げた。
「改めまして生徒会長の蒼咲有希だ。先ほどは申し訳なかった」
改めて謝罪を込めると生徒会長――――蒼咲有希は紙を広げる。眠っていた伊御も思わず騒ぎながら、跳び起きてしまうほどハウリングの効果は凄く一瞬にして体育館にいる人の目は有希の方へと集中する。
伊御への肘打ちを終えた奏は脚を組んで静かに有希の言葉を待つ。不穏な表情でゆっくりと伊御は有希から目を逸らしたが奏は気づいていない。
「最初に言っておく。私は七色家の蒼を象徴する蒼咲家の人間だ。だから生徒会長というわけではない。私は幼い頃から天才的な才能と言われて、囃し立てられた。だから才能に見合った自分を作るために努力を欠かしたことは無い。生まれながらに勝ち組、と誰もが思うだろう。しかし、私は今の地位を今の能力を自分の力で手に入れた。だから、クラスは関係ない。お前達は今日からこの学校の生徒だ。この学校は実力が全てだ。七色家、それに伴う名家は関係ない。――――自分の未来は自分の力で掴め。以上だ」
颯爽と言い終えた有希は礼もせずに壇上を下る。それを見送るように教師達と生徒は一斉に拍手喝采を巻き起こしていた。
ただ、E組の人間はパラパラとしか拍手をしていない。
当然だ。
上の人間が言えば何でもその通りになる。蒼咲有希がそれを自分の力で手に入れたと言っているが会長選挙での勝敗は圧倒的な支持率と知名度。七色家に勝てる人間など七色家の人間しかいないとまで言われるくらいだ。
つまり何を言いたいのかというと――――、
「所詮、勝ち組は一生勝ち組。負け組は一生負け組なんだよな」
有希の言葉を全否定するように奏は小さく呟いた。
あざ笑うように失笑すると足を組み替える。
「ん? 何か言ったか、奏」
「いや、何でもない。ただ生徒会長が気に入らないだけさ」
「蒼咲さんね。俺もあの人は苦手だ」
「ああ、そう言えばお前も七色家の人間だったもんな」
「……知ってたのか?」
トーンの低い声であからさまに動揺した伊御は小さく奏に聞き返す。
「確かにお前は知らない。だけど、七色家くらいは誰もが知っているだろ。最古にして最強の七人の子孫が七色家、その最強の遺伝子がお前にもあることは名前を聞いた時からわかってたよ」
「じゃあなんで何も聞かないんだ……?」
最古にして最強の遺伝子を持っている鳶姫伊御。その七色家の人間が何故E組にいるのかは最大にして最高の難題だと考えられる。伊御本人でも思っているくらいだ。
「鳶姫の恥さらし」として育てられた伊御は自分よりも一つ上の出来のいい姉と常に比べられていたことを思い出して下唇をかみしめる。
席に着いた伊御を待ち構えるように欠伸をし終えた奏は口を開いた。
「別にお前が鳶姫で最強の遺伝子であろうが、お前はお前じゃん。だったら、俺は鳶姫のお前じゃなくて伊御としてのお前と友達になったんだ。別に聞く必要はないだろ?」
「か、奏……」
「抱きつくなよ。抱きついたら殺すからな」
「相変わらず言い方がキツイ。出会って一時間も満たないとは思えない信頼関係だな」
「まったく、扱いやすいよ。お前は」
伊御の顔を見て笑った奏は静かに壇上の方へと目を向けた。
そこには二十代前半の若々しい女性が壇上で喋っている。身なりも一流、喋り方も、何を置いても目を疑うほど綺麗で美しい人だと奏はふと目を奪われた。
校長先生よりも地位の高い人間――――理事長先生の話を聞く。
「今年は百五十五名の生徒が入学してくれました。その中には七色家の人間もいます。なんと今年で七色家全員が我が高校に通うことになりました。一年生には赤城あかぎと鳶姫と紫原の三名。二年生には鳶姫と黒瀧と白槇の三名。三年生には黄瀬と蒼咲と紫原の三名が在籍しています。この九人の名家の人に負けぬように他の生徒達も日々精進を心掛けてください」
「今年のクラス対抗トーナメントも波乱の予感。私達もぜひ見に行くのでA組も他の組も頑張って、勝ち残ってくださいね」
ステップを踏みながら壇上を降りて行った理事長先生。雅な容姿とは裏腹にマイクを通して平気で鼻歌が聞こえてくるくらいお気楽な理事長のようである。
ようやく入学式の全ての工程が終了し、最後に校長による入学式を閉じる言葉で終わった。
「それでは各自教室に戻って先生の指示を受けて下さい」
業務的な声が聞こえると一時間以上座っていた腰は酷く疲れていたようで立ち上がると少しだけ目眩がして、クラクラと足取りが不安定になる。
そんな様子を伊御と笑いながら行って体育館を出る長蛇の列に並んだ。
「それにしても長かったな、入学式」
「新入生代表、生徒会長の話、理事長の話はいい情報源になったけどな」
「さて、教室に帰ったら何するのかな? 今日は午前で終わると思うだろうけど」
「さあな。たぶん、今後の授業云々の話だろ」
「あ、そっかー」
伊御はポケットに手を入れて、ケタケタと笑っている。どれがツボだったのかわからないが取りあえず同じように軽く微笑む奏。
ずらずらと並んでいる長蛇の列は一向に進む気配がないのか、生徒達の怒りは募っていく。
「まだかよー」
「おせーぞ」
「一番前の奴、何してんだよ!!」
野次が飛んでいるが何も返答はなく、その三人組は周囲を睨み付けると舌打ちをした。
「ありゃりゃー、怖いね。あの三人組」
「そうか? ただ粋がっている奴らにしか見えないけど」
そんな三人組の怒りは自分達よりもクラスの低い奴らへと向けられる。無駄に列を離れると少し離れた場所に強引に入り込んだ。
入り込まれた生徒は突き飛ばされて反対側へと尻餅を付く。
その様子を見て三人組は指を指して大きく笑う。
「ぎゃははは、だっせー」
「お前らみたいな奴はこの学校にいる価値ねーよ」
「さっさと止めちまえー」
非難の言葉が続く。
三人組の胸元に付けられているエンブレムは三部咲き――つまりはC組だった。中途半端なクラスの奴らは時々、こうやって下の人間を甚振って上からの圧力から逃げている。
楽しそうにケタケタと笑っている三人組に怒りを覚えた伊御は無言で向かっていく。
「止めとけ、伊御」
歩き出した伊御の手を掴んだ奏はいつもより低い声で伊御を止めた。
「だけどよ、奏。あいつら、可哀そうじゃねぇか」
「考えても見ろ。あいつらは二部咲き――つまりは俺らより一つ上のD組だ。そのD組が自分より低い奴に助けられてみろよ。屈辱以外の何物でもないだろ」
「だ、だけど。俺はあの三人組を黙って見ているほど穏やかじゃねぇぞ!!」
「安心しろ、伊御。俺も馬鹿にしている奴を呑気に逃すほど落ちぶれては無い」
奏は伊御の手を離して、ゆっくりと深呼吸をする。同じように伊御も深呼吸をするとその場にいる自分達より上のクラスの人達に全てを託した。
笑いながら、周囲の視線を払って三人は強引に前へと進んでいく。
だが、そんな彼らの前に一人の生徒が立ち塞がる。
「てめぇは!」
『佐藤真桜!!』
「私の名前を知っているとは感心しますね。ですが、私はアナタ方のような下等な人間の名前は知りません。いえ、知りたくありませんと言った方がいいですか。アナタ方の名前を聞くと脳内を無駄に使うので出来れば名前を名乗らないで貰いたいです」
一瞬にして空気が三人組から新入生代表、佐藤真桜へと逆転する。隣には赤髪の少女、赤城千歳が自慢そうな表情で三人組を眺めていた。
明らかに場の空気が悪くなったことに気付いた三人は周囲を見渡して反論をする。
「お、俺達が何をしたって言うんだよ!」
「下のクラスを馬鹿にして何が悪い。生徒会長も言ってただろ! ここは実力の世界だって」
「そうだそうだ!!」
段々と三人組の立場が怪しくなる。
周囲の人間は完全に真桜の方へと歩み寄って、三人は絶体絶命の危機に落ちていた。
「そうですね。確かにこの学校――いえ、この世界は実力の世界です。ですが幾ら実力に優れていて才能を勝ち取っている人間でも他者を貶している人間に――――他の人が付いていくと思いますか?」
三人組を睨み付けた真桜の目元が鋭く光る。
その様子に身を引いた三人組は体を震わせながら、再び周囲を見渡した。そこは既に包囲された場所、密閉された牢獄のように三人組を見るように全員が睨み付ける。
ある人は自分と同じ境遇をした人のために怒り。
ある人は三人組と同じクラスとして恥ずかしさを感じて、呆れて睨み。
ある人は自分よりも下の奴らが馬鹿なことをしていると鼻で笑うように睨み続ける。
「うるせぇ、うるせぇ!」
「俺達は何もしてねぇよ。あいつがただ転んだだけだろ!」
「全面的にあいつがわりーよ!!」
開き直った三人は目の前で静かに見つめる真桜へと反論をする。隣にいた千歳の掌からは、バレーボール程度の炎が錬成されていく。
「千歳さん。原則として校内では能力の使用は禁止です」
「わかっとる。わかっておるが、こやつらは馬鹿馬鹿しくて見て居られん」
「わかります。私もそう思っていますから」
「――――んだとぉぉ!!」
癇癪の切れた一人が顔を真っ赤にして真桜へと拳を振りかぶった。思わず全員が驚き、一瞬だけ目を閉じる。だが、数秒後聞こえてきたのは鈍い音と男性の悲鳴だけだった。
「い、いてぇぇ」
「危ないじゃないですか、いきなり手を出してきて」
「てめぇ、何しやがった!」
「何って殴りかかって来た手を掴んで反対方向に曲げただけですけど?」
ニヒルな笑みを浮かべて真桜は再び優位に立つ。
完全に打つ手のなくなった三人は腕の折れた一人を抱えるように体育館から逃げて行った。
逃げて行った三人が完全に体育館からいなくなった直後、体育館の中は生徒会長の話さながらの拍手喝采が巻き起こる。
ちなみにE組の人間はまたもしていない。というより最後尾で何が起こっているのかいまいちわかっていないので拍手をしないのかもしれない。
そして拍手喝采の中、真桜は尻餅を付いた生徒へと救いの手を差し伸ばした。
「あ、ありがとうございます!」
「人間として当たり前のことをしているだけです。お礼を言われることはありません」
つくづく出来た人間だとこの時、体育館にいた全員は誰しもが思っていた。その後に先生の指示で再び生徒は体育館を出て行った。
そして、最後まで体育館に残った真桜と千歳は静かに顔を見合う。
「流石は首席じゃな。出来た人間じゃよ」
「私は当たり前のことをしたまでです。それに私よりも先に動こうとした人もいましたし」
「そんな奴いたかの?」
「ええ、いましたよ。千歳さんには視えなかったかもしれませんが私には鮮明に」
真桜が思い返していたのは数分前の光景。黒髪の優しそうな生徒と金髪のチャラい生徒が尻餅を付いた人を助ける云々で揉め合っていた所を見て自分が動いたことを。
そして帰り際に過ぎていく生徒を見た中ではその二人は既にいなかったことも。
「さて、後はあの二人に任せるとしましょうか」
「何をしておるか、真桜。さっさと妾達も教室に戻るぞ」
「わかりました。それでは行きましょうか」
誰もいなくなった体育館をもう一度振り返ると真桜は静かにあの少年を思い出した。
そして、友人である千歳に一言告げると颯爽と何処かへと走り去って行った。
006
「ち、ちくしょ。何でこんなことに」
「い、いてぇよ」
「しかたねぇ、保健室にでも連れて行くか」
体育館の裏側を一人の生徒を引きずりながら、三人は歩いて行った。しかし、そんな三人の前に突如謎の影が覆われる。曇りでもないのにと、三人は思わず真上を見上げた。
するとそこには建物の上で待ち構えるように立っている奏と伊御の姿があった。
「な、なんだ。てめぇら!」
「何だって言われてもな」
「気まぐれな正義の味方、とでも言っておくよ。お三方」
三人を見下ろす奏と伊御は終始満面の笑みで睨み付ける。そんな様子の二人に怒りを感じた三人は二人の胸元についているエンブレムを見て思わず口から噴き出した。
そして左右にいる二人に教えると伝染するように口から声を噴き出した。
「ぶっ、何カッコつけてる馬鹿がいると思ったらお前らE組じゃねぇか」
「まさかA組の奴にのこのこ逃げてきた俺達を見て倒せると思ったのか?」
「ムダムダァ! お前ら程度に俺ら三人で相手することもねぇーよ」
二人がE組だと分かった途端に態度を入れ替えて腹から声を上げる三人は思わずその場に蹲った。失笑ではなく大笑い。声を荒立てながら息が止まるくらい笑った三人は涙を浮かべながら立ち上がる。
そんな様子を見て無表情で待ち構える奏と伊御は静かに無言で見下した。
「お前ら程度に勝てるはずねぇんだよ!」
「落ちこぼれは落ちこぼれらしく、地面でも這いつくばってやがれ」
「ぎゃはははは、劣等生が」
そんな三人を見下している奏と伊御は同じタイミングで、静かに鼻で笑った。
「さて、どっちが落ちこぼれか」
「よく言うだろ。馬鹿っていう奴が馬鹿だって」
まったくもって的外れなことを言っている伊御はスルーしておいて、奏は静かに微笑みながら再び三人のことを見下すような発言をする。
段々と腹が立ってきた三人は見上げるように奏達を見て腕を上げた。
「てめぇら、降りて来い。相手になってやるよ」
「あいつらなんて俺一人で十分だぜ」
「……だってよ、伊御。降りろだって」
「え、俺が行くの? ここに上がるの結構苦労したんだけどな」
「俺も下に降りたくない。ここまで来るの一苦労した」
「じゃあ、どうする?」
「じゃんけんで決めようぜ。負けた方が先に降りる」
「よし! それのった」
じゃんけんというあまりにも相手を馬鹿にした方法だったが奏達は真剣そのものだった。
二十数メートルも上の場所に昇って、じゃんけんをすることもないと思うがそんなこと今の彼らには関係ない。
気合よく、二人は同時に拳を伸ばし、そして伊御が負けた。
「負けた―」
「お前、あいつらに勝てる勝算あるのか?」
「馬鹿言うなよ、奏。俺は仮にも七色家の一人だぜ? 雑魚に負ける気はしないっ!!」
ピースを決めた後、二十メートルはある建物から地面へとジャンプする。思わず飛び降りた伊御の様子に驚いた三人は煙が立ち昇ると失笑し始める。
「ぎゃははは、一人おっちんだぞ」
「だっせー。まじ、だっせー」
「さーて、一人は片付いたから上の奴、さっさと降りて来いよ」
勝ち誇りながら上に残った奏を見る三人を見下ろしながら奏は告げる。
「お前らの相手は伊御がしてくれるさ」
『ああ!?』
そう告げると立ち上がっていた土煙が一瞬で吹き飛んだ。中からは咳き込みながら三人の方へと向かう伊御の姿があった。
二十メートルの高さから落ちて無事で済むのか? と驚きながら三人は伊御を見る。
「あー、流石に今のは死ぬかと思った」
『いや、普通死ぬだろ!!!』
意外と平気そうな口ぶりで登場する伊御に思わず三人は大声を上げてツッコんだ。
息を切らしながら、ツッコミをした三人はすぐさま冷静になると目の前の相手に攻撃態勢を構えると、それぞれの能力を発動する。
「俺の能力は身体強化。てめぇの全身の骨を砕いてやる」
全身が光始めた生徒の隣は、青々とした球を浮かばせる。
「俺の能力は水球衝撃。圧縮した水の痛さ、お前は知ってるか?」
螺旋のようにねじ曲がる水を浮かばせる生徒の隣は、空間を斬る。
「俺の能力は空間切断。まあ、まだ七cmしか斬れないけどな!!」
その様子を上から見ていた奏は高みの見物とばかりに伊御の方を見ては七色家である伊御の実力を知るいい機会を今か今かと待ち望んでいた。
――――さて、魅せて貰おうか。七色家の鳶姫の実力を。
そんな奏の思惑とは裏腹に伊御はゆっくりと両手を上に挙げて、降参のポーズをする。
「ぎゃはは、ようやく負けを認めたか」
「けどな、俺達の怒りは収まらねェ!!」
「さっさと死んじまいなっ!」
三人の攻撃が同時に襲いかかる。
前方からは身体強化をした男がタックルをしてくる。
左右からは水球衝撃がカーブを描きながら飛んでくる。
真上からは空間切断によって作られた異次元より攻撃が降りかかってくる。
『死ねェェェェェェェェェ!!!』
これぞまさに三位一体と思えるほどチームプレーのたけている攻撃がE組の落ちこぼれにして七色家の鳶姫の姓を持つ伊御へと襲い掛かってくる。
だが、伊御は至って平常な表情を浮かべながらゆっくりと挙げていた両手を下ろした。
「重力操作。――負荷」
ただ、一言だけ伊御が能力名を叫んだ瞬間、三人の真上の空気が歪み、一瞬にして潰れた。
その衝撃で放たれた攻撃は全て掻き消え、あっという間に形勢は逆転されてしまう。
キリキリと音を立てながら段々と負荷は募っていき、最終的に三人の地面は酷くへこんだ。
白眼を浮かべながら三人は地面で気絶している。そんな、様子を確認した伊御は重力操作を解除させると二十メートル上に立っている奏に向かって手を振った。
「流石、腐っても七色家。……これは楽しい学園生活になりそうだな」
楽しそうにはしゃぐ、伊御に手を振り返して上げると奏はこれからの学園生活が考えていた何倍以上の面白さがあると少しだけ、ここに編入してきて良かったと思ってきた。
そんな二人を余所にこの現場を目撃していた一人の少女がいた。
ただ、奏も伊御にも気づかれないまま、少女はこの場を去って行った。
これから、出会う二人の人生の交差。
分岐点はもう、通り過ぎていた。