2 夢か真か
2 夢か真か
事は一週間前に遡る。
いつも通りに出勤し、会社の倉庫で在庫を取っていたときの事だった。
グラグラっときて地震か?と思った瞬間ダンボールが崩れてきた。そこまで大きな揺れじゃなかったのにもかかわらず。
中身はカバンで4段に積んでありかなりの重さがあってしばらく体が痛みなかなか抜け出せなかった。
やっとの思いで抜け出したが、停電したのか暗い上に埃が舞っていて視界が悪い。
「いてて…ったく、なんだよもう…、前田の奴!ちゃんとバランスよく積めって言ったのに」
ようやく視界が慣れてきてブチブチ言いながら段ボールをどかそうとした時
「ヘンリエッタ様!!こちらにいらしてはいけないと何度も申しあげましたでしょう!!」
――は?
目の前にいるのは濃いグレーの髪をした、美人だが融通が利かなそうで、旦那は尻に敷きます!って感じの40代後半くらいのおばさんだ。
こんなパートさんいたっけか?…いやいや…ヘンリエッタってww 何言ってんだこのおばはん――
なんて思っていた私は目を見開いてしまった。
おばさん!チョ…チョットなんて格好してんの!!
パニエの入った膨らんだクリーム色のスカート、大きく開いた胸元、それを飾る深緑の大きなサテンのリボン。コルセットで引き締められたウエスト、それにあしらわれた淡い黄色の細かいドレープ。
ああああ…あの、ドドド、ドレス着てますけど?!!
おいおいおい…それもコスプレの域なんてとっくに越しちゃってるよ…
「――ヘンリエッタ様?さぁ、ダンスの先生がいらしてますよ、その後はボネール語を教えてくださるシャルバ夫人がいらっしゃいますよ。」
「あの…どちら様?」
「まぁ!そんなご冗談を!お戯れがすぎますよ。さぁさ早くクーレに参りましょう。」
ヘンリエッタ?クーレ?
疑問を解消することなくそう言われ強引に立たされた時気がついた。
あれ、この人超ノッポ――って!私ちっちゃくなってるやんけ!!
顔をペタペタと触ると小さい。慌てて頭を下げ自分の体を見てみると、紺の生地でUネックの部分にベージュの細かいレースがたっぷりとついている、目線が下に行くがパニエで膨らんだスカートで足元が見えない。すっと足先を出してみると、小さなリボンがたくさんついた青いシルクの靴を履いた小さな足がちらりと見えた。
え、私の足何センチ…?
一体どうなってんのよ~!!!!!とパニックを起こしかけた瞬間おばはんが私に話かけてくる。
「あら、お気に召しましたか?ジョン・ピエールの靴。さ、そんな物いつまでも眺めてると時間がなくなりますよ!」
ジョン・ピエールって誰やねん。