結界
「言っとくけどね。危険なんだからね」
「はい」
「奴らのとこに行ったら絶対にあたしから離れないでよ。もし、とっ捕まってしまったら、 即祭壇の前で殺されるんだからね」
そう言いながらもあたしの顔は笑っていた。
「それって追加料金取られません?」
しばらくこの台詞を思い出すだけで、あたしは吹き出してしまいそうだ。
追加料金を取らないことを説明すると、セアラさんは落ち着いた声で言ったのだ。
お願いします、と。
「なんだかミアさん、楽しそうですね」
「まあね。久しぶりにどきどきしてる」
前にこんなにどきどきしたのはいつだったかな。
前方30メタに奴らの姿を見つけた。
「黒き炎解き放たれし
冷たく熱い地獄の業火よ」
流れるような魔法言語。喉の奥と言うよりも心の奥から湧き出てくる音。気分が高揚し、頬がピリッと震える。
「≪黒色縛炎≫!はっ!」
前方に二本の火柱があがる。
それはまるであたし達を迎え入れる地獄の門のようだった。
やつらの本体は(瀕死の追っ手から聞き出した)ありがちのパターンに乗っ取り、山の麓。
白い壁の一見清潔そうに見える大きな家々。その周囲にはわずかに腐臭と結界のにおいがする。神の家とは思えない淀んだ空気(ここは山麓なのに、どうしたらこんな空気をまとえるんだ!?)そして入り口には「神の声に従いましょう」と書かれた看板が立てられている。
「いかにも怪しい団体ですうって感じね。セアラさん、アンザリアの神殿がこんなんじゃないといいね」
あたしは思わず嘆息してしまう。
「こんなのを神殿と思わないで下さいね」
申し訳なさそうに、セアラさんがつぶやいた。
「中の人はあたし達にまだ気が付いていないわね――」
ここに来る間に向かってくるものは全てなぎ倒してきた。逃げ帰ろうとするものも全てのしてきたため、あたしたちがここにいることを彼らは知らない。
「ま。正面から入れてもらいましょうか。セアラさん。もう一度言うけど離れないで」
「ええ」
あたしは《カオスポケット》から例によって錫杖をだしセアラさんに渡す。
「護身用に。でも、自分から向かっていったりなんてしないで」
小さく頷いてセアラさんは錫杖を受け取った。
「いい、絶対にあたしのそばを離れないこと。自分からやつらに向かっていこうとしてもダメだからね。あたしから離れて、一人で逃げようとするのもダメ。安全なのは私のそばだということを忘れないで」
「わかりました。でも、ミアさん、建物には結界が張られています。魔法は使えませんわ」
さすが巫女。結界はちゃんと視えている訳だ。だけど、
「こんなオモチャな結界なんぞ、中から破るわよ。力技なら負けない。あたしはミア様なのよ《爆炎風》」
結界もろとも、入り口のドアどころか、玄関が吹きとんだ
「さぁ、行きましょうか」