第七話「新入生対抗トーナメント、開幕」
016
五月二十日、月曜日。
新入生対抗トーナメント、一日目。
毎度のように音楽を聴きながら、揚々と桜並木の散った玄関前を歩いている奏に一際注目が浴びている。しかし、本人は一向に気付いている様子は無く何の躊躇もためらいもなく校舎の中へと入って行った。
時折、後方から甲高いお嬢様風の口調をした会話が小耳に挟むが奏は気にするようすもなく自分の教室である一年E組へと向かって行った。
流石に一月以上も登校しているので幾ら方向音痴の奏でもたどり着くことは出来る。
入学初日に教室にたどり着くまで三十分掛かっていたのに、現在は十分程度の迷走で教室に到着するのだから、かなりの進歩だといえよう。
教室の扉を開けるとまだ数は少ないがE組代表、超新星のメンバーは全員揃っていた。
「おはようございます。一条くん」
渚に挨拶を返して自分の席に座ると当たり前のように三人が彼の机の周囲に集まった。
リーダーではないにしろ、実質的にこのクラスを動かしている奏の元には何も言わなくてもメンバーの伊御、渚、京子が今日の闘いに向けて闘争心を駆り立てていた。
「ようやく来たな、今日という日が」
「ああ、あたしも気合入りすぎて朝の五時に起きちまったぜ」
「わ、私は緊張しすぎてご飯が喉を通りませんでした……」
「まあ、張り切りすぎるのはいいけど肩に力を入れ過ぎて実力が出ないなら、本末転倒だ。リラックスをして万全な体制で試合に臨もうな」
肩がガチガチになって緊張しきっている渚と、既に戦闘モードの京子が入り混じる中で奏は対極な二人を見ながら、沈着にアドバイスを告げた。
そして、金曜日以来に再開した伊御は勇ましく、堂々としている様を見て大丈夫と察した。
「さて、一回戦の作戦もかねて話し合いをしたいんだが……、なんせ一回戦にどんな状況で対戦するのか判らない以上、考えるだけ無駄になりそうだ」
「ちなみに昨年度までの第一回戦の種目を集計した所、膨大なフロアにいくつかのチームを送り込んで、上位四組が残るまで戦い続ける、無差別バトルフィールドが八割です」
「なら、その無差別バトルフィールドって対戦方法に作戦の的を絞った方が良さそうだな」
新入生対抗トーナメントに出場するクラス総数は全部で十二組。
その内、A組とB組は3チーム。C組とD組が2チーム。S組とE組が1チームとなる。
Aブロック、Bブロックと別れているため、一つのブロックには六チーム。どちらかの組にA組が二組、B組が二組ずつ配置される。
その中から、上位四組に入るのは相当な鬼門になることは間違いなかった。
「勝利の判定は「気絶」および「降参と宣言」した場合のみらしいです。上気二つの行動を行った場合、別空間に移動していた当人を連れ戻すと必要事項の欄に書いてありました」
「戦いだけど、相手が死んじまったらどうするんだろうな」
「それは恐らく危険と思った時点で強制的に教員達が転送させると思いますよ」
「はー、良かった。死んだら、たまったもんじゃないからな」
「でも、あたし聞いたことあるぜ? この街には瀕死状態の人間を生き返らせることが出来る能力を持つ人間がいるって」
「なんだよ、それ。都市伝説並みの奇妙な能力者は」
「ホントだって。あたし、バイト先で聞いたんだからよ」
京子が意地になってその話を信じるだと、突っぱねるが見たこともない存在に首を縦に振るほど奏には信じることが出来なかった。
生命を生き返らせる能力者がいれば、今頃は何処かの裏組織にでも拉致監禁されている。
いくら科学的に解明された能力と言え、人間の真理を害する禁忌は未だ確認されていない。
「まあ、その都市伝説云々は後回しにして。一回戦、誰と当たるかが問題だな」
「一回戦の振り分けは開始直前に公表されるらしいので予め、作戦を立てたとしても通りに駒が進むとは限りません。他の人の能力もわからないので下手な作戦は返って駄目かと」
「そうなんだよな。それに出来れば、真桜達とS組にはぶつかりたくないな」
自分達の実力は自分が一番知っていた。
一つ上のD組、入学二日目で蹴散らしたC組なんて恐らく目ではない。問題は出場する組が他の組よりも多いB組とA組だった。
唯でさえ、強い二組をあえて多く出場させ、満に一つも他の組が優勝させないという魂胆。どれだけ、他の組が期待されていないのかが分かってしまう。
「そう言えば第一回戦って無差別バトルフィールドっていうくらいだから、だだっ広い場で他の組の人と戦うことになるんだろ?」
伊御が訪ね、資料を手に持っていた渚が慌てて回答をする。
「そうですね。毎年、戦いによってフィールドは変化しているみたいです。ある時は樹海、砂漠、草原、熱帯雨林、北極などがあったらしいです」
「環境によって作戦も変えていかないと流石に不味いよな……」
珍しく京子が腕を組んで悩んでいた。
特攻隊長という責務を負っている京子にしてみれば、最初の攻撃が一番重要になって来る。それ次第でチームが優勢になるのか劣勢になるのか、全ては彼女の腕に掛かっているからだ。
「京子ちゃんなら大丈夫だよ。持ち前の……ほら、ガッツとかあるから」
なにを思って言ったのか、渚は悩んでいる京子に向かって少しでも前向きになって欲しいと思って拳を握りしめて言ったのだが、それは本来、女性に対しての褒め言葉ではないことは流石の奏でもわかる。
だが、単純細胞で出来ている京子にとって初めてと言っていいほどの親友、渚から言われた一言は彼女の闘争心を一気に頂点まで湧き上がらせる糧となった。
「そうだな。あたしが迷っていちゃ駄目からな。ここはバシッと決めてやらないと」
慈愛に満ちた笑みで渚を見つめながら、永遠と頭を撫で繰り回し続ける。
目をくるくると回しながら、眼鏡がずれていく渚をお構いなしの京子は大きな声で笑う。
「それくらいにしとけよ、長門。間宮が使い物にならなくなる」
「え、あ。悪い、渚。流石にやりすぎた」
クラクラと千鳥足でふら付きながら、思わず前にいた奏の方向に倒れる。を伸ばして倒れる渚を抱えた奏は安堵の息をこぼした。
「……はぇ?」
眼鏡がずれて、本当の彼女の瞳を覗き込んだ奏は小さく微笑んだ。その笑顔をいつもは度の入っている眼鏡で見ていた渚は、本来の視力で見た奏の微笑みの破壊力は凄まじく、瞬時に顔を真っ赤にすると羞恥に燃えながら、立ち上がった。
「ご、ごめんなさい。一条くん」
「いや、別に大丈夫だけど。間宮こそ、大丈夫か?」
「ははははい。だだだだ、大丈夫です」
「やけに言葉が震えてるけど……」
「大丈夫です。何にも問題はあませんので!」
林檎のように顔を真っ赤に染め上げた渚はそのまま、急ぎ足で教室を飛び出していった。
「お、おい。待てよ、なぎさー」
それについて行くように京子は教室を飛び出していった。思わず、その光景を目撃していたクラスの人は一瞬、静かになると息を吹き返したようにヒソヒソと小言で喋り出す。
扉の前で京子とすれ違った、千春と陽子は驚いた様子で紫色のTシャツを整え直す。
「今のって俺が悪いのか?」
「さー、どうだろうね」
「……ん?」
奏にばれないように失笑する伊御を余所に校内放送のチャイムが鳴り響いた。
『間もなく、新入生対抗トーナメントの開会式を始めます。登校している生徒達は速やかに第一訓練場に集合して下さい。繰り返します――――――』
待っていましたと言わんばかりの表情をさせながら、奏は椅子から立ち上がる。
クラス内で出場する人は第一訓練所の専用の場所から入らないといけないので少し遠回りになることがわかっていた。
「それじゃあ、行きますか。奏」
「まずは一回戦突破だな」
先に教室を飛び出した伊御の後姿を追って行こうとすると肩を叩かれて奏は足を止めた。
後ろを振り向くとそこにはクラスメイトの斑目飛鳥が気合を入れている私服姿で奏の背後に立ち静かに親指を立てていた。
「一条、お前達は僕達の希望だ。だから、絶対に負けるなよ」
「ああ、わかっているさ」
一緒に廊下を歩き始めた奏と飛鳥は誰もいない、廊下を無言で突き進む。そして、この場にいる飛鳥と奏しか知らない、とある計画を語り出した。
「斑目、前に頼んだ一件。頼んだぞ」
「別に構わないけど僕は鳶姫や長門、それに間宮みたいな力もなければ、度胸もないんだ。それでも僕にその一件を頼んでもいいのか?」
「大丈夫だ、お前なら出来る。――――お前と、お前の持つその能力なら」
手の内は最後まで明かさず、更なる新兵器加入を目論む奏を余所に飛鳥は期待と不安に頭を悩ませつつ、第一訓練場に向かって足を運んだ。
時間はもう、差し迫っている。――――自分達が羽ばたく、その時は。
017
第一訓練場。
規模にして東京ドーム三倍。千人以上の観客が観戦を楽しめるように左右には座席があり、丁度中央に大きなモニターが三つ設置されていた。
大きなモニターから向かって真向いには、どんな超能力にも耐えられる対超能力用ガラスが付いている部屋があった。
千人以上の高等部、中等部、外部からの来客者が続々と集まってきている。そんな中、下にある舞台へ集合をした新入生達に視線を向ける観客だったが、ある一人が声を上げた途端、観客席にいる人達の目は全員、広々とする大きな部屋へと向けられた。
――――――神代学園、最強の六人。通称「六聖王」の登場である。
ガラス越しでどんな会話をしているのかは検討も付かないが防御フィルターのような部屋をとある女子生徒が飛び出して、マイクを握るとざわついていた会場に突如、沈黙が訪れた。
「みんなー、準備は出来てるかなー?」
綺麗に切り揃えられている黒髪のボブヘアー。白色のワンピースを着ながら、下も気にせず楽しそうにしている情報委員長は司会進行を進める。
時折、聞こえてくる『香奈子ちゃん。マジ、天使!!』というのは、恐らくファンクラブの人達が恒例になりかけている返しのようなものだ。
「おー、広いねー」
「高等部、中等部の人。外部の人間なんかも来てるらしい」
「ざっと千人くらいいるんじゃないですか?」
「こんな人の中で闘わないといけないのか? 見世物みたいで嫌だな」
我らがE組、超新星もステージ中央でプラカードを手にしていた女子生徒の前で待機していた。チーム名は伏せられているから、まだどのチームがどんな名前なのか、判断することは出来ない。
「それにしても、さっきからあそこで話してる奴。誰だ?」
「えーっ!! 知らないんですか、一条くん!!」
情報委員長のマイクから聞こえる声と観客からの大盛況が選手達の話声を断ち切っている。口を開けば何を喋っているのか判らず、会話が成り立たない状況になっていた。
慌てて渚が奏の近くに駆け寄ると客席の声はより一層、大きく湧き上がって行く。
「そろそろ準備が出来たようだね。それじゃあ、今から開会式を始めるよ」
結局、伝えたいことが伝えられなかった渚は肩を下ろして残念そうな顔つきを浮かばせた。そんな渚を余所に盛り上がりが上がり続ける会場は頂点を迎える。
「それじゃあ、まずは私も所属している六聖王のメンバーのご登場だーっ!!」
若干だが奏の眉が上下に揺れ動く。
聞きなれない単語を耳にして、隣にいる渚に小声で訊いてみた。
「なあ、間宮」
「はい。なんですか?」
「六聖王ってのは何なんだ? 特別機関みたいな奴なのか?」
「いいですか。六聖王というのはこの学園を取り締まっている最強の六人なんです!」
その言葉を聴き、渚は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
そして、何度か咳き込みをするとガラスケースの前に登場した五人を端から説明し始める。
「一番左に居る人。あれは一条くんも知っての通り、生徒会長、蒼咲有希さんです。誰もが憧れる、歴代最強と謳われているほどの実力者。異名は「氷華の申し子」です」
「完全無欠最強無敵」――――そんな、キャッチコピーが似合いそうな凛々しい人。
歴代の生徒会、七色家の中でも群を抜いて才能、そして怠らぬ努力という両端を兼ね備えた学生の中で一、二を争うほどの屈指の実力者。
長い青色の髪が下から靡く風で静かに揺れる。遠く離れて見ていても、鋭い目付きが他者を圧巻とさせ、出来れば近づきたくない雰囲気が体中から滲み出ている。
ちなみに「能力対決」は歴代最高記録、百四十戦全勝という記録を未だ継続中らしい。
渚は奏に説明をすると、その隣にいる鳶色《ヽヽ》のツインテールをした女性に指を向ける。
「その隣にいるのが風紀委員長、鳶姫綾乃さん。鳶姫くんのお姉さんで能力も同じ重力です。その鬼人たる裁きは生徒会長に遅れを取らず、次期生徒会長候補とも言われています」
異名は重力を操り、傍若無人に正義を執行する様を見て「重力姫」と名がついている。
「能力対決」も七十六戦七十四勝二敗。非常に優秀な人材といえることだろう。
「どうした伊御?」
「……いや、なんでもない」
睨み付けるように鳶姫綾乃を見上げた伊御を見て、少し悪寒を感じた奏が声を掛けるものの彼の反応は酷く醒めきっていた。
まるで復讐の対象のような、今にも飛び掛かって殺しそうな目付きをしている。
「五人の真ん中にいて司会進行をしているのが情報委員長、天使香奈子さん。天性的な声とルックス等を持ち合せながら、尚且つ強さも持っている。正に超越アイドルですね」
異名は「みんなのアイドル」と名が付き、校外にもファンは多いらしい。
「能力対決」は十二戦全勝と勝ち星は少ないが、能力は誰しもが恐れ戦くという噂がある。
なんとも強いか、弱いのか実力がわからない天使香奈子。しかし、六聖王に在籍している。そしてS組にいるということからその実力は一目瞭然だろう。
「その隣で先ほどから手を振っている人は生徒副会長、黄瀬暁さん。金髪でイケメンという容姿と裏腹に頭脳的で生徒会長の右腕に相応しい存在です」
異名は「轟く白虎」。
「能力対決」は九十六戦九十二勝三敗一引き分け。
外見だけで言えば、伊御と遜色ないほどチャラチャラとしている。しかし、伊御とは違って秘めている才能があるというか、雰囲気が逸脱しているのが窺えた。
他の六聖王同様に見ているだけで、ビリビリと空気が張りつめた様な感覚に陥る。
「そして、一番右にいる人が部活連合会長、百目鬼右京さん。身長は204cmもあって今の六聖王では、最も年功の高い、一年の頃から所属している実力者です」
異名は「不動王」。
「能力対決」は百十二戦百十勝一敗一引き分け。
白髪のオールバック、首を上に向けないとみることが出来ないくらい高身長の百目鬼右京は静かに下の人達を見下している。何も言葉を発さず、ただ下を見下していた。
明らかに、これほど遠くに居ると言うのに思わず足が竦んでしまうほどの威圧。
「……ん? 六聖王、だよな」
渚の一通りの説明を受けて理解した奏だったが六聖王にまつわる一つの謎に気付いた。
「間宮、今紹介して貰ったのが六聖王なんだよな?」
「はい。色々と調べてきましたから、間違いないと思いますよ?」
「だけど、六聖王って言ってるのにあそこにいるのは五人なんだが……」
奏の疑問に、渚は待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべて自慢げに解説をする。
「これが六聖王にまつわる謎なんです」
「謎?」
「はい。私が調べた情報によりますと最後の六聖王は「混沌の中の混沌」「地上最悪の人類」「地上最悪の生命体」「名ばかりの人間」「姿を見せない謎の王」と数々の噂がある七式家の人間らしいんですよ」
「また、七式家か」
混沌の中の混沌。
地上最悪の生命体。
名ばかりの人間。
姿を見せない謎の王。
数々の噂が四方八方から飛び交う中、渚はもっとも有力な情報を告げる。
「その最後の六聖王。異名が“影の支配者”というらしくて、本名も何も公表されてないことから生徒の間では「JOKER」と呼ばれているらしいんです」
「ジョーカーねぇ……」
噂ごとは確信がない限り信じない主義の奏は内心、あまり信じてはいなかった。
何故、姿を公表しないのかそれはわからないが六聖王にいて、それだけの物議があるということは相当、実力もあることだろう。
「氷華の申し子」――生徒会長。蒼咲有希。
「重力姫」――風紀委員長。鳶姫綾乃。
「みんなのアイドル」――情報委員長。天使香奈子。
「轟く白虎」――生徒副会長。黄瀬暁。
「不動王」――運動部連合会長。百目鬼右京。
「影の支配者」――役職不明。本名不明。別名、JOKER。
個性的すぎるのは奏でもわかった。
満足そうな表情をする渚にお礼を告げると情報委員長、香奈子に目を向ける。
「――――それじゃあ、さっそくだけど。一回戦のAブロックのメンバーを発表だー!」
丁度いいタイミングだったらしい。
香奈子がマイク片手に反対側を指差すと、全員の視線が向こう側のモニターに集中する。
「Aブロック」と「Bブロック」と表示がされ、下にチーム名が映し出された。
他のクラスに悟られぬように奏は小声で他の三人に告げる。
「……Aブロックだな」
「そうですね」
すぐ隣にいた渚が反応をして同様に京子と伊御が無言で頷いた。
初めてチーム名が公開をされた。その組の色で名前を付けているチーム名が少しあるので、その脅威に脅えつつ、強かな戦意を次第に露わにしていく面々共。
観客が盛り上がっている中、中央のステージにいるメンバーは誰一人、口を開いていない。
「それじゃあ、これで開会式を終わりにするよー。さっそく、両ブロックの人には一回戦の会場に移動をして貰うぜー!」
司会進行。そして、ここからは実況も務める香奈子を除いた三人は開会式を終えて、部屋の中に戻ってガラス越しからモニターを窺い、新入生達の戦いを見る。
そして、香奈子の隣に凛々しく立つ有希子は彼女からマイクを貰い受けると、
「それでは新入生達よ。互いに競い合い、そして高みを目指せ!!」
最後に告げた生徒会長、蒼咲有希の一声で奏を含む三人の目の前は光に包まれた。
それが一回戦の会場に続く光だと知ったのは数秒後だった。眩い光と共に奏達はゆっくりと両目を開くとそこに広がっていたのは――――――、
「ど、何処だ。ここは……」
――――大草原とは言い難い、四方を十メートル以上の大木で囲まれている樹海だった。
「それじゃあ、ルールを説明するよ」
フィールドの空には映像が浮かび上がって、そこには香奈子の顔が映し出された。香奈子の隣に時計が表示されていたが現状、誰も気に止めてはいない。
「一回戦「無差別バトルフィールド」の会場は、樹海&大草原フィールド。目の前に広がり続ける樹海と、その先にある見晴らしがよく死角が一切存在しない大草原が特徴だー!」
少しタイムラグのあとに画面の向こうで、元気よく、はしゃぎまくる香奈子は続けて説明を再開させた。
Aブロック同様に、Bブロックの説明も控えている。
「この会場に送り込まれたのは全部で六組のチーム。勝利条件は敵のメンバー全員が気絶、戦闘不可能の状況に追い込まれた場合。もしくは左腕に点滅しているリーダーマークを持つ人を気絶、戦闘不可にした場合。生き残った上位四組が二回戦出場の切符を手に入れるぞ。――――それと、別に殺すことはルール違反じゃないからー、ねっ!!」
背筋に凍り付くように発せられたどす黒い声色で発したのち香奈子はケタケタと笑いながら目下にある涙をふき取りながら、マイクを口元に近づけた。
「医療班がしっかりしてるから死んでも五分以内なら助かると思うよ。多分だけど」
嘘か真か、わからないことを告げた香奈子は最後に手を振るような素振りをする。
「それじゃあ、制限時間は一時間。レディ――――――」
緊張が全員の身体に走る。
六組のチーム。
総勢、二十四名の生徒が生と死を掛けたトーナメントの第一回戦へと挑む。
「お前達、まさかあの人の言葉で怖気ついてないだろうな?」
「まっさか。むしろ、殺す気でやっていいなんて俺にとっては十分すぎる」
「あたしだって、全力で立ち向かってやる」
「私は補助メインになるかもしれませんが頑張ります。それと一条くん、いいですか?」
「ん? どうした、間宮」
落ち着いた面持ちをしていた渚の表情が一気に青ざめていくと彼女は自分の左腕に指を向け抗議をした。荒れ狂うように、彼女は徐々に血の気が引いて行く。
「何で私の左腕にリーダーマークの点滅が光っているんですか!!」
慌てふためく渚。やる気に満ちる伊御と京子。
ゆっくりと両目を閉じ、最後まで集中し続ける奏は小さく微笑んだ。
「――――――――――ゴォォォォォォォ!!」
そして、今、新入生が死闘を繰り広げる激動の一週間が始まった。
このあと、どんな運命が訪れるのか、この時はまだ誰も知る由もない。




