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炎の末裔  作者: ワイルダー
9/12

火炎精霊

爆音響かせて玄関もろもろ結界が吹き飛ぶと

静まり返っていた建物が騒がしくなる。

のっぺりとした顔の信徒(と思われる人たち)が吹き飛んだ部分とあたしたちの顔を交互に凝視し奥に引っ込む

あたしは何も言わずにその姿を見つめていた。


どんどん表に出てくる信徒の数は増え、弱いながらも結界が復活してきた。

誰もがあたしたち二人を見ていたが、誰も何も言わない。遠巻きに恐れと憎しみの混ざった視線をよこしてくるだけだ。

ざわり

人ごみの奥から、ざわめきと共に一人の男が出てきた。信徒たちとは違う、明らかに華やかな衣装。

司祭、といったところだろうか。

「これはいったいどういうことだね?誰だ、君たちは?」

 司祭が厳しい口調で問いかけてくる。あたしは目を細めた。

「おや?ひょっとしてそちらの方は――」

 司祭がセアラさんに気づく。セアラさんはとっさに私の背に隠れた。

「永遠の乙女セアラ様ではごさいませんか?おや。このたびはよく我が教団においで下さいました。そうか、君はセアラさんをお届けに来てくれたわけだ」

司祭があたしたちに近づいてくる。

「しかし、もう少し穏やかに来てくれないと困るな。われわれの生活を悪戯に騒ぎ立ててもらっては困るよ」

「近寄るんじゃない」

 声のトーンを落とす。

「なんだね、謝礼ならあとでたっぷりやる」

「あんた方のボスに用があって来た」

 ピッと司祭の目つきが変わった。醜悪なものを見る目だ。

「おまえは?まさか」

 おきまりの発言にあたしはがっくりする。もうちょっとオリジナリティーのある発言が欲しかったなぁ。おまけに頭の回転も遅いときた。

「頭悪いねー。司祭ならもうちょっと状況をわかってるべきじゃないかなぁ…。そのまさ かなんだけどね。ボスを出しな」

 一瞬の間。司祭は何かを決めかねているようだった。

「私と話がしたいと?」

 低く低く深い声が響いた。だが、その声は黒幕としては若々しく、どこか幼い気がする。この声の主がボス…?

 再び人だかりの奥から声がする。

 再び人だかりが分かれた。そこに赤と白の法衣をまとった青年が立っている。にっぺりとした表情の信徒たちと比べて、目に生気があり、血色がいい。

「あんたがボスかい?随分若いね」

「ボス…ですか。まぁ。教主でありますがね」

 間延びした声。本当にこいつが教主なんて出来るんろうかと思っているようなのんびりとした雰囲気。おまけに笑顔ときている。

「言いたいことはわかっているね」

「ええ。まぁ。彼女に手を出すなということでしょう。永遠の乙女セアラ嬢に」

 にこやかに男が答える。

「そういうことだがね。承諾してくれるかい?」

「困りましたねー、私にはセアラ様がどうしても必要なのですよ」

 にこにこにこ。ちっとも困っているようには見えない。よほど自分に自身があるのか…

「交渉決裂――。その後にくるものはわかっているね」

「ええ――そうですね。あなたには随分神兵も難儀していたようですしね」

 あたしも教主も笑顔だが、教主の笑顔はどこと無く晴れやかで、一見するとあたしのほうが悪の手先のようにも見えてしまいそうだ。

「いい天気ですねぇ」

「久しぶりに一暴れできるわぁ」

「怪我しますからね。近寄ってはいけませんよ。恐ろしければ奥に入っていなさい」

教主が周りの人に向かって言う。その言葉に信徒たちはゆっくりと後ずさりする。

「何人もの兵士をあたしに送りつけた人の言葉とは思えないねぇ」

 嫌味ったらしく言う。

「彼らは戦士です。いまここにいるのは武器も持たない信徒たちですよ」

 さらりと言う。

「ふん。セアラさん。ちょっと怖いかもしれないけれど。ごめんね。我慢して」

 両者同時に呪文の詠唱を始める。

「きたれ、火炎精霊!」

 先に呪文を唱え終わったのは青年教主だった。青年の言葉に応えて魔法陣、そしてその中から火竜が現れる。

「!」

 それは明け方、あたしが出現させたものと同じタイプの火竜。しかし、それはあたしが出現されたものよりはるかに強大なものだった。



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