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炎の末裔  作者: ワイルダー
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奪還

ラウラの街に着いたのは朝日が昇るちょっと前だった。

 ここまで全速力で走ったおかげで馬は殆どオーバーヒート状態。あたしは前例の如く馬を取り替えてセアラさんを探していた。

「どこにいるんだろうねぇ…」

 はっきり言って地道な作業というモノは、あたしはあんまり得意ではない。特に長期戦なんてモノは嫌いだ。やるなら、こう、ぱーっと派手に、早くやってしまうのがいい。

 ぽっかぽっかと馬の足音が街に響く。外には朝早いせいか人が殆どいない。時々爺ちゃん婆ちゃんが散歩しているのを見かけるだけだ。

「しかし何だってセアラさんがねぇ…」

 彼女に関する疑問点はいくつかあった。

 一つ。あの若さでアンザリアの神子長に任命されたこと。神子長なんて役職は若い人がほいほいと貰えるモノではない…と思う。

 二つ。神子長に任命された人が一人でアンザリアまで旅をしていたこと。普通、神子長に任命されれば結構豪華なお迎えがやってくるはずだ。

 三つ。顔に不振な火傷の痕があること。

 四つ。生贄としてねらわれていること。

 少し、事情を知らなすぎるのかもしれない。もう少し依頼主の話を聞いておけばよかったな…と今更後悔する。


 ………………!


 ふと、あたしは僅かな力の影を感じ取った。力の影はすぐに消え去ったが、これは…奴らだ。間違いない。あたしの直感がそう告げる。

 あたしは力の方向に馬を全速力で走らせる。いた!

「セアラさん!」

「…………!!」

 セアラさんは口に猿ぐつわを噛まされ、腕はしっかり後ろ手に縛られている。そして、今にも幌馬車に乗せられそうになっているところだった。

「来たれ火炎精霊!」

あたしは馬上から呪文を唱えた。セアラの前に赤色の魔法陣が現れる。 

「セアラの戒めを解きセアラをを守護しろ!」

赤色の魔法陣から紅い光をまとった竜が現れる。竜はセアラの周りにぐるぐるととぐろ巻き、炎の壁を作り上げる。 

 火竜はセアラをしっかりと守り、セアラを縛めていたものも無にかえしてしまった。しかし、男どもはセアラを捕まえておこうと必死になっている。

ある者は火竜に刃を向けある者は火竜に体当たりをし、少し冷静な者は氷系の魔法を火竜に浴びせる。

だがそのどれも火竜にきいている様子はない。…当然のことだ。その程度で火竜を消滅させようなんざ愚行だ。無惨にも跳びかかった者はぷすぷすと焦げていく。

 死をも恐れぬ神の戦士。本人達はそのつもりでいるんだろう。

あたしにも『神の戦士』が向かってくる。馬を下り、剣を引き抜く。『神の戦士』は数にものを言わせあたしを取り囲む。

「わらわらと、よく湧いてくる人たちだこと」

 昨晩と同じ展開に持ち込ませるつもりか…?持久戦になればこちらが不利だ。

 させてたまるか。

「セアラさん。そのままこっちまで走って!大丈夫だから!」

「走れって…」

「火竜が貴女を守っているうちに。早く」

「でも…」

 セアラさんはかなりためらっている。自分の周りを隙間なく、ぐるぐる回っている火竜が恐ろしいのだろう。足を1歩も動かそうとはしない。

しかし、召喚師でもないあたしが、火竜を召喚していられるのもあとわずかな時間だけだ。

「セアラ!うだうだ言ってないでこっちに来る!

 忘れたの?契約書第23項の2番:戦いの場にあっては甲は乙の指示に従うべし。守れない場合は原則として契約を解消する。いいこと?5秒以内にこっちまで走ってくる! 5・4・…」

 セアラさんがあわてて走ってくる。

「3」

 セアラさんと共に火竜も移動してくる。火竜は『神の戦士』を次々となぎ倒し路をあける。

「2」

 ぱっと視界が開け火竜の顔が目の前に現れる。火竜の隣になってしまった男は焦げてしまった。

「きゃぁぁ!」

 火竜の中からセアラさんの叫び声が聞こえる。セアラさんにはこちらが見えていないらしくふらふらと動いている。…おかげであたしの周りの男どもはとりあえず一掃された。

「精霊退却」

 火竜が魔法陣の中に還っていく。

 あたしはがしっとセアラさんの腕をつかんだ。

「逃げるよ!」

「えええ!?」

 セアラさんはまだ頭がはっきりとしていないようだったが、あたしに手を引かれて引きずられるように走る。

「失礼!馬はいただこう」

残念ながらあたしがチャーターした馬はセアラさんが馬の焼き肉にしてしまっていた。

 連中の幌馬車に近づき、魔法で留め具を焼き切った。鬣を掴んで一気に飛び乗る。その脇でセアラさんがぽかんとあたしを見上げていた。

「乗って。鞍がないからちょっと危ないけど。あたしも一緒に乗るから安心して」



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