第六話「黒髪ツインテール」
013
大型ショッピングモール一階。
有名コーヒーチェーン店にて、一条奏は久々のコーヒーに舌鼓を打っていた。
奏が飲んでいるのは名前が長くて注文をする際に二度ほど噛んでしまうくらい面倒な名称をしている、カフェオレによく似ている少し甘めのコーヒーであった。
休日、と言うこともあって人気は多い。
しかし、コーヒー店と言うこともあって客層は極めて大人しい年齢層。小中学生はおらず、中年気味のお父さん、カップル、通ぶっている若者、ツインテールの少女もいた。
少し大きい容器を手に持ってストローを口に近づけると少しずつ、飲んでいく。三分の一を飲み終えた所で奏が静かに溜息をつくと背もたれに寄り掛かって、ゆっくりと腕を組む。
「それでお前は何をしている?」
目の前で奏と同じ容器を持ちながら、幸せそうに飲んでいる一人の少女に告げた。
少しして、満足げな様子でテーブルに容器を降ろした彼女は小首を傾げ、その問いに対して疑問を返す。それが質問の意図を理解しているのか、天然なのかは奏に判別はつかない。
「何って、私だって休日くらい羽を伸ばしてお買い物くらいしますよ」
「そうじゃない。なんで俺と同じテーブルに座って、俺と同じ飲み物を買っているのかって言う意味で、聞いているんだよ!」
軽くテーブルを叩くと周囲の人がこちらに目を向けてきた。近くの店員さんが苦めの表情で奏達のいるテーブルに近づいて来たので小声で誤っておいた。
とてもじゃないけど唐突過ぎる展開に、奏は頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
そんな奏の深層心理を嘲笑うかのように見事なまでにスルーをしている真桜は美味しそうに容器の中に入っているカフェオレを飲み干した。
「まあ、狭い街ですし、休日に大きな場所で出会うなんて普通ですよ」
「別に俺はお前と鉢合わせたことを後悔しているんじゃない」
「なら、どうしてですか?」
この状況を理解できていない真桜に対して先ほどから、周囲の目が厳しくなっていることに薄々、察し始めた奏は呆れた様子で真桜を見るとテーブルの容器を手に取った。
乱酒するかのごとく、半分以上残されていたカフェオレを一気に飲み干した。
正面にいる真桜がニコニコとしている間、一気に飲み干した容器を勢いよくテーブルに叩きつけた奏は真桜に最初から最後まで懇切丁寧に説明をし始めた。
「あのな。休日の、それもカップルが多い、こんな場所で俺とお前が一緒のテーブルにいるのを学園の人に見られてみろ。一瞬で全校中に噂されることになるんだぞ?」
「別にいいじゃないですか、噂くらい」
「噂くらいって……。仮にも、お前は優等生、俺は落ちこぼれだ。それに俺は下剋上すると宣戦布告までした。そんな奴と一緒にいるなんて知れたら、あることないこと言われるぞ」
「別に構いませんよ。所詮、噂は噂じゃないですか。私は、私が信頼できる人としか関係を持たないのでそんな第三者の見解なんて興味ありません」
「はあ……。そう言えば、お前ってそう言った人間だったな」
事細かに、難しく考えすぎていた自分が逆に馬鹿に思えて来た奏にとって真桜が第三者から見た見解は必須だと思うのだが、本人がどうでもいいなら、どうでもいいのだろう。
「それよりも奏さんは今日、何しにここに来たんですか? この前、誘った時は全力で拒否をして一緒に買い物に行ってくれなかったくせに」
「誰が好き好んで人が沢山いる場所に行くかよ。今日は用事があって来ただけだ」
「へー、そうなんですか。一人出来たんですか?」
「いや、同じクラスの子と。なんでも明後日の大会に必要な物を取りそろえたいんだと」
お疲れ気味な顔で頬杖を突きながら小さく欠伸をする奏を見て朗らかな表情で微笑む真桜は彼の口から飛び出した発言に豪く賛同を得た。
なぜならば、彼女もまた奏と同じ理由でここに足を運んでいたからである。
「奇遇ですね、奏さん。私達も明後日の大会のために赤色の服を新調しに来たんですよ」
「A組はクラスカラーが赤色なのか」
「はい。ちなみにE組は何色なんですか?」
「紫色」
「奏さん、紫色って似合わなさそうですね」
「うっせ。お前こそ、赤色は似合わないんじゃないのか」
「むっ、それは聞き捨てなりませんね」
互いの服の似合う、似合わないはよく判らないが奏は常に「黒」を基調とした服装を選び、真桜は「白」を基調にした服装を選択しているので、あまり着ない様子が全面に出ていた。
静かに見つめ合う二人の目線は、バチバチと雷を轟かせている。見たこともないのに服装を貶されたということに奏も真桜も互いに怒っていた。
無言のにらみ合いがしばらく続く。
「あー、もう止めだ、止め」
キリリッ、と睨み合っていた二人の沈黙が耐えられなくなった奏が先に折れた。
少しだけ嬉しそうに優勢を告げる満足げな笑みを浮かべる真桜に腹立たしい気持ちを感じ、奏は椅子の背もたれに寄り掛かる。
張りつめていた空気が一気に元通りになっていった。
「私だってたまには派手系の洋服くらい着ます」
「俺だってたまには黒以外の洋服くらい着るわ」
基本、平日は学生服で顔を合わせている二人。
そして、偶に街中で遭遇したり、前もって連絡をして遊んだりする時のことを思い返した。
だが、二人の記憶違いでなければ奏は黒。真桜は白以外の服を着ている所は見たことない。似たような柄の服装で毎度、二人は会っている気がした。
ただ、奏の場合、上から色々な色をあしらったシャツを着ているので問題は無い。
「こうなったら」
「勝負は明後日、新入生対抗トーナメントの時にどちらが似合っているか決めましょうか」
「いいだろう。俺はその勝負、受けて立つ」
話の本質を大きく逸れた服装の話題が異様なまでに盛り上がった所で二人の有意義な談笑はここで一旦、終わりとなった。
テーブルに置いてあった真桜の携帯が何処かで聞き覚えのあるクラシックの音楽を鳴らすと携帯画面に「赤城千歳」と名前が表示された。
それと同時にお店の窓ガラスから、渚と京子の姿が奏の目に止まる。
「あ、京子ちゃん。一条くん、ここに居たよ」
「やっと見つけた。服屋にいると思ったから、探しまくって損したな」
「まあ、いいじゃん。さ、早く一条くんと合流しようよ」
軽やかなステップを踏みながら、携帯を手に取った真桜と入れ違いに奏の傍に駆け寄った。すれ違った真桜に目をくれる渚だったが差ほど重要ではないと、正面に身体を向ける。
少し遅れて京子もテーブル近くに近づいて来た。
「一条くん、洋服を買いに来たのに何で油を売っているんですか」
「ああ、すまん。急にコーヒーが飲みたくなって、服は後で買う予定だった」
「もー、一条くんといい、京子ちゃんといい、本当に私の傍には無関心な人が多すぎるよ」
一応、怒られているという解釈で話が進んでいるようなので奏は取りあえず、渚に謝った。顔を上げて彼女の顔を見ると先ほどまで掛けていなかった眼鏡をしていることに気付く。
なんでも、トイレに行ったさい、目の中に入っていたコンタクトが取れてしまったらしい。それよりもコンタクトを入っていたことに気付かない渚もどうかと思うが、偶々、バックの中に入れて置いた眼鏡を急きょ、掛ける羽目になったとか。
「やっぱり、間宮は眼鏡を掛けていた方が間宮っぽいな」
「ああ、それわかる。眼鏡掛けていない渚って一瞬、渚だって判んなくなるんだよな」
何故か突然、高笑いをする京子に店内にいる他のお客からの視線が鋭くなってきたので奏は京子の背を強引に押しながら、お店の外に出た。
後ろから渚が追いかけてくるのを確認して少し離れた場にある、誰でも自由に座れる所まで移動をする。本来ならば、癒しの時である休日がいつもより疲れている奏はため息をつく。
「それじゃあ、一条くんの洋服を早速、買いに行きましょう」
「あ、ああ。そうだったな」
「ちなみにあたし達はもう買ったからな、あとはお前だけだ」
「それなら、さっさと洋服を買って早く帰ろう」
電話で一足先に出て行った真桜を二階に上がる際、確認できた奏だったが声を掛けることはせずに彼女が駆け寄った面々を眺め、明後日を楽しみに待ちわびた。
全てが変わるかもしれない、
何も変わらないかもしれない。
立ち向かう「下剋上」。それを全力で阻止しようとするモノがいる。
そんな期待と不安を抱きながら、エスカレーターの静かな揺れに奏は心地よい欠伸をする。
014
「はっ……、はっ……、はっ……」
翌日、日曜日。
息を立てながら全身黒ずくめの少年、奏はランニングというには少し速いスピードで近所を走っている。既に三時間以上は経過しているだろう。先ほどから休日に集まって井戸端会議をしている人からの視線が厳しくなっているのを横目に黙々と走り続けていた。
奏がわざわざ休日を無駄にしてまで走っているのには訳がある。
成績はA組レベル。技能に至っても使い方によっては「最強」と格付けされる奏の能力だが本人も少なからず自覚している目に見える欠点が一つ存在した。
「肉体的な強さ」である。
クラスの女子と「能力対決」をすれば圧倒的な怪力の元に捻じ伏せられ、かなり情けないと感じ始めている奏は体力を付けようと中学を卒業してから、しばらく行っていなかった朝の長距離ランニングをして地道に体力を上げていった。
しかし、それだけではダメだと思った奏は四月に入ると同時に「通信空手」を受講し、日々特訓を積み重ねている。
――――しかし、未だ効果が出てないのは先日の戦いでわかっていた。
だから、例えこの対抗トーナメントに間に合わなくても今後、なにかの行事があった場合、自信の力の無さで負けることが無いようにと何時にも増して無我夢中に走っていた。
時々、カッコつけてジャブをしながら走っているのだがフードを被りながら白昼堂々としているので、先ほどから見ていた親たちの数が増えてきたのが町内十二週目で確認できた。
「……うわ、凄い見てる」
ひそひそ、とこちらを見ながら徐々に人数が増えていく様に驚き、そろそろ警察に通報でもされるのかと危機感に脅えはじめた奏は、休憩もかねて近くの自販機に歩いて行くと深めにかぶっていた黒のフードを外すと既に十五人はいそうな町内の人達に向かって会釈をする。
フードを外した途端、町内の人達の厳つい表情が一瞬にして柔らかくなった。
「こんにちは」
三時間以上、走り続けていた不審者らしき人物が奏だと言うことを知った近所の人達は奏に挨拶を返すと苦笑いを浮かべながら小声で喋り始めた。
もちろん、一条奏がこの春に神代学園に編入したことはここらでは有名だろう。
そんなことも気にせずに自販機でスポーツ飲料を買った奏は、一気に飲み干して汗を拭うと良い時間になって来たので今日はこのくらいにしようと終わりを決めた。
ただ、奏はクールダウンのために町内を一周歩いてから、家路に着くようにしていた。
「さて、家には親も姉もいないか……、暇だな」
休日だというのに両親は仕事。
四つ年上の姉は現在、海外にいるらしいが詳しいことは何も知らない。
ただ、幼少期からこんな休日だったのでいまさら親には何も求めてはいないし、高校一年で休日を親に左右されることもないので基本的には楽である。
一条家は放任主義に似た(男性の序列は極めて低い)自由主義なのである。
「そう言えば、響は友達の家に遊びに行くって朝、言ってたな」
頬を伝う汗を袖で拭いながら、奏はペットボトルの中身を半分ほど飲み干した。
住宅街を少し抜け、閑散とした場所が訪れた。ここは主に休日は小学生の遊び場として利用されている。しかし、生憎、朝が少し早いせいか人っ子一人見当たらない。
ただ、そんな公園の中に一人、ブランコに乗っている少女が遠目でも確認できた。
「いよいよ、明日か……。新入生対抗トーナメントは」
何度も自問自答を繰り返して奏は己に言い聞かせていた。
正直、言って奏自身、優勝出来る可能性は半分も満たないと思っている。E組に属している落ちこぼれである自分が大きな舞台の場で活躍する様を想像できないからだ。
それと問題はもう一つ。
自分の能力について。
「引力」という実態の掴めない謎の多い能力。幼少期から行っている検査でも具体的な力の用途は不明。実際、この合っても無くても良いような能力を本気でいらないと感じた時も、この能力を使って前向きに進んで行こうと思えたのも、全てあの事件がきっかけだった。
とにかく、戦いに勝利するにはこの能力を本当の意味で己の力にしていかないといけない。しかし、奏にはそれが出来なかった。
思い出すのはあの出来事。
今はまだ未確定でもいい。
今使える限りある力の使い方を向上させていけばいいと、奏は静かに決意を新たにする。
「よし、思い立ったが吉日! もう何周か走って来るか」
気合十分の今の奏にとって、あと何周も町内を走る体力は優に有り余っていた。
一気に飲み干したペットボトルをゴミ箱に見事、いれると足首を軽く捻じって身体を解すと大きい公園の横を一気に駆け抜けようとした。
「――――ん? あれは」
しようとした、直前に唯一、公園の中で遊んでいた少女の周りを男数人で囲んでいる光景が奏の視界に捉えてしまった。
数的に言っても完全に勝ち目はないし、と言って奏が加勢をしても少女を無傷で救えることすら危うい。しかし、今の奏はやる気に満ち満ちていた。
「はいはい、ちょっといいかなお前達?」
軽く小走りをしてすぐにブランコの傍へ駆け寄ると、奏は集団の数人に声を掛けた。
瞬時に「はい、来ました」と少女を助けようとやってくる偽善者を待ちわびていた不良二名が鋭い目を振り返りながら奏に見せつけた。
「ああん? なんだ、てめ……」
一人がすぐに反応して背を振り返り、奏の顔を見た途端、ぎょっと表情を濁す。すぐさま、隣に居る奴が同様に奏の顔を見ると同じように驚いた表情を見せた。
「お、おめぇは!!」
残りの二人は奏が来ていることに気付いていないようで、呑気にナンパを続けていた。
「あ、えーっと誰だっけ、アンタら? 確か……漢方兄弟だっけ?」
『拳脚兄弟だっ!!』
大声を上げて奏の間違えた通称を訂正する。
拳脚兄弟。
ハッキリ言って奏も断片的にしか覚えていない。雑魚キャラとしか認識していなかった。
「また、お前らは性懲りもなく……、アホだな」
頭を掻きながら、手早い解決策を考えて奏はのうのうと拳脚兄弟に告げ口を吐く。
前回のことがあるため、上手く言えない二人は少し青白い表情をさせるがすぐさま、少女をナンパしている残りの仲間を連れてこようと声を掛けた。
「へへ、流石にお前も四人の能力者にはかてねぇだろ」
「今度こそ、痛い目見て貰うぜ?」
「んだよ、俺達に面倒ごと押し付け……、お、お前は!!」
少女のナンパから急いで連れてきた二人は奏の顔を見るなりぎょっと顔を驚かせる。自分を知っている奴らなのかと思っていたのだが、奏には見覚えが無く首を傾げた。
そんな中、二人は動揺しながら奏に喰ってかかる。
「お前のせいで俺達は退学になっちまったんだぞ!!」
「どうしてくれんだよ!!」
――――退学……? あ。
「お前ら、もしかして「能力対決」で負けた新宿と藤ノ森」
『代々木と佐々木だっ!!』
「惜しい」
『惜しくねぇよ!』
黒髪の佐々木と青髪の代々木がまるで漫才のようなノリで奏にツッコんでいく。それを見ていた拳脚兄弟が「え? お前ら知り合いなのかよ」という目で見ていた。
「それで何だよ。俺達、今ナンパで忙しいんだけど」
「いやいやいや、流石に中学生一人に偽物不良四人でナンパをするのもどうかと思うが」
『誰が偽物不良だっ!!』
「いや、お前ら四人のことだよ」
物凄い勢いでメンチを切って来る四人だが存外、恐怖心と言うものは無かった。一度、心が折れるまでボコボコにしたお蔭で完全に格下であると認証されているらしい。
そんな四人を見て、奏は彼らを鼻で笑った。
「まあ、今回は大目に見てやるからさっさと帰ってくれないか?」
これで勝負は付いただろうと思っていた奏だった。
しかし、拳脚兄弟と代々木、佐々木は囲むように話し合いを始める。かなり面倒くさい。
時折、欠伸をしながら奏は四人の話し合いを待ちわびた。
「それにしても、あいつ何処かで見たことあるような……」
奏は話し合いをしている四人の向こう側にいる、平然とした面持ちでブランコに乗っていた中学生程度の少女を見て小さな声で囁いた。
見たことがあると言えば見たことがありそうな特に特徴もない、何処にでもいそうな少女である。短く切りそろえられている黒髪に背丈は小柄で着ている服装も今時の中学生っぽい。
――――もしかしたら、響の友達……、かもしれないな。
助けて正解だったかもしれないと心の奥底で思いつつ、小さく息をつくと四人の作戦会議が終わった。てっきり、立ち去ると思っていたが予想とは裏腹に奏の方へ歩み寄って来た。
「それで潔く――――」
四人のぎらつく闘争心を立ち振る舞いで察した奏は若干、頭を下げて臨戦態勢に入る。
「帰ってくれようとは思わなかったわけだ」
決して確実に勝てる面々ではないがここで立ち向かわなければいけない。覚悟を決めた奏は疲れている身体に鞭を打って小さく拳を握りしめた。
「流石に四対一なら、俺達だって勝てる」
「佐藤真桜がいるのは少し気がかりだが、お前を倒して逃げればいいさ」
「俺達、拳脚兄弟の本当の実力」
「見せてやるぜ、おらぁぁぁぁぁぁ!!」
一斉に飛びかかって来た。
拳変化を使用して、殴り掛かってくる。
脚変化を使用して、蹴りかかって来る。
水球衝撃を使用して、水のボールを投げ飛ばしてくる。
空間切断を使用して、奏の周囲の空間を切り裂き、肩を掴んで身動きを取れなくさせる。
『うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
四人がまるで遠吠えのように叫びながら奏の元へと飛びかかって来るのだが――――
「――――っ!?」
突如、発生した強風によって勢いよく走って来た四人の声が掻き消された。
「全員、気絶している」
先ほどの勢いの良い声は何処に飛んでいき、四人全員うつ伏せの状態で倒れていた。
あまりにも不可解な行動に思わず、何が起こったのか判らない奏は思わず立ち尽くした。
「いやー、まいったね。まさか、私だけじゃなくて他の人にも手を出そうとするなんて」
そんな声が奏の小耳に聞こえてくる。
少し声のトーンが高く、テンションが高そうな子のイメージな声色。
おそるおそる、その声のする方へと視線を向けるとそこにはブランコから綺麗に着地をした少女が頗る笑顔で両手を挙げて奏の方を向いている。
そして、すぐさま奏は不可解なこの現象が彼女の仕業だと推察した。
「……これはアンタがやったのか?」
「アンタって……。まあ、いいけどさ。そう、これは私がやった。私の能力でねっ」
ぱちぱちと仕切りに目を開く少女の瞳には幾つかの星が目の中に刻み込まれていた。少女は倒れている四人をわざと踏みつけるように奏の方へと歩いて行くと、頭一つ分くらい違う体が奏の前で立ち止まった。
ツインテールの黒髪と無駄に大きい胸がゆさゆさと揺れている。
少女は上を見上げて少女は奏の顔を窺うと景気よく満面の笑みを浮かべて喋った。
「にゃるほど、にゃるほど。君の名前は? ちなみに私は内田瑠璃。瑠璃って呼んでね」
「俺は一条奏だ」
すると少女、内田瑠璃は驚いた様子をするなり、再度まじまじと奏の顔を眺める。そして、にこやかに笑顔を浮かべる。
「そうか、君が噂の一条奏くんかー。私が思っていたより、何倍もカッコいいね」
「そ、そりゃ……、どうも」
なんの噂かよくわからない奏は素直に喜べず、下手な表情で笑いを取った。
不格好な奏の苦笑いを見て「にゃはははは」と声を上げて笑い始めた瑠璃を余所に彼の顔は彼女の空気についていけない、苦笑いをするしかない表情になっていた。
「まあ、助けようとしてくれた、その行動には感謝するよ。ありがとう、かなぴょん」
「か、かなぴょん!?」
聞きなれていないあだ名を唐突に付けられて困り果てる奏を余所に自由気まま、自由奔放にはしゃいでいる瑠璃は何かを思い出した表情を浮かべるなり、奏に訊きだした。
「そう言えば明日から新入生対抗トーナメントって言う行事があるんだよね?」
「あ、ああ」
「もしかして、かなぴょんって出場するのかな?」
「まあ、出るよ。何としても優勝しないといけないからな」
「そうなんだー」
それらを聞き、少し嬉しそうな趣でリズミカルな鼻歌を歌い始めるとスキップをしながら、奏の前から去って行こうとした。
帰ろうとした直前、思い出したように瑠璃は足を止めると少し離れた場所にいる奏に向けて大きな声で口を当てながら、叫んだ。
「ちなみに私、中学生じゃなくて高校一年生だから。よろしくねー!!」
大きな声で衝撃の事実を告げられて口をあんぐりする奏を余所に、前よりも頗るいい笑顔で瑠璃は外に飛び出していった。――――まだ見ぬ、怪物の成長を祈願して。
015
内田瑠璃はスキップをしながら時折、鼻歌も歌いながら意気揚々と住宅街を抜けていく。
「まっさかー、こんな所でかなぴょんと遭遇しちゃうとは」
嬉しそうに喜びを歌で表現しながら、再度思い出したように携帯を取り出した。
そして、ある同級生に連絡を取り始めた。
「あ、もっしー。しーくん?」
しーくん、と呼ばれた電話の主は面倒くさそうに瑠璃に返答をする。
「明日のさー、新入生対抗トーナメントの件だけど。やっぱり、私が出てもいい?」
突然の気ままな発言。瑠璃にはよくあることらしく、しーくんと呼ばれた電話の主も驚きはせずにある程度、解釈をすると納得をした。
「ありがとー。お礼は今度、するからね」
電話を切ると瑠璃は再び嬉しそうな様子を全面に出しながら、人気のない道を進んでいく。
まだ見ぬ強敵揃いの化け物達が集う、大波乱のトーナメントを楽しみにしながら、一学年で最強と謳う人外の集団――――「S組」が動き出した。
「さーて、あっくんが過小評価をしていた「貪欲な雛鳥」一条奏こと、かなぴょんの実力をじっくり堪能させて貰おうかな。―――それと、A組のリーダーである佐藤真桜もね」
規格外、レベル違い、段違いな才能。
その世代に置いて群を抜いて「最強」と謳われる「現代の怪物」。
その中でも二学年上の「最強の世代」を脅かすほどの実力を兼ね備えた今年の一学年最強組。
通称、「最悪の世代」がいよいよ表舞台に舞い上がる時が来た。




