第十五話「超新星vs.栖鳳姫君Ⅱ」
パッと、高々に決め台詞を奏に向かって告げた真由の姿が一瞬にして消える。
足音もなく、姿かたちすらない。
奏は両目を閉じると、今は必要のない視覚に使っている集中力を全て、聴覚に向けながら、自分の感覚にゆだねながら相手の攻撃をひたすら察知する。
同じクラスメイト、斑目飛鳥の能力を知っている奏はこれが屈折による一時的に相手の死角へと強制的に自分を置くと言う技ではないことは闘っている間に分かって来た。
と、なると――――考えた先に視える答えはたった一つであることは明白である。
――――トン。
足音が背後からしなやかに鳴り響いた。
瞬間、足音の下方向に向かって振り返りながら、奏は掌で創り上げた黒の渦を投げつける。強力な引力が移動を終えた真由を引き寄せようとするも、彼女は再び姿を消した。
即座に逃げられたことに対し、舌打ちをした奏はすぐに周囲に向かって気を張りなおす。
「……ッ、厄介だな。その能力!」
色々な方向に回って相手が何処から出現してくるか終始確認を続ける奏であるが真由の力は彼が思っている以上に強く、太刀打ちをすることが出来なかった。
打開策は何かないか。考えながら、後方を確認しつつ、月明かりが射し込む廊下を走った。
「ここですわよ」
刹那、声の方向に身体を向けると容赦のない、真由の打撃が奏の身体に鞭を振るう。幾ら、か弱い乙女と言っても、彼女はA組。戦闘技術、戦闘能力は圧倒的に高い。
受け止めることが出来ないまま、奏は吹き飛ばされて扉を破壊し、部屋に飛び込んでいく。
「く、はっ」
壁に追突し、コンクリートの床に落ちた。
幸いだったのが窓ガラスを突き破って外に出なかったことだろう。もしも、外に出た場合、広い場所で戦うなど相手をより有利にしてしまうことだろう。
震える手を床に付けて、立ち上がると苦しそうに息を上げて目の前で凛と立ち振る舞う敵を見据えた。余裕と言わんばかりに彼女は目が合うと、微笑み返してくる。
心の底から、嫌気がした。
「まだまだ、わたくしの力はこの程度じゃありませんのよ」
逃げ場のない、行き止まり。そんな追い詰められた状況にある奏に追い打ちを掛けるように大胆不敵に真由は告げる。手の内を敵に明かそうと文字通り、異空間に手を突っ込んだ。
少々、掌の先が歪んで引っ張り上げる真由の声と共に奏の視界には反則級の武器が見える。照らされて、青々とした外装と長い銃口が敵である、自身へと向けられた。
「おいおい、反則じゃねぇか」
空笑いしかでない。
そんな、彼に銃口を向けながら、艶美な金色の妖精は告げる。
「それがなにか?」
トリガーに手を伸ばした途端、先端には光が凝縮されて、光エネルギーが充電され始める。音を上げて静かに光の威力は威力を増していく。
刹那、部屋の反対側にいる奏に向かって一直線に閃光が突き抜けた。
「ブルー・キャノン」
短く、そう一言だけ告げた。
青白く光り輝いた銃口から放たれた一閃の攻撃はコンマ数秒前に退避をした奏の居た場所に光速で通過していく。まるで閃光が凝縮されて一挙に放たれたように、その威力、破壊力は絶大で瞬時に奏のいる、部屋を半分破壊していった。
そして、突き抜けて行った閃光は空彼方へと飛んでいった。
「最初に見た光もあれだったのか……」
あれを喰らっていたら、と想像するだけでゾッとする。
武器の使用が認められているこの大会で武器を使う人間は限りなく少ない。いるとすれば、それは真由などの能力単体のみでは力を発揮できない、補助能力を持っている人間くらいだ。
まあ、月凪暦という例外もいるが。
「その様子だと運よく逃げられたみたいですわね」
青色の銃が消える。
放たれた砲撃によって部屋が半壊。そのお蔭か、先ほどよりも鮮明に相手の姿が見えるようになった。月明かりに光輝いて、真由はしたり顔で焦りながら膝を付く奏の安否を確認する。
「先ほどの銃は、わたくしの愛用の銃。ブルー・サテライトと申しましてよ」
「聞いてもない説明をありがとう」
「いえいえ、お礼なんて結構ですわ。その代りと言ってはなんですが、勝ちを譲ってくださいませんこと?」
そう告げる声が前方から、瞬時に後方へと切り替わる。
奏が彼女の方を向くと微笑みながら、真由は告げる。
「嫌だ、ねっ!」
無邪気に舌をさらけ出しながら、奏は両手に黒い渦を錬成させる。
「闇屑星」
投げ飛ばし、相手が移動する前に、相手の行動を封じる。
引力によって途轍もない力で吸い寄せられるその力に流石の真由も苦戦し、悔しそうな顔を浮かべると足元で吸い寄せられている力から逃れようと必死になっていた。
「今の内に……」
「ちょ、ちょっと! 待ちなさい!」
姿を晦ませた奏は取りあえず、まだ安全であろう部屋へと侵入し息を殺し、身を潜める。
残り時間は既に十分を過ぎ、勝敗は二勝一敗。やや「超新星」が勝っていた。
しかし、両者共にリーダーマークが左腕に付いている。そのため、奏がもしこの場で真由にやられるとその時点でA組の勝利が確定して、E組は敗退してしまう。
それだけは避けたかった。
他のメンバーが命がけで戦っている。その思いを無駄にはしたくない。
「どうする、相手の能力は攻略が難しい」
引き寄せられる時間は四十秒。しかも、一定以上に遠く離れてしまうと効果が無くなる。
駆け引きは非常に重要。そして、相手の能力を打開する案を考えなければいけない。難しいメンバーの熱い思いを背負って、奏は奮い立っている。負けるわけにはいかない。
「ふぅ……」
四方を壁で囲んだ少し大きな広間に辿り着いた彼は、その中央で突然、足を止めた。
ゆっくりと大きく息をついて、吸う。それを幾度か繰り返すと今までに感じたことのない、奏が真剣になった表情が浮き上がる。
感覚を研ぎ澄ます。
「…………敵は一人だ、焦ることはない」
目を瞑ると暗闇が訪れた。
何も見えない闇の中で、しばらく気を張り続けていると左方向に何かが現れる気配を察知。即座に半歩、後ろに体勢を逸らすと目の前を青白い閃光が突き抜けて行った。
そして、右方向の壁は見事に破壊され、月夜が見える。
「なっ!?」
驚く真由は大慌てで再度、トリガーを握りしめた。
しかし、そこから何度攻撃を放っても全て目を瞑った奏の紙一重で避けられてしまう。
「……わかる」
いつのまにか、自分も気づかない内に一条奏は進化を遂げていた。
貪欲に、貪欲なまま、戦いを続けることによって次から次へと知識を吸収していく。それが一条奏にしか出来ない究極の戦闘戦術。
「目で見て避ける」のではない。「肌で感じて回避する」ことが奏の中で可能となった。
すなわち、人知れずに奏は「第六感」という力を蓄え、開花させていた。
全七発の「ブルー・キャノン」を全て回避した奏は動揺を隠せない真由をさらに追い詰めるために導きだした推論を彼女に告げた。
「お前の能力、大よそ理解できた」
それを聞いて真由のトリガーを引こうとする指先が止まる。
そして、銃の側面を見ていた彼女の顔が徐々に奏へと向けられていった。
「最上真由、お前の能力は瞬間移動――――ではなく、空間を移動できる空間移動だな」
真由の表情が少し青ざめた。
空間移動。
恐らく最も有名で、最もシンプルに代表的な超能力である。
誰もが知っている超有名な超能力。それが空間移動、瞬間移動。
しかし、誰もが知っている常識に反して、それを能力として所持している能力者は少数しか存在しない。詳しいことは判ってはいないが世界の倫理に背くような非科学的な超能力――例えば、間宮渚が持つ力。奏、真桜、それにめぐると言った未だに保有数の少ない超能力と同レベルで所持している人間は少ない。
故にそう言った能力者は多少、優遇はされる。
彼女――最上真由が優遇をされて、その地位にいるのかは今の奏には判らないが、とにかく対策を練らない限りは能力が判明をしても攻略することは難しいだろう。
現に能力名を言われても、少し動揺をしただけで真由は平然とした立ち振る舞いを見せる。
「空間移動。それは次元と次元を瞬時に移動する超演算型の能力ですわ」
移動関連の能力が世に出ないのは使用するのに演算が必要だからという一説もある。
彼女の能力は文字通り、空間を移動する能力。
これがもし、瞬間を移動する能力ならば演算はいらず手で触れた物質のみを移動することが出来る。
しかし、空間移動は手で触れた物質と目視をしていない別の場所への長距離移動が出来る。その反面、能力を使用するには過度な演算能力が必要な為、頭が良くないと連続して使用は難しい。
「普段は持ち歩くことの出来ない愛銃を攻撃の起点にすることが出来ると言うことですわ」
それが瞬間移動ではなく、空間移動と奏が判断出来た理由でもあった。
しかし、それが分かったとしても奏に太刀打ちできる策はない。
空間が歪み、再び真由の倍以上ある愛銃、ブルー・サテライトが右手に収まる。
そして、五メートルもない距離で銃口が奏の顔面スレスレまでに近づくと彼女は躊躇いなく奏が反応を取る隙もなく、引き金を引いた。
窓ガラスが割れ、地面へと落ちる。
砕け、破片が部屋へと飛び散る。
青白い光輝く閃光は壁を突き抜けて星空へと飛んで行った。
「外しましたか」
悔しがることも束の間、前方から迫ってくる奏を黙示して真由はブルー・サテライトを移動させると、殴り掛かってくる奏を回避する。
大きいブルー・サテライトを手放した真由は背中を見せる、奏に向かって殴りかかった。
「がっ……」
無防備な奏の背中に真由の一撃が当たる。態勢が崩れて前のめりに床に倒れてしまう。
即座にブルー・サテライトを移動させて、うつ伏せで倒れている奏に向かって銃を向ける。蓄電された閃光が眩い耀きと共に彼を覆い尽くした。
「ゲームセット、ですわね」
入り口に背を向けて半壊した部屋を更に壊すように青白い閃光が突き抜けた。
しばらくすると眩い耀きに目が慣れて真由は拭いながら、ブルー・サテライトをしまった。
目の前には誰もいない。
見えるのは真由がいる位置から、正面全てが自身の閃光によって破壊された光景だった。
「やりましたか……」
ほっ、とため息をついた。
これで勝負は二対二。しかし、一条奏がリーダーであるため、栖鳳姫君の勝利は確定した。彼女は少し嬉しい反面、少し遣り甲斐のない感情に心がよどむ。
まだ、一条奏を倒していないと感覚が頭の中で囁いている。
「取りあえず、油断は出来ませんわ」
そういいつつ、真由は荒れる現場を後にした。
廊下を歩く足音が響き、そして、その音が聞こえなくなった頃、奏は今まで争っていた場に降り立った。裾の中に隠しておいた、ワイヤーを仕舞い込んだ。
「あっぶねぇ……、流石に今の攻撃は死ぬかと思ったぞ。それにしても、あいつの言う通り壁を昇る為のワイヤー、用意しておいて良かった」
ぶっつけ本番ではあったが青白い閃光が放たれる前、破壊された壁から必死に飛び降りた。下の階まで降りることは出来なかったので、中間の場所で強度なワイヤーを引っ掛けた奏は九死に一生を得る。
冷や汗を拭いながら、奏は静かに扉を開けて廊下の様子を窺った。
「どうやら、あいつは別の場所に行ったみたいだな」
何故、真由が移動したのか奏に理解できないが取りあえず、彼女がいなくなったことで再び元の場所に移動することが出来たので良いとしよう。
出来れば奇襲を掛けたい奏はその場に座り込むと、今までの戦況を整理する。
「……考えるんだ」
洋服の中にある金属で出来た丸い細長い容器を眺めながら、思考を張り巡らせる。
頭の中で全てを試行錯誤し、勝利までの道筋を立てる。幾つか、必要なワードが浮かんだ。
「相手の能力は連続で使うことは難しい。ならば、連続で回避しないと難しい攻撃を撃つ。そのためには、あいつの動きを拘束しないといけない。それは能力で対処しよう」
五分。いや、体感的にはもっと掛かったかもしれない。
勝機までのルートを立てることが出来た、奏はゆっくりと目を開く。凛々しい表情で前方を見つめる。満月が壊れた壁から、覗きこんでいた。
「さて、反撃といこうか。E組はE組のやり方で、な」
反撃の好機は整った。
仲間の気持ちを胸に抱き、超新星リーダーの一条奏は下剋上と立ち向かう。
040
最上真由は困惑としていた。
既に時刻は一時間を過ぎようとしている。制限時間はない準決勝だが時間が長く経過すればするほど、体力的な問題が発生する。
幾ら、A組と言えど女性。一般的な高校生の体力よりは高いかも知れないが、それでも男と比較すると大きく差があることは一目瞭然である。
「はあ……、流石に連続で使用するのは少々、キツイですわね」
更に幾度も空間移動を使用したこともあって真由の体力は既に限界近かった。
近くの壁に手をついて息を何度もしながら、暗い廊下を歩いて行く。
「それにしても一条奏。何処に行ったのでしょうか」
あの場所から逃げることが出来るとすれば、外に飛び出すことしか方法は無い。それでも、外に逃げることが出来たとしても無傷で帰ってくることは不可能だとさえ思っていた。
そのあるはずないという思考が結果的に真由の首を絞めることになる。
そして、時間が五分経過した頃、真由は再び大きな広間のような場所に着いてしまった。
先ほどとは違った、まだ何も破壊されていない。
「それじゃあ、そろそろ、ケリを付けようぜ? 最上真由」
大広間の両端の入り口から、同時に奏と真由が姿を見せる。少し、疲れた顔を見せる真由の予想を覆すように奏は平然とした顔で立っている。
戦々恐々と、全身全霊で、立ち向かう、奮い立たせる。
「いいですわよ。今、この場で完膚なきまでに叩き潰して差し上げますわ」
敵を見て、臆することなく真由は目の前の敵に喰らいつこうと立ち向かった。何もない所に全てを青にコーティングされたブルー・サテライトが異空間から現れる。
そして、青白く閃光が輝き始めた。――――その瞬間、撃ちだされる前に奏が走り出す。
「そんなことをして攪乱させようとしても無駄ですわよ!!」
入り口に向かって、真由に向かって一心不乱に奏は駆け抜けていく。
「ブルー・キャノンっ!!」
前よりも放たれた閃光が大きくなっていた。貯めておいたエネルギーが一気に放出する。
そんな真由の渾身の一撃を奏は床を滑りながら、スレスレの所で回避した。頭上ギリギリで青白い光が突き抜けていき、出口は綺麗に粉砕してしまう。
「な、避けられましたわ」
驚いて声を上げる真由の目の前に洋服の中に仕込んでいた、金属で出来た丸い細長い容器を投げつける。ブルー・サテライトが宙に浮いて、その間に金属の容器が破裂した。
爆発の如く光り輝いた閃光が狭いコンクリートの部屋を一瞬にして覆った。
「――――――ぁ!!」
目の前に視界を遮る閃光が爆発する。一瞬にして真由は視界を奪われた。
女らしからぬ声を上げながら、両目を覆う真由の前にサングラスを外した奏が立ち上がる。
「そんじゃあ、これで終わりにしようぜ」
女なんて殴ることは趣味ではないし、出来ればやりたくはない奏だが相手を気絶させないと勝負は一向に終わらない。真由が負けるとコールすることは万に一つもない。
気が引けるが、これもE組のためと目を覆う真由に向かって殴りかかろうとした瞬間、奏は真後ろから閃光が向かってくることに気付くことが出来なかった。
「がっ!」
初めてまともに真由の攻撃が奏にヒットした。
背中に傷痕が残るほど閃光が奏に突き刺さる。両目を覆う真由の横を通り過ぎて彼は地面に崩れ落ちた。思わず、息が出来なくなるほど一瞬、呼吸困難の状態に陥ってしまった。
「あ、危ない所でしたわ」
両目から零れ落ちる涙を拭い取って、視界が安定し始めた真由は目の前で浮いている愛銃を手に取った。大きなブルー・サテライトとは違う、青塗りの小さな閃光銃。
「わたくしの目が見えなくても、感覚で銃は動かすことが出来ますのよ」
青白い閃光が充填されていくと同時に真由の背後から無数の拳銃が奏に銃口を向け始めた。その数は、十、いや、二十、三十では数えきれない。部屋の中を覆い尽くすくらいの小さな銃口が示す先には一人の少年がロックオンされる。
うつ伏せで倒れている奏に全ての銃口が向いた。
「それでは、またいずれ。お逢いしましょう、一条奏さん」
にこやかに、相手の最後を見届けた真由が全ての愛銃と連携しているブルー・サテライトのトリガーを引こうとした瞬間、若干だが奏の不自然な笑いを疑問にする。
そして、トリガーを引く直前。
奏と真由の五メートルもない距離に、一つの金属の容器が転がった。
「最後だなんて、つれないこと言うなよ。俺はアンタとまだ戦う気でいるからよ」
先ほどと同じ「閃光弾」が来ると思っていた真由は咄嗟に顔を両手で覆い隠した。しかし、そんな真由の予想とは裏腹に奏は不敵に微笑んだ。
――――瞬間、奏と真由の中間地点に転がった小さな金属容器は爆破する。
「う、嘘ですわよねっ!?」
地面が崩れる。
崩落し、二人は四階から三階に落ちて行った。
再び洋服の中を弄って同じ容器を手に握りしめる。
「更にもう一発っ!!」
天井から床まで大よそ数メートル。四階の床が壊れた瞬間、同じ形状の容器を地面に投げて三階の床も同様に爆破させる。
「こ、こんなことって!」
落ちていく間、真由は履いているスカートの裾を押さえながら、空間移動することも忘れて宙を舞う。そして、空中で態勢を整えた奏は二階の様子を窺った。
二階を見た奏は何を思ったのか、動揺し続ける真由を余所に左耳に付けている小型通信機に指を伸ばす。丁度、二階にいた伊御に向かって連絡を取った。
【おお、どうした奏? ってか、今どこに】
「お前の上だ」
【え? 嘘】
上を見上げる伊御の真上には奏と真由が宙を舞っていた。
思わず、目を見開いて驚く彼を余所に奏は話を一方的に続ける。
「伊御、俺に浮遊を!」
【え、あ、お、おう。取りあえず、理由はわからんが了解した】
「頼んだ」
掌を伸ばして奏に狙いを向けて重力操作を掛けた。
そして、伊御の能力が奏自身に掛かった瞬間、掌に構えていた闇屑星を投擲して空中にある瓦礫の残骸を吸収していった。
そこで真由に目を向けた奏は思わず、目を疑い何度も彼女の様子を窺った。
「あれ、あいつ。気絶してる」
経った数秒の間に色々な葛藤があったらしく、気づけば真由は気絶していた。
握りしめていたスカートの裾から、チラチラと黒色の下着が見えるが今はそんなことを気にしている暇などなかった。
伊御の浮遊の効果によって空中を自由自在に飛ぶことが出来た奏は上手に空中を舞うと床に向かって、回転しながら着地をした。
「――能力解放」
そして、伊御の能力を吸収し、柔らかい面持ちで奏の真上から降りてきた真由を優しく掌に抱え込んだ。能力を解除して真由本来の重さになるが、大した重さではなく隣にいる伊御と目を合わせながら、静かに笑みを零した。
「ナイスキャッチ、奏」
「おう」
二人に安堵な雰囲気が醸し出した丁度、その時、モニターが突如、目の前に浮かび上がる。映っているのは情報委員長、天使香奈子だった。
マイク片手に荒々しく声を上げながら、実況を続けた。
『波乱万丈、威風堂々(いふうどうどう)、快刀乱麻、狂瀾怒濤。各戦いがそう言いかえられるほどに激闘を繰り広げていた準決勝もついに終わり、そして、運命の決勝戦進出者が決定したぞ!!』
「結果を発表する前に選手達をこの場所へと戻そう」と、景気よくリズミカルにことを進める香奈子によって奏達、全十六名は各フィールドから一瞬にして会場に戻ってきた。
しかし、少し会場の様子が可笑しいことに帰って来て、すぐに奏達は気が付いた。
「なな、なんとこれはどういうことだ。かつてない結果が私達の目の前に広がっている」
香奈子の実況を聞いて自分達が決勝戦まで駒を進めたことに驚いている、そう思っていた。対戦相手も、もちろんC組に勝利をしたA組「天衣無縫」だとばかり思い込んでいた。
目の前に立つ四人の生徒が転送してくる際に発生する光に包まれて人影を見せる。
――――――しかし、現実はそう甘くは無い。
目の前に仁王立ちする四人の選手。
それは誰しもが見知らぬ、A組ではない人間だったのだから思わず全員が目を疑った。
両者とも、要注意組だった。
出くわすことなんて、絶対にないはずの二組が決勝へと駒を進めてしまった。
「お、お前は……」
奏の真正面に立ち、こちらを睨むのは唯一、見覚えのある人物。
「久し振りだな、一条奏。てめぇに借りを返しに来たぜ」
入学式数週間目の“能力対決”によって、退学したはずの山田仁。
そして、彼の背後にいる三人を含めたC組のチーム――「黄巾族」が高々に告げた。
「さぁて、要注意組同士の対決。最高の決勝戦にしようぜ」
四人は背を向いて会場を後にする。
黒髪で右目まで伸びた前髪から赤色の瞳が覗く。睨み付ける青年の様子にも気づかずに奏は真桜が敗北した理由が気になって、次に伊御が声を掛けてくるまでその場に佇んでいた。




