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或る世界の勇者と魔王  作者: 古鷹かなりあ
第二章:新入生対抗トーナメント篇
29/70

第九話「超新星vs. 栖鳳姫君Ⅰ」



暴風振動(バイオレスインパクト)!!」



 天地雷鳴。

 轟かす、凄まじい馬力で京子は一歩、前進すると拳を握りしめて敵に向かって殴りかかる。だが、A組に属する二人は一切の動揺はなく、神妙な振る舞いで彼女の攻撃を回避した。


「ただ、勢いで戦いを蹂躙させてしまうほど、僕達は弱くないよ」

「今まで戦った中で一番、強い人だったって言わせてやる」


 二人の間を突っ切って拳が空を切る。と、同時に防御が疎かになった京子に向かってA組の榎園小咲が無意味なモーションと共に掌を彼女に伸ばした。

 紅蓮の昂揚が掌にかき集められると、小咲はそれを放つ。

 へいぜんとした立ち振る舞いで。


炎柔弾(えんじゅうだん)


 咄嗟に空いている手で洋服を掴み、それらを盾として相手の炎の銃弾を回避する。貫通性は乏しいのか服を焦がし、燃やす程度で殺傷性は無かった。

 素早く体勢を切り替えて小咲の方に向き返る、京子の背後を今度は基樹が取る。


「ふんっ!」


 能力は使わず、身体能力での戦い。――右足から繰り出された勢いのある強い蹴りは京子の右わき腹に向かっていった。

 しかし、その直前で合間に入った奏が基樹の足を掴んで阻止をする。


「残念だが、お前達が二人組のようにこっちも二人なんでな」


 そのまま、基樹の足を掴んで反対側に居る小咲に向かって、ぶん投げた。態勢を崩して地に落ちた基樹は素早く立ち上がると仲間である小咲の隣に移動する。

 自然と昂揚していく、互いの精神的な戦闘意欲が着々と牙を剥き出しにしている。

 A組とE組という、覆ることのできない実力差を諸共しない屈強な力が奏達の背中を押す。こいつらを倒せと本能が、本質的に、敏感に反応をし続けていた。


「流石は今回、期待のダークホース。あんな簡単な攻撃でリタイアされたら、楽しみがいがないもんね」

「そうだな。俺達が目指すのは佐藤真桜のチームを超えて、優勝することだ。こんな所では負けはしない」


 数歩下がって京子は奏と同じくらい、相手と距離を取った。

 隣に来た京子の肩を叩き、小さな声で作戦を述べる。


「相手はコンビプレーに慣れている。対して俺達は素人同然だ。だったら、ここは一対一で戦ったほうが勝率は上がるかもしれない」

「豪く弱気だな、一条」

「A組二人を一気に相手するなんて状況的に断然、不利だからな」


 しばらくの沈黙後、京子が首を縦に降る。


「判った。それじゃあ、あたしは小さい女の方と戦う」

「それじゃあ、俺はあっちのインテリ眼鏡か」


 それから少し指示を仰ぐ、京子はそれをただ頷くだけで本当に理解しているのか判らない。ただ、奏に残されている時間は少ない。

 樹海の至る所にある、残り時間のタイムはここで「7:00」となった。

 残り七分。逃げ切るのが有利か、戦い倒すのがいいのか。采配が全てを変えてしまう。


「作戦会議はその辺でいいか?」


 インテリ眼鏡こと基樹が眼鏡をくいっ、と上げて二人に告げた。


「僕達も暇じゃない。他の組も倒さないといけないから、君達に費やせる時間は少ない」

「残念だけど俺達はここで負ける気はさらさらねぇんだよっ!!」


 再び、京子が暴風振動(バイオレスインパクト)の力を利用して移動をする。しかし、今度は地上を走るのではなくて力強く地を蹴り飛ばして空中を舞った。

 その一瞬の行動が二人の度肝を抜き、空を飛んだ京子に目を向ける。――――奏はその隙を付いて掌を伸ばし、回避できない力を生む。


能力解放(リベレーション)


 掌から放たれたのは先ほど小咲が京子に向かって攻撃をした炎の塊。それを奏が吸収して、己の能力として二人を襲わせる。

 予想もしない攻撃に京子に目を奪われていた小咲と基樹は圧巻とする。


「小咲」

「判っている!」


 基樹は前から数歩、距離を取って小咲が瞬時に前にでる。そして、前は己の能力だった力を見て真桜が何故、そこまでして奏に執着するのか少しわかったような気がした。

 にこり、と笑った小咲は同様に技を投げかける。


大炎球(だいえんきゅう)


 「炎」と「炎」がぶつかり合って火の粉を散らしながら、爆散する。発生した暴風に小咲が顔面を掌で覆っていると爆風と火の粉がはためく中で京子が彼女の前に降りてくる。

 少ししか見えない視界と京子を前に、小咲は逃げるように足を引いた。しかし、京子は拳を休めるほどお人好しではなかった。

 視界の眩む小咲に渾身の一撃が突き刺さる。


「もらったぁぁぁ!!」


 小柄な小咲を投げ飛ばす勢いで右拳が彼女の身体にヒットする。痛みに耐えきれずに白目を剥いて基樹の元に飛んで行った。

 しかし、勝ちを確信した奏とは裏腹に京子は不甲斐ない顔を見せる。


「手応えがない」

「――――――それはね、それが私自身じゃないからだよ」


 殴られた小咲は無残に吹き飛ばされていき、そして火の粉を振りまいて消えて行った。

 唖然とする奏と京子を余所にその声は真上から響いて来た。

 上空に、木枝に小咲がいた。


「逃げられない広範囲の攻撃をしたら、それはきっと、勝利と同じなんじゃないのかな?」


 ニコリと笑い、そして、大きく息を吸う。

 すぐさま、小咲の様子に気づいて奏と京子は左右別々に走り出した。逃げるために。



大炎息吹(だいえんいぶき)



 樹海の暗闇など一瞬で掻き消すほど、超巨大な炎の息吹が周辺数キロに渡って影響をした。腐敗をした木々が一瞬にして灰となり、そして、あくどく小咲は小悪魔の笑みを浮かべた。



 021



 一条奏と長門京子vs.榎園小咲と篠塚基樹の戦いが始まる、同時刻。

 遠くでその戦いを見ていた間宮渚はつくづく思った。


 ――――――「やっぱり、鳶姫伊御は七色家なんだな」と。


 そんな彼女の言葉を促すように目の前で起きている戦いは最早、普通とは言えない。

 冷静となった暦の殺意ある、型にはまった剣技を一度も当たらずに伊御は躱し続けている。縦横無尽に飛び回る暦の剣技を諸共せずに一切合切、遠慮のない攻撃に、屈していない。

 冷めた目付きが鋭く胸に突き刺さる。


「鳶姫くんって、やっぱり只者じゃない」


 素人ながら、月凪暦の剣技が普通を逸脱していることくらい十二分に分かる。ただでさえ、A組という肩書きを持ちながら、ここまで剣技に長けている彼女は化け物なのだろう。

 それを平然とした様子で躱している伊御も、只者ではない。


「ただ無作為に剣を振り回しているだけじゃ、さっきと同じだぜ」

「ふん。それもそのようだな」


 鋭く、鮮やかな突きを見せる。大きく体勢を崩しながら、伊御はその突きを躱し、暦の方に目を向ける。そして、彼女が樹海の中で見せた、あの独特な構えを取った。

 その構えは剣技としては非常に稀であった。

 ゆっくりと鮮やかな動作で模擬刀を鞘に納めていく。

 そして、極限まで高ぶった暦の集中力が空気を振動させ始める。


「月凪流、一ノ型」


 戦闘に淡泊な伊御にとって攻撃とは、ただ受け流すことしかしなかった。敵の攻撃を避けて一瞬の隙を狙い、一撃で打ちのめす。ただ、月凪暦と言う人の打たれ強さは誤算だった。

 例外なく、そう言った処置を取っていた伊御であったが今回は張りつめた空気が違う。

 今、いる場所から全力で対比するために彼は素早く掌を叩いた。――――そして、



神凪(かんなぎ)



 そう短く一言。

 閃、と擬音が鳴り響く直前に伊御がコンマ数秒前まで居た場所が切り刻まれる。草木が風に吹かれて、静かに飛んで行ってしまった。

 極地を超えた「抜刀」。目にも止まらぬ速さで繰り出した、それは眼鏡を外した渚の瞳でも捉えることが出来なかった。極端に言えば、高速を超えていた。と絶賛出来る。


「それが月凪流ってことか」


 空中に浮いている伊御を攻撃せず、ゆっくりと刀を鞘に収めた暦は上空を睨み付けた。


「先ほど、私が動揺をしたのは貴様が知らないはずの兄のことを知っている、ような発言をしたからだ。だが、あの後に最上の奴にこっ酷く説教された。ただ、もう恐れはしない」

「知っているさ、お前の兄のことも。月凪流の闇も」


 ゆっくりと降りてきた伊御に合わせて再び剣を振るう。首筋に向かって一直線に飛び込んだ刃先が彼の首元に刺さる直前――――――、予想にしない出来事が発生した。


 突如、樹海の奥の方から、巨大な爆発音が響き渡る。


 その場にいた三人が一斉に今までの攻撃を休め、樹海の方に振り返る。

 ただ、その後にすぐ行動を切り返した伊御によって暦の渾身の一撃は躱される。距離を取る伊御は掌に握られていた小型通信機(インカム)を耳に取りつけて、素早く電源を入れる。

 通信先はもちろん、一条奏。

 しかし、彼からの反応はない。伊御は素早く通信先を奏から、渚に切り替えた。


【鳶姫くん、なんですか! あの爆発は】

「わからない。だけど、状況から見て間宮ちゃんがさっき言っていた方向だから、奏の奴が関係してると考えて良いと思う。早速で悪いけど、もう一度、あれ使ってくれないかな?」

【わ、分かりました】


 少し離れた場所で能力を使い、場を把握する渚の返答を待ちながら、暦と再び対峙した。

 目の前に立ちはだかるのは自分が憧れの存在としている「七色家」の人間。ただ、伊御には豪く失望をしていた。しかし、この数十分で彼に対する評価は変貌していた。


「やはり、E組と言っても七色家。それ相応の実力は兼ね備えているというわけだな」

「さーね。俺程度の実力で七色家を評価しているんだったら、お門違いだ。俺より強い人は数多くいる。だから、俺レベルを倒せないなら、七色家の足元も見えねぇよ」

「ふん。ならば、今すぐにでも貴様を打ちのめしてやるっ!」


 見つめ合い、睨み合い、間合いを確認しながら、広々としている大草原の中を歩いて行く。敵の距離を把握しながら、互いに円を作るような形で相手の動向を探り始めた。

 最初の歩幅は小さく、けれど、次第に足は加速し、少しずつ間合いを詰めていった。


「はぁぁぁっ!」


 大きく一歩を踏み出していち早く近づいて来た暦が刀を振るう。縦に降り降ろされた剣筋を横に躱して伊御は開いている身体に打撃を打ちこんだ。

 しかし、素早く肘で受け止められると遠心力のパワーで暦は剣を横に振るった。


「まだだぁ!!」


 横に振られた刀を回避し、伊御は暦の足元付近に接近すると足払いする。バランスが崩れて倒れる暦を狙って攻撃をしようと企んでいた伊御だったがその考えはすぐに失われる。


「……ッ!!」


 真横に刀が刺さり、危機を感じて、伊御は暦から距離を取った。

 一方、足払いをされた暦はと言うと前のめりに倒れる直前、自分の手にしていた刀を地面に突き指して棒高跳びのように華麗に伊御の策略を回避させた。

 後ろ向きに立つ、暦がなびく風と共に振り返ると再び、刀を握る。


「はあ……、はあ……」


 機転を利かせて何とか伊御の攻撃を回避した暦だったが、なれないことをしたせいで予想を超えるほど体力を消費してしまう。普段かかない冷や汗が頬を伝った。

 依然、伊御の表情に変化は見られない。


「……私はどうしても勝たなくてはいけない。それがどんな強敵であろうとも」


 言い聞かせ、暦はゆっくりと深呼吸をした。――戦いとしては致命的な隙ではあるが伊御は彼女が攻撃をしてこない合間を狙い、先ほど連絡を取った渚に通信を繋いだ。


【鳶姫くん、ニュースです、ニュース!】

「どうしたの、間宮ちゃん?」

【どうやら、今この場にいる人数が十四人になりました】

「ということは少なくとも一組は脱落しているってことでいいのかな?」

【そう考えていいと思います。三人以上で固まって歩いているのが二組います】

「判った。それとさっきの爆発の所は誰かいる?」

【そこには一応、四人います。一条くん達かどうかは分かりませんが……】


 憶測ではあるが、伊御の考えでは残り一人か二人、相手が倒されればこの戦いは終わる。

 三人以上で歩いている所が二組。つまり、そこには六人いる。この場に三人いる。爆発地は四人いる。ソロで行動している人間が一人。――これは渚が先ほど言っていた人物であると考えて良いだろう。

 もし、三人以上で歩いている所が現在、戦闘中ならば、その両方にリーダーがいる可能性は極めて高い。伊御達の場には渚がおり、奏の所には二人の内、どちらかがリーダーであると想定しよう。

 なら、残り時間があと僅かな所で均衡が崩れるのは「伊御達」の場か「三人以上で行動」をしている、そのどちらかだろう。


 ただ、伊御はこの目の前にいるA組の月凪暦に負ける気はさらさらなかった。


 残す希望は「奏達」に託される。

 にたり、と考えを終えた伊御は渚に礼を告げるとその場で再び待機しているように告げて小型通信機(インカム)を外した。

 そして、目の前には集中を終えた月凪暦の姿を捉える。

 ただ、静かに刀を鞘に収めて、伊御が通信を終えるのを待っていた。

 剣の世界では正々堂々が主流なのか、それとも月凪流の決まりなのか。――伊御は嗤った。


「わざわざ、律儀に待っていたのかよ」

「無抵抗の人間に刀を向けるほど、私は落ちぶれてはいない」

「いや、初見の時、完全に無抵抗だったぞ、俺達」

「……そんな昔のことは忘れた」


 何処までも真剣に、何処までも真面目な風貌で暦は息をつくと右膝を下げて地面に付けた。

 そして、左腰に付けている鞘。その中に仕舞われている、刀の柄を握った。


「なにしてんだ?」


 奇抜な行動を取る、暦に小首を傾げる。

 こんな状況、本来の戦いならば格好の的になること間違いない。異質な雰囲気を滲みだして近づいてはいけないオーラも出ているが、それでも狙われやすい行動である。

 しかし、伊御には暦が何かを企んでいることは少なからず理解できた。

 この構えは月凪流しか見られない「座の構え」。――――そして、次の瞬間、目と鼻の先に暦の鮮やかな黒色の髪の毛が視界に飛び込んでくる。


「月凪流、一ノ型。――――神凪」


零、から瞬時に百まで速度を上げる月凪特有の作法。

 初見で伊御も見ていたら、きっと避けることが出来なかっただろう。

 しかし、「座の構え」。そして月凪特有の作法を知っていた伊御にとって行動の判りきった暦の剣技など――――――、劣るに足りない。


「残念。その技、二度目はもう通用しない」


 一度、受けた「月凪流、一ノ型。神凪」を、

 一度、見ただけで理解し、把握し、熟知した伊御は何と神速の突きを足の裏で受け止める。


「生憎、俺は異常なんでな」


 驚きで、動きが硬直する暦を無視して足の裏で模擬刀を止めた伊御は素早く一回転をすると高く上げた右足で彼女の模擬刀を打ち砕いた。


 絶望と嫉妬にまみれた暦の表情を見て、伊御はまるで悪役のように嗤った。



 022



 密接に立ち並んでいた樹木が一瞬にして灰になって、炭と化す。

 業火の炎に燃やされて、高い木枝の上で調子をこいている小咲は「にしし」と満面の笑みを浮かべると根本が灰になる木枝から、降り立った。

 彼女が降り立ったのは半径十メートルほどが全て焼かれた場の跡地。鼻を摘みたくなるほど焦げた臭いが充満をし、仕掛けた当人である小咲ですら、思わず鼻をつまんだ。


「死んではいないと思うけど、この戦いではきっと機能しないダメージを負ったと思うよ」


 木陰から姿を見せた基樹に小咲が告げた。

 彼の額からは少量の汗が流れ、黙って小咲に近づくと無言のまま、頭に拳をぶつける。嫌な鈍い音と共に小咲は頭を抱えながら、その場にしゃがみこんだ。

 しばらく、悶えていると顔を上げて泣きべそをかいている姿を基樹に見せる。


「痛いよ」

「それはこっちの台詞だ。広範囲の攻撃を予告もしないでするなんて自殺行為すぎる」

「だって事前に予告したら、相手に分かっちゃうじゃん」

「お前のその軽率な行動のせいで僕まで焼き殺されるかもしれなかったんだぞぉ!」

「いたい、痛いから! 止めてよ、篠塚くん!!」


 片手でずれた眼鏡を掛け直しながら、もう片方の手で再度、小咲の頭をぐりぐりと殴った。声色からは全く反省が見られていないので少し強めに拳を擦りつけた。

 しばらくし、反省した様子の小咲を叱りつけるのを止めて基樹は一息ついた。


「確か、今回の規定では気絶した場合、戦闘不可能の状態に陥った時だったな。それならば今までの傷が反映されて既に、この場から居なくなっていても不思議ではないと思う」

「だけどねぇー。そう易々と還ってくれそうにないと思うよ。私が攻撃する直前に二人とも必死で逃げていたし、怪我をしても多少なら、まだ戦えると判定されるかもしれないしね」

「なら、木々に隠れている所を狙って倒せばいいだけの話だな」


 左右を見渡して確実に倒しておくべき存在、一条奏が逃げて行った方に小咲は指を向ける。基樹は軽く頷くと左右に分散し、木々に隠れているだろう一条奏を狙いに向かった。


「……不味いな」


 激しく息を上げる奏は徐々に近づいてくる敵に存在をばらさないように息を殺した。

 反対側に逃げたであろう、京子の存命は未だ不明であるが二人で攻撃をしてくる人達を敵に互角で渡り合うことは難しい。残り時間も三分程度ある、非常に厳しかった。


「さて、どうするか」


 考えていることは二つ。

 一つ目は「京子がリタイアしていない場合」。

 もし、リタイアをしていなければ奏が囮となって誘導している間にどちらか片方を倒せば、戦いは有利となって残りの方を迅速に倒すことが出来る。


 二つ目は「京子がリタイアしている場合」。

 もし、リタイアをしていれば奏はこの場から全力で逃げて時間切れを狙う。一回戦は上位の四組が揃う時点で終了となり、時間切れでも終了となる。

 つまり、このまま逃げ切れば二回戦に進める可能性は高かった。


 しかし、このまま奏が倒された場合、獲物を失った小咲と基樹は確実に次の敵を探しだす。まず目星がついているのは奏と同じクラスの鳶姫伊御と間宮渚に狙いが絞られるはずだ。

 だから、奏がここで負ければ残り時間三分以内で、どちらかを見つけ倒す可能性もある。


 なら、奏が導き出した応えは一つしかなかった。


「行くしかないか」


 例え、特攻をして京子が生きて居なくても隙をついて攻撃をし、相手から距離を取りながら時間切れを狙う戦い方だってある。

 だから、奏は残り時間二分四十五秒に全てを託そうと決意を奮わせた。


「……闇屑星(ダークマター)


 両手に闇の渦を構築させ、闇屑星(ダークマター)を生成する。

 ゆっくりと息をはいて、気持ちを落ち着かせると木々が焼け落ちたお蔭で地面に残っている灰を踏んだ音で相手と自分の距離を確認しながら、その好機を狙った。


「あ、いたっ!」


 表に姿を見せると同時に目の前にいる小咲が奏を見て荒々しく声を上げた。その言葉を聞き今の場から奏の背後を取るように基樹は気づかれないように移動をする。

 横目でその行動を追いながら、奏は真正面から小咲に向かって攻撃を図った。

 右手に持っている、闇屑星(ダークマター)を走りながら、小咲に向かって投げつけた。


「一体、何処を狙っているのかな?」


 投げた闇屑星(ダークマター)は小咲の横を通りすぎていく。


 余裕そうに勝機を確信している小咲は真正面から投げられた、利き手でもない奏の一投球を軽々と躱す。下らない、といいそうな笑顔と共に近づいてくる奏を見て唇を舐めた。

 真正面から、正々堂々と近づいてくる奏の掌にはまだ一発、闇屑星(ダークマター)が残っている。しかし、それを回避して後ろから基樹が攻撃をするまで視線を引きつければ。と、小咲は思う。


「さあ、やろうよ。私と君の戦い」


 逃げも隠れもしない小咲は両手を大きく広げて、奏を待ち受ける。

 俯きながら全力で駆け抜けてくる奏の表情は判らない。しかし、きっと絶望的な表情をして抗いもせず、闇雲に向かって来ているのだろうと無粋に、無難な考えを思考する。


 しかし、それは大きく予想を外していた。


 ――――小咲に向かって走る、一条奏は笑っている。


 そして、全てを受ける勢いで堂々と立ち止まっている小咲の間合いに立ち入ると強く、強く地面を踏みこんで左手に残された闇屑星(ダークマター)を渾身の一撃で彼女の身体に押し付けた。


「くらえぇぇぇぇぇっ!!」


 黒色のエフェクトが光り輝きだす。渦を巻き、引力の力によって一時的ではあるが球の中に引き寄せる、そんな勢いが発生した。

 一瞬、小咲はこの技をくらい、苦痛の顔を浮かべるが本格的に闇屑星(ダークマター)が相手を取り込もうとし始めた。――――――その瞬間、突如、小咲は姿を消した。


「残念だったね、劣等生(いっぱんじん)。所詮、私達には手も足もでない、ただの出来そこないだね」


 炎の粒子が集められて前のめりになる一条奏の背後に小咲が再構築された。

 先ほど、京子相手に使用をしていた「炎の分身」。――このタイミングで使用してくるのは恐らく、奏が攻撃を仕掛けてくると判っていた時から、狙って行っていたのだろう。

 小咲が完璧に勝ちを確信した瞬間だった。


「大炎息吹」


 息を吸いこむように空気を吸い込み、肺の中に炎を創りだしていく。完全に逃げ場のない、奏にとってこれは完全に回避不可能の広範囲的攻撃であった。

 喜びに浸る小咲を余所に地面に手をついて小咲の方を向いた奏が――――微かに笑う。


「残念だったな、優等生(エリート)さんよ」


 それは知らなかった。

 小咲は知る由もなかった。

 それを読み取った上での、奏の最後の奇策。

 一条奏の掌が何故、黒と赤の眩耀(コントラスト)に発光しているのかを。――――――そして、


能力解放(リベレーション)


 目の前に樹海を燃やす、業火の炎が噴出された直前、奏は笑い、小咲は疑惑の目を向けた。

 しかし、ハッタリ、でまかせであると小咲はそのまま、攻撃を実行する。目と鼻の先で奏が燃えている。死ぬことはないし、死ぬ直前で元の場所に送り込まれるので加減はいらない。

 熱が冷め、辺りから人の気配を感じなくなったことに気付いて、小咲は溜息をついた。


「ふぅ、これでわたしたちの」


 気が抜けたのか、張りつめた空気が和らいだせいなのか。小咲が一瞬、ほんの数秒だけ目の前の光景を見ることに怠っていたことが、仇となる。

 突然の激痛と共に一瞬にして、小咲は意識を失うとそのまま宙を舞った。


「――――――――ぁぁああああああっ!!!」


 超高速で低空飛行をしている、京子が拳を突き立てて小咲の顔面を殴り飛ばした。

 目を回して、虚ろになりながらも、しっかりと自分の本業を果たしてくれた。京子の前には奏が初手に投げ、不発とされた闇屑星が浮かんでいて、もの凄い力で引っ張られていた。

 そして、近くの大樹にぶつかって京子の勢いは急激に低速する。


「まだだっ!!」


 殴られた小咲の近くで「炎の分身」から、原型を取り戻した奏の背後を基樹が荒々しく声を上げていた。そして、空気が切り裂かれるような音と共に周囲の木々に傷が入って行く。

 しかし、基樹の方を振り向いた奏は無表情で佇んだ。


「悪いが、それも今の俺には効かない」


 黒と赤の眩耀(コントラスト)が発光する。そして、基樹の攻撃が奏に当たる直前、彼は姿を消した。

 それはまるで小咲が使っていた「炎の分身」と全く遜色のない、回避方法。

 基樹は思わず、絶句した。


「何故だ! 俺達はA組だぞ、こんな、こんな結末なん――――――っ!!」


 炎の粒子から姿を取り戻した奏が動揺をする基樹の背後に立ち、右手で肩を掴んだ。

 酷く、暴れている基樹を抑えつける目的と共に、相手の思考を動かなくさせる為でもある。ゆっくりと左側から顔を後ろに向ける基樹を見て、拳を強く握りしめた。

 そして、基樹の顔面に向かって渾身の左ストレートを浴びせ、強打させた。


「……ふぅ」


 地面にバウンドをして白目を剥き、気絶をした基樹を見て、奏は大きくふんぞり返る。


「いったたた……、表に出た途端、いきなり何かに引っ張られた気がしたんだが」


 大樹の根元から鼻を抑えながら、京子が立ち上がる。

 そんな二人の雄姿を見て第一訓練場にいる多くの生徒が歓声に沸き溢れかえった。

 激戦を通し、成長を遂げた。そんな、二人を祝福するように勝利のファンファーレが鳴る。


試合終了(タイムアップ)ッ!!!」


 空から聞こえてくる情報委員長、天使香奈子のその声を聞いて静かに佇んでいた二人が顔を合わせるとそのまま無言で掌を掲げ、綺麗な音でハイタッチを交わした。

 その後に小型通信機(インカム)で渚と伊御が歓喜の声を上げている様子を聞く。




 全国七つの能力高等学校で地上初、E組が初戦を突破した瞬間であった。






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