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或る世界の勇者と魔王  作者: 古鷹かなりあ
第一章:入学式篇
17/70

第十七話「デート(仮)」



 028



 「美少女らしい美少女」。

 「人間味を帯びていない冷徹人間」。

 「敬語なのにどこか毒のある口調」。

 ――彼女のことを語るには恐らく念入りに試行錯誤し終えたのち、三時間以上に渡る論戦に持ち込まれ結局何も決まらないまま終わることだろう。


 ちなみに、三点の印象は奏が彼女と初めて出逢った時、つまり入学式の二週間後に起こった「E組生徒成り上がり宣言事件」の時に抱いた印象だった。

 例外はあるかもしれないが、この三点の印象が恐らく、彼女のことに的を得ていると思う。そう力説をすると奏は密かに納得をしていた。


 冷静さを乱すことはあってもあくまで、秀逸な視点から物事を判別する奏からしてみれば、彼女が同じクラスだとしても、席が隣同士だとしても、委員会が同じだとしても、所属する部活が同じだとしても、幼馴染みだろうと、親友の彼女だろうとも関わりたくない存在だった。

 それくらい彼女は何処か、自分に似ている気がして、それで自分よりも勝っていたからだ。


 ――――しかし、そんな理想はあくまでも理想に過ぎなかった。


 それが数日前のゴールデンウィーク中盤の日、その日から彼女を「関わりたくない存在」と言っていた奏は彼女のことを受け入れることにした。

 それは奏が「元勇者」で真桜が「元魔王」だからではない。

 自分と同じ境遇をしている真桜の姿を見て、同情をしたかったからでもない。

 強くて、勇ましくて、凛々しくて、他者を見下す素振りがあるけれどそれは愛情の裏返しで誰よりも、「最強」を名乗れるはずなのに自慢をしない。そして偶に見せる純粋な笑顔。

 ――――そんな彼女に惹かれてしまっているのか。

 正直、奏にはよくわからなかった。


 考え詰めた結果、何も答えが出ないままゴールデンウィークの最終日を迎えた。そして、


「はあ……、やっぱり断ればよかったな」

「わくわく。何か言いましたか、一条さん? さ、早く入りましょう!」


 遊園地の優待券を係の人に渡すと真桜の跡を追うように奏は園内に入園をした。キラキラと視界に入る物すべてに期待と喜びの眼差しを向けながら、彼女は嬉しそうに歩み始める。

 そんな真桜を見て、いまさら引き返すことの出来なくなった奏は諦めのため息と共に連休の最終日ともあって予想以上の人数に少し気分が参っていた。


「それにしても、人が多い……」


 最寄り駅からモノレールを使って二駅向こうの巨大テーマパーク「如月パーク」へと真桜と共に訪れた奏は人の多さを見て、改めてここに来る必要が無いと感じ、絶望する。

 そんな落ち込んでいる雰囲気を出している奏の視界にアトラクションを見終えてやった感のある真桜が余韻を残しつつ、こちらに歩いてきた。

 人気があるので少し離れた二人だったが、人の間をすり抜けてようやく合流をする。


「一条さん、一条さん! 凄いですね、遊園地って!!」

「なんだ、佐藤。お前、遊園地に来たことないのか?」


 この歳で遊園地に来たことが無い奴なんていないだろうと勝手に思い込んでいた奏は真桜が見せる純粋な瞳に驚きながら、それを口に出していた。

 少し思いつめたような顔つきをした真桜は、すぐに持ち直すと「はい」と答える。


「家は……、色々と事情がありましたのでこう行った所には始めてきました」

「へぇ」


 どの家族にも事情はある。それは奏だって重々承知のことだった。

 一条家の両親は公務員、それも時間の融通が利かないため、平日はほとんどいない。休日も家を空けることが多かった。そのため、一般家庭とは違って祝日休日にテーマパークに来ることは恐らく姉に連れられて以来だろうと少しだけ真桜と同じ境遇だと感じた。


「まあ、俺もこういった所に来るのは指で数えられるくらいだから、佐藤と似た感じだな」

「そうなんですか? なら、似た者同士ですね。私達」


 そんなちっぽけなことで共通点が芽生えて、また少し真桜のことを知れた奏。そんなことを考えている内に気付けば奏は長蛇の列に並んでいることに気が付いた。

 しかし、始まったばかりだったのが功を奏しているのか、後ろを見れば長蛇の列ではあるが前を見れば三十人ほどしかならんでいない。


「それでさっきから、気になっていたんだがこの長蛇の列は何のアトラクションなんだ?」

「え? 知らないんですか、一条さん」

「まあ、疎いからなこういうことには」

「今、巷で有名の如月パーク一番のオススメアトラクション、絶叫マシーン十六号ですよ。知らないんですか?」


 記憶を辿る。そう言えば、数日前に響がさりげなく如月パークのパンフレットを持って来て「デートをするなら、やっぱりここかなー」と、チラチラ見ながら、言っていたことを奏は思い出す。


「それで絶叫マシーン十六号って、どんなアトラクションなんだ?」

「そうですね。簡単に一言で言えば、ジェットコースターです」


 そう言って真桜は真上に通るレーンを指差した。それに釣られて首を上に曲げた奏の視界にジェットコースターの車体がもの凄い速度で駆け抜けていく。あまりにも速すぎるので悲鳴を上げる人も少なく無い。

 ここ、如月パークの三大絶叫スポットの中でも一番人気のアトラクションだった。

 目の前を光速で通り過ぎていくジェットコースターに奏はふと、思い出したことがあった。


「ああ、思い出した。俺、このジェットコースターに乗った覚えあるわ」

「ほんとですか? どうでした、乗り心地は?」

「いや、ジェットコースターに乗り心地もクソもないと思うんだが……。でも、憶えている限りでは俺と一緒に乗った姉さんが泡吹いて気絶したくらいかな」

「それって、ヤバくないですか?」

「俺の姉さん、メンタル弱々だからな。一概に怖いとは言えないけど」


 こういった乗り物は、あまり得意ではない奏は依然、乗った時も姉に誘われて渋々だった。乗った途端、隣に座っている姉が奏の手を握りしめた、その痛みで乗っている最中のことはいまいち、憶えていない。気付いたら、終わっていて、隣には泡を吹いて気絶していた姉がいたことくらいだった。

 あれから数年、恐らく改良を重ねて「十六号」となったこのマシーンはあの時、以上の力を発揮できるに違いない。


 長々と口々に呟いている奏が結論的に何を言いたいのか、

 簡潔に、要約をすると「絶対に乗りたくはない」ってことである。


 次第に近づいてくる死の祭壇に奏は数年前の乗っている時の記憶が何故か蘇って来た。一歩階段を昇るごとに唇が渇いて、悲鳴を聞くたびに胸が張り裂けそうになる。


「あ、次は私達の番みたいですよ」

「え? 嘘、早くない」

「一条さん、ずっと自分の世界に入っていましたから」


 あっという間に二人の順番が来てしまい、逃げる間もなく隣にいる真桜に捕まった奏は青く染まる肌を震わせながら、死の祭壇――ジェットコースターの車体に押し込まれる。

 初見で乗る高速の乗り物にワクワクと期待を膨らませる真桜。

 その隣で出発する前から青ざめている奏は安全レバーが下りるまで俯いて固まっていた。


「楽しみですね、一条さん」

「ソ、ソウデスネ」

「片言になってませんか!?」

「遊園地に来て最初にこれに乗るって……、大丈夫かな、俺」


 そんな中、出発する直前に点検をしていた女性従業員さんが二人を見て、微笑ましく笑う。


「もしかして、お二人はカップルさんですか?」

「え? そう見えますか」

「はい。少なくとも、私には仲の良い彼氏彼女に見えます」

「そ、そうですか……。ありがとうございます」


 軽く会話を終えると、安全レバーが降下してくる。女性従業員さんがジェットコースターの注意事項を喋り終えると上のスピーカーから「Are You Ready?」とアナウンスが流れた。


「一条さん」

「な、なんだよ……」

「私、今、とても楽しいです!」


 隣で満面の笑顔で奏を見ている真桜に、彼はドキッ、と胸を躍らせた。

 しかし、そんな有頂天な気分は一瞬にして風と共に置き去りにされる。可動をするレバーに手を置いた女性従業員さんは「Go!!」という合図と共に、レバーを下に降ろす。


「……潔く散りな、リア充が」


 その数秒後、奏の絶叫が園内中に響き渡った、と真桜は面白がって後に語った。




 思い出しただけでも嗚咽が止まらない絶叫マシーン十六号の悪夢。奏はベンチに座りながら気分が回復するのを既に十五分前から行っていた。


「おぇ。し、死ぬかと思った……」


 入園開始早々にこんな絶叫に乗せられたお蔭で奏のテンションは一気に下降すると今すぐに自宅へ帰宅したい気持ちが湧き上がってくる。

 そんな気持ちと一緒に込み上がって来た嗚咽感を押さえながら、大きく息をついた。


「それにしても佐藤の奴、何処に行ったんだ?」


 奏はベンチから遊園地を見渡すが真桜らしき人物は何処にもいなかった。日曜ということもあって人は多い。そして、ゴールデンウィークで通常の入園料よりも半額になっているから家族だけではなく友達と一緒に来ている人も少なくは無かった。

 無碍には言えないが、通常の三倍以上の人が如月パークに足を運んでいる。

 先ほど並んでいたジェットコースターの絶叫マシーン十六号から少し離れているベンチだが列の最後尾が奏の目の前に並んでいる。そして、従業員が待ち時間を示す看板を持って列に並んでいた。

 どうやら、現在、乗ろうとすれば三時間待たないといけないらしい。


 そんなことを考えながら、しばらく休憩をしている奏の背後に忍び寄る人影。それは時折、静かに笑みをこぼすと射程範囲内に入った途端、手に持っている缶を奏の頬に押し当てた。


「冷たっ!」


 冷たいなにかを当たられて驚いた奏は思わずもの凄い速度で振り返る。そこにいたのは奏の予想以上のリアクションに失笑している真桜だった。

 笑っている真桜の姿を見て奏は思わず肩を降ろす。そして、しばらく笑い続けていた真桜は持っていた「コラコーラ」を呆れた表情をしている奏に手渡した。


「私からの奢りです」

「そうか。ありがとう」

「別に構いません。一条さんには無理やり付き合わせてしまったので」


 どうやら自覚はあったらしい。

 だが、それがジェットコースターのことなのか、この遊園地に連れて来たことなのか。今、言われても怒る気にもなれなかった奏は素直に許すことにし、コーラを飲み始めた。

 つられて、隣に腰を降ろした真桜はコーラの缶に口を付けた。


「それで次はどれに乗りますか?」

「何処でもいいや、俺は最初がジェットコースターだったから既に疲れた……」

「それなら、あそこの遊園地で二番目に怖いと言われている「Death Haunt」と言ったお化け屋敷に行きましょうよ。一条さん!」


 コーラ片手に奏の服の裾を引っ張って来る真桜に言われた場所を見た奏は外装だけで卒倒をするくらい恐々としたお化け屋敷だと速攻で判断した。

 この間、わずか一秒も経っていない。


 ハッキリ言って行きたくない。

 言葉を躊躇っていた奏は突然、鳴り響いた携帯の着信音で思わず立ち上がる。


「ビビった、メールか」


 ポケットから、取り出して差出人を見ようとする直前で隣にいた真桜によって強奪される。むすっ、とした表情で無言の圧力をかけてくる彼女に圧倒され、奏は素直に腰を降ろした。

 言いたいことは色々とあったが、取りあえずは心の中に留めておこう。

 隣では奏の携帯を開いて、真桜が何かを行っていた。


「えいっ!」


 何を思ったのか謎の言葉を発したのち、真桜は簡単に奏に携帯を返す。


「駄目ですよ一条さん。今はデート中なんですから電源を切らないと!」

「何、デートってそう言うものなのか?」

「そうですよ。常識です、一般常識範囲内ですよ」


 そんな一般常識も知らない奏にぐいぐいと近づいてくる真桜。鼻と鼻が軽く触れるくらいの距離まで接近すると我に返って、小さく声を上げた真桜は顔を赤くしながら身を引いた。

 もう、訳の分からない奏は取りあえず、今日くらいは真桜に従おうと携帯をしまいこむ。


「さ、さて。早く行きましょうか、一条さん」


 即座に立ち上がると、真桜は奏の手を引いて足早に人混みの中に入っていく。目的の場所は少し離れているが行きたくないという気持ちを押さえながら奏は不気味な建物「Death Haunt」へと歩いて行った。

 その途中に見知った人間とすれ違うが、二人が知る由もない。

 もちろん、この少年も気づく素振りすらなかった。



「あー、やっぱり男一人で遊園地って、すげぇ寂しいわ」


 歩いて行く奏とすれ違った伊御は如月パーク名物、三段アイスクリームを食べながら、退屈そうに人の間を器用にすり抜けていった。

 久々の休日に羽を伸ばしていた彼も、流石の一人は淋しいようだ。


「こんなことなら奏とか間宮ちゃんとか長門ちゃんとか誘えば良かったなー。俺残念」


 ただでさえ、目立つ髪色に三段アイスクリームを食べ歩いている伊御は周囲の目に止まる。だが当人は全く気にする様子もなく、奏達の向かって行った方向と正反対に歩いて行った。

 丁度、三段アイスクリームの一番上を食べ終えて、少し目線を下に下げた伊御はその時に、知り合いとすれ違う。だが、彼も彼女達もそれぞれに気付いている様子は無かった。



「それにしても休日だからですか、混んでいますね」

「そうだな。ゴールデンウィーク中は半額だからじゃないか? ほら、今日最終日だし」

「なるほど、だからこんなに人が多いんですね。納得です」


 間宮渚と長門京子はメイド服ではない私服で遊園地の中を歩いていた。

 ゴールデンウィーク中のバイトで親密になった二人は最終日ということもあって遊園地に、奏と伊御も誘って四人で行こうとしたのだったが生憎、双方ともに連絡が取れずに、女二人でやってきた。


「それにしても京子ちゃんがE組のチームを引き受けてくれて助かりました」

「まあ、あたしもお前ら三人分のバイト代を貰ったからな。等価交換だよ、等価交換。あたしは稼いだ分のお金を貰ってお前らはあたしの力を借りる」

「それでも京子ちゃんはいい人です。わざわざ、お休みの日に遊園地に誘ってくれるなんて」

「べ、別にいいだろ。あたしは渚と仲良くなりたかったんだから……」


 素直にお礼を言われて、少々恥ずかしかった京子は顔を俯きながら人混みを歩いて行った。それを見て和やかな雰囲気になった渚は目的の場所に辿り着いて、思わず声を上げる。


「ようやく順番が回ってきましたよ」

「ああ、ジェットコースター乗るの初めてなんだけど大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。少し早いだけの乗り物ですから」

「そうなんだ。それなら安心だ」


 その数分後、奏の二の舞になったのは言うまでもない。

 そんな楽しそうにはしゃぐ二人の真横を通った一人の女子中学生はその場に立ち止まると、膝に手を置いて荒れる呼吸を整えながらきょろきょろと周囲を確認する。



「はあ、お兄ちゃん。何処に行ったんだろう」


 息を切らしながら目を血眼にして周囲を見渡す響の元に電話が入る。


「律ちゃんですか? お兄ちゃん、まったくいませんけど!」


 荒々しく電話に出ると相手に対して抗議をしながら身なりを正す。電話の相手が概要を説明している、それを真剣な様子で聞きながら、返答に驚きの声を漏らした。


「お兄ちゃんの携帯についているGPSの反応が消えた? そんな馬鹿なっ!!」


 奏のGPS便りにここに来た響は打つ手なしと思い込んで通話を切った。そして、再び周囲を見渡すと一番見晴らしの良い所を探してあるアトラクションに目を付けた。

 そう、奏と京子を死の淵へと追いやった絶叫マシーン十六号だった。


「あれに乗りながら見下ろせば少しはお兄ちゃんの場所が……」


 馬鹿なのか、冴えているのか今の響は相当テンパっているらしく状況が追い付かないまま、ジェットコースターに乗ろうとするが入口に立っていた従業員の人に止められる。


「ごめんねー、このアトラクションは四時間待ちなんだよ」

「四時間!? そんなに待てないです」

「でも規則だから、ごめんねー」


 地団太を踏む。隣の小学生に呆れた表情を浮かべられたのも気にせずに響は走り続けた。

 だが、打つ手なし。

 GPSも見晴らしの良い所からの捜索も断念せざるを得ない結果になった響は肩を降ろすと、そして次に何を思ったのか遊園地の中でも最も人の集まる場所へと向かって走り出した。


「あ、諦めるわけにはぁぁぁ!! お兄ちゃんが泥棒猫にぃぃぃぃぃぃ!!」


 だれがこの絶叫女を生徒会長だと思うだろうか。

 いや、誰も思わないだろう。


 そして、この後、遊園地を舞台に危険が訪れる、だなんて誰も思っても見ないだろう。


「なんだ、ジェットコースターで叫んでる奴でもいるのか?」


 不気味な建物の前に到着した奏は走り去る響の絶叫を聞きつけて背を向ける

 しかし、あまりにも高速で右から左へと過ぎていく声に首を傾げながら真桜の方を向いた。隣で舞っている真桜の姿はジェットコースターの時と同じ目をしていた。

 つまり、イキイキと輝いていらっしゃる。


「ほんとに行くのか?」

「はい。やっぱり、デートの醍醐味と言ったらお化け屋敷が無難かと」

「それは怖がらない男性と怖がる女性限定じゃないのか? 俺は怖いのは苦手なんだが」

「その点に関しては大丈夫です。私はお化け、まったく信じてませんから」

「立場が逆じゃねぇか」

「ですから、怖かったら私に抱きついてください。優しく頭、撫でてあげます」

「絶対に抱きつかないからな」

「ふふ、その威勢。何処まで続きますのか楽しみですね」


 憎たらしい口調で微笑んだ真桜は一足先に扉をくぐって中へと入って行った。

 それを追いかけるように入ることを決意した奏が扉を開けて、そして、やっぱり絶句した。



 029



 それからお化け屋敷に入って絶叫の連続をしたのち、次々とアトラクションへと乗った。

 ジェットコースター、お化け屋敷、メリーゴーランド、3Dアトラクションなど。

 あまりに激しく恐々しいアトラクションの数々に四つ目以降はあまり記憶にない奏は真桜の楽しそうな横顔を見ながら、放心状態となっていた。

 お昼も、真桜が用意した昼食を遊園地内にある公園で食べて、和気藹々と時を過ごした。


「さて、午後も張り切ってアトラクションに乗りましょう!」


 お腹も膨れて、元気全開の真桜についていけない奏は草むらに腰を降ろしながら、なんとかダメージの少ないアトラクションを目で探しまくる。

 そして、目に止まった観覧車を指差して、胃もたれしている中、頑張って声を上げた。


「佐藤。俺、観覧車に乗りたいんだけど」

「観覧車……、ですか?」

「そーなんだ。観覧車と言えば空高くまで昇って街の景色を一望できる優れものなんだよ。夕日をバックに見ることもいいんだが、ここは一つ観覧車に乗ろう」

「で、でも、今ならお昼時ですから人気アトラクションが空いて――――」

「観覧車に乗ろう」


 流石にお腹いっぱいの状態で絶叫アトラクションを乗った日にはリバースする可能性がほぼ確実なのでそれだけは絶対に避けたかった。

 頼み込むように、すがり付く様に真桜に言い続けた奏の様子に折れた、真桜は立ち上がる。


「仕方ありませんね。ここは一条さんのすがり寄る苦悩とした表情を見せていただいたので午後一番は奏さんに決定権を譲ります」

「……あれ、これってデートだよな?」

「はい。デートですよ?」


 デートと言う概念が、いまいち理解できない奏は再度、真桜に聞き返すが当然、返答は同じ言葉の繰り返しだった。首を傾げる、真桜を見て、どうでもよくなったらしい。

 いまさらながら、奏の選択肢に「決定をする」という選択肢は無かったみたいだ。


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