8 ヘンリエッタ12歳(6)
9 ヘンリエッタ12歳(6)
あれから一ヶ月が経った。
私は変わらずこの世界にいて、勉強をし、料理を作り最近では畑にまで手を出した。料理は好評で、誰から漏れたのか『料理を作るお姫様』として最近では市民に噂されてるようだ。
夜は寝る前に小物を作っている。最近のマイブームはポーチだ。細かい刺繍とレースをたっぷりつけた姫カワポーチ。
時間は掛かるが、趣味の時間でもないと心が折れてしまいそうで、寝る間も惜しんでせっせと作り内緒で商人に売っている。
細かいデザインを気に入ってくれた人がいたらしく、催促されるが私は一人しかいないし、秘密で売ってるので誰かに手伝わせるわけにもいかない。
そんな私は私室である人を待っていた。
愛くるしいと言う言葉がふさわしくて、瞳はキラキラと輝いていて、近づけば甘い香りが漂ってきて、そう、初日に会った…いちごショート様。
一ヶ月が経ち、体調も調子がよさそうなので授業を再開する事にしたのだ。
いちご様はこの国の貴族に最近嫁いできたらしくボネール語の教育係を進み出てきたらしい。
ボネール語とは私の皇子がいるパデロヘーデ皇国の公用語らしい。
私のいるサンクレア王国はパデロヘーデの北東に位置し、パデロヘーデに臣属しているらしい。
サンクレアの下にはアクレーン、さらにその下にはシアニスという大きな国があり、アクレーンとシアニスは同盟国な上にパデロヘーデとは敵対しているらしく、戦争勃発寸前らしい。
多分、戦争に早々負け傘下に下ったサンクレアとわざわざ婚姻を結ぶのもそのあたりの事情が絡んでいるのだろう。
婚姻と結ぶにあたってやはり言葉は大事よね〜。まぁ言葉は似てるらしいので大丈夫だろう。きっと方言的な感じでしょ!
メイドさんが入れてくれたお茶を飲みながらソワソワして待っていると、私の待ちに待った音が聞こえた。
――コンコン。 「ヘンリエッタ様、シャルバ夫人がいらっしゃいました。」
きたーーーーーー!!!シャルバちゃんね!覚えておかなきゃ!!
私は早速入室を許可する。
キィっと扉が開くと、今日は薔薇と羽の飾りがついた白の帽子を被り、髪は後ろまで編み込みサイドテールにしている。
真っ白い肌にピンクのドレスがよく映える。眼福眼福…
「お待ちしておりました!シャルバ様」
「ご機嫌よう、ヘンリエッタ様。お体のお加減はいかかですの?私心配いたしましたわ。」
「お陰様でとっても良くなりました。シャルバ様のおかげです。あ、アビー?お茶をいれてください。」
「まぁ、ヘンリエッタ様。パデロヘーデに嫁ぐのであれば召使に丁寧にお話する事はなりませんわ。」
「それは…そうなんですけど…。礼儀作法の時間でもよく叱られるのです。でもなかなか抜けなくって」
「パデロヘーデはこの国よりも上下の関係はキチっとするのです。リドルフォに叱られましてよ?」
そう言ってクスっと笑いながら私を上目使いで見る。
くはぁっ… 目線の使い方までバッチリだ… お姫様ってゆうのは生まれながらに自分の魅力を悟るのだろうか…
「そういえば…チラっと噂を聞いたのですが。記憶を失われたとか…?」
「えぇ、そうなんです。だから今必死に思い出そうとしているんですけどねぇ」
「そうでしたの…大変ですわね…ではもう一度!初めましてヘンリエッタ様、私シャルバ公爵夫人のエリザベス・クィンシー・シャルバでございます。以後お見知りおきを、ふふふ」
照れくさそうにしながらニコっと笑った。…照れるならやるなし!惚れてまうやろーっっっ!!
と言う内心の気持ちを押し隠しつつ私も自己紹介をする。
「ありがとうございます。ヘンリエッタ・アデール・サンクレアです。ヘンリエッタとお呼びになってください。」
「では私の事はベスとお呼びになって!近しい者にしか呼ばせませんの。ではヘンリエッタ、ボネール語のレッスンを始めましょう」
こうして自己紹介を終え勉強を始めた。
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勉強を終え、お茶を飲みながらお話をする。
「そうそう、ヘンリエッタはお料理がお得意なんですってね。今度私も晩餐会に呼んでいただきたいですわ」
「いやぁ、料理よりもお菓子の方が好きなんですけどね、あ、じゃあ今日食べて行きませんか?旦那様もお城にいらっしゃるようですし」
「まぁ、嬉しいですわ!斬新なアイディアが多いと聞いててゴードンも興味深々でしたの!きっと喜びますわ!」
「では使いの者を出しておきますね。」
頭の中で今日の献立を考える。
ベスさんに食べてもらうならとっておきの物がいいなぁ…
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ベスさんと一旦別れペネロペさんと一緒に厨房へ立つ。もうすでにお決まりのコンビとなってしまった。
他の人も手伝いを願い出たが私は助手はペネロペ一人で十分なのだ。
今日の献立はフライドチキンと子エビのサラダ(サイ○リア風)コーンポタージュスープにした。
デザートにはカボチャプリンでも作りましょうかね…
肉を漬けるにはちょっと時間が短いけど仕方ない、手際よくやるのみ!!
「ペネロペさん、牛乳と卵と小麦粉です!にんにくと生姜もとってください!」
ペネロペさんは素早く私が言った物を取る。まさに阿吽の呼吸。正直癖になりそうなコンビネーションなのだ。
日本に戻って台所に立った時、ペネロペさんを思って100パーセント涙は流れるだろう。
骨付きの鶏肉ににんにくと生姜をすりおろし、ワインと塩で味を整える。揉む作業はペネロペさんに任せちゃって私は衣も準備に取り掛かる。
小麦粉に数種類の乾燥したハーブを入れる。この乾燥ハーブも私がつくった物だ。
粉にも塩こしょうをふりかけ、指先につけて舐めてみる。
「うん、ペネロペさん、成功ですよ!じゃあ鶏肉を置いてる間にサラダとスープ作りましょうか。じゃあペネロペさんサラダやってね」
そう指示を出し私コーンポタージュを作る。ペネロペさん文句も言わずやってくれるなんて…最高だよあんた!
サラダとスープが完成した頃、さらに『揚げといてくださいね、あ、二度揚げですよ』とペネロペさんに指示を出し私はデザートを作る事にした。
カボチャプリンは簡単なのでよく家でも作っていた。プリンはカップさえ可愛ければ可愛く見えてしまうカップマジックがあり雑貨屋さんで可愛いカップを見つけては買って作って写真をパシャパシャとっていた。
こちらの世界にカメラがない事が残念でならない。
ただこっちの世界にあまり私好みのカップがない…。ただ白いだけのカップ。こんなんじゃちっとも可愛くない!!
プリンを作り、冷ましている間に私は厨房を離れ庭園に来た。そこにあった小型の蔓の植物と小ぶりのピンクや紫の花をブチブチ切って行く。
こうでもしなきゃあのカボチャプリンは美味しくならない。料理は目でも楽しむ物というのが私の信念なのだ。
どんなに美味しくても、頼んでもらわなければ意味がない。頼んでもらうには魅力的に映らなければならない。
お店に行ってメニューを見た時に「これ美味しそう〜」と思わせる事って大変だと思う。
実際お客さんの立場からすると「あれ?でてきたらなんか違う…しょぼくね?詐欺じゃんこれ!!」って思う事が結構多いと思う。
私もそんな経験はいっぱいしてるが、私の場合勝負事になってしまう。
美味しそうに映った時点でお店側の勝利なのだ。まぁその勝利も味がついていかなければ『その場しのぎ』でしかないのだが。
美味しいのに見た目は三級品な物は残念でならない。味だけでなく見た目もこだわりにこだわってこその一級品だと思う。
だからこそ私は見た目に手を抜きたくない、特にお菓子は。
心と体、両方にブチブチ言わせ私は厨房に帰り白いお皿にさっき取った蔓やお花を水洗いしバランスよく散りばめていく。蔓と花の間に間隔的に4分の1のサイズにカットした苺を乗せ最後にすり鉢で細かくした茶葉をお皿全体に振りかけ,
プリンにミントを乗せたら完成。
よし。我ながらいい出来栄えだと思う!!!
自信満々に食堂へと向かった。
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執事がテーブルに料理を乗せて行く。
スパイスの効いたケン○ッキー顔負けフライドチキンに、色とりどりの野菜の上にエビを乗せたサイ○リア風サラダ。コーンをたっぷりと使い極限まで裏ごしした濃厚なめらかなコーンスープ。シンプルなのでお皿に飾りを施した味は確かなカボチャプリン。メンバーは私、王、王妃、ベスさん、ベスさんの旦那さんのゴードンさん。以上の5人だ。
すべてが揃った所で小さな晩餐会は始まった。
「色がとっても綺麗ね…画家を呼んで絵をかかせたいほどですわ…」
ベスさんが『ほぅ…』とため息をつく。
「ふふん…」 その評価を聞いて何故か自慢気な王。なんでやねん…。
私とペネロペさんは一人一人に取り分けていく。
ドキドキしながら自分も席につき、みんなの様子を伺う。
ベスさんは私の作った料理を小さく切り分け口へ運ぶ。
やばい…こんな苺ちゃんに手料理を振舞う機会なんてなかったからめっちゃ緊張する!!
「美味しい…」
ベスさんが目を大きく見開き舌鼓を打つ。
「とっても美味しいわ!!ねぇあなた!」「あぁ、なかなか味わえん味だな」「ふふん…」
またもや何故か自慢気な王。いや、娘さん庶民的な事してますけどいいんすか?
その後の私の料理は上流階級の人に受けたようで絶賛され幕を閉じた。
食後のコーヒーを飲んでいる時にその事件は起こった。
「ほう…とっても素敵でしたわ…あんな色々な味が交差して複雑なはずなのにしつこくない料理は初めてですわ!」
ベスさんが私を見てにっこり微笑む。
鼻の下をダラーっと伸ばした私も「そう言ってもらえると嬉しいです」と返す。
「こんな料理が上手で可愛らしいヘンリエッタ様が私の妹になるなんてとっても嬉しいですわ。ねぇあなた。」
え…妹?!
お昼休みに更新できませんでした、すいません。
活動報告にも書いた通り4000文字弱テストを実施中。