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或る世界の勇者と魔王  作者: 古鷹かなりあ
第一章:入学式篇
16/70

第十六話「休日」



 027



 ゴールデンウィーク最終日、五月五日。午前九時。


 一週間に渡る長期休み、ゴールデンウィークの最終日。

 また「端午の節句」「こどもの日」「おもちゃの日」「わかめの日」「フットサルの日」と日本各地では、最終日とあって地方から帰省していた人達が帰ってくる日でもある。

 神代学園でも多くの生徒達が帰省してゴールデンウィーク明けの新入生対抗トーナメントに向けて最後の調整を行っている日でもある。

 そんな日、奏はと言うと喫茶店「にゃんにゃん♪」のゴールデンウィーク最後の出勤だったのだが店長、佐々原二葉の気まぐれで今日一日は臨時休業になったため、ぶっちゃけ暇だ。

 ――――ある者はゴールデンウィーク中に出た課題をせっせとやっている人。

 ――――ある者は連休中に仲良くなったクラスメイトを遊園地に誘おうとしている人。

 ――――ある者は差し迫る対抗トーナメントのために特訓をしている人。


 そして肝心の奏は何をしているのかというと、連休中の疲れを取るかのように死んだように眠っていた。連休で初めての九時以降起床だった。

 まだ、奏はスヤスヤと眠りについている。そんな彼の部屋に毎度、懲りないのが響である。今日は休日であるが故、奏の眠りを強引に起こそうとする無粋な真似はしない。正々堂々と真正面から奏を起こしにかかろうと部屋に入った。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」


 最終日なので「兄ともっとラブラブになっちゃおう計画」の一つは消化しておこうと策略を考えていた妹、響だったがどんなに揺すっても叩いても一向に奏は起きなかった。

 しばらくしても表情一つ変えず、爆睡している奏のその寝顔を見て一瞬、殺意がこみ上げて来た響は、この手で全てを無かったことにしようと思い立つが最後の所で理性が勝つ。

 そして、諦めが付いた彼女は肩を降ろしながら、揺するのを止めた。


「せっかくの休みが……。お兄ちゃんとの甘ラブなゴールデンウィークが……」


 結局、思い返してみれば何もしていないと自分の積極性の無さに嘆き悲しんだ。

 ゴールデンウィークで得た報酬と言えば、大好きな奏の女装写真くらいであった。



 しばらく時間が経って、寝返りでカーテンの隙間からこぼれる陽射しが奏の目を直撃する。響がずっと揺すっても起きることは無かった奏だが、陽射しを浴びた瞬間、先ほどの熟睡が嘘のように目を開ける。


「……はぁ、眠い」


 足で蹴とばした毛布を膝に掛け直し、寝ぼけながらも目を擦る。上半身を起こすとしばらく無の状態で時折、欠伸をしながら、眠気を覚まそうとしていた奏だったが、ベッドの片隅に置いてあった携帯電話の着信履歴が点滅していることに気が付いて、携帯を手に取る。


「メールか、誰からだろう……」


 半開きの瞳を擦りながら携帯を持ち上げて受信箱を開いた。

 そして、次の瞬間、半分眠っていた奏の脳は一瞬で活性化する。

 その原因はメールの受信箱だったが、それを見た瞬間に唖然としてしまった。


「なんだ、これ……」


 思わず受信箱を見て驚き放心となっていた。

 奏の受信箱には「新着メール164件」「着信45件」と表示されていた。夢では無いかと思う程ヤンデレ染みている受信箱に思わず携帯を布団の上へと投げ飛ばしていた。


「ははん。また、響の悪戯だな」


 我が愛すべき妹、響による悪戯だと結論付いた奏はしばらくして心落ちつかせると受信箱の中身を開く。そこに表示されていたのは半分が予想範囲内でもう半分は予想範囲外だった。


 「80件、一条響」。

 「2件、鳶姫伊御」。

 「1件、間宮渚」。

 「1件、長門京子」。

 「80件、佐藤真桜」――――と奏の目に留まった。


 響の悪戯には分かりきっていたことだったが何故、佐藤真桜がこんなに、と首を傾げる。

 しばらく考えて、奏は数日前のことを思い出すと少し納得した。


「そう言えば、あの時にメールと電話番号、交換していたな」


 数日前―――と言えば、ゴールデンウィーク三日前の出来事である。

 佐藤真桜に呼び出された奏は公園に向かって、そして、そこで衝撃の事実を告げられた。

 彼女が前世で奏の前世と対立していた魔王だということ。そして、前世の記憶の六割程度、思い出した彼はそこで色々な真実を聞くこととなった。

 恥ずかしそうなボディータッチもあったり、真剣な様子で話をしてくる真桜の姿もあった。思い返すと頭を抱える羞恥な記憶も出来てしまうが、奏は前世から抱えていた一つの不安が消えたことで肩の重荷が幾分かマシになった気がする。

 最後によく判らない「女子が携帯を取り出したらメールアドレスの交換ですよ、それくらい常識です。一条さん」と何故か怒られたりもした。

 世界は狭く、そして、関係はここから始まるんだと。奏はその時、そう思った。


「それにしても、響と同じメール数ってのは……、あいつもヤンデレ気質なのか?」


 少々、真桜と関係性を築いていく際に注意しようかと心の中で何かを決心した。次の瞬間、手に掴んでいた彼の携帯が大きな音を上げて着信を合図する。


「うぉ!」


 いきなりの出来事に心臓が飛び跳ねそうになった奏は、思わず携帯を投げ捨ててしまった。少しして、気持ちが落ち着くと画面に表示がされている名前を見る。そこには「一条響」と妹の名前と響の色っぽい写真が勝手に登録されていた。


「あの馬鹿、また勝手に変更しやがって……。帰ってきたら、お説教だな」


 妹の色っぽい写真を見ても、何も思わない兄はしばらくして通話ボタンをスクロールした。すると響の第一声が怒号なる叫び声だったので、奏は携帯を耳から遠くの位置へと離した。二分くらいすると怒号の声が聞こえなくなってきたので改めて奏は画面を耳に当てた。


「もしもし」

『あ、お兄ちゃん。ようやく起きた』

「今さっき起きた所だ」

『私が必死に起こそうとしても全く起きなかったのに、もう十時過ぎだよ?』

「まあ、仕方ない。響の起こし方が悪かったんだよ」


 あしらうように響を挑発すると、電話の向こうから「むきー」と悔しそうな声が聞こえた。電話の先で響が地団駄を踏んでいる姿が容易に想像できた。

 高笑いをしながら、奏はその場の様子を想像して抑えきれない笑いを表情にだした。

 そして、投げ飛ばされたであろう携帯がノイズを発生させる。奏は耳を離して、小さな声で響の応答を呼びかけているが相当ムカついているのだろう、返答はない。


「おーい、響さーん?」


 しばらく喋りかけていると徐に電話の向こうから語りかけてくる声が聞こえた。

 響と違って、電話越しからでも清純そうな容姿が容易に想像できるくらい透き通った声色が聴こえる。奏はその人物を知っていたので妹の名前とは違う、別の名前で話し掛けた。


「その声は確か、副会長の浅間(あさま)ちゃんだよね?」

『その声は響ちゃんの実兄にして高等部のE組に編入しながらも入学二日目で上級クラスをフルボッコにして全クラスの生徒に宣戦布告をした非常に哀れな一条奏さんですね?』

「……その嫌な口振りは完全に浅間ちゃんだね」

『ご無沙汰してます、奏兄さん』

「お前に兄さんと言われる筋合いはねぇよ」

『では、百歩譲ってお義兄(にい)さんで』

「発音は同じだけど意味的には絶対に違うよね、浅間ちゃん」

「さー?」


 いつも簡単にあしらわれてしまう。思わず、奏は「ぬぐぐ……」と声を上げてしまうほどに彼女という存在は彼にとって苦手分類に入る女性だった。


 浅間日和(あさまひより)

 神代学園高等部と同じ敷地にある神代学園中等部に在籍している奏の妹、響と同じクラスにして生徒会副会長を務めている。清楚な容姿とは裏腹に実は百合っけがあるらしい。

 口を開けば「女子」のことしか喋らない日和とは過去に数回くらいしか面識のない奏だが、初対面でいきなり「響ちゃんを私に下さい!」と言ってきたほどの百合娘だったので警戒はしている。

 ちなみにその後に「冗談ですよ、冗談」と言ってきたことによって警戒心は更に深まった。

 しかし、そんな性格とは反対に彼女の容姿は百人いれば百人振り返るほどの可憐な顔立ちで男女問わずファンが多いらしい。

 男性との浮ついた話が無いので、実は百合なのでは? と影では噂になっている。

 あと、付け加えるとすれば彼女の実家は日本で五本の指に入る浅間神社の一人娘である。


 面倒な娘に変わったなと、嫌そうな顔をしなが奏は日和との会話を続ける。


「それでお前達は今どこにいるんだ?」

『響ちゃんと私、それと他友人三人で勉強会をしています』

「そうか、なら安心だな。てっきり、俺は響と浅間ちゃんだけかと……」

『最初は私もそれが良いって言ったんですけど、響ちゃんが勉強するなら大勢の方が……ッ』

「うわー、響の兄と会話してるのに容赦のない舌打ち」

『あ、すいません。つい、うっかり』

「意図的にやったんだな、意図的にしたんだな」


 すると電話の向こうからクスクスと笑い声が聞こえてくる。


『まあ、そう怒らないでください。義兄さん』

「もう呼び方はどうでもいいわ」


 頭を掻きながらため息を付いた奏は電話越しに聞こえてくる響の叫び声を聞きながら静かに通話ボタンを切ると布団の方へと携帯を投げつけた。

 そしてベッドに横たわると欠伸をして少し仮眠を取ろうかと寝返りを打つとインターホンが鳴っていることに気が付いた。

 それは段々と早くなって迷惑極まりない行為が奏の逆鱗に触れる。ベッドから起き上がると扉を開けて凄まじい勢いで階段を駆け下りて行った。


「何なんだよ、一体。誰もいないのか」


 妹の響は外出中。姉、両親も仕事に行っているため現在この家にいるのは奏を含めて二人。奏は宅配便だと思いながら玄関の近くにある箱からハンコを取り出す。


「はいはい、今出ますから」


 そこら辺に脱ぎ捨てられていたサンダルを履くと鍵を外してチェーンを取ると扉を開けた。――――そして次の瞬間、目の前にいる人物に奏は思わず不意を取られた。

 色素の薄い茶髪に姫カットの前髪。数日前に出会った時よりも幾分か着飾っていて、まるで今から誰かとデートに行くような少し背伸びをした服装をしている彼女がいたからだ。

 いきなり出てきた彼女に思わず言葉を失い、黙り込んでいる奏の顔を見て微笑んだ彼女は、少し前のめりに体を曲げると片目を閉じて舌を出す。


「来ちゃったっ♪」


 そこにいたのは普通ならば確実に話すことさえ難しい、天地の差にいるE組とA組の生徒。

 少し顔を赤らめて、佐藤真桜は優しく微笑んだ。


「一条さん。今から私とデートしませんか?」


 すっかり、彼女に見蕩れてしまっていた奏は一世一代の大勝負でお誘いをした真桜の言葉にゆっくりと小首を傾げながら、斜めになっていたので両足を地面につけた。


「ん? 今なんて言った」

「ですから今から私とデートしませんかと言っているんですよ。女の子にそう何度もデートのお誘いを言わせないでください。恥ずかしい」

「いや、ちょっと待ってくれよ。佐藤」

「ですから、私のことは真桜ちゃんと呼ん――――」

「いいから。そのくだりは前にやった」


 現状がいまいち理解できていない奏は取りあえず、家に上がりこむと腰を下ろしてため息をする。何故、彼女がいるのか、ゆっくりと推測を考えてみた。


「やっぱり、トーナメント関係か」


 その一、敵情視察。

 「絶対勝利」を掲げているA組のリーダーの真桜であれば、堂々と全クラスの前で宣言した奏の視察をするのは頷けるかもしれない。あくまでE組を名乗ってはいるが実力は未知数。現に目の前で真桜は奏の能力を見て度肝を抜かれていたからだ。

 しかし。奏はE組、真桜はA組。相手にする方が可笑しいだろう。よって除外。


「次点だと……。あ、そう言えばメール」


 その二、ヤンデレ。

 今朝見たメールの数からして彼女は相当なヤンデレという可能性もなくは無かった。実際、実妹であって兄大好きのブラコンである響と同等のメール数を送っているのだから、例外がない限り彼女も相当な物好きか純粋なストーカー紛いの人間になる。

 しかし。現在から推察してもそんな様子はまったくない。よって除外。


「となると……、なんだ? それ以前に何故あいつは俺の家を知っているんだ?」


 その三。の前にとある問題が浮上して来た。

 何故、A組で優等生の元魔王、彼女が、E組で劣等生の元勇者、奏の家を知っているのか。


「それはあれですよ。ゴールデンウィーク中にここ周辺の表札を見て回りましたから。それで一条って苗字がここの家しか無かったので恐らくこの家かなと思いまして。あくまで推測ですから決して帰り道を、ストーキングして自宅を突き止めたとかそう言うわけではないので」


 「……ふむふむ」と納得のいった様子で首を頷く奏だったが次の瞬間、青ざめたような表情をしながら背を向ける。

 そこには先ほどまで玄関前にいた真桜が当たり前のように立っている。


「お前、何で俺の家にいるんだ?」

「何でと言われても、一条さんが招待してくれたからですよ」

「別に俺はお前を家の中に入れた覚えは無いぞ」

「何言ってるんですか。客人が玄関にいて扉を開けっ放しにしてるから……、てっきり」

「完全に住居不法侵入だよな、お前」

「てへっ☆」


 可愛げのある声を上げながら自分の頭を小突く。

 あれ、こんな性格だっけ。と思ったのは奏だけではないだろう。


「まあ、いいや。取りあえず、ここに座れ」


 そう言って奏は隣のソファーをポンポンと軽く叩いた。そんな仕草をする奏を見て真桜は、はっと顔を驚かせる。


「私を家に入れて早速、隣に座らせるなんて……、流石ですね。一条さん、やることが早い」

「何言ってるかまったくわからないんだけど。俺は今から朝飯を食べんの」

「そうなんですか。期待させて突き落すんですか……」

「本当に今日のお前、何言ってるかわからないんだけど」


 ソファーから立ち上がって真桜と入れ替わりに場所を移動させてキッチンへと移動する。

 響の作った朝食が用意されていたのでそれをテーブルに持って行くと定位置に座った。


「頂きます」


 手を合わせて箸を掴む。今朝の朝食はご飯とベーコン、それと味噌汁が付いている。いつもと何ら変わりないメニューだった。

 黙々と食べ進めていく奏をずっと見つめている真桜。その威圧ともいえる奇妙な視線に戸惑いながらも奏は無言で味噌汁を啜る。


「暇なのでTVなんか見てもいいですか?」

「別にいいぞ。あと、ボリューム上げ過ぎるなよ」


 許可を貰ったことで真桜はノリノリでリモコンを手に取ってスイッチを付けた。他人の家で堂々と座り、それだけなら未だしもTVを見ているとは何とも芯の通った人間である。

 日曜日ということもあってか他愛もないニュース番組、人気バラエティーの再放送が非常に多く番組が次々と真桜の指一つで変えられていく。

 その中で報道番組が近頃、頻繁に発生している通り魔事件について報道をしていた。 

 あまり興味無さそうに見ていた真桜はため息を付きながらTVの電源を切った。


「何も面白い番組、やっていませんでしたね」

「……いや、俺に聞かれても困るんだけど」


 最後の一口を食べ終えて手を合わせた奏と真桜の視線が合う。そして奏はキッチンに食器を持って行くと袖を巻くって丁寧に洗い始めた。

 しばらくの間、水が流れる音しか聞こえなかったリビング。そして、食器を洗い終えた奏は三つある内の真桜が座っていないソファーに腰を下ろした。

 そして、ようやく本題へと入る。


「それでお前は今日、何しに来たんだ?」

「だから第一声から言っている通り、デートをしてください」

「は?」

「そんな低い声で返されてもリアクションに困るんですけど……」

「いや、まずデートってなんだ?」

「デートと言うのは恋愛関係にある、もしくは恋愛関係に進みつつある二人が、連れだって外出し、一定の時間行動を共にすることですけど。何か可笑しな所、ありますか?」

「俺が聞いてるのはデートの意味じゃなくて、何で俺とデートをしたいのかってこと」

「ああ、そっちの方ですか」


 二人しかいないリビングにピンと張りつめた空気が漂う。もっと言えば今日の奏の予定は、一日中睡眠のはずだった。響の作り置きをした朝食を食べて再び寝る予定だった奏の予定が大幅というより計画自体が全て崩れてしまったので若干イラつきながら真桜に質問をする。

 そんなイライラとした言葉を受けてあっさりと簡単に真桜はその問いに答える。


「だから言ってるじゃないですか。デートって言うのは仲良くなりたい人と遊ぶことなんですから、私は一条さんと仲良くなりたいがために今日無理をして早起きをしたんです」

「いや、早起きって……もうすぐ十一時なんだが」

「休日の私は基本的に午前じゃ起きませんから十分な進歩です」


 同じ同士を見つけた奏は少し興味の湧いてきた彼女の新たな情報を得て嬉しい気持ちと同じクラスの人ともっと交流を深めればいいのでは? とまた別の疑問が生じる。

 しかし、このまま質問をし続けても終わりのない話し合いになることは目に見えているので奏はあえてその質問を止めると頭を掻く。


「それで、アンタは俺と仲良くなりたいと」

「はい。もちろんです」

「言っておくが俺はE組。で、アンタはA組だぞ。わかって言ってるのか?」


 つまり簡単に言えば格差がある。弱者に手を貸して自分を引き立てようとしている、強者の雰囲気だ。結局は自分が良い人と思われたいがために起こしている行為としか思えない、と奏は思う。

 そんな奏の疑問を知ってか否か、あっさりとその幻想を打ち破る答えを告げた。


「それはあくまでも学校内の話ですよね? ここは学校の敷地内ではありません。では、格差とかE組とかA組とかそんなのは全く関係ないです。私は「佐藤真桜」一個人として「一条奏」という人と素直に関わりたいだけなんですから」


 その時、奏が見た真桜の顔は疑いようのない真実を語っている真剣な瞳だった。

 正論すぎる正論に思わず心を打たれた奏はしばらく考えたのち、諦めが付いた様子で立ち上がると階段を上がって行った。

 唖然と後ろを振り返る真桜に気付いて立ち止まった奏は階段から顔を出して下で座っているテンション下がり気味の真桜に声を掛けた。


「仕方ないから、行ってやるよ。少し待ってろ、準備してくるから」


 少し裏返った声で喋りかけた後、駆け足で階段を昇って行った。

 そんな様子を見て真桜は素直に喜ぶと奏の私服姿を想像しながら足をバタつかせていた。


 しかし、真桜は知らない。

 奏の隣の部屋から仕切りに聞こえてくる異常なまでのPCの起動音に。


 そして、奏は後に知ることになる。

 異常なまでに執着する姉妹の恐ろしさを。


 二人はまだ知らない。

 このデートがどんな悲劇に巻き込まれてしまうのかを。


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