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或る世界の勇者と魔王  作者: 古鷹かなりあ
第一章:入学式篇
3/70

第三話「クラス」



 002



 急ぎ足で校舎の中に入った奏は目の前に広がる光景に思わず漠然と口を開いた。

 自分が通っていた中学校とは比べ物にならないくらいの校舎の広さにまずは驚いた。校舎は全部で三つあり、体育館が二つ、広めのグランウド、そして奏が一番驚いたのは校舎の奥にそびえる草原と例えられるくらいに広々とした敷地だ。

 まるでそこに建てられていた建物を全て買い取って、潰したようなくらい綺麗に整備されている敷地は一国と渡り合えるくらいの人間を収容する学校としては上々の広さだろう。

 目の前に映った時計には八時五十五分を指していた。


「俺の教室は……っと」


 品種の違う桜が丁寧に埋められている校舎へと続く道を歩いて行くと玄関前の入り口では妙な人だかりが出来ているのを見かける。奏は目を凝らして何が起こっているのか確認してみる。

 校舎の入り口の玄関前には電子掲示板にて、クラス発表が行われていた。一番右の扉にはA組。横へとズレルごとに一組ずつ下がって表示されているのがわかる。

 奏は補欠合格時に受け取った何も書いてない真っ白の一枚の紙を財布から取り出すと徐々に減っていく人混みの中をかき分けて玄関前の改札口のような場所へ紙を置いた。

 すると何も書いてない紙から紫色で書かれた一文字のアルファベットが浮かび上がってくる。それと同時にクラス発表の書かれていた伝言掲示板に「出席番号一番。一条奏」と文字が表示された。


「はは、予想通りのクラスだな」


 紙に書いてあるアルファベットを見て小さく呟いた。奏は紙の下に書いてある注釈欄に気付くと紙を半分に折って再び財布の中へとしまった。

 玄関が開くと頭を掻きながら奏は下駄箱へと足を進めた。

 靴を脱いで下駄箱へと靴を仕舞おうとした時、誰かに肩を叩かれると奏は背を向けた。


「君も新入生かい?」

「まあ、そうだけど」

「俺もそうなんだ。今日からよろしくな」


 名前も知らない男子生徒が奏に向かって手を差し伸べてきた。

 ここに編入する人は多くても百人程度と聞いていた奏は同じ立場の人間を発見すると取りあえずズボンで手を拭いて、相手の手を握った。


「ちなみにクラスは何組だい。俺はちなみにB組だった」

「俺はE組だ」


 奏がE組と発した瞬間、先まで穏やかだった男子生徒の表情が一気に曇り始める。そして握っていた手を強引に振り解くと先ほどまでの会話を無かったように足早に下駄箱から靴を履きかえて行った。

 いきなり変化した男子学生の態度に意味が分からず、奏はその場で首を傾げた。


「……ッ、なんだよ落ちこぼれ(ヽヽヽヽヽ)か」


 男子生徒は小さく舌打ちをして呟くと静かに去って行った。

 落ちこぼれ。この場では奏のようなE組に入った生徒はそう呼ばれている。肝心の奏はまだそのことを知らないがために無駄な相手に話しかけられたということだ。

 取りあえず教室に向かおうと奏は自分の組と番号の場所に靴を置いて上履きを履く。


 すれ違う人は全員能力者。ここは別名「化物の住処」と言われているくらい有名な高校であることは奏も重々承知である。だが、ここまで多いとは流石に思わなかった。

 視界に入っている人間だけでも五十人は廊下を歩いている。逆を言えば五十人が通れるくらいの廊下が校舎に入るとすぐ目の前に広がっていた。


「えっと、クラスは……」


 なんせ広々とした校舎であるが故に教室まで行くのにも一苦労する。玄関前には額縁の中に入っているこの学校の地図が表示されている。奏はそれを見ながら、自分の教室を探した。

 一学年はこの校舎の一番下の階に位置しているようだ。E組はその中でも一際遠い、恐らくこの玄関と間反対に位置している所にある。紫色で表示されているE組を発見した奏はさっそく広々とした廊下を歩き進めて行った。



 003



 奏より数分遅れで佐藤真桜は巨大な神代学園にたどり着いた。既に真桜が着いた時には人の数は随分と減って幾分かスムーズに進めるようになっていた。

 奏と同じように胸ポケットから紙を取り出した真桜は改札口に紙をかざす。すると赤色の文字が浮かびあがって来ると同時に「A組」とこの学校で二番目(ヽヽヽ)にレベルの高いクラスへと振り分けられた。

 自分が思っていたクラスになったことで一安心した真桜は急ぎ足で玄関をくぐった。


「流石、この街で一番広い学校なだけはありますね。無駄に広い」


 自分の入学した学校に始めて入った真桜は思わずその広さに驚きを見せた。段々と人気が少なくなっていく下駄箱へと歩いて行って自分の名前と出席番号の書かれている場所を発見すると上履きと入れ替えて履き替える。


 玄関前に広がっているロータリーに立ち止まると正面には額縁の中に入っている学校の地図が表示されている。それを見た真桜は自分のクラスを即座に発見した。

 一年A組は玄関から比較的近い場所に位置している。当たり前である。学校の中で二番目に優秀であるクラスは他のクラスと違って待遇される。故に玄関から近くの教室である。


「さてと、全員が揃っている教室に入るなんて目立つことはしたくありませんから早く教室に行かないといけませんね」


 腕を組みながら小さく呟くとA組へと向かって歩き出そうとした。

しかし、それは真桜の考えとは裏腹に後方からの声で踏み出そうとした足を止める。


「ちょいちょい。お前さんじゃ、そこの茶髪の背の高い女性じゃよ」


 個性的な口癖の人間がいるんだな、と軽く苦笑しながら真桜は背を振り返った。

そこにいたのは一枚の紙を持ちながら、真桜のことを見上げている赤髪の少女だった。背丈の低さに、度肝を抜かれた真桜は口元を手で覆うと肩を震わせながら必死で笑いを堪えた。

そんな様子の真桜を見て首を傾げた赤髪の少女は再び声を上げた。


「これがそこに落ちていたのじゃが、これはもしかしてお前さんのか?」

「え? あ、ああ。それは私のかもしれません」


 笑いを堪えた真桜は赤髪の少女から一枚の紙を手渡された。二つ折りになっているその用紙には長々と文章が書かれていた。

 真桜は改めて自分が持っていた物だと確認できると、それを丁寧にしまいこんだ。

 そして、拾ってくれた赤髪の少女へと頭を下げて、お礼を述べる


「拾って頂いてありがとうございました」

「いいや、妾も丁度よく見つけたのでの。それで中を見たら、あれじゃったからな」

「それにしても、よく私が佐藤真桜だってわかりましたね」

「わかるもなにも、妾は七色家の一家じゃからの。誰がそれをやるのか知っているのじゃ」

「なるほど、それは一理ありますね。それでアナタの名前は?」


 赤髪の少女は真桜にそう聞かれると目をキラキラとさせて自慢げに胸を誇る。

 しかし、その胸におうとつがないことを知っている真桜は少しだけ笑っていた。


「妾は七色家の「赤」を司っておる赤城千歳(あかぎちとせ)じゃ」


 こんなにも早く日本を陰ながら動かしていると言われている七色家に出会えたことを幸運と思った真桜は静かに微笑んだ。


「そうですか、赤城さん。私は知っていると思いますが佐藤真桜です」

「知っているも何もここ数週間で一番聞いた名前じゃよ」

「私ってそんなに有名ですか?」

「ああ、あれはずっと七色家が行っていたからの。それをお前さんは奪い取ったからの」

「なるほど、私が首席だったから取られてしまったということですか」

「そういうわけじゃ。散々、怒られたのじゃ。お前さんのせいでの」


 詫びる素振りなど見せずに真桜は再び微笑んだ。


「そう言えば赤城さんはどのクラスなんですか?」

「妾か? 妾はA組じゃが」

「そうですか。私と同じと言うことですね」

「そういうことになるの。まあ、お互いに仲良くしようかの」


 赤城千歳は見上げるように真桜を睨み付けると手を伸ばした。

 それに答えるように真桜はゆっくりと手を下ろして千歳と握手を交わす。


「ちなみに妾のことは千歳でいいぞ。妾もお前さんのことは真桜と呼ぶからの」

「そうですか、では改めてよろしくお願いします。千歳さん」


 そんなことをやっていると予鈴のチャイムが鳴り響く。

 すぐさま我に返った二人は顔を見合わせると、すぐさま長い廊下を歩いて行った。



 004



 真桜と千歳が出会った頃、ようやく教室に着いた奏は扉の前でため息を付いた。


「やっと着いた」


 この体質のせいで入試当日にも惨事を起こしたことを再び思い返して頭を悩ませた。恐らくあんなことが無ければ奏はこのクラスにはいないかもしれないだろう。

 そんなことを考えつつ、教室に入ろうと深呼吸を繰り返して扉を思いっきり引いた。


「うわ……」


 するとそこにいたのは入学式だというのに既に出来ている人間関係の塊だった。

 無理もない。この学校は中高一貫なので編入をしない限りは中学一年生から六年間、特例の生徒を除く多くの生徒のクラス変更はない。

 毎年、十月下旬にクラスを上げるための試験があるが最下位であるE組には関係は無い。

 だから、自然とクラスの輪は団結力を生み、こう言った交友関係は広がっているのだ。


 縮こまりながら、細々と教室を横断していく奏は前方の黒板に掲載されているプリントへと目を向けて自分自身の机を素早く確認したのち、教壇を降りて決められた席へと向かう。


「さて、俺の席は……っと」


 普段ならば、出席番号一番。と言うのは「廊下側の一番前の席」か「窓側の一番前の席」で固定されているのだが今回の奏の席順は少々、異なっていた。

 一応、窓側ではあるのだが席順が一番前ではなく、最後尾になっている。担当の先生のミスであるのか奏には毛頭理解しがたいことだったがこれは好都合とばかりに最後尾に向かう。


「悪いね、ごめんよ」


 黒板から最後尾に向かう途中、既に交友関係を形成しているグループの真横を通り過ぎる。そのさいに一瞬、横を振り向くとその輪の中心には前髪に白髪がある、爽やかそうな青年であった。

 その横を通り過ぎたのち、奏は自分の席を発見すると躊躇なく椅子を引き、腰を降ろした。


「ふぃー」


 溜息を漏らしながら、天井を見上げてクラスを眺めた。

 そして、奏は取りあえず残りの時間を確認した。現在の時刻は九時を丁度過ぎた。入学式が始まるまで残り、十五分もあった。

 恐らくこの後に担任の先生が登場して、説明をして、体育館に入場だろうと思っていた奏は欠伸をすると頬杖を付いて窓からグラウンドを見下ろした。


 五分ほど一人の時間を有効活用させていると、目の前の席に誰かが座り込んだ。高校生活で最初の席で前にいる人がどんな奴か、気になって奏は目線を景色から教室に映した。

 すると相手も同じことを考えていたようで後ろを振り返り、丁度、奏と目が合った。


「見たことない顔だね、もしかして編入生?」

「ん、まあ、そうだけど」

「そうか。やっぱり、そうだよな。見たことない顔だなー、って思っていたんだよ」


 じろじろ、と目の前の席にいる青年が奏の顔を凝視してくる。うざったい、彼の行動を見て面倒になる奏は呆れた様子で頬杖を突き直した。

 しばらく、彼の一人展開が続いて、ふとした所で思い出したように掌を叩いた。


「そう言えば、まだ自己紹介がまだだったよな、俺は鳶姫伊御。鳶の姫と書いて「鳶姫」。伊太利の「伊」に御三家の「御」で鳶姫伊御だ」


 奏の机の上に細い指で書いて説明をし始めた。

 そして、奏は「鳶姫」と聞いてその苗字に妙な聞き覚えがあると共に小さく頷きだす。


「鳶姫って珍しい苗字だな」

「よく言われるよ。それで君の名前は?」

「俺は一条奏、数字の「一」に条例の「条」。音を奏でると書いて「奏」。よろしく、伊御」

「いきなり名前で呼ぶなんて以外にフレンドリーだな。まあ、よろしく、奏」


 手を伸ばし、握手を求める伊御の行動を見て、奏は机の下から手を挙げると握手を行った。中学の頃は普通科に通っていた奏からしてみれば、能力持ちの友達は初めてに近い。

 握手を終えた二人は残り数分の時間をどう過ごそうか、と再び沈黙が訪れてしまう。そこで伊御は話が途切れないように次々と話題を出してくれた。


「そう言えば、編入生って今年の一年生だけで八人もいるんだよな」

「へー、八人ね。俺を除いて七人か」

「例年稀に見ないよ。普通なら、一人か二人が相場。合っても三人くらいだったのにさ」


 どうやら、奏の喰い尽きそうな話題ではなかったらしい。伊御が喋っている間も首を頷いて内容は半分以上聞き流している、そんな表情を浮かべながら、頬杖を突いていた。

 そんなことも知らず、一人勝手に喋っていた伊御に今朝の下駄箱の件を思い返した奏は彼が喋っているにも関わらず、今度は自分から話題を振った。


「そう言えば、朝、下駄箱で俺のクラスを知って急に態度が変わった奴いたんだけど……。あれって一体、どういうことなんだ? 俺にはさっぱり判らないんだけど」


 そんな質問を聞き、冗舌めいて喋りまくっていた伊御の口が突如、閉じる。そして、表情を暗くすると重々しい空気を受け入れて彼は奏の質問に対し、ある程度の答えを告げた。


「普通、編入時に教えてくれると思うんだけどな」

「それでE組の何がいけないんだ?」

「いいか。このE組は学年の中で一番下、最底辺、つまり落ちこぼれの集まりなんだよ」

「……は?」


 今、知った事実を受け止めると奏は思わず唖然と声を漏らした。


「その様子だと本当に知らなかったみたいだな」

「え、最底辺ってどういうことだ?」

「だから、中学からいる奴は進級試験で編入の奴は入試試験でテストをする。その点数に応じてクラスが違うんだ。一番上は満点合格、次のクラスから二十点ずつ引かれて、A組の平均は180、B組は160、C組は140、D組は120、そしてE組は100点以下の人間ってわけだよ」

「あ、なるほど」

「簡単に納得しやがったな、こいつ」


 納得した奏に思わずツッコミを入れた伊御は拍子抜けな顔を浮かべる。

 進級試験、入試試験は主に「実技」と「筆記」の二つの試験を行ってその合計で判別する。

 どちらかが良くても駄目。両方兼ね備えていないと優等生という地位には立てない仕組みになっている。だから、どんなに「実技」が優れていても「筆記」が0点でE組にいる人間もいる。逆に「筆記」が満点でも「実技」が駄目な生徒もこのE組にはいる。


 多種多様、全ての物事を兼ね備えていないとこの学校は生き抜いていけない。

 そのことを初めて知った奏は改めてこの学校の厳しさを知る。


「なるほどね。で、俺に「編入生か?」って聞いた所を見ると伊御は編入生じゃないよな」

「まあね。中等部の頃は可もなく不可もなくB組にいたんだけど、よく学校をサボったり、授業を抜けて屋上で寝ていたりしてたら、態度不適応でE組に飛ばされたってわけだよ」

「入試で入った俺よりも、ダメダメじゃねぇか」

「でも、俺にはB組に至って実績があるから。成績も技術も、それなりにはあるんだよ」


 憎たらしい笑顔で誇らしげに自慢してくる伊御を見て若干の殺意を湧き上がらせた奏だが、そんな彼の怒りを吹き飛ばすかのように勢いよく、凄まじい限りの勢いで教室の扉が開く。

 思わず、多少のざわざわしていた教室が一瞬にして静寂に包みこまれた。


「時間になったから、席に付けよ。野郎共」


 そんな全員を卑下するような言葉を使いながら、E組の教室に入って来たのは背が高い女の教師だった。面倒くさそうな、怠惰な雰囲気を身に纏いながら、それでも教壇に上がる。

 そして、全員が席に着いたことを改めて確認すると大きく欠伸をして、背後にある黒板へと手を伸ばす。白いチョークで名前を書き終えると、もう一度欠伸をして振り返った。


「えー、今日から一年E組を担当することになった。山下志寿子(やましたしずこ)だ。よろしくな」


 テンションを上げながら馬鹿騒ぎをしている伊御を無視して志寿子は話を進める。呆れ表情を浮かべて静かに窓の外を見る奏は目の前でガクンと落ち込んでいる伊御を視界に捉えると悟られないように笑った。

 そして、志寿子の号令で一人ずつ名前を呼ばれると出席確認を終える。


「知ってると思うがお前達はこの学校の中じゃ一番下、底辺の存在だ。恐らく上の奴らからは酷いことを言われたりするかもしれない。だけど、私はそんなお前達を決して見捨てはしないから何かあったら気軽に私に声を掛けて来てくれ」


 「おー」とクラス中が一斉に声を上げる。まさに教師の鑑の存在だと思った全員は思わず、志寿子へと賛美を送った。

 何人かは拍手をしてはいなかったが志寿子の本心を誰も知らない。

 そんな、生徒の心を一発で鷲掴みにした志寿子は連絡事項を幾つか喋ると「新入生入場」の放送が鳴る。残りの連絡事項は戻ってからということにした。


「それじゃあ、これから入学式が第一体育館であるから遅れずに来るように」


 名簿を手に取って志寿子は一足先に教室を出て行った。わいわいと志寿子の去った教室からは志寿子への絶賛の声が聞こえ始める。

 今までどれだけ教室に卑下されてきたのかが容易に想像出来てしまった。


「珍しくいい先生だな」

「まあ、出来るだけ一年を穏便に済ませたいんだろうよ」

「俺達E組が問題行動を起こせば、それだけで学園中に白い目で見られるからか?」

「さあ? でも、平穏無事でなんていさせねぇけどな」


 何かを企んでいる、悪い表情をしながら、奏は早々にE組の教室から廊下に出た。すると、すぐ近くに担任の志寿子が待ち構えているように廊下にいた。

 奏を見た志寿子は一瞬で何かを感じ取ると数メートル合った距離を一気に狭める。


「君が一条奏だな」

「ええ、俺が一条奏です」

「なるほど、これは中々の逸材だな。それと、鳶姫伊御も中々の逸材だ」


 全身を隈なく見つめる志寿子に数歩、距離を取りながら、奏は無言で志寿子の方を見る。


「担任だなんて面倒なこと出来れば引き受けたくなかったんだが君達みたいな面白い存在がいて少しだけ、担任を引き受けてよかったと思っているよ」

「そうですか」

「ああ、このクラスは面白い。私は君達に期待しているよ、君達が頭角を上げれば、それだけで私の評価は勝手に上がって給料も上がるって算段だ。はははは」


 バシバシ、と奏の肩を叩きながら、上機嫌で廊下を歩いて行った。

 角を曲がって姿が見えなくなるまで、そっちの方向を見ていた奏は面白い教師だと感じた。


「どうしたんだ、奏?」

「いや、なんでもない。それよりも、さっさと体育館にでも行こうぜ」


 一足先に伊御が体育館へと歩いて行った。

 その後を志寿子の言葉を思い出しながら、奏が付いて行く。


 ――――『君達(ヽヽ)みたいな面白い存在』


 つまり、E組にいることが相応しい存在が奏と伊御を含めても、まだいるということだ。

 不思議と奏の口角が上がる。

 それは何を意味しているのか、奏以外には分からない。しかし、それは遠くない未来に紡ぐ戦乱の学園生活の開始を不自然に表現していた。



 005



 第一体育館へと移動を終えたE組の席はもちろん最後尾。先に座っていた他のクラスの人に誹謗中傷を言われながらではあったが、どれもが意味も理由もない嘘、でまかせ。

 そんな暴言に気にする素振りも見せないまま、奏と伊御は最後に体育館へと入った。


「これって指定の席は無いらしいよ」

「じゃあ、ここでいいか」

「俺はその隣」


 E組の中で一番眺めの良い席へと腰を下ろすと「入学式」が始まるのを待った。

 しばらくすると校長先生が壇上へと登って入学式を始める。そこから、面倒くさい長い話が続いて奏も隣にいる伊御は完全に寝ていた。

 式も終盤に差し掛かった時、その人の名前は呼ばれた。



『――――新入生代表、佐藤真桜』



 甲高い声が聞こえてくると共にA組の席から一人の少女が立ち上がった。


「あれが今年の新入生代表か」


 誰かが呟いた。

 そして、壇上へと登って先生、生徒へと礼をすると少女は一枚の紙を開いて口を開いた。



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