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魔法少女シリーズ

乙女の涙に駆けつけた魔法少女、皇后陛下の願いが暗殺依頼でオワタ。

作者: 福嶋莉佳
掲載日:2026/07/10

一人の女性が、寝室の奥に置かれた女神像の前で膝をついていた。


「女神様……どうか、私の苦しみを癒やしてください……」


祈りが捧げられた瞬間、女性の前にまばゆい光が満ちた。


「っ……! これは……?」


「聖なる星に導かれ、乙女の心を守るため!」


淡い桃色の短いスカートに、ふわふわと広がる袖。胸元に大きなリボンを飾った姿で、私は光の中、胸の前でくるりと手を回した。


「魔法少女エトワール! 女神に遣わされ、ここに参上ですわ!」


高らかに名乗った瞬間、光が弾けた。きらきらと星屑のような粒が舞い、私はふわりと床へ降り立つ。


「……魔法少女?」


目の前にいた寝間着姿の女性が、剣を構えたまま呟いた。


「……」


「……」


私も杖を構えたまま、固まった。


寝間着姿だというのに、その立ち姿には気品がある。剣を握る手にも、一切の迷いがない。


そして、そのお顔を見た瞬間、私は心の中で叫んでいた。


こ、皇后陛下ああああ!?



皇后陛下は、何事もなかったかのように紅茶を淹れてくださった。


私は小さなテーブルの前に座らされ、膝の上で両手を握りしめている。


「も、申し訳ございません……」


「構わぬ。わざわざ、わらわのために来てくれたのであろう? ならば、もてなすのは当然だ」


そう言って、皇后陛下は慣れた手つきで紅茶を注ぐ。


寝間着姿だというのに、その所作はあまりにも優雅だった。絹の袖がさらりと揺れ、白い指先が茶器に触れるだけで、そこだけ絵画のように見える。


「魔法少女殿は、わらわの生家を知っているか?」


「え……はい。オルディス家ですよね。一度、爵位を失ったと……」


「うむ。家が困窮していた頃は、使用人も少なくてな。身の回りのことは自分でしていた」


「あの……皇后陛下は、私が本当に魔法少女だと……いえ、不審者ではないと信じてくださるのですか?」


「当然だ。この寝室には結界が張ってある。女神の加護に匹敵するほどの力がなければ、入り込むことなどできぬ」


「な、なるほど……」


さすが皇族の寝室。警備が万全ですわ。


差し出された紅茶は、驚くほど香りがよかった。


「おいしい……」


思わず呟くと、皇后陛下は満足げに微笑まれた。


ふ、ふわあああ……。皇后陛下が目の前にいらっしゃる……!


セレスティア皇后陛下。


その才を先代皇后陛下に見いだされ、皇太子妃として迎えられた方だ。


孤児院や救貧院をたびたび訪れ、身分を問わず民の声に耳を傾ける、慈悲深い皇后として広く慕われている。さらに皇帝陛下とも仲睦まじく、国民からは理想の皇帝夫妻だと称えられている。


そんな方にも、悩みが……?

わたくしに、どうにかできるのでしょうか?


あら? そういえば、皇帝陛下はご一緒ではないのですね。寝室のはずなのに。


皇后陛下は紅茶を一口飲み、カップを置いた。


「しかし、祈ったら本当に女神の遣いが来るとはな」


「聖なる星に導かれて参りまして……」


「そうか……本当に、わらわの願いを叶えに来てくれたのか?」


「できる限りではございますが……国を動かすようなことは……」


「大丈夫だ。ささやかな悩みだ」


「そ、そうですか」


よかった。ささやかな悩みなら、私にもなんとかできるかもしれない。


「……」


「どうかなさいましたか?」


「いや……いざ口にするとなると、少し緊張するな」


きゃあああ! 皇后陛下が恥じらっていらっしゃいますわ!


「どのような願いでも、できる限りお力になりますわ!」


「そうか」


「ええ! この魔法少女に遠慮せず、お話しくださいませ!」


「分かった」


皇后陛下は、わずかに息を整えた。


「では、夫を殺してくれぬか?」


「遠慮してくださいませ!!」


反射的に叫んでしまった。


何を仰るの、この方は!?


「よくいるだろう? 夫の死を望む妻なんて」


「いるかもしれませんけれど、この場合は国家反逆になりますわ!」


「皇帝とて、夜はただの男だ」


「そういうお話はしないでくださいませ!! そもそも、皇后陛下は皇帝陛下と仲睦まじいのではなかったのですか!?」


私がそう言うと、皇后陛下は紅茶のカップを置いた。


「……魔法少女殿は、わらわがなぜ没落貴族の娘でありながら、皇后になれたのか分かるか?」


「え……」


「当時、帝国の皇権は盤石だった。反乱の芽もなく、諸侯も皇室に従っていた。だが、ひとつだけ大きな問題があった」


皇后陛下の声音は淡々としていた。


「皇位継承者が、現皇帝ただ一人だったことだ」


「それの……何が問題なのですか?」


「皇帝は報告書を読まぬ。会議では声の大きな者に流される。難しい話になると、すぐに笑ってごまかす。社交と遊興だけは得意だったが、国を背負う器ではなかった」


……嘘でしょう。


国一の美貌を持つ賢帝とまで言われた皇帝陛下が? 中身はそんなに残念でしたの?


「皇室を支えるため、わらわはその才を見込まれて選ばれたのだ。没落したオルディス家の娘を皇太子妃に迎える代わりに、家の再興と保護も約束された」


「つまり……皇帝陛下に代わって、皇后陛下が……?」


「うむ。わらわは家のため、国のため、皇帝を立てながら、この国を治めてきた」


「え……では、孤児院の教育制度を改めたのは……」


「わらわだ」


「地方の会計を見直して、税の取りこぼしを減らしたのも……?」


「わらわだ」


「官吏見習いの制度も……?」


「わらわだ」


私は頭を抱えた。皇帝陛下の功績として語られていたものが、ほとんど皇后陛下のものではないですか。


「仲睦まじく見えていたのなら、わらわの演技もなかなかのものだな」


「演技まで……どうして必要が……」


「他国に示すためだ。皇帝と皇后の不仲など、国の弱みをさらすようなものだからな」


皇后陛下は、ため息をついた。


「陛下は、基本的にはへらへらしておるだけの男だった。だが、わらわの言うことは聞いていた。寵姫を持つことを認めるなど、ある程度は好きにさせていたからかもしれぬが」


「皇后陛下が、お認めになったのですか?」


「皇宮の外で勝手に女を囲われるよりは、こちらの目が届く場所に置いたほうがましだからな。正式な身分は与えぬ。政には関わらせぬ。子も作らぬ。そういう条件で認めた」


そう言った皇后陛下を見て、胸の奥が少し寂しくなった。


愛し合っていると思っていた。理想の伴侶だと思っていた。


皇后陛下は、そんな見せかけだけの関係を守りながら、ずっと国のために働いてこられたのだ。


「にもかかわらず、このたび子ができた」


「えっ……」


「しかも相手は、貴族ですらない女だ。その女に貢ぎ、公務をさぼり、あげく、その子を皇族にすると言い出した」


「しかし……その、子をなさぬよう対策はされていたのですよね?」


「ああ。避妊薬も侍医も用意していた。だが、あの女は侍女を買収し、薬を捨てていた。陛下はそれに気づきもせず、むしろ喜んだ」


皇后陛下は微笑んだ。目は笑っていなかった。


「ただでさえ阿呆だった男が、さらに阿呆になってくれてな。こればかりは許せぬ」


「なんという裏切り……」


「ここで悩みなのだがな。最近、部下たちの中に、あの阿呆と寵姫を狙おうとしている者がいる」


「え? それなら放っておけば……」


「それは、わらわの家臣だ。あの阿呆のために、忠臣の手を汚させたくない」


皇后陛下は、困ったように眉を寄せた。


「近衛騎士長のライナスなど、いつ斬りかかるか分からぬ。見ていてひやひやする」


皇后陛下のカリスマが凄まじい。


皇后陛下は、自分の手元に視線を落とした。


「わらわ自身が毒を盛ることもできる。隠蔽も容易い。だが、各国は必ず毒殺を疑うだろう」


「……」


「皇太子が皇位を継ぐとき、“血塗られた皇位”などと呼ばせたくはない。あの子に、父殺しの噂を背負わせるわけにはいかぬ」


その言葉に、私は息を呑んだ。


この方は、本当に国のことを考えている。民を、臣下を、そして自分の子を。


「ですが……それで魔法少女に頼むのは、よろしいのですか!?」


「魔法少女は女神の使徒であろう?」


「そうですけれど、関係あります?」


「ある。神が裁いたのなら、誰も文句は言えまい」


「たしかに、何よりも説得力はありますが!」


皇后陛下は、どこ吹く風で紅茶を飲んだ。


「ち、ちなみに……その寵姫様とお子様は……」


「子は皇宮で預かる。女は離宮に移し、教育を受けさせる。犯した罪については、法に従って裁く」


あれ……殺さないのですね。


「子に罪はないからな。女もまた、この国が守るべき民の一人だ」


か、かっこいい……!


皇后陛下はあまりにも気高く、美しかった。殺害依頼中なのに。


「だが、夫。お前は許さん」


「そうですね……許せません」


「そう思うか?」


「はい」


「罰せられるべきだと思うか?」


「はい」


「ならば、殺ってくれるか?」


「は……」


私は危うく頷きかけ、はっと我に返った。


「危ないところでしたわ!!」


「惜しかったな」


皇后陛下、話術が怖すぎます。


「しかし、魔法少女殿。お前に選択肢はないぞ?」


「え?」


「わらわの思惑を聞いてしまったのだ。知ったまま帰すと思っているのか?」


「!?」


「たとえ逃げても、わらわに忠誠を誓う家臣たちが死に物狂いで探すだろう」


「ひいい……」


「さあ、選べ。夫を殺すか。わらわに捕まるか」


ど、どうしましょう。


乙女の涙に駆けつけたのに、わたくしが一番泣きたいですわ!


お願い、女神様。何か、何か別の方法はありませんの!?


『そんな阿呆、消してしまえばよいのでは?』


女神様まで、なんてことを言うのですか!?


女神様! 私は魔法少女なのですよ! 少女が暗殺者になるのは駄目でしょう!?


『……』


女神様! なぜ黙るのですか!?


その瞬間、ぱあっと頭の中に光が広がった。私は勢いよく顔を上げた。


「……しゃ、社会的抹殺では、だめでしょうか!?」


「……」


「……」


皇后陛下が、紅茶のカップを置いた。


「……なるほど」


ゆっくりと、その口元が上がる。


「それも悪くない」


「……!」


なんとか、魔法少女は暗殺者になることを免れそうですわ。



数日後。


皇宮の大夜会には、多くの貴族たちが集められていた。


皇帝陛下は上機嫌だった。その隣には、噂の寵姫。さらに、その腕には赤子が抱かれている。


皇太子は表情を消し、第一皇女は扇の陰で唇を引き結んでいた。


「父上は本当に、その子に皇位継承権をお与えになるおつもりか」


「母上に何のご相談もなく、そのようなことをお決めになったの……?」


二人の声は小さかったが、近くにいた貴族たちの耳には届いていた。周囲も、ざわざわと落ち着かない。


「あれが噂の寵姫か」

「平民出身だと聞いたぞ」

「皇太子殿下のお立場はどうなる」


そんな中、皇后陛下は、玉座の傍らで微笑んでいた。


近衛騎士長のライナスは、皇帝陛下の背後に控えたまま、一歩も動かなかった。だが、白い手袋を嵌めた拳だけが、ぎり、と音を立てそうなほど固く握られている。


「皆に伝えることがある」


皇帝陛下が声を張った。


「この子を正式に皇族籍へ入れ、継承権を与え――」


その瞬間、大広間の天井から、まばゆい星の光が降り注いだ。


「何者だ!」


ライナスが剣の柄に手をかける。だが、皇后陛下が扇の陰からわずかに目配せすると、その手はぴたりと止まった。


「聖なる星に導かれ、乙女の心を守るため!」


私は光の中から舞い降り、くるりと回って決めポーズを取った。


「魔法少女エトワール! 女神に遣わされ、ここに参上ですわ!」


皇帝陛下が口を開けている。寵姫も固まっている。貴族たちは誰一人として、状況を理解できていない。


剣に手をかけたライナスでさえ、皇后陛下と私を交互に見たまま動けずにいる。


皇太子が、ぽつりと呟いた。


「……魔法少女?」


第一皇女は、扇で口元を隠したまま目を輝かせている。


「まあ、まあ。なんて神々しいのでしょう……!」


帰りたい。


皇后陛下だけが優雅に扇を広げていた。


「これはこれは。女神の使徒とは、珍しい客人だな」


私は胸の前で杖を構えた。


「乙女の心を踏みにじる者よ。星の裁定を受けなさいませ!」


杖の先から光が弾ける。


「きらめきスター・トゥルース!」


星の光は大広間いっぱいに広がり、玉座の周囲を淡く包み込んだ。


『星は、隠された真実を照らします』


女神様の声が響いた瞬間、宙に光の幕が現れた。


そこに映し出されたのは、皇宮の奥にある小さな私室だった。


皇帝陛下が、書類を前にあくびをしている。扉の向こうでは、文官が必死に声をかけていた。


『陛下。北部水害の被災地視察につきまして、明朝ご出発の予定でよろしいでしょうか』


光の中の皇帝陛下は、面倒そうに手を振った。


『ええ? 遠いし、疲れるだろう。皇后が行けばいいではないか』


大広間が凍りついた。


さらに、寵姫の甘えた声が響いた。


『陛下、行かないでくださいませ。わたくし、寂しいですわ』


『ほら、こう言っている。皇后と皇太子に任せればよい』


皇帝陛下は笑って、書類を机の端へ追いやった。


『どうせ皇后は、そういう面倒なことが得意だ』


皇太子が、目を伏せた。第一皇女は、扇を握りしめている。


光の幕は、次の場面を映し出す。


泣き出した赤子を前に、寵姫が顔をしかめていた。


『ああ、もう。また泣いているの? 誰か連れ出して』


侍女が慌てて赤子を抱き上げる。


『ですが、乳母がまだ戻っておりません。戻るまで、お乳を与えて差し上げては……』


『嫌よ。胸の形が崩れるじゃない』


大広間のあちこちから、息を呑む音がした。


寵姫は、赤子から目をそらしたまま笑っている。


『でも、この子のおかげで、わたくしも皇族の母になれるのよ。一生、こんな暮らしができるのね』


寵姫の顔が真っ青になった。


「ち、違いますの! これは、何かの間違いですわ!」


けれど、星の光はまだ消えない。


最後に映し出されたのは、皇帝陛下と寵姫が寄り添う姿だった。


『この子を皇族にしてくれますわよね?』


『もちろんだ。私の子なのだからな』


『皇后陛下が反対なさったら?』


『反対したところで、最後には折れるさ。あれは国が乱れることを何より嫌うからな』


皇帝陛下は、へらへらと笑った。


『難しいことは、皇后と皇太子に任せておけばいい』


その瞬間、皇后陛下の扇が、ぱちん、と閉じた。


先ほどまで混乱していた貴族たちが、一斉に皇后陛下を見る。皇后陛下は、ゆっくりと立ち上がった。


「皆、聞いたな」


皇后陛下は、寵姫の前まで歩み寄る。


「国にとって、子は宝だ。生まれにかかわらず、守られるべきものである」


皇后陛下は、幼い赤子へ一瞬だけ視線を向けた。


「だが、その宝を己の欲のための道具とする者に、預けておくことはできぬ」


寵姫が震える。


「そなたには、侍女を買収した件も含め、法に従って取り調べを受けてもらう。そのあいだ、この子は皇宮で保護し、乳母と侍医のもとで育てる」


「そ、そんな……!」


第一皇女が、一歩前に出る。


「私も、母上のお考えに賛成いたします」


続いて、皇太子も口を開いた。


「私にも異存はありません。その子自身に罪はないのですから」


皇后陛下は目を細めた。


「よく言った」


す、素敵……!


しかし、次に皇后陛下が皇帝陛下へ向けた目は、氷のように冷たかった。


「だが、皇帝陛下」


皇帝陛下が、びくりと肩を震わせる。


「国を私物とし、皇帝の責を皇后と皇太子に押しつけ、皇位継承を己の欲のために乱そうとした。その罪は、軽くない」


皇后陛下は、大広間に集まった重臣たちを見渡した。


「この件は、帝国法に定められた皇帝の重大な職務怠慢に当たる。直ちに枢密院を招集する」


ざわめきが広がった。


「審議が終わるまで、皇帝陛下にはすべての政務から退いていただく。皇太子よ、異存はあるか」


「ございません。皇位と帝国を守るために必要な措置と存じます」


「何を勝手に決めている! 私室でこぼした愚痴くらいで、皇帝を裁くつもりか!」


皇帝陛下が立ち上がる。だが、その背後にいたライナスが一歩進み、逃げ道を塞いだ。


「枢密院の裁定が下るまで、陛下の御身は近衛が保護いたします。どうか、お席へお戻りください」


落ち着いた声なのに、剣を抜くよりも有無を言わせぬ迫力があった。


大広間に、わっと声が上がった。


「皇后陛下のおっしゃる通りだ」

「子に罪はない」

「陛下のお言葉は聞き捨てならぬ」

「女神の使徒の前で真実が示されたのだ」


賛同と非難の声が、波のように広がっていく。


私は、杖を握りしめたまま小さく息を吐いた。


よかった。

殺さずに済みましたわ。


そう思った瞬間、皇后陛下がこちらを見た。


「魔法少女殿。見事だった」


「も、もったいないお言葉ですわ……!」


「しかし、その力をこのまま手放すのは惜しいな。魔法少女殿、皇宮で働かぬか?」


「!? か、帰らせてくださいませ!!」


私は反射的に杖を掲げる。


「きらめきスター・リターン!」


杖の先から星の光が弾けた。


『撤退ですね、エトワール!』


女神様の声が、やけに楽しそうに響く。次の瞬間、私の足元に魔法陣が広がった。


「また困ったら、来てくれるか?」


「しばらくはお控えくださいませ!!」


皇后陛下が、小さく笑った。


「助かったぞ、魔法少女殿」


その言葉を最後に、私は星の光に包まれた。



魔法少女エトワールが消えたあと、大広間にはしばらく沈黙が落ちていた。


最初に口を開いたのは、第一皇女だった。


「……お母様のお知り合いでしたの?」


「ああ。乙女の涙に導かれて来てくれた、女神の使徒だ」


「乙女……母上も、乙女なのですね」


「文句があるか?」


「ありませんわ」


その横で、皇太子が小さく呟いた。


「魔法少女エトワール……なんという美脚……」


「お兄様……?」


「何でもない」


皇后陛下は、何も聞かなかった顔で扇を開いた。



それから数日後。


私は、こっそり皇宮の外れに降り立った。


「……様子を見るだけですわ。様子を見るだけ」


そう自分に言い聞かせながら、庭園の奥から皇宮のほうを覗く。


枢密院の審議により、皇帝陛下は政務から外され、離宮で静養することになった。静養という名目ではあるが、厳重な監視つきの幽閉状態だ。


これまでは年齢よりもずっと若く見えていたというのに、離宮へ移されてからは一気に老け込み、かつて国一の美貌と称えられた面影も薄れているらしい。


政務は皇后陛下が代行し、皇太子と第一皇女、枢密院の重臣たちが支える体制になった。


寵姫は取り調べを受けたのち、処分の一環として別の離宮で監視下に置かれ、教育を受けている。赤子は皇宮で乳母と侍医に囲まれ、大切に育てられているという。


「よかった……」


殺さずに済んだ。

誰の手も、血で汚れなかった。私も。


そう思って胸を撫で下ろしたとき、皇宮庭園の向こうに皇后陛下の姿が見えた。その後ろには、近衛騎士長のライナスが控えている。


あの夜会で感じた張り詰めた殺気は、もうライナスの姿から消えていた。皇后陛下も、以前より少しだけ肩の力を抜いているように見える。


「……皇后陛下に、幸あれですわ」


そのとき、頭の中に女神様の声が響いた。


『エトワール。次の乙女の涙です』


「休憩はないのですか!?」


『乙女の涙は待ってくれません』


「女神様、労働環境について一度お話し合いを――」


言い終える前に、足元に星の光が広がった。私は慌てて杖を握りしめる。


「もうっ……魔法少女も楽ではありませんわね!」


そうして私は、また次の乙女のもとへ向かった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


魔法少女エトワールの続きを読みたいと思っていただけましたら、☆☆☆☆☆で応援していただけると嬉しいです。


今作にどれほど反応をいただけるかを見ながら、連載化や続編について考えていきたいと思っています。


エトワールはこのまま魔法少女として戦い続けるのか。

女神様の趣味に振り回され続けるのか。

そして、聖女様の出番はあるのか――。


聖女「解せぬ」


たくさん応援をいただけましたら、ぜひ続きでお応えしたいです!

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― 新着の感想 ―
「帰りたい」の一言が良い! 淑女なのに脚丸出しの魔法少女(>▼<)がんばれエトワール嬢!
楽しく読ませていただきました。 前作に引き続き予想外の方向から来る感じに笑わせていただきました。 それにしても、皇太子の指示で美脚で魔法少女を探す事態に発展せやしないだろうかw
いつも楽しみに読ませていただいていて、今作も続きが読みたい!!と思うものの、AIを利用されてるとのことで、ここもか…と正直がっかりしております。 とはいえいつも通り面白いので続きは読みたいというジレン…
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