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或る世界の勇者と魔王  作者: 古鷹かなりあ
第二章:新入生対抗トーナメント篇
33/70

第十三話「大型ルーキー」



 033



 準決勝が始まるまで残り、五分を切ろうとしていた。

 会場には午前同様、押し寄せるような勢いで多くの観客達がぞろぞろと集結している。皆が注目視しているのは、もちろん今年の新入生の実力はどれほどなのか。

 ただ、その大多数を超えて、今この時点で多くの観衆の目をくぎ付けにしているのは一体、誰が優勝をするのか。果たして、宣言通りに下剋上は出来るのか。

 快進撃の止まらないE組を止めることは出来るのか、という興奮が奮起していた。


 そんな押し寄せる観客達が座っている席は寄り添うように詰めて座られているのだが、ある座席の近くには人っ子一人、座ろうとする人がいなかった。

 中央に白髪で杖を横の座席に掛けている青年が一人座る中、上下左右七席分が空白である。


「いやー、相変わらずだねぇ。あっくん」


 あっくん、と呼ばれた白髪の青年は上の入り口から、自分に近づいてくる人物を見上げると微かに息をついて頬杖を突き直した。

 そんな態度に分かりやすい、冗談めいた怒り口調で内田瑠璃は彼の隣に腰を下ろした。


「なにが相変わらずなんだ?」

「いやさ、その不機嫌草な表情。そんな顔しているから、周りの席に誰も座らないんだよ」

「それはオレの問題じゃないだろ。それにオレは別に不機嫌じゃあない」

「でも、そんな顔がデフォルトなんだから、あっくんはきっと駄目なんだよ。ほら、笑顔になってみれば周りの目だって、きっと変わるよ。にーって」


 頬杖をついて、時刻を待っていた彼の隣に突如、現れた瑠璃はそんな不機嫌草な彼の両頬を引っ張った。決して、悪意は無く純粋に、彼の怖い外見イメージを払拭させたかった。

 しかし、流されるままに頬を引っ張られて、しばらくは静かにしていた彼だったが次第に怒りは募って瑠璃の頭に拳を振り下ろした。


「いったー!!」


 頭部に激痛が走った瑠璃は瞬時に彼の頬から手を離して、自分の頭へと掌を伸ばした。


 キッ、と思わず睨み付ける瑠璃ではあったが飄々としている彼に通用するはずもなくて逆に白髪の長い前髪から覗く、赤色の瞳に圧倒されて言葉を飲み込んだ。

 わざとらしく目線を逸らした瑠璃は、しばらく塞ぎ込むが持ち前のハイテンションな性格で復帰すると久し振りに会った元クラスメイト(ヽヽヽヽヽヽ)との会話に花を咲かせる。


「それでどうしたの? もしかして、自分達の組が気になっちゃったとか?」

「馬鹿か。そんな淡い期待、最初からしてねぇよ」

「確か、前に見に行ったんだっけ? かなぴょんの「能力対決」を」

「ああ」

「で、どうだった?」

「全然だな。自分の力を使いこなせていない典型的な敗北者だ」


 一条奏の評価を鼻で笑いながら、彼は言った。

 しかし、それはあくまでも一週間ほど前の奏の実力を言っているのであって今日、一昨日と進化をした一条奏のことを知らない。

 そんな評論家のように語る、彼を見て瑠璃は思わず、吹き出して笑った。


「一週間前の――「能力対決」で無様に負けた一条奏だと思って今から始まる戦いを見ない方がいいよ、あっくん」

「どういうことだ? たかが一週間であいつが変わるようには見えないんだが」

「あっくん、前にかなぴょんのこと、こう言っていたよね。――貪欲な雛鳥ってさ」

「ああ」

「貪欲っていうのは常に上を目指し続ける。しかも、彼の力は全てを喰らい尽くせるほどのエネルギーを持っているんだよ。だから、もう一度だけ言っておくよ、あっくん」


 大事な友人の一人を貶されたことで少しむきになっている瑠璃に少し圧倒される、彼の瞳に映っているのは一度、高みを知った女だった。

 その禍々しい覇気から、一条奏を過小評価しすぎていたと彼は前の発言を撤回する。



「貪欲な闇は何でも喰らう。だから、今の一条奏は最も成長進化しやすい、いい男だよ」



 そして、彼は思う。

 ここまでして数少ない友人、内田瑠璃がそこまでして一条奏を押す理由の訳を。


「……そうだな、あいつは進化して貰わなければ困りそうだ。なんせ」


 大歓声に掻き消されて、彼が放った言葉は誰にも聞こえることなく、終わりを迎えた。

 疑問に思った瑠璃が何を言ったのか、と聞き直そうとすると今度はモニターに情報委員長で六聖王でもある天使香奈子が登壇をした瞬間を映しだしていた。


「話はあとだ。ああ、それとさっき、あいつがお前のこと探していたぞ?」

「あいつ……?」

「ああ、携帯の留守電、聞いてみな」


 誰かと思いつつ、瑠璃は携帯のホーム画面を開いて、留守電の表示を見た途端、一瞬にして凍りついた。表示されている名前は「しーくん」。

 瑠璃はゆっくりと顔を彼の方に向けると半泣きになりながら、少しずつ震え上がった。


「も、もしかして」

「恐らく、お前がわざと(ヽヽヽ)第二回戦、負けたことについて咎めたいんだろうな」

「いーやーだー!!」


 歓声に負けないくらい叫んだあと、瑠璃は一目散に第一訓練場から逃げ出していった。

 もし、瑠璃が仮に「しーくん」と呼ばれる人物と遭遇した場合、相当、怒られるだろう。


「暑ぃな」


 黒を基調としたロングコートに紫色のアゲハ蝶をした刺繍が無数に散りばめられている服を着こなしている背年は、パタパタと服を煽りながら白色の髪を掻いた。

 天然パーマの髪が若干、湿り気を帯びている。



「さて、あの戦いが全力じゃないって証明してくれよ。一条奏くん」



 世界は目まぐるしく廻る。廻る。廻る。

 硬貨(コイン)にも表裏があるように、世界にも裏表が存在する。

 主人公、一条奏は知らない。

 世界の裏側を――――。



 034



 光に包まれて、視界が眩み、再び目を開けた時には既にあの場所ではなかった。

 そこは、目の前がコンクリートだった。

 奏達「超新星(スーパーノヴァ)」の準決勝はとある場所に存在する廃墟ビル。

 なれない場所を右往左往としていると、前もって装着して置いた小型通信機(インカム)がピピピピ、と反応した。奏は軽く叩いて声を受信する。


【もしもーし、オレオレ】

「オレオレ詐欺かよ。で、どうした。伊御?」

【いやさ、一回戦、二回戦同様に全員が同じ場所に転送されるのかと思っていたんだけど、今回は全員の始まる場所が違うみたいだな】

「そういえば、そうだな」


 少し薄暗い場所を伊御と通信機越しで会話をしていると途中で別の小型通信機(インカム)からの通信が入って来た。外ぶちを軽く叩いて今度は「二人の会話」から「三人の会話」へと変わる。


【あ、繋がりました。一条くん、今回は皆さんバラバラになっちゃったみたいですね】

「ああ、そうらしい」

【どうしますか? 一旦、どこかで集まっておきますか?】

「ちなみに外の景色を見た限りだと、俺は一階にいると思うんだ」

【鳶姫くんも無事だったんですね】


 バラバラになってしまうのは奏にとっても少し想定外だった。

 第一回戦、第二回戦からの推測として準決勝も全員が同じ場所で勝負開始だと思っていた。

 そして、渚の言っていた提案を聞き、近くの部屋に身を潜めた奏は少し思考を練る。


「出来れば、集まりたいんだがこの場所の規模が判らない以上、下手に動いて敵に見つかるリスクが高くなるのはいただけない。出来れば、一対一に持ち込みたいな」

【そ、そうですか。私、出来ますかね……】

「大丈夫だ。俺が指示をした通りに熟して貰えればいい。丁度いいことにこの場所は廃墟。ここに来る前に渡して置いたアレ(ヽヽ)をいつでも使えるように準備して、いざと言う時のために備えておくんだ。あとは、あいつが何とかしてくれる」


 第二回戦は正直、運で勝った。という要素がある。

 しかし、今回は「運」では乗り越えることのできない強敵が待ち受けているのだ。

 準決勝から対戦相手が出逢うまで分からないと言う状況下に置いて、全ての結果を想定して備えることが大切であると改めて痛感した。

 だから、奏はもしもの場合に備えて「秘策」の手札を幾つも用意して置いた。

 それが結果的に勝利に導かれるのかは分からない。ただ、何もしなければ負けしかない。


【わ、分かりました。取りあえず、指示通りに頑張ってみます!!】

「頑張ってね、間宮ちゃん」

「無理はするなよ、間宮。もし、やばくなったら作戦通りに」

【了解ですっ!】


 渚が通信を切る。

 その後、少しして京子との連絡が取れた奏と伊御は相手に注意をしながら、戦って欲しいと作戦を述べ、いよいよ本格的に準決勝を始めようと全員との連絡を切った。


「それにしても……、星空か」


 先ほどまで連絡を取っていて気付かなかったが顔を上げれば、星空が見えていた。

 適当に歩き回っている奏は鉄骨がむき出しになっている部屋を見て回りながら、今から戦うステージを観察しながら、隠密に移動をする。

 照明が少ない、この場所で唯一、明かりを照らしているのは星空と言ってもいいであろう。微かな光を頼りにしながら、奏は次々と部屋を見て確認しながら、相手を探す。


「可笑しいな、さっきからまるで気配がない……」


 首を傾げながら考える。

 一番上の階にいる奏からしてみれば、下の階に降りれば確実に渚がいるので階段を探すのを優先してもいい。しかし、奏が最も嫌な予想は敵が下の階に既に降りていることだった。

 そうすれば、先ほどから周辺に気配がないことにも合点がいく。渚の危険度が増す。


「それにしても、静かだな」


 静けさのあまり、自分の足音が異様なまでに響く。

 周囲が鉄で覆われているせいか、反射して余計に響いた。


「……ん? 今、遠くから足音が」


 少しして、自分ではない足音が聞こえて奏は瞬時に背を向いた。

 しかし、また同じ。何処にも姿形はない。それ所か気配すら、感じ取れなかった。


「あいつらじゃないことは確かなんだけどな……」


 恐らく奏の予想ではこの廃墟は全体で四階建て。

 一人一階、すなわち奏のいる四階には他のメンバーはいない。と言う予想が立っていた。


――――――トン。


 再び音が響いてきた。

 今度は前から。

 奏は即座に前を向く。――――そして、次の瞬間、反射神経で横の部屋に飛び込んでいた。


 次の瞬間、横の狭く細い通りを通過していったのは一本のレーザー光線。


「まさか、真桜のチームか?」


 まさか、準決勝のタイミングで「天衣無縫」と対決すると思ったら、逃げ腰になった。少し体が震えて先ほど察知で避けたせいで体力の消費が半端ではなかった。

 少し時間を置いて部屋の外を窺うが人の気配はない。しかも、移動する際に発生する足音が聞こえない。耳を研ぎ澄ましても、聴こえない。


「……誰もいない、か」


 確認をして、一安心をすると自然と上がっていた息が治まっていく。常に走り込みをして、体力増量を狙っていたこともあって呼吸音は非常に小さく訓練されていた。

  そして場は再び、鎮静を続ける――――と思っていた。



「アナタが、佐藤真桜さんが太鼓判を押している、一条奏さんですわね!!」



 あまりにも気配がない登場だったので声が聞こえた途端、条件反射で振り返った視線の先にいる彼女を見て、奏は思わず心臓が飛び出るくらい恐怖した。

 小さな部屋の入り口にいた奏は幽霊でも見たのかと思ってかなりすごい速度で反対側の壁に移動をして唖然と大きな口を開く。


「誰だ、アンタは?」


 そこに立っていたのは光が照らさない夜の風景でも目を凝らすと煌々と輝いて見えるほど艶やかでシャープな金色のロングヘアーはカールを巻いている。

 凛々しく仕上がっているその顔立ちは少し日本人離れした特徴のある表情。そして金持ちと連想させるくらい煌びやかで、似合いすぎている服装をしていた。

 空色の瞳(ブルーアイ)が下を向き、再びその視線に奏をロックオンした。


「まさか。わたくしの名前は、ご存じではないのですか?」

「悪いけど俺は何でもかんでも知ってる奴じゃないからな。出来れば教えて欲しい」

「いいでしょう。特別にアナタに教えて差し上げますわ」


 何処までもお嬢様口調。

 心落ち着いた奏はゆっくりと立ち上がりながら、その豊満な胸を大きく張って自慢げに語る彼女の名前を聞き、そして再び驚いた。

 丁度、夜空の陽射しを浴びた彼女の全身像が浮かび上がってくる。


「わたくしは「栖鳳姫君」のリーダー、最上真由(もがみまゆ)ですわ。以後、お見知りおきを」


 聞き覚えのある「最上」という名字に驚いた奏に間髪入れず、


「あの佐藤真桜が唯一認めたA組の人間。わたくしはアナタを絶対に許しませんわ」


 ビシィィッ!! と背後に効果音でも付きそうなくらいに決まった格好で奏に宣戦布告した。真由は、自慢げな表情を浮かべて自分に現を抜かしている。

 完全に場違いな問いかけに頭を悩ませながら、奏は最上真由とついに邂逅する。



 035



 廃墟ビル一階、エントランスホール。

 右と左の扉が同時に開き、そこから二人の選手が入室をしてきた。


「どうやら、貴様と私は相対し、敵対する運命にあるようだな」


 右の扉から入って来たA組「栖鳳姫君」の月凪暦が腰に付けている鞘を撫でながら言った。

 対して、その台詞を言われた左の扉から入って来たE組「超新星(スーパーノヴァ)」の鳶姫伊御は落ち着いた様子で暦の方を見ると嘲笑うように失笑した。


「そうみたいだな」


 二人が出会い、そして拳を交わしあうのはこれで二度目。

 運命とは言いにくい必然性の高い偶然ではあるが、一回戦の屈辱を晴らしたい暦にとってはまたとないチャンス到来の瞬間であり、伊御にとっては何の動揺もない普通の反応だ。

 ゆっくりと二人は中央に近づいていき、ある程度の距離まで歩くと暦は止まって刀を抜く。煌びやかに輝いた刃先を証明で照らし、鮮やかな鋭さは見るだけで一目瞭然である。


「貴様が一回戦で私の刀を破壊してしまったのでな、運営に特別に許可を得て、準決勝から私の愛刀でもある、大業物「時雨(しぐれ)」を使うことにした」

「へぇ、高校生であるアンタが大業物を持っているだなんて、よっぽど腕が立つんだな」


 差ほど剣刀に詳しくない伊御が珍しい大業物を見て反応をした。

 昔、七色家が発足された前後に作られたという現代でも作ることが非常に困難だと言われる最強の刀。最上大業物、大業物と分けられた二種類の刀は凄まじいほどの力を宿す。

 しかし、現在は博物館、名家が所有していることが多く、最上大業物に至っては半数以上が所有を誰がしているのかわからない状態にあるとまで言われる。


「私はまだまだだ。(あに)様の方がよっぽど腕が立つ」

「兄様ねぇ」


 一回戦の際、伊御の発言を聞いて豪く動揺をした暦も今は随分と冷静沈着に立ち振る舞って兄を語る。高校生、しかも女性という立場で大業物を持つ月凪暦が言うのだから、彼の兄は少なくとも暦自身よりも実力が上ということは判りきっていた。

 知っている事実を言われて差ほど興味のない伊御は軽く受け流した。


 沈黙が繋がり、暦が鞘から抜いた大業物「時雨」を抜刀する時に擦れる音が響いた。


「貴様に一つだけ聞きたいことがある」


 ゆっくりと刀を振り降ろして自分の攻撃が最も上手に繋がる位置まで移動を終えると静かに暦は告げる。佇む伊御が返答もしない中、続けざまに彼女は口を開いた。


「私がここで貴様に勝ったら、兄様と貴様の繋がりを教えて貰おうか」


 真剣を持ち、真剣な表情で暦は離れた伊御を睨み付ける。人を容易く斬ることが出来る刀を持っている暦だからこそ、異様な殺気を放つことが出来ていた。

 大業物「時雨」が共鳴しているように、伊御は感じ取れた。


「俺に勝てたら、教えてやるよ」


 首を少し曲げて、あたかも挑発するような発言をした伊御は憎たらしい顔つきを浮かべる。伊御が暦を挑発した台詞を言った、次の瞬間、真剣を携えた暦が伊御を殺しにかかる。

 A組という実力が刀に纏い、その片鱗を見せつけた。


「月凪流、一ノ型。――――神凪(かんなぎ)


 目にも止まらぬ一太刀が伊御を襲った。

 空気に振動した斬撃を半歩、身体を右に逸らして伊御はそれを回避する。すかさず、前進をする暦から疾走感のある足音が鳴り響くと一気に伊御との距離を狭めた。

 斬れば血が出て、斬り続ければ人間が死ぬ。模擬刀とは違った、しかし、彼女にしてみれば当たり前の柄の握りやすさに、いつも以上の力を発揮できるような気がした。


重力操作(グラビティートランス)。――圧縮(プレス)


 接近してくる暦に向かって握り潰すように重力を操作して空気を圧縮させた。


「ぐっ……」


 両側から押し潰されそうな感覚に一瞬、苦痛する暦だったが素早く空中に飛びあがると刀の刃先を敵である伊御に向けて光らせた。

 天井にある照明で跳ね返し、伊御の視界が一瞬だけ眩む。その瞬間、空中を舞っていた暦は何故か少し笑っていた。


「――――――振動切断(スウィングカット)


 次の瞬間、伊御の洋服に剣で斬ったような切る傷が出来る。そして、それを見て反応をする前に今度は洋服で護られていた彼の皮膚が綺麗に切り刻まれていった。

 予想にしない攻撃を受け、重心が少し低くなる。


「くっ……」


 突発的に素早い行動を相手に撮られて反応が遅れた伊御は避ける暇もなく全てを喰らった。さながら、降り注ぐ雨の刃。長い彼の髪が少し宙に舞う。

 身体中を切り刻まれて一気に血を失った伊御は虚ろな目で、辺りをふらつきだす。


「私だけ貴様の能力を知っていて、貴様が私の能力を知らないと言うのは少々、不公平だ。だから、私の能力を特別に教えてやろう」


 一人語を始める暦の隙をついて、どう攻撃をするか考えながら怪我を負った場所を押さえて少しずつ、彼女との距離を取った。


「私の能力は空気を振動させて物体、物質を斬ることが出来る振動切断(スウィングカット)だ」


 さながら、飛ぶ斬撃。

 月凪流の型とはまた違った技を使用し、能力との区別をつけながら戦う月凪暦のスタイル。

 非常に強敵だ。


「はは。そんじゃあ、能力も教えて貰った所だし、そろそろ反撃といこうか」


 動きを最小限に留め、傷口から出血を避ける戦法に切り替えた伊御は身のこなしを柔らかく全ての技を回避できるよう、集中力を徐々に上げていく。

 猛禽類のような、獰猛とする鳶の片鱗が彼の背後から滲み出し始めた。


「ふん、そうでなくては面白くない」

「そんじゃあ、始めようぜ。A組とE組の全てを賭けた、戦いを」


 鋭い目付きが二人を変える。

 俄然、やる気になった暦は刀を構えて憧れである七色家である鳶姫伊御を迎え斬る。



 036



 廃墟ビル三階。

 炎下と暴風に揺れるこの階には既に壁と言う概念は存在していない。全ての壁は異常なほど白熱をしている二人の女子生徒によって破壊、もしくは溶かされた。

 その内の一人が片方の拳を振りかぶって、暴風を創り上げる。


暴風振動(バイオレスインパクト)っ!!」


 目の前に出来ていた炎の海が瞬時に爆散する。片手を地面に向けて息を整えると影に隠れていた少女、榎園小咲がノリノリで登場する。

 とてもじゃないけれど、女子高生同士が戦っているとは思えないほど白熱していた。


「はあ……、はあ……」

「やっぱり、私は一条くんと闘いたかったよ」

「残念だったな。でも、一回戦の時にアンタを倒したのは紛れもなく、あたしだぜ?」

「それでもだよ。偶々、やられただけなのにドヤ顔で自慢してくる、その態度がムカつく。さっさと君を倒して、私は一条奏を消し炭にする」


 笑っていた表情が静かに戦いのモードに変わっていく。大きく後ろ向きにのけ反り返った。


大炎息吹(だいえんいぶき)


 業火絢爛。

 建物全体を焼き尽くすといっても過言ではない火炎の量を口から放出しながら、京子のいる場所を全て燃やし尽くしていく。

 広範囲の攻撃。それに加えて逃げ場の少ない廃墟に置いて、この攻撃は第一回戦のようには逃げることは出来ない。そう考えた小咲の一手先を行く攻撃だった。


暴風振動(バイオレスインパクト)


 しかし、そんな小咲の思惑をあたかも知っていたように京子の暴風が全てを掻き消した。

 拳を炎に向かって突きだして、にんまりと京子は小咲に笑みを向ける。


「やるね、私の炎を掻き消すなんて」

「あたしにとっちゃ、朝飯前だよ。悪いけど女だからって容赦はしねぇからな」


 女らしからぬ言動を発しながら、掌をバキバキと音を立てる。そんな京子の行動を見ながら小咲は少し動揺を見せるが、すぐに落ち着きを取り戻して顔を上げる。


「――――っ!?」


 経った一瞬、小咲が動揺を抑えるために京子から視線を逸らして深呼吸をした、その一瞬に目の前まで接近されていた。

 身長の高い京子は足も長く、よって歩幅も大きい。

 その僅か数秒で小咲は京子の放った拳に大きく後ろに吹き飛んだ。


「言ったろ、容赦はしねぇって」


 負けられない戦いに何時になく本気になった京子を甘く見ていた小咲はコンクリートの壁に激突する。瓦礫が崩れて、外の景色が露わになる。

 物理的ダメージに慣れていない小咲にとって今の一撃は相当、堪えた。


「……はは、なんだ。脳筋みたいな感じなのに拳は結構、貧弱なんだね」


 苦しそうに瓦礫を除けるとコンクリートの床に手をついて小咲は、ふらふらとした足取りで立ち上がる。足は震えて、生まれたての小鹿のようだった。

 勝気に、あくまでもA組として、強者の余裕を見せようと必死に奮起する。しかし、そんな小咲が懸命に見せる見え透いた嘘に京子は思わず、失笑をした。


「生憎だけど、今の攻撃は能力なし(ヽヽヽヽ)の純粋な、あたしの拳だ」


 その瞬間、小咲の顔が青ざめた。

 今にも泣きそうなくらい、逃げ腰になってしまった彼女は自然と身体全身が震えあがった。


「う、嘘。私、震えている……?」


 無自覚に、無意識の内に、本能的に小咲は後ろへと移動していた。

 自分でもその現象に見覚えはある。

 憧れの七式家。

 その中でも「赤」を司る赤城家の長女である赤城千歳が小咲の憧れの的だった。

 小咲が中学の頃に偶々、遭遇した赤城千歳の一方的な喧嘩を見たときと全く同じ現象だったことに小咲は経った今、気が付く。

 ――――これは恐怖であると。


「私が、君に恐怖心を持ってる? そんなわけない、私はA組。絶対勝利が絶対条件!」


 息を見出し、心を惑わすその言葉は次第に彼女を追い詰めていく。

 そして、呼吸が小刻みになると同時に彼女の体から蒸気が立ち上り始めてきた。


「私は榎園小咲。A組の「栖鳳姫君」のメンバーで、炎の能力者だーっ!!」


 炎に包まれた彼女の背後には、まるで化身、分身、背後霊のような人間のような炎が自然と錬成される。会場中の全員が目を見張る中、一人の七式家に詳しい人間が口々にこう呟いた。


 ――――あれは赤城家の使う悪魔殺しの魔女(アドラメルク)と非常に酷似していると。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 自我を失った小咲は炎の化身に操られるように周囲の外壁などを次々と溶かしていった。摂氏数千度の化身はあっという間に周囲を溶かしていき、目の前に居る京子に狙いを絞った。


「正直、助ける義理とか無いんだけど、あたしは困っている可愛い女の子を見捨てないのがポリシーだ」


 目の前に飛んできた炎の鞭を京子は回避する。鮮やかに避けると、彼女は今までにないほど妙な感覚が視界として現れていた。

 目の前で暴れている榎園小咲を中央とし、周りの景色が少しずつ、虚ろになっていく。

 それと同時に不思議と力が溢れかえって来た。



暴風衝撃砲(バイオレスインパクトキャノン)



 暴風振動(バイオレスインパクト)を超える、両手撃ちの暴風衝撃砲(バイオレスインパクトキャノン)は全てを竜巻の如く、喰らい尽くす。

 そして、榎園小咲と長門京子の決着がつく。



 037



 それぞれが激戦を繰り広げている中、一番安全圏にいる渚は奏に頼まれた要件を済ませると対戦相手を探しながら、廃墟ビルをうろうろとしていた。

 しかし、渚の前に現れたのは味方ではなく「栖鳳姫君」唯一の男性、篠塚基樹だった。


「僕の相手は女性か……、僕は例え女性だろうと容赦はしない」

「わ、私だって負けるわけにはいきませんっ!!」


 明らかな戦闘能力の差は一目瞭然だった。

 時刻を見て、試合開始から二十五分が経ったことに気付いた渚は基樹と出くわした場所から一目散へと別の場所へ逃走した。


「くっ、待て!」


 全力で、作戦のために逃げ続ける渚。だが、体力に一向の自信がない渚の速度はあまりにも酷いくらいに鈍足であっというまに基樹との距離を縮めてしまう。


「待てって、言ってるだろっ!!」


 次の瞬間、渚の態勢が大きく崩れる。そして、全速力で走っていたそのままの速度で彼女は顔から綺麗に横転する。

 ようやく走るのを止めた渚の後ろで息をぜいぜいとさせながら基樹が止まった。


「い、痛いです……」


 とっさに手をついて怪我を和らげたものの、顔には無数の擦り傷、鼻は強打して少し赤色になっていた。少し先に転がって行った眼鏡をかけ直して、振り返ると渚は言葉を失った。


「今なら、まだ君を傷つけずにすむ。降参してくれないか?」


 強く握りしめていたメモ帳を拾い上げると目の前まで近づいて来た基樹が渚を見下しながら言ってきた。手を伸ばしてきた彼の手を振り払って、渚は一人で立ち上がった。


「私はリーダーです。こんな所で諦めるわけにはいきません」


 必死に立ち向かう姿勢に会場中は感銘を受けるが、その場でそんな台詞を聞いていた基樹は自分の性格が悪いと自覚するほど、その台詞に反吐がでた。

 少し落ち着いた表情で渚と相対していた基樹の目付きが次の瞬間、鋭く変わる。


「そうか、なら。死なない程度にやってやる!!」


 胸の前で両腕をクロスした基樹はそのまま、まるで何かを斬るような行動を取る。

 次の瞬間、渚の真横を通り過ぎるように刃が宙を舞った。


「きゃっ!」


 危機的状況で叫びながらも、渚は必死に基樹から逃げる。

 それを追い、再び攻撃をしながら渚との距離をどんどん狭めていく。


「くらえ!」


 空気を切るような斬撃音が響き渡ると渚の周囲にあったコンクリートの壁などが一斉に崩れ始めてきた。ギリギリ回避した渚は死を感じたような表情を浮かべて息をついた。


「ま、まだ。まだ、私は出来る」


 最終手段を使えば、渚はすぐに自由の身になれる。しかし、ここまで頑張って来た渚はもう少し自分の力で頑張りたかった。

 でも、彼女の実力では篠塚基樹と戦うにはあまりにも脆い。


「何故、そんなに逃げようとする。力の差は歴然だろうがぁぁぁぁぁ!!」


 基樹の放った攻撃が、ついに渚の身体に突き刺さった。

 服は所々、破けて腕は女性ではありえないくらい青あざができ、脹れている。


「私達はE組の光。最底辺だの落ちこぼれだの言われてきた無能な私達がここで諦めたら勝てる勝負も勝てなくなるから!! 私はまだ、立ちあがる!」


 足を引きずりながら渚は自分の心の内を語った。

 どれだけ苦しんだだろうか。

 どれだけ悲しんだだろうか。

 蔑まされても、馬鹿にされても、諦めなければ希望はあると言うことを教えたかった。


 恐らくこの闘いの中で最も衝撃な光景だっただろう。一人の女子高生が瀕死状態になってもリタイアをせずに必死で敵から逃げている姿。

 モニターに映っている四つのフィールド、どれよりも、誰よりも注目があっただろう。


「そうか、そこまで負けることが嫌なのか。なら、立てないくらいまで追い込むまでだ」


 空気を握りつぶすように圧縮させた基樹は握った拳を投げ飛ばすように渚に振りかぶった。縦横無尽に暴れまくった無色透明の攻撃はコンクリートの壁を切りながら、渚に向かう。


「きゃぁぁぁ」


 辺りのコンクリートは裂け、崩れ、周囲には立ち退く煙。

 モニターで見ていた全校生徒、そして目の前にいた基樹すら勝ったと確信した。


「――――――げほげほっ、げほっ」


 渚の声ではない、別の声が聞こえる。

 次第に砂煙が裂けている合間から、抜けていって渚ではない別の人の容姿が浮かんでくる。その人物は地面に置いてあった手帳を拾い上げて、その中に書いてあることを閲覧する。


「なるほどね。篠塚基樹、能力は空気衝撃(エアロブレイク)。空気中の大気を鋭い刃物に凝縮させて投擲することによって攻撃を可能にする実に解明するには初歩的な能力だね」


 渚とは違う。

 基樹の直感がそう感じた。


「お、お前は一体……」

「僕かい? 僕は……」


 次第に煙は窓から外へと流れていく。全身像が姿を現した。

 そして、まるでタイミングを計っていたかのように月明かりの陽射しが彼へ降り注いだ。


「僕の名前は斑目飛鳥(まだらめあすか)


 準備体操もかねて体をストレッチさせる斑目。

 黒色のシンプルな髪に、反抗的な意を込めて白色のメッシュが小ぢんまりと染めてある。

 首元まで締めてあったネクタイを緩くすると拾い上げた手帳を胸ポケットにしまいこんで、今まで会場で見てきた全ての映像を思い返す。

 そして、いつにない真剣すぎる表情で飛鳥は基樹を睨み付けた。



「お前を倒すことが出来る。E組の大型新人だ」



 斑目飛鳥。

 いざ、跳び起て。


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