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炎の末裔  作者: ワイルダー
4/12

刺客

 その夜、いや明け方近く、あたしは妙な空気に目を覚ました。

(おいでなさったな)

 急いでセアラを起こし、着替えさせる。あたしも急いでマントを羽織る。いかなることが起きてもいいようにマントとショルダーガードを外した格好で眠っていたのだ。

 暗闇の空気がいっそう張りつめてくる。

 あたしは魔法の詠唱を始めた。

(宿屋の主人には迷惑をかけたくないな…)

 窓をほんの少しだけ開けて、窓の外を伺う。宿の庭があってそこから先は林。いくつもの敵意が見え隠れしている。気配がだだもれなところを見ると、素人が多いのかもしれない。   

呪文の詠唱

「光・光・光

自然の理を解放

 風・光・熱・波・炎よ

 混ざり混じりて彼の者の前に幻影を成せ

夢幻の力をここに解放し無限の力を持って我が刃となれ

 夢を見て夢に消えろ! 

 《夢幻火炎》!

はっ!!」

 魔法を林に向かって飛ばし、それと同時にあたしはセアラを抱えて窓から飛び降りた。部屋に人がなだれ込んでくるのがちらりと見える。

「続けてもういっかい《夢幻火炎》!」

もう一発、今度は部屋に向かって飛ばす。

「ぅあ゛ー」

部屋の中で絶叫が爆発する。

「ミアさん」 

「大丈夫。今の魔法は幻の炎を作り出すモノだから、火事にはならないわよ。幻を見てい る人は熱くても」

 林の中からも悲鳴が聞こえてくる。

「セアラさん。魔法は出来る?」

「回復系ならかなり………あとは、水の魔法が少し…その、このようなときに使えそうなのは…」

「ま、巫女だし、仕方ないね…と。来たかな」

 林の中に人影みたいものがちらりと動いて消えた。

 あたしはセアラを引っ張り林と宿の丁度真ん中あたりに立つ。

「武術は出来る?護身術は?」

「杖があれば、でも今杖がな…」

言い終わるより早く、あたしは杖を差し出した。

「どこからこれを?」

「《カオスポケット》、あとで説明したげるから」

 人影がゆっくりと林から出てくる。1……2、3、4、5人。甲冑の軋む音がした。ならば。

 先手必勝!

「《氷塊矢》」

 いくつもの氷が人影に向かって放たれる。氷は奴ら甲冑に飛びついていく。辺りを冷たい空気が覆った。

「ミアさん、私から離れないで」

「いいえ、杖があれば少しは…」

暗闇の中、あたしとミアさんは一瞬だけ目を合わす。迷いの無い目だった。

「じゃあ、二人お願い」

「ええ」

ミアさんの声には余裕すら感じられた。あたしはすぐに魔法を唱える。

「《爆炎風》!」

 男達を熱風が襲う。男達も必死で防御の魔法を唱えたようだが、甲冑が熱疲労を起こして、幾つもの亀裂が走ったのは確実だった。ミアさんを置いて、あたし達は男達に向かって走り出した。途中、《カオスポケット》から短剣を引っぱり出す。

 ガキン   ピキッ

 二つの刀が交差した。その衝撃で更に甲冑にひびが入る。

「どうする?そんなヨロイじゃ死ぬわよ」

「我が神のために。われらは死を恐れはしない。我が神のために死ねば天の国へいける」

男が誇らしげに言う。

 ふうん。そう。

「じゃ、死ねば?」

「!」

 その一瞬に隙ができた。

「はっ!」

 ぐさり

 もろくなった甲冑が砕け、男の胸が紅く染まる。気管に流れ込んだ血が逆流して男の口を満たした。

「!」

 息つく間もなく、短剣を引き抜き後方にむかって投げる。

「二人目終了」

 あたしの後ろで男が息絶える。

 ちょっと離れた位置ではセアラが一人目を倒したのが見えた。なかなかやるじゃん。

「あんたも天国へ行けるとかいうやつかい?」

 三人目に問う。

「わたしくしは、偉大なる我が神のために動いているだけだ」

「じゃぁ、何故彼女を襲う?」

 ただの妬みや権力闘争でこんなことまでするのだろうか?別の目的で彼女を襲ったと考えてた方がしっくりくる。

 神殿が彼女ここまでして襲うことはしないだろう。人目に付きすぎる。しかも、神殿の人間にしては狂信的だ。…とすれば…

「我々にあの方が必要だからですよ」

「…生贄としてか」

 自然に声のトーンが下がる。

「頭の良い方と話すと楽ですね」

「ちょっと考えれば済むことだ。宗教団体っぽい人間が、必要だけれど、何々のために必 要だから来て下さい、なんて堂々とお願いできないことといったら、あんまりないでし ょう?」  

「素晴らしい」

「ほめられたって嬉しくないなぁ」

 《カオスポケット》から二本目の短剣を取り出す。

「おや、《カオスポケット》をお持ちで」

「ま、ね…」

 じりじりと間合いを詰める。呪文の詠唱。

 先に動いたのは相手の男だった。

「はっ!」

 だけど、あたしの方が一枚上手だった。勝負は一瞬で決まった。唱えていた魔法も使われることないほどに。

 降りかかってくる剣を瞬時に受け止めると相手の下半身を蹴りとばす。バランス感覚が重要な攻撃方法だ。身軽な女の子にしかできない技だと自称している。

「う゛ふっ」

 悶絶するその首に剣を突きつける。

「オ・シ・マ・イ」

あたしが宣言すると、男はにやっと笑った。勝ち誇ったような笑み。

「くそっ」

男の笑みの意味を悟り毒づく。

ばしゅっ

 鮮血がほとばしる。

 振り向いたそこにセアラの姿はなかった。

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